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2023年3月20日(月曜日)
遺産の評価を巡る問題① ~不動産の評価~

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富裕層の相続においては、「遺産の評価」を巡る問題が高確率で発生します。
その遺産の規模が大きい場合、いくらで評価するかで結果が大きく異なるからです。

資産の評価はこれを専門とする機関が存在します。
しかし、かかる機関は必ずしも裁判実務のプロフェッショナルではありません。
取引で活用されるような資産の評価と、公正な裁判のために活用されるべき評価はそのポイントが異なるところがあります。
したがって、評価については、専門機関に依頼する際にも、裁判実務の傾向、その依頼趣旨や前提事実について専門機関によく説明し、内容についてよく協議することがポイントです。

以下では、「遺産の評価」の問題のうち「不動産の評価」の問題について、Q&A形式で解説いたします。

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目次

 

Q1 遺産の評価の問題は、どうして重要なのでしょうか

株式や不動産はその価値が一義的に定まるものではなく、評価を要します。

その評価方法には様々あり、評価方法毎に算出される評価額に大きな差が生じることはよくあることです。
また、たとえ同じ評価方法であったとしても、その評価の前提にすべき事実関係をどのように設定するかによっても評価額には差が生じます。

このため、評価を要する資産については、その評価方法や前提事実をめぐって問題となります

評価に関する調査が不十分であるなどにより、不当に請求額が低かった場合には本来の権利は実現しません。
一方で根拠なくいたずらに高額な評価を主張しても、結局採用されないうえに裁判所に納付する手数料も高額になってしまいます。

このため、あるべき合理的な評価額がどのようなものであるかを把握した上で臨むことが重要です。

なお、評価をするにあたっての基準時は、遺留分侵害の額は通常は相続開始時を基準として評価します(遺産分割については分割時など問題となる場面によって評価時点が異なるので注意が必要です)。

Q2 不動産の評価方法にはどのようなものがあるのでしょうか。概要、どういった注意点があるでしょうか。

不動産の評価方法については、実勢価格(取引価額・時価)を算定することを主眼とするものと、課税評価額を算定することを主眼とするものがあります。

正味の価値を基準にすることが公平ですから、鑑定では取引価額・時価を算定することを主眼とする方法をもって判断されることになります。

課税評価額は客観的な交換価値と必ずしも一致しないため、これを考慮するときには内容を慎重に検討し、各地域の特殊性、当該土地の個別的要因、時期的な変動等を加味して適正な補正乃至調整を行わなければいけません

Q3 課税評価額を算定する方法には、どのようなものがありますか。

住宅街の空と屋根

課税評価額を算定する方法は3つある

1.公示価格
まず、公示価格です。
公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として公示する価格です。3月下旬ころの官報に掲載されています。

公示価格は、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、公共用地の取得価格の算定、適正な地価の形成への寄与を目的とするものです。
こうした目的のもと、近隣地域の標準的な価格を求め、自由市場において通常成立すると認めた価格とされています。

2.固定資産税評価額
次に、固定資産税評価額です。
固定資産税評価額は、地方税法349条による土地家屋課税台帳等に登録された基準年度の価格または比準価格です。3年に1回評価替えが行われています。

価額が下落したと認める場合には修正を加えることができるものとされていて、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、訴額算定等の基準とされています。

3.路線価
3つ目が、路線価です。
路線につけられた1㎡あたりの評価額(単位千円)であり、公示価格の80パーセントを目処に設定されています。

毎年1月1日時点の価格として、地目ごとに路線価方式(市街地的形態を形成する地域の土地に適用される方式)、倍率方式(市街地以外の地域で固定資産税評価額に倍率を乗ずる方式)のいずれかにより算定されます。

Q4 公示価格は、紛争実務上どのように活用されるのでしょうか

まず、公示価格の紛争実務上の意義です。

公示価格は、課税評価額の評価方法の中では市場価格に一番近く、他の評価方法による価格より高くなります。
信頼性が高い指標と言え、不動産鑑定評価や不動産仲介業者の査定においても参照されます。

一方、公示価格は、一定の区域における標準地の㎡単価の公示です。このため、標準地と立地や地形などの条件が全く同一ではないため、一定の修正が必要になりかかる修正検討には専門的な知見を要します

Q5 固定資産税評価額は、紛争実務上どのように活用されるのでしょうか

固定資産税評価額

固定資産税評価額がよく活用される場面もある

次に、固定資産税評価額の紛争実務上の意義です。土地の固定資産税評価額は、公示価格の70パーセントを目処に設定されています。
公示価格が時価に近いものとすれば、時価から30%減ということになります。

また、3年に一度しか評価替えをしないため、地価公示価格、実勢価格との格差が生じやすく時価と乖離していることもままあります。

一般的に以下のような問題点もあります。
①市街地では時価よりかなり低く評価される傾向にある、
②へき地では高く評価される傾向にある、
③マンションには適用できない、
④一戸建て住宅の場合には建物が新しいときは安く評価され、古いときは高く評価される傾向にある

このような問題点がありつつも、一方で、固定資産税評価額は、個々の不動産ごとに価格が決定されており、路線価のように㎡数を乗じて補正をする等の作業が不要です。

このため、土地上に古い収益物件が存在する場合、収益不動産として鑑定を行うと手間・コストがかかることから、建物については固定資産税評価額を採用し、土地は更地として評価するとの合意をする場合も多いように思われます。
建物は土地に対して評価額が低く、簡易に評価できるという利点が生きるためです。

