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本コラムでは、経営者が抱える離婚への不安を軽減し、会社と家庭を守るための対策について解説します。
また、その対策のひとつして近年注目されるファミリーガバナンスについても解説します。
離婚のリスクに備えることは夫婦関係を良好に保つことにも役立ちます。経営者の方はぜひご一読ください。
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目次
⑴ 不安の可視化
⑵ 不安を受け入れられない場合
⑴ 離婚リスク対策の進め方
⑵ 家庭の状況をよく考えることの重要性
⑶ 離婚リスク対策の内容
① 特有財産の管理と証拠保全
② 名義管理の工夫
③ 婚後契約の活用
④ ファミリーガバナンスの導入
経営者にとって、家族は単なる生活の一部にとどまらず、一番近くにいてくれる精神的な支えであり、また仕事の原動力でもあります。
したがって、できることなら離婚を避け、夫婦関係を良好に保ちたいと願うのがどなたにとっても自然なお気持ちだと思います。
しかし、現在離婚問題など家族にトラブルが起きていなくても、漠然と離婚や財産分与に対する不安を抱えている経営者も多く、その不安が家庭内の緊張や配偶者とのコミュニケーションに悪影響を与えることがあります。
多忙な経営者がこうした不安を抱え続けると、その不安解消のために時間を割くこともできず、夫婦関係が悪化し、さらに不安が増すという悪循環に陥ることさえあります。
こうした不安は、ときには経営判断にも影響が及ぶかもしれません。不安を放置していると、最悪の場合、家庭が破綻し、また経営に深刻な悪影響を及ぼす可能性もあります。
このような事態を避けるためには「離婚や財産分与に対する不安」を具体的に把握し、必要な準備をしておくことが重要です。
問題点を冷静に見つめることで気持ちが安定します。また、事前に対策がとれていれば、いざというときも落ち着いて対応できるでしょう。
夫婦関係が安定していても、離婚リスクに対する漠然とした不安を抱えている経営者も多いかと思いますが、まずは、その不安を可視化することが重要です。
どのようなリスクがあり、どのような事態が起こり得るのかを整理しておくことで、実際に問題が生じたとき冷静に受け入れる準備が可能となります。
不安を可視化することで、リスクについて受け入れられるものと受け入れがたいものとを整理することができます。
そして、受け入れがたいものがある場合には、次のステップとしてその不安への対策を検討することができます。
可視化にあたっての参考として、経営者の抱える離婚リスクの主たる不安要素には一般的に次のようなものが挙げられます。
離婚に伴う財産分与で、自社株式が処分される可能性があります。自社株式が配偶者(あるいは第三者)に移転されると、経営権や会社のガバナンスが不安定になります。
財産分与によって会社資産の流出や財務リスクが生じることもあります。例えば、自社株式を譲渡しないと財産分与義務を履行できない場合などです。
離婚による財産分与の影響は、経営者個人だけではなく、従業員や投資家、取引先にも波及する可能性があります。
例えば、自社株式の移転、経営者の持株比率の減少、さらにはこのような事態が生じる恐れがあること自体が、従業員や投資家、取引先などに会社に深刻な資本政策上の不安があると受け取られる可能性があります。
そのほか取引のある金融機関との関係にも悪影響を及ぼす可能性がありますし、上場企業であれば株価の悪材料になってしまうかもしれません。
離婚はときにIPOやM&Aにも悪影響を及ぼします。
IPO準備企業であれば、離婚や財産分与が影響してIPOが遅延したり、最悪の場合時期を逸してIPOできなくなることもあります。
創業者利潤を得られないことももちろんですが、ストック・オプションをはじめ従業員向けのインセンティブプランにも悪影響を与えます。
経営者のプライベートの問題が会社の経営に悪影響を及ぼしている様相は従業員の士気にも相当に悪影響を及ぼします。
不安の可視化を行ってもなお受け入れがたいと感じるリスクがある場合は、次に解説する具体的な対策を講じ、不安を和らげる手段を検討する必要があります。
適切な対策を取ることで、経営者としての安定した判断力を維持し、会社と家族を守るための準備が整います。
離婚を望まない方にとって、離婚リスクの管理を進めるにあたっては、できるだけ配偶者に不安を与えない形でアプローチしなければなりません。
夫婦円満を目指して不安を解消しようとするその取り組みがもしも離婚原因になってしまったら本末転倒です。
夫婦関係を保ちつつリスクに備えるためには、例えば、以下のような順序で進めるのが穏当かと思います。
まずは、配偶者に対する直接的な説明や合意が不要な方法を最優先に検討します。例えば、資産管理(特有財産の管理など)や名義の整理は、やりとりなく進められるため、家庭内の緊張を生じさせることがありません。
次に、離婚の可能性に直接言及せず、配偶者と所定の取り決めを行う方法を検討します。
