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離婚する際に見落としがちなのが税金です。
今回のコラムでは、離婚と税金(課税)を巡る問題を取り上げます。
離婚する際に経済面で主に問題となるのは財産分与、養育費、慰謝料です。
つい支払額や財産の評価額ばかりに意識が向いてしまいますが、税金に意識を向けていないと、思わぬところで課税が発生し、手残りの金額が想定外に小さくなる可能性があります。
このことが原因で、せっかく離婚が成立したにも関わらず、再度紛争化する可能性があります。
また、金銭で支払われる場合と金銭以外(有価証券(株式、新株予約権、社債など)、ファンド持分、その他集団投資スキーム持分、暗号資産(仮想通貨)、信託財産、不動産、受益権、動産(自動車、絵画、宝飾品、貴金属など)、航空機、ゴルフ会員権など)で支払われる場合とで、税金の発生の有無や種類、金額が異なる場合がありますので注意が必要です。
そこで今回は、財産分与、養育費、慰謝料に関して注意すべき税金の問題について、弁護士の立場からQ&A形式で解説いたします。
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金銭による支払いの場合、財産分与、養育費、慰謝料、いずれについても原則として税金は発生しません。
参考:国税庁タックスアンサー
・財産分与:「No.4414 離婚して財産をもらったとき」
・養育費:「No.4405 贈与税がかからない場合」
・慰謝料:「No.1700 加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき」
ただしこれには例外があり、一定の場合には税金が発生する可能性があります。
また、金銭以外(不動産など)による支払いの場合についても、一定の場合には税金が発生することになります。
そのため、Q3以下でご説明する内容を踏まえて慎重に検討しなければいけません。
次のいずれかに当てはまる場合には贈与税が発生します。(相続税基本通達9-8)。
①分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
→その多過ぎる部分に贈与税が発生します。
②離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
→離婚によってもらった財産すべてに贈与税が発生します。
また、よくある誤解として、離婚前に財産分与の名目で財産を移転させているケースがありますが、財産分与は離婚の成立を前提に行うものですので、当該財産移転についても贈与税が発生する可能性があります。
そのため、このような財産の移転を行っている場合には、離婚する際に改めて取り決めをするなど、課税リスクを抑えたり、節税方法の検討を行うといった対応が必要となります。
養育費の額が生活費や教育費として「通常必要と認められる」範囲を超える場合には、贈与税が発生する可能性があります(相続税法21条の3第1項2号)。
ここでいう「生活費」とは、通常の日常生活に必要な費用(治療費、養育費その他子育てに関する費用など)をいい、「教育費」とは、学費や教材費、文具費をいいます。
そのため、養育費の名目で受領したものを使わずに預金に回したり、不動産や株式などの買入資金に充てたりした場合には、贈与税が発生する可能性があります
(参考:前掲 国税庁タックスアンサー 「No.4405 贈与税がかからない場合」)。
また、養育費を一括で受領した場合にも、「通常必要と認められる」範囲を超えるものとして贈与税の問題が発生する可能性がありますので、金額や受取・管理の方法にも注意が必要です。
次のいずれかに当てはまる場合には贈与税が発生する可能性があります。
・社会通念上相当な範囲を超える金額であると判断された場合
(参考:前掲 国税庁タックスアンサー「No.1700 加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき」)
・課税逃れを目的になされた支払いであると判断された場合(財産分与や養育費の名目では課税されることを予見して、これを免れるために慰謝料の名目で支払われたものである)と判断された場合
金銭以外(不動産、株式など)による支払いについては、わたす側に譲渡所得税が発生する可能性があります(所得税法基本通達33-1の4、参考:国税庁タックスアンサー「No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき」)。
参考:最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁
上記の取り扱いについて、最高裁は、(財産分与に関する事件においてですが、)
「分与義務の消滅自体が一つの経済的利益ということができ、したがって、分与者は、財産分与により、分与義務の消滅という経済的利益を享受したといえるのであるから、財産分与が譲渡所得を生ずるものとして課税の対象としたことは正当である」と判示しています
わたす側の立場として、譲渡所得税に関して検討すべき事項については、Q4でご説明します。
金銭以外(不動産、株式など)による支払いについては、もらう側にも税金が発生する可能性があります。
以下、よく問題となる不動産に関して発生する可能性のある税金です。
・不動産取得税
・登録免許税
・固定資産税、都市計画税
・譲渡所得税
