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2023.5.9
経営者の遺言書が無効となるケース ~ 創業家の遺言と遺言能力の問題 ~

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経営者や創業家の世帯においては、なんらかの遺言書が作成されているケースが多いです。
しかし、遺言作成時(少なくとも生前最後に遺言書を作成した時)、認知症に罹患していたり、段階的に症状が進行しているといった場合も少なくありません。
こうしたことや、遺族が「本人がそんな遺言を書くわけがない」「本人の意思に関係なく書かされたに違いない」と納得しないような場合に、遺言の効力が争われます。
遺言無効の多くは遺言能力を争うものですが、裁判例は増加傾向にあります

以下では、経営者や創業家が作成した遺言書に関する「遺言無効」の問題について、それが無効であると争われるケース、その際の注意事項などのポイントを、Q&A形式で解説いたします。
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目次

 

Q0 経営者や創業家の遺言は争われやすいのでしょうか。

経営者や創業家の遺言については、その遺言書の解釈をはじめ、そもそもの効力(有効性)が争われる場合もあります。

経営者や創業家は会社存続のため、その遺言をもって、株式を特定の相続人に集中させることが多いです。
また様々な資産を保有している方も多く、特定の資産を特定の相続人に承継させるものとすることも多いです。
そしてこうした遺言によって相続人間で不公平感が生じてしまっている場合があります。

不公平感が一定程度を超えると遺留分の問題が生じますが、
それに関わらず不公平感を解消するために遺言の無効が争われる場合があります。

Q1 遺言はどのような場合に無効になりますか。

遺言の無効原因となるものには、遺言能力がない、法定遺言事項ではない、錯誤・詐欺、公序良俗違反がある、遺言の撤回がある、遺言内容が確定できない、共同遺言の禁止に反することといった多様なものがあります。

また、遺言についての特殊な無効事由として遺言者が被後見人である場合で一定の内容の遺言につきその効力を無効とする民法966条や、遺贈の定めについて、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときにはその効力を生じないものとする民法994条などがあります。

Q2 遺言能力はどうしてよく論点になるのでしょうか。

判例を勉強する士業

遺言能力とは、遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足る意思能力のことです。
民法は満15歳以上であれば遺言能力が認められるものとしています(961条)。
しかし、超高齢化社会の到来に伴い、例えば認知症にり患した高齢者の遺言能力が争われることもしばしばあります。

遺言能力は、その遺言の効力が発生する前提であり、これを欠けば遺言は無効となります。
この意味でとても重要な論点です。

そして遺言書は遺言者自身の死亡によって効力が生じるため、その遺言書を書いた本人からの説明・説得がなしえないことや、遺言能力の有無は本来的には段階的で微妙なものを含むにも拘らずオールorナッシングの判断とならざるを得ない点などから、紛争になりやすい論点ともいえます

Q3 遺言能力はどのように判断されるのでしょうか。経営者や創業家の遺言能力はどうでしょうか。

遺言能力の判定は、要介護レベルから直接判断されるわけではありません
遺言能力は、精神医学的観点、遺言内容、その他様々な事情から判断されます。
例えば、精神医学的観点においては、看護記録や医療記録から遺言者が記憶や判断に問題ないか(特に、生年月日や年齢がわからない、簡単な計算ができない、日付が言えない状況が現れているときは遺言能力に軽視できない疑義があります)、意味不明な言動や妄想がないかが判断されます。

従来の裁判例では、遺言内容及びその影響の範囲を理解できること、という要素を中心に判断されることが多かったものの、自由な意思決定ができること、という要素も遺言能力の判断において重視されるべきとの指摘もあります。
近時の学説は、具体的遺言との関係で遺言能力を総合的に判断する近時の裁判例の動向を基本的に支持しています。

遺言能力を否定した裁判例は、精神的判断力の低下乃至痴呆状態の度合いだけを理由として挙げるのではなく、遺言内容が複雑である事、遺言内容が重大乃至高額である事、遺言作成依頼の経緯や遺言作成時の状況、動機が薄弱である事等を理由として挙げています