例えば、将来的な会社の安定や家族の財産保全を目的に、ファミリーガバナンスの重要性を共有し、所定の取り決めをする方法が考えられます。これは、比較的納得されやすいアプローチです。
最後に、「もしも離婚する場合」を前提として具体的な取り決めを行う方法です。
これには配偶者の合意が必要となりますし、場合によっては配偶者に不安を与えないよう説明に配慮を要します。
ただ一方で、リスクが顕在化する前に対応策を確立する手段として最も有効なものです。これには例えば、婚後契約やファミリーガバナンス契約が挙げられます。
離婚リスク対策としてどの方法を採用するべきか、またそれがどれほど効果的かは、家庭の状況に大きく左右されます。
家族構成や配偶者の性格、関係性など、各家庭固有の要素を考慮し、適切な手法を選ぶことが求められます。
また、いずれの対策をとる場合も、独善的であってはなりません。
家庭内での緊張を避けたい、できることなら仲良く過ごしていたいという想いであっても、独善的な対策を提案したり実施することは、配偶者の不信を買い、そのまま離婚へと向かってしまい本末転倒な結果となってしまうことがあります。
取り得る離婚リスク対策としては、次に解説するような対策が考えられます。いずれの対策をとるにせよ、大切なのはあらゆる対策においてもフェアネスであることと、ファミリー全体にとって有益であると確信できるものであることです。
特有財産とは、結婚前から所有している財産など、配偶者の協力・貢献を伴わずに得た財産として財産分与の対象にならない財産のことを指します。
離婚による財産分与の際に、企業の経営資産やその他の重要な個人資産が分割等されないようにするためには、それらを特有財産として主張や証明を行えるよう、適切に特有財産を保全することが重要です。
この点、相続で取得した不動産、贈与で取得した有価証券、結婚前に設立した会社の株式といったように、原則としては特有財産に該当しそうなものについても事情によっては財産分与の対象になってしまうことがあります。
所有者名義や取得が結婚前か後かだけで一概に整理できない点が特有財産の難しいところです。
財産分与の対象とならない特有財産としての分別管理は、財産の種類や取得経緯によって適切な管理方法が異なります。
また、実務では特有財産であると主張する側に厳格な立証責任が課され、十分な根拠を伴った証拠が求められます。
特有財産性が否定されるリスクや実務を理解しないままに管理方法を自己判断で決定・実行すると、意図しない財産分与リスクを抱えることになりかねません。
特有財産のための管理には、法的解釈や裁判例に基づいた専門知識が不可欠です。専門家に相談し、具体的なアドバイスを得ながら進めることが必要でしょう。
特有財産の管理と証拠保全についてはこちらのコラムもご参照ください。
名義管理は、離婚時に財産分与のリスクを軽減するための対策のひとつです。
会社名義や信託を活用することで、財産分与の対象から除外される可能性があります。
たとえば事業用不動産や会社で使用する高額な資産を、個人名義ではなく会社名義で保有することが考えられます。
会社名義の場合、経営者個人の財産ではないわけですから、財産分与のリスクを軽減することが可能なこともあります。
ただし、法人の財産であっても、裁判所が実質的に個人財産の延長と判断し、財産分与の対象とされる可能性もあります。
そのため、法人の独立性を保ちつつ、実態と名義が一致する形で財産を管理することが重要です。
信託を設定することで、財産を受託者に管理させその財産の扱いを決めることで、離婚時の財産分与リスクを低減することができることがあります。
後継者や子どもなど次の世代に承継させたい財産については、その世代の名義で保有させることで離婚時に財産分与の対象となる共有財産とされる可能性が低減します。
ファミリー全体の財産と位置づけられるべきものは、ファミリー全体のものとして管理することも一案です。
これにはファミリーオフィスやファミリーガバナンス契約などの仕組みを活用します。
そのなかで資産の処分に関する規定を設けることで、配偶者の了解を得た上で財産管理が進められ、将来的な財産分与リスクが軽減される場合もあります。
名義管理を行う際には、単に名義を分けるだけでは不十分であり、実態と一致させることが重要です。
名義が会社や後継者になっていても、実質的な管理が現経営者本人にある場合には、裁判所により個人財産と見なされる可能性があります。
財産分与の際に不利とならないよう、実態に沿った名義管理と証拠の確保を徹底しましょう。
可能であれば配偶者の同意や積極的な関与が得られるとより安全ですが、これを試みる際にはコミュニケーションに細心の注意を払う必要があります。
婚後契約とは、婚姻後に夫婦が財産関係に関する取り決めを行う契約のことで、ポストナップ(postnuptial agreement)とも呼ばれます。
婚前契約(prenup)と異なり、婚姻後に締結されるため、既に確立した夫婦の財産関係に関する規定や取り決めを再調整する役割をもちます。
現行民法では、婚姻後の法定財産制の変更を制限する「不可変更性の原則」が定められています(758条1項)。
