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あなたやあなたの配偶者が、外資系企業(欧米の金融機関、コンサルティング会社、GAFAMをはじめとするクロスボーダーIT企業など)の役員や従業員の場合、離婚にあたっては通常の家庭とは異なる問題が起こるかもしれません。
それは主には以下の8つの理由からです。
① 国内企業に勤めている方よりも収入が多い場合がある
② 転職を繰り返す場合がある。転職の際にはサイニングボーナスを得ている場合がある
③ 収入には株式報酬(主にはRS(リストリクテッド・ストック)やRSU(リストリクテッド・ストック・ユニット))が含まれる場合がある
④ グローバル人材に育てるため、留学やボーディングスクールに通わせるなど教育費には高額な支出をしている場合がある
⑤ 外国からの収入や国外資産があるときには租税効果の計算が複雑な場合がある
⑥ 国外資産が日本には存在しない性質のものである場合がある
⑦ 為替の影響を受ける場合がある
⑧ 外国籍を保有している場合がある、二重国籍である場合がある
このコラムでは、そうした外資系企業に勤務する世帯の離婚トラブルに共通する問題点をいくつかご紹介します。
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外資系企業にお勤めの世帯は、国内のみならず国外にも不動産、預貯金、株式等の有価証券をお持ちの場合があります。
これらには、アメリカ特有の制度であるジョイント口座(joint account)やジョイントテナンシー(joint tenancy)といったように、名義そのものが夫婦共有の扱いとなっている財産や、夫婦以外の親族と共有となっている財産が含まれます。このことから、財産分与の対象性に問題が生じる場合もあります。
また、外国通貨をお持ちの場合や、国外資産を現地通貨により評価する場合に問題となるのが為替相場です。
財産分与の対象財産の基準時は原則として別居時ですが、評価時は離婚時(現実的には離婚時に直近の双方が合意した時点)とされています。
近時の急速な円安に見られるような為替相場の変動が発生すると、実際の分与額に大きな影響を及ぼすことがあります。
外資系企業勤めの従業員・役員に対しては、現金で支払われる給与のほか、株式報酬が支払われるケースも多くあります。
特に欧州や米国企業ではよく見られます。
株式報酬とは、役員や従業員のインセンティブ報酬の一種として株式等を活用するものです。
新株予約権として付与するものをはじめ、一定の譲渡制限を付した株式や、その株式に変わる単位(ユニットやポイント)を付与するものとが含まれます。
ストック・オプション(SO)、事前交付型リストリクテッド・ストック(RS)、事後交付型リストリクテッド・ストック(RSU)、中長期の業績連動型のパフォーマンス・シェア(PS)などと呼ばれるものがその代表例です。
株式報酬は米国発の制度とされ、その後、欧州や日本も含め世界各地に広がりました。
欧米等の外資系企業では、役員のみならず広く従業員まで株式報酬付与の対象とされることがあります。
この場合、婚姻費用算定の際の収入額としてどのような金額を計上すべきか、財産分与の対象となるか、対象となるとしてどのような方法での分与となるか、財産分与に伴い発生する税金の取り扱い等については事例に応じて様々です。
株式報酬の金額は大きくなることが多く、離婚問題を解決するにあたっては重大論点となります。
▼株式報酬の財産分与について詳しくは、こちらのコラムをご確認ください。
コラム:ストックオプション・株式報酬の財産分与
当事務所は、様々な株式報酬の設計・課題解決を手掛けてまいりました。これらの知見は、夫婦間の財産の清算の場面である財産分与手続においても効果を発揮しています。
世帯の資産が多い場合、夫婦で財産を半々に分け合う「2分の1ルール」も、単純に適用されることはありません。資産の範囲、評価の方法、分与の方法等に複雑な論点が存在します。