一方、建物の規模が大きい場合等には必ずしも固定資産税評価額がなじまない場合があることには注意が必要です。

Q6 路線価は、紛争実務上どのように活用されるのでしょうか

土地の評価

路線価が活用される場面もある

3つ目に、路線価の紛争実務上の意義です。

路線価については、以下のような問題があります。
①市街地では時価よりかなり低く評価される傾向にある、
②へき地では高く評価される傾向にある、
③マンションには適用できない、
④時価の動きが激しいときは、データとして採用できない場合がある

このため、地価変動の激しいときや土地の規模が大きいときなどには、必ずしも路線価がなじまない場合があります

もっとも、財産評価基本通達が全国共通の画一的で合理的な基準であることや、毎年評価替えされているため地価変動も反映されやすいことなどから、当事者間の納得を得やすく、路線価を参考にしながら価格合意を得やすいといったポイントもあります

Q7 時価評価の方法にはどのようなものがあるのでしょうか。不動産鑑定評価はどのようなものでしょうか

ビジネスマンと街並み

時価評価は鑑定をもって行う

鑑定評価は、不動産の時価を評価するにあたって最も信頼性が高いものです。

話し合いをまとめるためあるいは判決の根拠になることを期待して、私的鑑定として提出される場合もあれば、裁判所が選任する鑑定人が行う場合もあります。

一方、鑑定評価の費用が生じることや、売却可能性という観点からは低額の評価しか見込めない土地(賃借権の負担付きの土地など)について、期待できる売却価額よりも高めの評価がなされることがある点には注意が必要です。

なお、裁判所が選任する鑑定人の鑑定費用の負担は、実務上相続人の法定相続分に応じて負担するように運用されています。

時価の評価のためには以下のような評価の考え方や、課税評価額及びその趣旨を考慮して行われます。

取引事例比較法
条件が近い類似物件の成約事例を集め、1坪 (約3.3㎡) あたりの単価をベースに、築年数・階数・方位・駅距離・間取り・室内状況・分譲会社・不動産市況など様々な要因を加味して査定価格を比較検討する方法です。
居住用の中古マンション等に活用されます。

収益還元法
当該不動産を利用することにより、どの程度の収益を得られるかに着目して、その収益を期待利回りで除して資本還元することにより価格を算定する方法で、主にDCF法です。
1棟ビルなど収益物件に活用に活用されます。

原価法
当該不動産がどの程度の費用で造成、建築されるかという原価に着目して価格を算定する方法です(すなわち、査定物件の建物を取り壊して、同じ建物をもう一度建てた場合の原価を計算し、その価格から建物設備が老朽化している分を経過年数に応じて差し引くことで査定価格を推定する方法です)
中古戸建の建物部分等に活用されます。

Q8 不動産仲介業者に査定してもらうことも有効でしょうか

不動産仲介業者の査定は、近隣の取引事例を参照して、条件が似た売却金額を基に金額を査定する方法などで行われます。

実務家によって多くの取引事例との比較データを積み上げて査定されるものであるという点で直感的に説得力のある資料であり、裁判手続でも不動産の評価資料としてよく利用されます。取得にコストがかからない点も利点です。

他方で、意図的に評価を操作して査定書を作成する事例も珍しくない点には注意が必要です。

Q9 結局のところ、紛争実務上、不動産の評価はどのようにして決められるのでしょうか

実務上は不動産会社の無料査定書を基準にしたり、下記評価方法を参照しながら価格そのものについて合意をするということもよくあります。
あるいは、下記評価方法自体を当事者が合意し、それに基づいて価格を算定することもあります。

不動産の評価方法として、課税評価額そのものを算定することの問題は以上のとおりです。
もっとも、当事者が合意で評価を決める場合には、課税評価額を算定することを主眼とする方法は客観的に恣意が入りにくい形で評価額が算定されるので、参考にされやすいものといえます。

しかし、規模が大きくなる場合等には合意の形成は困難であることが多く、鑑定をもとに裁判所に決せられる場合も少なくありません。その場合には、課税評価額及びその趣旨を考慮しながら時価を評価することになります。

Q10 会社に貸している土地があるのですが、実際には処分することはできません。この土地はどのように評価されるのでしょうか

夕暮れの高層ビル街

会社に貸している土地の場合紛争になりやすい

富裕層個人の多くはなんらか会社を経営していることが多いです。

こうした会社は非上場のオーナー企業の場合が多いところですが、そうした自分の経営する会社に土地を貸している場合があります。
この、会社に貸している土地の評価について、問題になることがあります。

普通は更地価格から、借地権割合で計算した借地権価格を引いたものが底地の評価額になります。
しかし、その借地権が自分の経営する会社のものである場合は、底地価格が、更地価格の7割や8割と評価されます。
つまり、普通は借地権価格が7割などであるのに、借地権が自分の経営する会社のものである場合は底地価格が7割、8割と評価されます。

税務署もこうした場合には同様に底地を高く評価します。
遺留分侵害額請求や遺産分割の場面でも同様に評価される傾向があります。

こうした遺産に対する当事者の認識・価値のとらえ方と裁判実務のギャップが相続紛争が生じる一つの要素となる場合があります。

 


 

岩崎総合法律事務所エントランス

岩崎総合法律事務所は、富裕層世帯の相続事件の処理経験も豊富で、他にも資産家・富裕層及びそのファミリー向け業務を多く扱っている。

以上、特に富裕層世帯の相続に特有のポイントを解説してきました。
これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を整理して、適切な分析に基づいた方針のもと、正確に主張立証していくことが重要です。

もし、相続問題、遺留分の問題を巡ってお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。

富裕層法務サービス Legal Prime®

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