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2025.4.23
税理士×弁護士によるファミリーガバナンス体制構築


近年、ファミリービジネスにおけるガバナンスの重要性が注目されています。
今回のコラムでは、とくにファミリービジネスのガバナンス体制構築における税理士と弁護士の協働に焦点を当て、その具体的なメリットや連携方法について解説します。

ファミリーガバナンスがどのようなものかについては、こちらもご参照ください。

「最近注目される「ファミリーガバナンス」とはなにか」

 

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目次

1. なぜ今、ファミリーガバナンスが重要なのか?
  (1)国が後押しする「中堅企業元年」
  (2)ファミリーガバナンス規範とは?
  (3)今後の展開はどうなる?
2. 弁護士の役割 〜事業承継と持続的成長のために〜
  (1)法務リスクを取り除き、さらなる成長へ
  (2)ガバナンス体制の運用支援
  (3)外部の視点の重要性:独立社外取締役
3. 税理士×弁護士の協働:ワンストップで最適なソリューションを
  (1)事例1:円滑な事業承継
  (2)事例2:ファミリーガバナンス体制の強化
  (3)事例3:M&A実行とファミリーオフィス
  (4)事例4:親族外承継におけるガバナンス構築

ファミリーガバナンス体制構築に詳しい岩崎総合法律事務所

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1. なぜ今、ファミリーガバナンスが重要なのか?

(1) 国が後押しする「中堅企業元年」

政府は2024年を「中堅企業元年」とし、初めて法律で中堅企業を定義し、その成長を後押しするための様々な施策を強化しています。これは、日本経済の屋台骨を支える中堅企業が、その潜在能力を最大限に発揮し、さらなる成長を遂げることが、日本全体の経済活性化に不可欠であるという認識に基づいています。

経済産業省が中心となり、中堅企業の成長を促進するための羅針盤として策定・公表されたのが中堅企業成長ビジョンです。このビジョンでは、中堅企業が抱える課題や、官民が連携して取り組むべき事項が具体的に示されており、ファミリービジネスにおけるガバナンスの重要性も強調されています。

(2) ファミリーガバナンス規範とは?

現在、経済産業省の研究会において、ファミリービジネスにおけるガバナンスのあり方に関する具体的な検討が進められています。この検討の中心となるのが、「ファミリーガバナンス規範」の策定です。

「ファミリーガバナンス規範」とは、ファミリービジネスが長期的な成長と持続可能性を確保するために、組織運営や意思決定の仕組みをどのように構築すべきかを示す指針となるものです。
研究会では、規範の全体像、具体的な内容、社会浸透に向けた課題など、多角的な視点から議論が行われており、中堅企業の成長を阻害する制度の見直しも視野に入れています。

(3) 今後の展開はどうなる?

現時点では、「ファミリーガバナンス規範」の内容や、ファミリーガバナンス規範を策定するとどのような「良いこと」があるか、詳細な情報は明確に示されていません。

もっとも、ある程度推測することはできます。
例えば、中堅企業成長ビジョンでは、企業価値を高めようとした場合に障害・ディスインセンティブとなるような制度として、以下の内容を例示で示しています。

・相続・贈与等の税負担が、企業価値向上や株価上昇のディスインセンティブとなっている
・自社株や不動産の取得等を通じて成長投資資金を圧迫している
・株式分散を助長している等の声がある(事業承継税制は、中堅企業には適用されない)

ファミリービジネスに不安を抱える中堅企業経営者

日本経済の屋台骨を支える中堅企業には、悩みを抱える経営者も多い

 

2. 弁護士の役割 〜事業承継と持続的成長のために〜

次に、ファミリービジネスが直面しうる特有の課題に対し、法務の専門家である弁護士がどのように関わり、その持続的な成長を支えることができるかについて解説いたします。

(1) 法務リスクを取り除き、さらなる成長へ

ファミリービジネスは、一族の強い絆や創業理念の共有といった、他にはない強みを持っています。
一方で、「お家騒動」や「後継者不足」などファミリービジネスには特有のリスクがあることも事実です。
弁護士は、法的な視点からこれらのリスクに先手を打ち、強固な防御体制を構築し、備えます。
そしてこれによりファミリービジネスの長所を最大限に発揮することができ、さらなる成長の原動力となります。