外資系企業勤めの世帯においては一定の金額の蓄財があるケースが多いです。
その資産の内訳としても、前記の株式報酬や、外国通貨、暗号資産、デリバティブ、国内外の不動産など、多数の種類に及ぶことがあります。
▼資産が多い世帯における財産分与については、こちらで詳しく解説していますので、ご参照ください。
コラム:資産の多い夫婦が離婚する場合の財産分与
通常、婚姻費用や養育費の算定にあたって収入額を認定する際には、源泉徴収票を用います。
そこに記載される収入額に賞与の額が含まれていますので、通常、賞与の額は、婚姻費用・養育費の算定の基礎となる収入額に反映されています。
ところが、外資系企業の場合、業績に連動するインセンティブ・ボーナス(incentive bonus)や、入社時に支払われる一時金としてのサイニング・ボーナス(signing bonus)、サインオン・ボーナス(sign-on bonus)などの名目で、定期的に支払われる給与とは別途のボーナスが支払われることがあります。
原則としては、このようなボーナスも婚姻費用や養育費算定の基礎となる収入に全額算入されるべきでしょう。
しかし、ボーナスの支払額が定期的に支払われる給与に比べて著しく大きく、また恒常的には支払われておらずごく一時期にのみ支払われたものであるなどといった特段の事情がある場合には、(全額ではなく)過去数年分の平均額を取るなどしてこれを修正することが妥当な事案もあるものと考えられます。
国際的に活躍される外資系企業勤めの世帯の方は、お子さんに国際的な素養を身につけてもらうため、海外留学や、ボーディングスクール(寄宿舎学校)、インターナショナルスクールなどの国際的な教育機関に通わせるケースも相当数あるものと承知しています。
また、そうでないとしても、受験準備のための塾や予備校、お子さんの心身の健康と素養を高め将来の可能性を広げるための各種習い事に通わせる家庭も多くあるようです。
こうした広い意味での教育費は、通常、標準算定方式に基づき算定される婚姻費用・養育費の金額中に既に包含されています。
しかし、留学費用(渡航費用や現地での生活費)、塾代、習い事代などは、標準算定方式により勘案された公立学校における教育費の金額を遥かに超えることから、一定の場合、特別費用として、婚姻費用・養育費とは別途の支払いを要すると考えられています。
具体的には、父母双方の同意により実施された教育である場合や、明確な同意に欠ける場合でも黙示的に同意している場合に、特別費用として認められるものとされています。さらにそのような同意が認められないケースにおいても、世帯収入・資産の額や父母の最終学歴、職業等の社会的地位等の事情を鑑みてそれに相応しい教育であれば認められるべきであるといった議論もあります。
▼超高額な教育費・留学費の問題については、こちらで詳しく解説していますので、ご参照ください。
コラム:ボーディングスクールなど高額な養育費(教育費)の取り決め【合意書雛形あり】
夫婦が別居後は、配偶者や子どもの生活維持のための婚姻費用分担義務を負います。また、離婚後は、一方の親(非監護親)は、他方の子どもを養育している親(監護親)に対して、養育費の支払義務を負います。
一般の家庭では、裁判所が公開している標準算定方式に基づく算定表に当てはめることで簡易迅速に算定可能です。
しかし、算定表で計算できるのは年間の給与年収で2000万円までの世帯です。外資系企業勤務の世帯の場合、この上限を上回ることも多く、こうした高収入の世帯にそのまま使用することはできません。
裁判例や学説上、高額所得者の場合の婚姻費用の算定方法として、大きく分けて、次の3通りの方法が提唱されています。
これら3つの方法のうちいずれが採用されるかは、双方の公的書類上の収入額をはじめ、保有資産の状況、これまでの生活状況等、さまざまな事情を総合考慮して決定されます。
(1) 算定表の上限額とみなす方法
算定表の上限額をもって婚姻費用の額とする方法です。
