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2023.3.21
経営者世帯の遺留分を巡る「遺産の範囲」の問題

経営者の相続においては、「遺留分」を巡る問題が高確率で発生します。
そこでは「特別受益」を含む「遺産の範囲」を巡る論点がよく問題となります。

以下では、遺留分を巡る「特別受益」を含む「遺産の範囲」の問題について、Q&A形式で解説いたします。

岩崎総合法律事務所では、経営者、高額所得者などのお客様に対する法務サービス Legal Prime® を通して、相続紛争案件のノウハウや経験を蓄積してまいりました。経営者の相続紛争の問題について、お客様にとって最善の解決となるようにサポートしています。
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目次

 

Q1 「遺留分算定の基礎となる財産」は、どのような点が問題となりますか

遺留分算定の基礎財産とは、相続人各自の遺留分を算定するときの基礎となる財産をいいます。
その基礎財産は以下①と②を足したものから、以下③を差し引いたものとなります。

①相続開始時の積極財産
②贈与財産
 ア 相続開始前1年間にされた贈与(民法1044条1項前段)
 イ 相続開始前10年間にされた相続人に対する特別受益としての贈与(民法1044条3項)
 ウ 遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与(民法1044条1項後段。期間制限なし)
 エ 不相当な対価でなされた有償行為
③ 上記から、相続債務の全額を控除

Q2 被相続人が相続人に貸付債権を有していましたが、これが免除されたかどうか争いになっています。「贈与財産」として免除された分が贈与であるといって争っていいのでしょうか

判例を勉強する士業

遺留分の計算にあってはまず遺産の範囲を確定することとなります。
このとき、相続開始時の遺産そのものだけでなく、生前贈与(特別受益)など過去に行われたものも遺産の範囲に含まれます。

このため、「相続開始時の積極財産」として貸付債権があるという主張でも、「贈与財産」として免除された分が贈与であるという主張でも、一見すると、結局基礎財産になるという意味では同じように思えます。
しかし、両者はその意味するところが違います。

このため、遺留分侵害額請求権を行使しようとする方は、まず、相続開始時の遺産そのものの範囲に含まれるものかどうかを確認します。

生前贈与(特別受益)を遺産に組み込むよう主張するときには注意が必要です。

1つ目に、生前贈与の場合には期間の制限の問題があります。

2つ目に、少なくとも相続開始時点ではその受益者の財産であることを認めるものとなるため、仮に被相続人からの有償譲渡であったなどとの主張がされれば、「贈与」の事実が認められない可能性が生じます

3つ目に、相続紛争として遺留分侵害額請求が問題になる際には遺産分割協議も問題になることが多く、遺産分割協議への影響も考慮しなければいけません
つまり、生前贈与(特別受益)を前提にしてしまうと、遺産分割協議では、「持戻免除」(遺産の範囲に加算されるべき生前贈与を、被相続人の意思によって遺産の範囲に加算しないという処理)が論点となります。
その結果、遺産分割の場面で遺産に組み入れられないといった問題が生じる恐れがあります。
持戻免除は実務上認められる傾向にあります。

以上のようなリスクの大きさについては慎重に検討し、遺留分侵害額請求の問題だけでなく相続紛争全体を適切に解決する視点をもって対応していかなければいけません。
安易に同じことと考えて「贈与財産」として免除された分が贈与であると主張するのは大きなリスクになり得るものです。

Q3 名義預金(相続人名義の預金)があるのですが、これは遺留分で考慮されるのでしょうか

名義預金の遺産性が問題となる場合があります。

名義人の方は生前贈与を受けたと主張し、名義人以外の相続人は名義預金は遺産であると主張して争いになります。

名義預金の遺産性の問題については、以下のような事情を総合的に考慮して遺産性を判断します。

原資を出捐した者が誰か
原資を出捐した者が被相続人である場合には、名義人は生前贈与を受けたという主張か、生前贈与の主張がなされる場合には贈与契約書の存否、贈与の動機、贈与税申告の有無などを考慮