こちらの詳細についてはQ5でご説明します。
譲渡所得税に関して、税負担の見通しを立てた上で、必要に応じて節税方法等を検討することになります。
よく問題となる財産として不動産が挙げられますので、今回は不動産についてご説明します。
不動産の譲渡所得税は、所有期間に応じて適用される税率が異なります(参考:国税庁タックスアンサー「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」)。
そのため、まずはこの税率を確認した上で、税負担を軽減する特例について適用を受けられないかどうか検討することになります。
発生する税金と税率は以下のとおりです。
・所得税:譲渡所得金額×15%
・住民税:譲渡所得金額×5%
・復興特別所得税:所得税額×2.1%
※復興特別所得税:2037年までは、所得税額に2.1%を乗じた金額について、所得税と併せて申告・納付する必要があります(以下同じです。)。
ただし、居住用不動産について、一定の要件をみたす場合には、当該譲渡による譲渡所得から最高3000万円を控除することが可能です。「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といわれるものです。
また、譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超える居住用の不動産を譲渡した場合には、当該譲渡による譲渡所得のうち6000万円以下の部分に対し、以下の軽減税率が適用される可能性があります。
・所得税:譲渡所得金額×10%
・住民税:譲渡所得金額×4%
・復興特別所得税:所得税額×2.1%
上記の2つの特例は重ねて受けることが可能です。
参考
租税特別措置法31条、復興財源確保法13条
国税庁タックスアンサー「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」
国税庁タックスアンサー「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
国税庁タックスアンサー「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
発生する税金と税率は以下のとおりです。
・所得税:譲渡所得金額×30%
・住民税:譲渡所得金額×9%
・復興特別所得税:所得税額×2.1%
長期譲渡所得の箇所でご紹介した「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」は、所有期間に関わらず一定の要件をみたす場合には適用を受けられます。
参考
租税特別措置法32条、復興財源確保法13条
国税庁タックスアンサー「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
Q4と同様、不動産についてご説明します。
不動産の譲渡を受ける場合、もらう側に発生する可能性のある税金は以下のとおりです。
・不動産取得税
・登録免許税
・固定資産税、都市計画税
・譲渡所得税
以下それぞれの税金について簡単にご説明します。
原則として不動産取得税(地方税法73条の2)が発生します。
税額は以下の計算で求めます(地方税法73条の13、同15)。
【土地、建物(住宅)の場合】
取得した時における不動産の価格(固定資産税評価額)×3%
※2027年3月31日までの間、税率が4%から3%に軽減されています。
※宅地については、取得した時における不動産の価格の1/2の額をもって計算をすることができる場合があります。この制度も2027年3月31日までの間に限り有効とされています(地方税法73条の21、地方税法附則11条の5第1項) 。
【建物(住宅以外)の場合】
取得した時における不動産の価格(固定資産税評価額)×4%
ただし、土地、建物、いずれについても、清算的財産分与(※)による譲渡の場合、不動産取得税は発生しないものと考えられています(東京地判昭和45年9月22日行政事件裁判例集21巻9号1143頁)。
参考:東京地判昭和45年9月22日行政事件裁判例集21巻9号1143頁
「不動産の取得が婚姻中の財産関係を清算する趣旨の財産分与による場合には、それが夫婦いずれに属するか明らかでないため夫婦の共有に属するものと推定される財産(民法七六二条二項)についてなされたものである限り、形式的に財産権の移転が行なわれることはあつても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによつて実質的に財産権の移転が生じるものではないと解するのが相当であるから、地方税法七三条の二、一項所定の課税原因には該らないというべきである。これに対し、不動産の取得が離婚に対する慰藉または将来の扶養を目的とする財産分与による場合には、これによつて実質的にその不動産所有権の移転が生じるものと解するのが相当である」
※財産分与は一般的に以下の3つに分類されます。扶養的財産分与や慰謝料的財産分与に相当するものと判断された場合には、不動産取得税が課せられる可能性があります。
・清算的財産分与 夫婦で協力して形成した財産を清算する目的で支払われるもの
・扶養的財産分与 専業主婦など、離婚後の生活維持が困難な場合に支払われるもの
・慰謝料的財産分与 離婚原因を作った方(有責配偶者)が支払う慰謝料の性質をもつもの