この方法は極めてシンプルかつ明快です。例えば、夫が外資系企業勤めの高額所得者、妻が専業主婦で別居して幼い子1名を養育、という案件であれば、その婚姻費用は、算定表の上限額に従い常に月額40万円です。
この方法は、婚姻費用の算定方法としては、収入額が算定表の上限額(上述のとおり給与収入であれば2000万円)をわずかに上回るような事案であれば妥当性を有するものの、これを大きく上回る収入の場合には妥当性に欠けると考えられています。その反面、養育費の算定にあたっては、収入額が上限額を大きく上回っていても、実務上は原則的にこの方法が妥当すると考えられています。
(2) 標準算定方式を応用する方法
総収入のうち公租公課、職業費及び特別経費を除く割合であるところの基礎収入割合が一般に所得が増えるほど低下していく関係にあることに着目して、標準算定方式を修正・応用する方法です。
算定表上限の収入額からの乖離に応じ、標準算定方式における「基礎収入割合」を低下させる方法や、基礎収入から控除する公租公課、職業費及び特別経費の額や割合を修正したり貯蓄率を控除したりする方法などが唱えられています。
標準算定方式を応用する方法なので、比較的簡易迅速に計算可能な点にメリットがあります。反面、控除すべき実額の主張立証に困難があるほか、算定表の上限額を遥かに超える収入(目安として1億円)がある世帯への適用は難しいと言われています。
(3) 標準算定方式から離れて裁量的に算定する方法
同居中の家計の状況、別居後の現在の生活費支出状況から、必要分を加え、浪費部分を除くなどして、裁判所が裁量的に相当な婚姻費用を算定する方法です。
収入額が1億円を超えていたり、通常の家庭と異なる態様で生活費分担が行われてきた高所得世帯など、標準算定方式の応用が難しい案件に採用されます。
夫婦あるいは配偶者が外国籍や二重国籍である方の場合、別途の問題が生じます。
一つは、日本の法律で処理されるか(これを準拠法の問題と言います)。
もう一つは、日本の裁判所で判断されるか(これを国際裁判管轄の問題と言います)。
夫婦間の権利関係はその国や地域の文化・価値観を反映しており、
どこの国の準拠法、裁判所で扱われるかは極めて大きな差異を生じさせる場合があります。
例えば、
・ 有責配偶者であっても離婚請求できる
・ 離婚後であっても配偶者の生活を保障しなければならない
といったルールを米国のカリフォルニア州などは定めています。
特に後者の離婚後の生活保障は、アリモニー(Alimony)あるいは配偶者扶養と呼ばれるものですが、
支払い総額は莫大なものとなる可能性があります。
このように外国籍・二重国籍の方の場合には、準拠法や国際裁判管轄の違いをよく考えて行動しなければいけません。
外資系企業勤めの世帯を含む高所得世帯においては、所得税をはじめとする重い税金の負担があります。
婚姻費用・養育費との関係では、通常、標準算定方式に基づき算定される婚姻費用・養育費の金額中に既に包含されています。しかし、上述した高額所得者の算定方法においては、公租公課の実額が検討対象ですので、高額所得を得ている配偶者にいかなる税金がいくらかかっているかは重要な問題となり得ます。
財産分与との関係では、財産分与の基準時(多くは別居時)に負担し未払いである公租公課については適切に控除しなければ、公平を欠く場合があると考えられます。
また、不動産や有価証券(上述した株式報酬をはじめ、それ以外の株式、投資信託を含みます。)などについては、これらを売却して財産分与する場合はもちろん、これらを現物で分与する場合であっても、財産分与時点までに値上がりした利鞘が譲渡益として認識され、譲渡所得税の支払い義務が発生することにも注意が必要です。
▼参考
国税庁ホームページ「No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき」
岩崎総合法律事務所が提供しているLegal Prime®では、外資系企業の役員、お勤めの方の離婚についてサポートを行なっておりますので、お悩みの方はお気軽にお問い合わせください。
また、特設サイト「富裕層世帯の離婚」もございますので、ぜひご覧ください。