類型①:親族間対立

親族間で経営権を巡る意見の衝突が生じた時、取締役会や株主総会は紛争の舞台となりかねません。

これに対する法務による解決策としては、例えば次のようなものがあります

安定株主への集約: 株式の取得条項付株式、議決権種類株式、多議決権株式などを活用し、必要に応じて株式併合(スクイーズアウト)等の手法も視野に入れ、経営の安定化を図ります。
ファミリーオフィス・信託の活用: 株式を信託することで、議決権の分散を防ぎ、長期的な視点での経営を可能にします。

類型②:カリスマ経営者の急逝と相続

リーダーの急逝は、後継者争いを引き起こし、築き上げてきたブランド価値を毀損する可能性があります。
また、相続人が遺留分を主張することで、予期せぬ経営の混乱を招くこともあります。

これに対する法務による解決策としては、例えば次のようなものがあります

株式分散防止策: 遺言、生前贈与、死因贈与、相続税対策、信託スキーム、相続人への売渡請求権の設定など、多角的な対策を講じます。
遺留分対策: 生命保険の活用やファミリーオフィスの設立などにより、遺留分請求のリスクを軽減します。
早期の後継者指名と育成: サクセッションプランやジュニアボードの導入により、計画的な事業承継を支援します。

類型③:創業家一族の離脱

コンプライアンス違反など、創業家自身の問題によって経営が立ち行かなくなり、非創業家出身の勢力に経営権を奪われるようなことも起こりえます。

これに対する法務による解決策としては、例えば次のようなものがあります

独立社外取締役の登用: 客観的な視点を取り入れ、経営の透明性と健全性を高めます。
少数株主対策: 株式買取やスクイーズアウト、株主間契約、ファミリーガバナンス契約、ファミリーオフィスの活用などにより、少数株主との円滑な関係を構築します。

(2) ガバナンス体制の運用支援

構築したファミリーガバナンス体制を運用していくためには、継続的なサポートが不可欠です。
弁護士は、株主総会や取締役会の運営指導、役員体制の設計、各種規程の整備など、法的な側面からその運用を全面的にバックアップします。
法務の専門家として、親族間の利益相反、後継者選定、株式の集中と分散といったファミリービジネス特有の法務課題に対し、最適な法的枠組みを提案し、スムーズな運営を支援することができます。

さらに、家族構成やビジネスの状況の変化に合わせて、ガバナンス体制のブラッシュアップや更新を継続的にサポートすることで、長期的な視点での成長と安定をサポートします。

(3) 外部の視点の重要性:独立社外取締役

中小企業庁の「中堅企業成長ビジョン」にも示されているように、実効的なガバナンスを確立するためには、独立社外取締役の選任が推奨されます。
弁護士は、その専門性と客観性をもって、企業の意思決定の透明性・公正性を高め、経営を監督する重要な役割を担うことができるため、独立社外取締役を任せる最適な存在といえます。

<弁護士を独立社外取締役として採用するメリット>
経営の監督と助言: 取締役会に出席し、経営戦略、投資計画、リスク管理といった重要事項に対し、法的観点から意見を提供します。経営陣の意思決定を監督し、違法行為や不適切な行為を牽制することで、企業の健全な発展を促します。
ファミリービジネス特有の課題への対応: 親族間の対立、後継者選定の公平性、経営資源の私物化といった特有の課題に対し、中立的な立場から的確なアドバイスを行います。
コーポレートガバナンス体制の強化: 法令遵守体制、内部統制システム、情報開示体制など、企業のガバナンス全般について、法的な観点からアドバイスを提供し、ステークホルダーからの信頼を高めます。

独立社外取締役となった弁護士

弁護士は独立社外取締役として適任であるといえる

 

3. 税理士×弁護士の協働:ワンストップで最適なソリューションを

ファミリーガバナンス体制を構築するにあたり、税理士は事業承継税制の活用、相続税・贈与税対策、株式評価、納税資金の確保など、税務戦略の立案において重要な役割を担います。

その他にも、財務諸表の分析、資金繰り計画の策定、内部統制システムの構築など、財務の健全性を確保し、ガバナンス体制を強化する役割も担います。不正会計の防止、リスク管理体制の構築など、企業の信頼性を高めるためのサポートも期待されます。

ファミリーの資産管理、相続対策、財産承継など、ファミリー全体の財産に関するアドバイスを行うこともあります。信託の活用、遺言書の作成支援など、長期的な視点での財産管理をサポートすることで、ファミリーの安定と企業の発展に貢献することも期待されます。