遺言者の属性が、経営者や創業家であることによって遺言能力の判断基準は変わりません。
しかし遺言書作成時に代表として経営していたのであれば遺言能力が否定されることはまずないでしょう。
一方既に引退をして経営に携わっていない創業家については、その遺言書作成時の状態によっては遺言無効が論点になる場合はあります。

Q4 遺言能力の判断にはどのような資料が証拠となるのでしょうか。

上記の通り遺言能力の判断は様々な具体的事実を個別に考慮して行われます。

遺言能力が争われる事案では、遺言者が、なんらか病気療養中の状態にあることが少なくないため、主治医・担当医の診断や、これを資料とする鑑定人の鑑定にかなりのウェイトが置かれます。
遺言者本人が遺言書を複数作成している場合のその過去の遺言書の内容・作成経緯に関する資料も重要な証拠となります。
また、遺言者本人が遺言無効の問題に備えた資料を用意している場合にはこれも重視されます。

Q5 公正証書遺言であれば遺言能力(遺言無効)は問題にならないのでしょうか。

裁判所
資産家や富裕層においては、その遺言の効力をより確実に発生させるため、公正証書遺言の形で遺言書を作成している場合も多いです。

しかし、公正証書遺言の形態であっても、遺言書作成時点で遺言者が認知症に罹患している場合も少なくありません。
公正証書遺言は公証役場での手続きで作成されるものであるため、遺言能力に問題がない状況で作成されることが通常ですが、公正証書遺言であるからといって一律に遺言能力が問題にならないということではありません。

過去の裁判例では公正証書遺言であっても遺言能力が否定され無効と判断された事例もあります

Q6 公正証書遺言で遺言能力が問題になる、遺言が無効になるのはどのような場合でしょうか。

公正証書遺言の作成にあたっては、日がきけない者や耳が聞こえない者のための方式により作成するものでない限り、遺言者自ら言語を発して公証人に対して直接口授をすることが必要です(民法969条の2)。
ここでいう口授とは、遺言者が回頭で公証人に遺言の内容を伝えることです。
実際にはあらかじめ公証人に共有している遺言書の内容を前提に、その遺言書の内容のうち重要部分について、公証人が遺言者に対して口頭で質問し、これに遺言者が回答する形をもって進められます。

公正証書遺言が無効とされた事案の多くは、この口授に関わるものです。
すなわち、単にうなずくだけの場合、「はい、そうです」「それでよい」「はい、はー」といった場合では口授を欠くとされ、遺言能力も否定される場合があります

他方、たとえ口授の方法が各項目ごとにうなずく程度であったとしても、遺言者が弁護士に遺言の趣旨を伝え、弁護士が作成した書面を公証人に送信し、かつ遺言者が証人到着前に公証人に遺言の趣旨を話しており、文書中の受遺者の氏名の誤りを指摘し、読み聞かせ終了後にも、「その通りで間違いありません。よろしくお願いします。」と答えていた事案では、有効とした裁判例もあります。

認知症患者の場合には、自身の認知症を隠そうとして、わかったふりをする傾向があるため、口授の認定は厳格に行われます。

公正証書遺言の場合には、口授と筆記が正確であることの承認という過程を通して、遺言能力が明らかになることが多いです。

つまり、公証人の質問に答える形で遺言者自らが遺言内容を口授していることや、読み聞かせ手続きの中で、遺言者が積極的に発言していることは、遺言者に遺言能力が備わっていることの有力な証拠となります。

また、公証人や証人の遺言者の能力に関する証言も同様です。
こうした公正証書遺言の特性を重視して、遺言能力の有無を判断する必要があります。

 


 

岩崎総合法律事務所エントランス

岩崎総合法律事務所は、富裕層世帯の相続事件の処理経験も豊富で、他にも資産家・富裕層及びそのファミリー向け業務を多く扱っている。

以上、特に経営者・創業家世帯の遺言無効に特有のポイントを解説してきました。
これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を整理して、適切な分析に基づいた方針のもと、正確に主張立証していくことが重要です。

もし、相続問題、遺言無効の問題を巡ってお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。
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