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2021.8.2
資産家が金銭を貸し付ける際に考慮すべき事項

Question

私はいわゆる資産家ですので、よく、友人や知人、会社、出資先等から、金銭を貸してくれとお願いされることがあります。
彼らが金銭が必要な理由もケースバイケースです。
こうした要望に応じるべきか否か、その際に考えておいた方が良い事項を教えてください。

 

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Answer

貸付を検討する際には、貸付先の属性、回収可能性と貸し倒れのリスク、貸付名義、期待されるリターン等を総合的に判断する必要があります。
以下では、考慮のポイントとなる点を解説します。

貸付先の属性

個人への貸付けなのか、会社への貸付けなのかで異なります。
また、会社であっても、単なる取引先会社か、自らの出資先の会社なのかによって大きく異なるでしょう。

生活難を理由として個人に貸し付けるような場合には、その金額にもよりますが全額回収することは期待するべきではありません。貸し付けたものは返ってこないものと考え、最早贈与のようなものだととらえておく方が無難です。

これは、一見ただ諦めているだけのように見えますが、そうではありません。例えば、そもそも回収を現実的に期待できない貸付けであるにもかかわらず、書面に利息等の記載を設けてしまうと、実際には回収できていないにも関わらず所得税が課税される可能性があるなど、中途半端に回収を期待したがゆえに貸付人に事実上不利に作用する恐れがあるのです。「貸したら返済されない、それでも自分はこの人にこの金額を貸すのか」と贈与のようなものであること前提に明確に意思決定することにより、本来無用な貸付をせずに済むこともあります。実際返済されなかったときにも、覚悟の上でのことですから、精神的健康も保ちやすいでしょう。

これに対して、出資先会社の資金繰りが上手くいっていないことを理由に、投資家が貸付を行う場合などは性質が異なります。貸付によりブリッジすることで事業回復の可能性が見込まれる場合には、貸付金の返済や利息はもちろん、なにより出資リターンを期待できます。

「貸さない」という意思決定をして、これを相手に説明することが心情的に難しい場合もあるでしょう。その際にはたとえば貸付するかどうかはプライベートバンカー(あるいは顧問弁護士、顧問税理士)に一任していて自分では決められないから、その者に話してほしいなどと伝え、当事者間でやりとりしないようにすることが角が立たずベターであるケースが多いです。

回収可能性の検討

きちんと回収することを期待するのであれば、貸付先の資産や事業の調査、担保の設定等を通じて、その期待が現実的なものといえるかよく検討しましょう。

この点、投資家にブリッジを求めるようなケースでは回収倒れになってしまうケースは相当多いように思います。ある著名エンジェル投資家から、「自らの経験から、出資はしても、貸付は絶対にしないと固く決めている」と伺ったこともあります。

回収可能性を高める工夫については、後日改めて解説します。

貸付名義は法人?個人?

事業会社や個人の資産管理会社をお持ちの場合、法人、個人どちらの名義で貸付を行うか悩む場合もあると思います。

基本的には、資金余剰の大小や貸付目的等により決定しますが、無利息(又は相当金利を下回る利息)での貸付の場合には、税務面について注意が必要です。

法人から個人に対して無利息貸付を行った場合には、金利相当額が収入利息及び寄附金として認定されてしまいます(貸付先の個人が法人の役員・従業員である場合には、給与として認定されます)。これに対して、個人が法人に対して無利息貸付を行ったとしても、原則として課税関係が生じることはありません。

したがって、無利息貸付を行う場合には個人名義で貸し付けた方が無難です(ただし、同族会社への貸付においては、個人名義であっても法人名義であっても特段差異はありません。)。

期待されるリターン

基本的には貸付金利息の回収を求めることになります。貸付金利については、利息制限法により上限が設けられており、これを上回ることはできません。

  • 元本10万円未満 年20%
  • 元本10万円以上100万円未満 年18%
  • 元本100万円以上 年15%

利息の回収にとどまらないアップサイド(例えば貸付先会社が大きく成長する場合のリターンなど)を期待する場合には、利息制限法との関係を考慮しつつ、これを実現するためのスキーム(オプション権の設定など)を検討する必要があります。ノウハウを有する専門家の助力を得ながら行いましょう。

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