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2023年11月24日(金曜日)
【事業承継】株式取得の費用を安く抑えたい【ファミリーガバナンス】

事業承継は金融機関や税理士の主導・助言のもと対策されることも多いですが、弁護士による法務リスクの検討も欠かせません。

富裕層法務 Legal Prime®のQ&Aでは、実際によくある重要な法務リスクと対応のポイントを解説します。

事業承継についてお悩みの方、金融機関様や税理士様におかれましては、当事務所までお問い合わせくださいませ。

Question

私が経営している事業会社の株式のうち「少しの株式」を、後継者候補の長男に生前贈与しましたが、長男は会社を継がないと言います。
弁護士によれば、長男から株式を返してもらうためには相当額を支払わなければならないだろうとのことです。

また、私の先代からの付き合いで先代の知人・友人が少しの株式を持っています(無償で取得したものです)。
将来のことを考えると彼らに株式を保持させたままとすることはリスクと考えます。
こちらについても弁護士によれば、株式を返してもらうためには相当額を支払わなければならないだろうとのことです。

ただであげたものであり、長男に至っては贈与税まで私が負担したのに、なぜ私が金銭を支払わなければならないのか全く腑に落ちませんが、法的には無償で強制的・一方的に取得できないということは弁護士から説明を受けて一応は理解はしました。

しかし経緯が経緯ですから、支払うとしてもなるべく安く抑えたいと思います。
株式取得の費用をなるべく安く抑えるためにはどうしたら良いでしょうか。

 

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Answer

法的に強制的・一方的に取得することができるとした場合にありうる評価額を計算します。
その上で、相手にとってもメリットのある提案を行いながら、この評価額を下回る金額で取得できないか交渉します。

また、交渉の際には、そもそも本当に取得する必要があるのか、言い換えれば取得しないことのリスク・危険にはどのようなものがあるのかを確認し、認識しておくことが重要です。いくらの金額まで用意・譲歩する必要があるかの程度に関係するためです。家族の論理も有効である場合があります。

以下では、それぞれのポイントを説明します。

ありうる株式評価額の確認

法的に強制的・一方的に取得する際には、株式を公正価額(時価)で買い取らなければいけません(ただし、予め対策されている場合には別)。

上場企業の株式は市場価格が明確なので時価の特定は容易です。
しかし、スタートアップなど非公開会社の株式には一義的な時価がないためその評価が争いになります。

評価には用いるべき算定方法が複数ある場合もありますし(コストアプローチ(ネットアセットアプローチ:簿価純資産法、時価純資産法(修正簿価純資産法))、インカムアプローチ(「DCF法」、「収益還元法」、「配当還元法」)、マーケットアプローチ(類似会社比較法(マルチプル法))など)、ひとつの算定方法をとってみても前提とする事実や数値によって評価幅がでます。

裁判となれば双方が自身にとって有利なものとなるよう主張して争うことになります。

このため、準備段階では評価レポート取得に係るコストを考慮の上、信頼性のある第三者に適切な評価を依頼することが重要といえます。

株式の評価の詳細については、別のコラムも用意していますのでそちらもご参照ください。

交渉 〜相手にとってもメリットのある提案〜

以上が評価の一般論ですが、交渉の場面では特有の評価要素が生じます
これは通常の資産評価(バリュエーション)の問題には表れないものです。
すなわち、それ自体では流通性のない自社株式に対して金銭としての価値を見出すか、双方にとっての金銭であることの重要性・緊急性、買い取る過程やそのまま株式を保持し続けることで税金等の負担が生じる場合にはその負担の影響があることなどを考慮する必要があります。

自社株式の流通性と金銭としての価値
非公開会社の株式は流通性があるものではありません。
特に少数株主にとっては経営にも関与できず、配当に期待するのみです。
このため、「そのまま保持し続けても金銭化のチャンスは乏しい」という状態であれば、
この状態を前提に幾つかの提案が有効である場合があります。

例えば、時価より安い評価額での買取であったり、
その少数株主が死亡したときや一定の事由が生じた時の無償取得を約束する代わりにその間一定の計画のもと配当を出し続ける都行ったことが考えられます。

後者の方法は株式を買い取らない方法であり、必ずも友好的ではない少数株主が残存することのリスクを伴いますので、そうしたリスクの程度やリスク回避措置の可能性も合わせて検討することとなります。

双方にとって金銭であることの重要性・緊急性
また、双方にとっての金銭の重要性・緊急性も交渉のポイントになります。
少数株主にとって入用のタイミングであれば時価より多少ディスカウントしやすくなるかもしれません。
入用のタイミングとは大きな資産喪失あるいは支出が必要となるタイミングであり、例えば離婚時の財産分与や株価暴落時などが当てはまるかもしれません。

税金の影響
買取の当事者になるのは通常は法人です。
しかし法人が買取者になると、売り手である少数株主にはみなし配当課税が生じます。
非上場株式等の配当の場合、みなし配当課税は原則的に総合課税となります。このため、給与所得や事業所得などと合わせて所得が計算され、超過累進課税制度の下で最高45%の所得税率(住民税と合わせて55%。さらに所得税額の2.1%の復興特別所得税)となります。

一方、もしも代表など法人以外が買い取る場合にはこうしたみなし配当課税が生じません。
この場合は、株式譲渡所得に該当し、その所得が多いか少ないかに関わらず所得税は15%(住民税5%と復興特別所得税合わせて20.15%)の税率となります。

いかに経営者とはいえ法人に比べて資金力は劣ることが通常であり、買取の負担は大きいです。
しかし負担を考慮しても有意なディスカウントが期待できるのであれば、買取当事者を自身など発行法人以外に設定して、それによって少数株主に生じた税務上のメリット相当額を買取価格からディスカウントする方向で調整することは検討の価値があります。

その他
後継者や知人・友人などが株式を取得した経緯からすれば無償で返還することが道義的であるという感覚をもとに、今後の関係性を良好円満なものとするために必要なことなどを理由として交渉することも時に効果的です。
特に後継者については家族の論理が通用するのであれば検討の価値があります。

そもそもどうすれば問題を回避できたか

以上の通り、株式を取り返すには何らかの出費を余儀なくされることがあります。
たとえ無償の贈与であってもです。

このため、万一の事態が生じて取り返さなければならなくなった場合への備えが重要です

例えば贈与時の契約の内容に解除権が発生する場合があることを含めること、種類株式の形で発行すること、株主間契約を交わすことなどが選択肢となります。
また、別のQ&Aで解説しますが、贈与を信託譲渡の方法で行う、ファミリーガバナンスの文脈でファミリー契約を交わす、ファミリーオフィスを設立してその運用として(ファミリーオフィスの株式を)贈与するなども選択肢となります。
また、事業会社そのものの株式を渡すと少数株主対応を含むガバナンス問題が経営に直接影響してしまうので、ホールディングス会社(持株会社)を設けてそこの株式を渡すということも万一の際には防衛ラインとして機能すると思われます(別のQ&Aで解説します)。

 
 


 
 

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