※清算的財産分与の名目であっても、その実態(清算の範囲を超える過大な給付であるといった事情)を踏まえて不動産取得税や前記の贈与税が課せられる可能性がありますので注意が必要です。
不動産の所有権移転登記を行う際に登録免許税が発生します。
税額は、不動産の価額×1000分の20で求めます。
※不動産の価額は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、原則その価格となります。固定資産課税台帳に登録された価格がない場合は、登記官が認定した価額となります。
(登録免許税法別表1一(二)ハ、参考:国税庁タックスアンサー「No.7191 登録免許税の税額表」)
不動産については毎年、固定資産税と都市計画税が発生します。
税額は以下の計算で求めます(参考:東京都HP)
※軽減制度などについては各自治体への確認が必要です。
【土地の場合】
固定資産税:課税標準額×税率1.4%
都市計画税:課税標準額×税率0.3%
【家屋の場合】
固定資産税:課税台帳に登録されている価格×税率1.4%
都市計画税:課税台帳に登録されている価格×税率0.3%
原則としてその年の1月1日現在における固定資産税の所有者に課税されますので、
年の途中で不動産の譲渡を行う場合(ほとんどがこの場合です)には、固定資産税・都市計画税の精算を行う場合があります。
譲渡を受けた不動産について、さらに第三者に譲渡する場合には、その間の価値上昇分について譲渡所得税が発生します(所得税基本通達33-1の4)。
民法上の錯誤(民法95条)を主張することにより、改めて財産分与の取り決めを行うよう求められる可能性があります。
ただし、一般的に錯誤の主張が認められるためのハードルは高いといわれています。
これは、錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であるか否かや、重過失の有無などを踏まえて判断されるものであり、
勘違いしていたような場合に常に錯誤の主張が認められるわけではないからです。
そのため、錯誤の主張を検討する場合には、具体的な事情や客観的な資料などを踏まえて慎重に検討する必要があります。
※2017年民法改正により、錯誤の効果が「無効」から「取消し」に変更となりました。
「無効」の主張には期間の制限はありませんが、「取消し」については、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年で時効が成立し、取消しできなくなります。
そのため、錯誤の主張を検討する場合は時効期間に注意が必要です。
以下、錯誤の主張が認められたケース(最判平成元年9月14日集民157号555頁)をご紹介します。
【事案の概要】
・協議離婚が成立
・財産分与として、夫から妻に対して不動産を譲渡
・譲渡後、2億円を超える譲渡所得税の発生が発覚
・夫が財産分与について錯誤無効を主張し、譲渡した不動産について所有権移転登記の抹消登記手続を求めた。【主な争点】
動機(譲渡所得税が課税されないことを前提に不動産を譲渡するつもりであること)が表示されていたか。【経過】
・第一審、第二審では夫の主張は認められず。
・最高裁は以下のとおり判示し、原判決を破棄した上で、事件を原審に差し戻した。
「離婚に伴う財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。したがって、前示事実関係からすると、本件財産分与契約の際、少なくとも上告人において右の点を誤解していたものというほかはないが、上告人は、その際、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、被上告人も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。
そうとすれば、上告人(夫)において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。
そして、前示のとおり、本件財産分与契約の目的物は上告人らが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、上告人とすれば、前示の錯誤がなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。上告人に課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も、上告人に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。
以上によれば、右の点について認定判断することなく、上告人の錯誤の主張が失当であるとして本訴請求を棄却すべきものとした原判決は、民法九五条の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯すものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、要素の錯誤の成否、上告人の重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。」
・差戻控訴審は夫の主張を認め、妻に対し、譲渡された不動産について所有権移転登記の抹消登記手続をするよう命じた。
以上、今回のコラムでは、離婚と税金(課税)を巡る問題について解説してきました。
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