管理運用していたのは誰か
名義預金として争点になっている預金口座の銀行印についてそれが誰の印鑑か、通帳や印鑑を保管していた者は誰か、入出金は誰がしていたか、口座が開設された経緯などを考慮

その他の事情
そのほか、名義人と被相続人との関係性など一切の具体的な事実関係を総合考慮して判断されます。

Q4 被相続人名義の資産なのに、遺産ではないと主張されています。このような主張は認められるのでしょうか

以上と異なり、被相続人の名義でありながらも、それが遺産ではないとして争われる場合もあります。

相続開始時点において、その遺産の名義人が被相続人であったとしても、実際は生前贈与が行われたものの、名義変更が済んでいなかったといったような主張をとおして、遺産性が争われるものです。

実務上そう多くみられる主張ではありませんが、客観的形式的には被相続人の財産であるとされているものについて、その実体と形式の乖離について説得的に立証される状況かどうかが重要です。

Q5 遺留分では、生前贈与分を含めることについて期間制限があるとのことですが、その期間はいつの時期が起点になるのでしょうか

メモパッド

時期の基準となるのは、贈与契約締結時です。

例えば、10年前の日より前に締結された贈与契約が相続開始前の1年間に履行された場合は、期間制限にひっかかり、基礎財産に含まれません。 

ただし、この契約締結日が信用できるか(バックデートや偽造でないか)の問題は別に検討されるべきことです。

また、仮に信用できるとしても契約締結日と履行日に開きがある場合、その開きを設ける合理的理由がないなど不自然な状況であれば、遺留分を詐害的に侵害するために行われたものと評価される可能性もあり得ます。
そうして、実質的公平性を重視して基礎財産に含める方向での認定もあり得ると思います。

「期間制限の注意点の詳細についてはこちらもご参照ください。

Q6 有償行為であっても、対価が不相当だったら遺留分算定の基礎に考慮されるとのことですが、どの程度の対価だと「不相当」になりますか

不相当な対価でなされた有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなされます。
その結果、その目的の価額から対価の価額を控除したものが遺留分を算定するための財産の価額に加算されます。

対価が相当かどうかは、有償行為の時点における取引価格を標準として、最終的には取引通念によって決定されます。

ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした場合にだけ適用されるものですので、現実的にこれが活用される場面は相当に限られるものと思います。

Q7 贈与と特別受益はどのように異なるのでしょうか。贈与財産のうち特別受益については、経営者世帯の場合にはどのような点に注意が必要でしょうか

家系図と電卓

経営者世帯にて「特別受益」は様々に問題となる

遺留分算定において、相続人への贈与についてはその一切が加算されるものではなく、あくまでその贈与が特別受益といえる場合に加算されるものです。

特に経営者世帯の場合には、相続税対策等のために生前に多くの資産を移転している場合も多く、注意が必要です。
また、事業を営む場合、その事業を後継者に承継させるために生前に遺留分問題について対策しようとしている場合も多いですが、その手法の一つとして生前の資産移転等が行われることも、経営者世帯の相続紛争にみられる特徴です。

特別受益性のあるものかどうか、特別受益の「内容」はどのように考えるか、相続税対策のための資産管理会社はどのように扱われるか、(遺産の評価はよく問題になるものの)「特別受益の評価」にはどういった注意点があるかなど、「特別受益」は様々に問題となります。

「特別受益」の問題の詳細については、こちらです

Q8 遺産の範囲について争いが生じていて話がまとまりそうにありません。今後の手続きはどのように進めたらよいのでしょうか

遺産の範囲について相続人間で争いがある場合には調停・審判手続ではなく、遺産確認訴訟手続を踏んで確定しなければなりません。
このため遺産の範囲について争いが生じ得る場合には、行ったり来たりにならないよう手続の選択や進め方に注意が必要です。

 


 

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岩崎総合法律事務所は、経営者の相続案件や資産家・富裕層及びそのファミリー向け業務を多く扱っている。

以上の論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を整理して、適切な分析に基づいた方針のもと、正確に主張立証していくことが重要です。

もし、相続問題、遺留分の問題を巡ってお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。
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