離婚は感情的にも経済的にも負担が大きい決断です。
特に富裕層離婚の場合は、特殊な財産、財産の帰属主体、国際的な要素、事業運営など複雑な事情が絡むことが多く、離婚にあたっては計画的な準備が重要です。
このコラムでは、離婚を決める前に準備すべきことや離婚にあたっての手続きの流れについて、富裕層世帯の事情も踏まえながら詳しく解説します。
岩崎総合法律事務所では、資産家、経営者、投資家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime®を提供する中で、財産分与案件のノウハウ、経験が蓄積されてまいりました。
同サービスでは、資産家の方が離婚する場合にその世帯で生じる財産分与、生活費等に関する紛争の問題、ファミリーガバナンスに生じる問題について、お客様にとって最善の解決となるようにサポートしています。
離婚問題や財産分与問題でお悩みの方をはじめ、現在は離婚問題が顕在化していないものの将来の離婚対策等についてご関心をお持ちの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
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ア 離婚事由の内容
イ 離婚事由に関する証拠収集の重要性
ア 財産資料の収集
イ 財産隠しの問題
ウ 特有財産の整理
エ 会社経営者の場合の注意点
ア 別居期間も踏まえた生活のための資金の検討
イ 必要資金のシミュレーション
ウ 配偶者への請求
一度婚姻した以上は、配偶者の同意や民法で規定されている離婚事由がない限り、離婚することはできません。
離婚にあたっての見通しや必要な期間を検討するにあたっては、まずは、夫婦間の離婚事由の有無を検討することが必要不可欠です。
不貞行為
不貞行為(不倫)の存在は離婚事由として最も強力な事由の一つです。不貞行為には、配偶者が他者と性的関係を持つことのほか、配偶者以外の第三者と性的な関係を持っていることを疑わせる状況にあることを理由に離婚を認めたケースもあります。
暴行(DV)、強度の精神的虐待(モラハラ)
暴行(DV)や配偶者に精神的苦痛を与える行為も離婚事由に該当します。富裕層の方の家庭では、夫婦間での収入格差を巡って夫婦間で軋轢が生じるケースも見られます。また、もっぱら家事に従事する配偶者に対して生活費の支給を止めるなど経済的自由を制限する経済的DVもしばしば問題となります。
相当期間の別居
このほか、相当期間の別居が存在する場合にも離婚が認められます。現時点で明確な離婚事由が存在しない場合には、離婚を見据えて相当期間の別居を行い、夫婦関係が破綻していることを明確にする方法も考えられます。なお、それに必要な期間は家族構成、関係性にもよりますが少なくとも3〜5年は要するでしょう。
離婚を決意したとしても、離婚事由の存在を示す客観的証拠がない場合、裁判上で離婚が認められる可能性は低いです。離婚を進める上で最も重要なのは客観的証拠の存在といっても過言ではありません。例えば、不貞行為(不倫)の存在を立証するためには、以下の証拠が有効な証拠となります。
財産分与では夫婦間で多額の財産の移動が発生します。適切な財産分与を実現するためには、配偶者の財産を正確に把握することが重要です。
離婚に向けて別居を検討している場合には、別居前の同居期間中に配偶者の財産資料の収集を行うことが必要になります(別居後に相手方宅で収集することには問題が生じやすいです)。
相手方が自己の保有する財産を開示しないケースも見られます。
特に、富裕層世帯の場合には、通常の家庭には見られない特殊な財産や、特殊な保管方法が含まれます。一例として、暗号資産、美術品・コレクション、海外資産、資産管理法人といったようなものが考えられます。このような財産に関する資料についても見落とさずに収集するよう注意しましょう。
富裕層世帯の離婚にあたっては、離婚に伴う財産分与に向けた準備段階でも、配偶者がどのような財産を保有しているのかを正確に把握するために富裕層世帯の事情に精通した専門家のサポートが重要です。
財産分与の際、結婚前から保有している財産や相続により取得した財産などは原則として財産分与の対象となりません(このような財産を特有財産といいます)。
特有財産と認めてほしい側としては、協議離婚に向けた交渉や、自身の特有財産を適切に保全するために、特有財産と認定してもらうための客観的資料を収集しておくこと、そのような客観的資料が不足する場合には事情を知る者に協力してもらい陳述書を作成してもらうなどといった手当を行っておくことが必要になることがあります。これは、特有財産性については、特有財産であると認めてほしい側が立証する責任があるためです。
特に富裕層の方の場合には、収入も支出も大きく、それらの出入りが婚姻前のものと婚姻後のものとで激しく混同していることもあり、特有財産と共有財産が混在してしまっている傾向にあるように思います。そのため富裕層離婚の場合は、離婚問題が生じるよりずっと前から特有財産性を認定してもらうための手当てを行っておくことが重要となるケースがよく見られます。
他方、特有財産ではなく共有財産であると考える側としては、相手方が特有財産だと主張してきた場合に備えて、共有財産性を裏付ける資料等を準備しておくべきでしょう。
会社経営者が財産分与を行うにあたっては、会社に生じる影響に注意を払う必要があります。
裁判の結果、財産分与として自社株式自体を分与しなければならないケースも想定されます。このような事態となった場合、第三者が自社株式を取得し会社の経営に参画し、従来どおりの会社経営を行えなくなるといったことになりかねません。
他方で、これまで会社経営に携わってこなかった配偶者が自社株を分与された場合、自身が参画することで会社の業績が悪化等すれば、かえって不利益な事態に陥る可能性もあります。
後悔しない離婚、財産分与を実現するためには、このような事態が生じることを予め想定した上で、財産分与方法を含め、協議離婚に向けた交渉を積極的に進めるのか、裁判離婚で決着を付けるのかの方針を決めておくことも重要です。