このため、法定財産制そのものを婚後契約で変更することはできません。
もっとも、法定財産制そのものに関わらない、財産分与や婚姻費用に関する内容については契約で明文化し、離婚によるリスクを管理する効果が期待できます。
婚後契約のメリットと注意点、具体的な活用法などはこちらのコラムをご参照ください。
ファミリーガバナンスは、家族の調和や、資産と事業の安定を保つための仕組みです。
家族が一体となって事業や資産を管理し、事業の継続性を守るためのルールの策定と実行を目的としています。
ファミリーガバナンスを活用することで、離婚の不安やリスクをあらかじめ防ぐことが可能です。
以下では、ファミリーガバナンスのうち、特に財産管理に焦点を充ててご説明します。
ファミリーガバナンスの詳細についてはこちらのコラムもご参照ください。
ファミリーオフィスは、家族の資産を包括的に管理するための組織であり、資産保護や相続、資産運用を一括して行うことができます。その方法は信託、会社や社団法人の設立など様々です。
ファミリーオフィスを管理することで、夫婦それぞれ個人としてどうか、という着眼点から解放され、ファミリー全体としてどうか、という目線を持ち、家族の資産を運用していくことが可能となります。
ファミリーガバナンス契約は、家族内での資産管理や事業の運営に関する取り決めを法的に明文化したものです。
例えば、株式の扱いや後継者の役割、家族資産の管理方法を契約で取り決めることを通して、ファミリー全体の資産、事業等の充実を図るものです。
これも同じく、ファミリー全体としてどうか、という目線を持てるようにするものです。
ファミリー憲章は、家族全体の価値観や目標など、家族の根幹となる事項を共有し、事業継承や資産管理に関する基本的なルール(ガイドライン)を定める文書です。
これを通じて、家族の信頼関係を深め、資産や事業に対する共通の価値観を醸成することができます。
例えば、「家族が協力して事業を発展させる」という目標を掲げることで、家族の誰もが事業と資産の重要性を理解し、離婚などの際にも安易に資産を分割することを避ける意識が生まれることが期待されます。
ファミリー会議は、家族間のコミュニケーションを円滑にするための場です。
様々な文脈で活用されるものですが、離婚リスクの点でいえば、夫婦それぞれ個人としてどうか、という着眼点から解放され、ファミリー全体としてどうか、という目線を持てるように運用していくことが重要です。
実際に、ファミリーガバナンスが取り入れられたファミリービジネスの二世の世帯が離婚することもあり、当事務所でも事件をお任せいただくことがあります。
そうした事例では、離婚するとはいえ子どもの親としての関係が続くことや配偶者にも相応の配慮がなされることなどを踏まえて、離婚する際にもそのファミリーガバナンスの仕組みに基づいた取り決めがなされるなど、ファミリーガバナンスの仕組みは円満な解決に大いに貢献するという印象を持っています。
一方、ファミリーガバナンスの仕組みといっても離婚時の扱いが定められていないものもあります。
残念ながらそちらではファミリーガバナンスの仕組みを直接的に引き出して解決を試みることは難しいでしょう。
しかしそれでもファミリーガバナンスの精神やファミリービジネスが承継されてきた経過が離婚交渉の際に考慮されるべきではないかなど、最終的な離婚条件にファミリーガバナンスの精神を反映することで双方にとって穏便な解決を導くことができないかを検討することになるでしょう。
家族は日々の活力の源であり、大きな支えとなるものです。できることなら離婚を避け、家庭の調和を保ちながら、事業に専念したいと願うのは当然のことです。
しかし、漠然とした離婚や財産分与に対する不安があると、知らず知らずのうちに精神的な負担となり、経営判断や家族とのコミュニケーションにも影響を及ぼすことがあるでしょう。
この不安が募れば、さらに家庭内の関係に悪影響を与え、経営にも支障をきたすといった悪循環に陥るリスクもあります。
まずは、その不安を明確にし、何が問題でどのようなリスクがあるのかを整理することが大切です。
リスクを具体的に把握することで、安心できる場合もありますし、具体的なリスクがわかれば冷静に向き合うことも可能です。
もしもその不安をそのまま受け入れることが難しいと感じるのであれば、家族や事業全体のために、リスク軽減のための方法を検討し、適切な対策を講じることが重要です。
こうして安心を得ることで、経営者は家庭を守り、良好な夫婦関係を維持することができます。
また、家庭の安定が事業の安定にもつながり、経営者としても安心して将来に向けた事業の発展に力を注ぐことができるでしょう。
まずは今抱える不安を整理し、必要に応じて最適な解決策を見つけていきましょう。
今回解説したファミリーガバナンスについては、詳しい専門家に相談して進めていくことが必要です。
離婚リスク対策、ファミリーガバナンスをご検討の経営者の方はぜひ当事務所にお問い合わせください。初回のご相談は30分間無料※ですので、お気軽にご相談ください。
※ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。