税理士と弁護士が協働することで、ワンストップでの包括的なサポートや多角的な視点からの最適なソリューションの提供が可能になります。

(1) 事例1:円滑な事業承継

ある中堅ファミリービジネスでは、税理士と弁護士が連携し、事業承継税制の活用、後継者育成プログラムの策定などを支援しました。税務・法務両面からのサポートにより、円滑な事業承継を実現し、企業価値の維持・向上に大きく貢献しました。

(2) 事例2:ファミリーガバナンス体制の強化

また、(1)とは別のファミリービジネスでは、税理士と弁護士が協力し、ファミリー憲章の策定、役員体制の見直し、内部統制システムの構築などを支援しました。税務・法務の知識を融合させ、ファミリーの意向を反映させながら、持続的な成長を支えるガバナンス体制を構築しました。

(3) 事例3:M&A実行とファミリーオフィス

事業の存続のためにはM&Aが最適と思われる状況でありながらも、先代から受け継いだ会社を自分の代で売却していいか強い葛藤にあるファミリーがありました。そこで、M&Aをする意義の見直しとM&Aによって得る売却代金をファミリー全体のために管理する仕組みとしてファミリーオフィスを導入しました。
導入には税務の観点も欠かせないため税理士と弁護士が密に連携して行いました。
これにより、ファミリーの葛藤を回避するとともに、ファミリービジネスそのものやそのステークホルダーを守るため、M&Aを実行できました。

こちらでも解説しています。

「ファミリーガバナンスで進化する事業承継:金融機関とPEファンドが注目する安定承継の手法」

(4) 事例4:親族外承継におけるガバナンス構築

長年、同族経営を行ってきた老舗企業が、後継者不在のため、外部から経営者を招聘する親族外承継を決断しました。この際、新たな経営体制における役割分担の明確化、株主である創業家一族とのコミュニケーションルールの策定、経営判断の透明性を高めるための委員会設置などを支援しました。
これによって外部からの経営者によるスムーズな経営への移行と、創業家一族との良好な関係維持に貢献しました。

近年、事業承継の現場では、親族内承継だけでなく、親族外承継の割合が増加しており、経営者の若返りも進んでいます。このような変化の時代においては、適切なガバナンス体制の構築と運用が、企業の持続的な成長と安定にとってますます重要になっています。

データで見る事業承継の最新動向 <帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2024年)」参照>

2020年以降の過去5年間で代表者交代が行われた企業のうち、2024年(速報値)の事業承継は血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」によるものが36.4%に達し、これまで最も多かった「同族承継」(32.2%)を上回りました。

2023年(実績値)は「同族承継」(36.0%)が最も多かったものの、「内部昇格」が占める割合との差は1.6ptまで縮小しています。

2024年は買収や出向を中心にした「M&Aほか」(20.5%)、社外の第三者を代表として迎える「外部招聘」(7.5%)など、社外の第三者を経営トップとして迎え入れる事業承継の割合も増加傾向が続いており、親族外承継は約60%となっています。

日本企業における事業承継は、これまで最も多かった身内の登用など親族間承継から社内外の第三者へと経営権を移譲する「脱ファミリー化」の動きが加速しています。

在任期間が5年未満の経営者は親族外が約66%を占めていることからも、この流れは今後加速していく可能性があります。

ファミリーガバナンス体制構築のため協働する税理士と弁護士

税理士と弁護士が協働することで最適なソリューションを提供することができる

 

おわりに

ファミリービジネスの重要性がますます高まる中で、税理士と弁護士の協働は、企業の持続的な成長を支える上で不可欠な要素となります。

国外と比較しても日本ではファミリーガバナンス体制の整備が進んでいません。一連の政策を機に、少しずつ整備し始めることが重要でしょう。

ファミリーガバナンス体制の整備状況(国内外比較)

(出所) PwC「グローバルファミリービジネスサーベイ2023(第11回)日本版」(82の地域にわたる2,043名のファミリービジネスリーダーの意識調査)より、経済産業省作成(令和7年3月経済産業省経済産業政策局産業創造課・企業会計室)「第1回ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会(事務局説明資料)」

 

辻・本郷税理士法人と岩崎総合法律事務所の共著『ファミリーガバナンスハンドブック』は、ファミリービジネスにおけるガバナンス体制構築の具体的な方法や、税理士・弁護士をはじめとする専門家の役割について解説した書籍です。

このコラムで紹介したような、税理士と弁護士の連携によるファミリービジネス支援について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ本書をお手に取っていただけましたら幸いです。
「『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック』発売のお知らせ」

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また、税務のプロフェッショナルである税理士などと連携することで、家族の価値観や目標に基づいた包括的あるいは個別的な解決策を提案します。

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