離婚後、安定した生活基盤を築くためには、離婚後に必要となる資金をシミュレーションしておくことが重要です。
また、離婚を決意したとしても、裁判で離婚が認められるために相当の期間を要することもあります。そのため、離婚に向けては、離婚後の生活のみならず、離婚までにかかる期間も考慮して、自身の今後の生活をシミュレーションしておくことが必要になります。
離婚問題が始まった後の自分の生活の収支をシミュレーションすることも重要です。
いくらかかるのかは家計簿などをもとに確認していくことになりますが、ときには、離婚問題が始まったことをきっかけにして配偶者が負担していた支払いを止められることもあります。
このため、自分自身が管理していた支払いベースではなく、自分(と子ども)の生活に必要となる費用がいくらかを確認して備えておくほうが安全です。
検討にあたっては、自分の生活の拠点をどこにおくか(現在の住居を維持するか、新たに住居を購入または賃貸するか)も重要な考慮要素です。
配偶者に請求できるものもあります。
別居期間中には婚姻費用、離婚後で夫婦間に子どもがいる場合には養育費が発生します。扶養料(扶養的財産分与)を配偶者から受け取れるケースもあるでしょう。法的なラインとして、別居後や離婚後に自分がどれだけの生活費を受け取れるのか、また、ご自身としてどれだけの生活費が必要と考えているかを明確にしておきましょう。
ただし、最終的に権利が認められるまで、配偶者が十分な対応をするかはときに保証がありません。婚姻費用収入を見込むにしても、1年〜1年半程度は婚姻費用収入を当てにせず過ごすことができる資金が調達できるか検討しておくと安全です。
なお、婚姻費用について、富裕層といった高額な収入を得ている世帯の場合、通常の算定方法(裁判所の婚姻費用算定表を用いた算定方法)ではなく、別居前後、現在の生活状況を踏まえて、婚姻費用を算出することとなります。このような高額所得者世帯の婚姻費用の算出方法については、こちらのコラムで詳細に解説していますので併せてご参照ください。
離婚に向けては、まずは上記のような離婚事由の検討、資料の収集、将来設計を行います。財産分与、生活費(養育費、婚姻費用、扶養的財産分与)について、自分が法的にどのような権利を有するのかを把握しておくことは、協議離婚に向けた交渉などにあたって重要となります。
そこで、準備を進めるにあたっては以下のような振り分けで専門家チームを編成し、今後の交渉、裁判所の手続きに備えることも有益です。
裁判所を介さず、当事者間(代理人間)の直接話し合いで合意が成立すれば、最もスムーズに離婚が成立します。
協議離婚に向けた交渉の期間はケースによって様々ですが、概ね1、2ヶ月程度で、ある程度離婚に向けての方針(協議離婚成立か裁判所を介した離婚に進むかを含む)が決まるケースが多いです。
協議離婚の交渉に向けてのポイントは、離婚に関する見通し、自分の希望を明確にした上で、法的に求められる最大限の利益を求めるだけでなく、双方の妥協点を見つけることが重要です。
紛争が長期化し、当事者間の対立が期間の経過につれて熾烈となる前にこのような柔軟な解決を行うことができる点が当事者間での交渉による解決の最大のメリットです。
早期穏便な解決のためにはまずは当事者同士での解決が模索されるでしょう。
その時重要であることは双方にとっての納得感です。
ときに離婚を希望する側は自分で整理した条件を、「これでどうか」と言って提案しがちですが、その方法は効果的でない場合もあります。
それは人間心理的にカウンターパートから提案された条件を良いものとして素直に受け止めにくいからです。このため、提案を受けた配偶者はその提案条件は最低ラインとしてもっともっとと交渉しがちになります。最終的に受け入れることのできない程度まで要求水準を上げられてしまうことも珍しくありません。
それでは他にどのような方法があるかというと、それは配偶者が希望する条件を配偶者に確認してもらうという方法です。コーチングの技術を活用した方法です。しかしここでも注意しなければならないのが、ただ希望条件を確認するだけでは受け入れることのできない条件を要求されてしまうかもしれません。
そこで重要となるのが双方共通の「物差し」を持ちながらこの確認を進めることです。その「物差し」として重要なものは法律、裁判になった場合の見通しですが、それだけでなく、家族の成り立ち、資産や収支に対する夫婦のそれまでのやり取りも含まれるでしょう。
こうした物差しを夫婦双方のやり取りで維持することが難しい場合は、物差しが何かだけでも弁護士や第三者などに確認できるようにし、いわば彼らをメディエーターのようにして協議を進めることも効果的である場合もありうるでしょう。実際、このようにして早期穏便に離婚問題を解決し、離婚後も円満な親子関係等を築かれている家庭も相当数おります。
協議離婚で離婚が成立すれば特に解決までに長期間を要することはない場合が多いですが、調停離婚や裁判離婚の場合には、離婚を含め最終的な解決までに長期間を要することとなります。
家庭裁判所で調停を行う場合、平均6か月から1年を要します。調停が不成立となった場合、その後裁判に移行します。
裁判では、財産分与、親権、養育費、慰謝料などが法的に審理されます。最終的な解決にあたっては2年前後の期間を要するケースが一般的です。
別居期間中の婚姻費用に関する婚姻費用調停から始まる場合も多く、そのようなケースでは離婚自体の解決までには3年、4年の期間を要することもあります。
離婚は感情的な問題だけでなく、経済的・法的にも慎重な対応が求められます。特に富裕層の場合、財産や事業、子どもの将来を守るために専門家の協力を得て、計画的に進めることが大切です。焦らず、冷静に進めることで、人生の新たな一歩を確かなものにしましょう。
離婚についてお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですのでお早めに当事務所までご相談ください。
※ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。