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2025.12.12
後継者がいない?子に継がせない?——家族と会社を守るための事業承継戦略

いま、後継者不在や「子どもに会社を継がせたくない」と考える経営者が増えています。

現代の事業承継では、親族外承継やM&Aといった“継がせない”選択肢も一般化しています。

本コラムでは、後継者不在の悩みを持つ経営者に向けて、現代的な事業承継の考え方と法的手段を解説します。

以下のような悩みをお持ちの方にとっては、参考にしていただけるものと思います。

•子どもに経営意欲や適性がない
•後継者不在で、M&Aを検討している
•M&Aによって大金を得ることに、家族へ悪影響とならないか不安がある
•創業家の理念を形として残したい、存在感を失いたくない

子どもに継がせたくないと考え悩む経営者

さまざまな事情から子どもには継がせたくないが、では実際にどうすればよいのかと悩む経営者は多い

 
 

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1 はじめに:継がせないことの意味

「子どもには会社を継がせたくないんです」

事業承継のご相談を受けるなかで、このような言葉を聞く機会が増えています。

かつては、事業承継といえば「血縁による承継」が前提でした。長男が家業を引き継ぐのが当然とされ、会社は家族と一体となって維持されてきた歴史があります。
 
しかし、時代は変わりました。

現代では、子どもたちがそれぞれのキャリアを築き、家業とは異なる分野で生きることも自然な選択となっています。企業経営も複雑化し、後継者に高い資質と専門性が求められる時代です。

実際に、中小企業庁の公表する統計によれば、親族以外への承継が過半数を大きく上回る状況が続いており(例えば、2024年時点で外部からの招聘7.5%、M&A他20.5%、内部からの昇格36.4%と、合計64.4%に達している。一方、同族承継は32.2%にとどまる。「親族内承継に関する現状分析と今後の検討の方向性について」中小企業庁、2025年6月11日)、「子に継がせない」という決断は、もはや例外的な手段ではありません。
 
「継がせない」という選択は、責任放棄ではなく、むしろ“新しい事業承継のかたち”だといえます。

事業承継は、単に、誰かに経営を任せることではありません。

経営権を誰に託し、所有をどう残すか。そして、会社と家族の双方をどう守るかという、極めて重要な意思決定のプロセスです。

第三者に経営や所有を委ねる場合でも、適切な設計と準備があれば、会社は継続し、家族の安心も確保できます。
ここでは、次の2つのパターンで、それぞれに必要となる実務的・法的観点を、順を追って整理していきます。

① 所有も経営も第三者に委ねる場合
② 所有はファミリーへ、経営は第三者に委ねる場合

事業承継イメージ

子どもに継がせないということは責任放棄ではなく、近年増加している新たな事業承継の形です

 

2 選択肢①:第三者承継(M&A)とその課題

まず、所有も経営も第三者に委ねる場合です。

会社を「売却する」と聞くと、どこか後ろめたさを感じるという方は少なくありません。

しかし、M&Aによる第三者承継は、経営者としての「責任の形」の一つでもあります。

M&Aは「事業を諦めること」でも「責任の放棄」でもありません。

むしろ、従業員の雇用の継続と、更なる成長に向けたバトンタッチとしての意味合いがあります。そして、このM&Aは、健康なうちに、事業が成長・安定しているうちに検討するべきです。

後継者が決められないまま亡くなってしまった会社や遺族が陥る混乱は時に大きなものとなることがあります。時には社会を賑わせ、度々報道されているところです(例えば、朝日出版社の事例大戸屋HDの事例一澤帆布の事例など)。

自分自身でハンドリングできるうちに、信頼できる第三者へ事業を託す判断と、それを確実に実行させ、定着させる試みは、従業員の雇用や顧客との関係、地域経済に対しても、むしろ積極的な貢献ともいえるものです。

もっとも、ここには、単なる経済的合理性だけでは割り切れない、いくつかの重要な論点があります

(1) 論点・懸念点

 

①「自分の代で終わらせてよいのか(創業家としての歴史を自分の代で幕引きしてよいのか)」という罪悪感

創業者や長年の経営者であればあるほど、「事業を手放してしまってよいのか」という思いが強くなりがちです。

特に、先代から受け継いだのであれば、終わらせてしまうことへの重圧は、売却の決断を難しくします。

たとえM&Aが合理的な選択肢であったとしても、こうしたことから決断しきれず、機会を逃してしまうこともあるでしょう。
 

②「従業員や取引先が困る事態とならないか」という不安

事業の売却は、単に株式の譲渡で終わる話ではありません。

オーナーが変わることで、企業文化や経営方針が変化する可能性があり、それが従業員の離職や取引先の信用不安につながることもあります。

こうした事態は、ときに企業の価値そのものを毀損しかねず、売却の目的である“事業の継続”が果たされないリスクを孕んでいます。

したがって、価格だけではなく、「誰に・どのように託すか」を慎重に見極め、会社を託す相手の理念や経営手腕、従業員・取引先との関係性維持への姿勢など、非財務的な要素も含めた評価が不可欠です。
 

③「売却によって得る現金が、家族の将来や関係性に悪影響を与えるのではないか」という不安

事業売却によって得られる資金は、多くの場合、将来の相続財産にもなります。

そのため、相続を前提とした“資産の期待”が家族内に生まれることで、かえって家族の関係性にひずみをもたらすことがあります。

たとえば、子どもが「いずれ自分の取り分になるもの」として親の資産を見てしまい、努力や自立の意欲を失ってしまう。あるいは、兄弟姉妹間で不公平感が先行し、親の存命中から争いが生じてしまう。

そうしたリスクは、見過ごせない現実です。

(2) 論点・懸念点への対策

これらの懸念は、あらかじめ対策することができます。

例えば、売却によって得た資金は、個人口座で保有するのではなく、信託ファミリーオフィスなどの仕組みを用いて「ファミリーのための共通資本」として独立管理することで、子や配偶者が資産を「将来の取り分」として捉えてしまうことを防げます。

この方法は、会社を、単なる現金に変えることではなく、意味を持った経済的集合体に止めることも意味します。

例えば、Yamauchi No.10 Family Office(任天堂創業家のファミリーオフィス)は、「意味・目的を持たない資産は、無機質な金銭へと形を変えてしまう」という考えのもと、ファミリーの資産を、社会の未来につながる新しい価値の創出に役立てる仕組みを整えています。

また、M&A契約そのものも極めて重要です。

売却価格や株式譲渡に関する基本条件に加え、表明保証条項やアーンアウト条項、売却後の従業員処遇に関する取り決めなど、売却後のご自身や従業員に大きく影響を与える重要な条項について、よく検討することが重要です。

M&Aのイメージ

M&Aは、事業を諦めることでも責任の放棄でもない、さらなる成長へのバトンタッチです

3 選択肢②:所有と経営を分ける

M&Aによる第三者承継とは異なり、「所有は家族に残しながら、経営は信頼できる他者に託す」という方法も、近年注目される承継のかたちです。

このアプローチは、子どもに経営能力や意欲がない場合でも、「資産としての会社の意義」や「家業、創業家としての存在感」を残したいという希望に応えるものです。

例えば、会社の運営は専門性の高い外部人材に任せつつ、重要な意思決定にファミリーが関与できる体制とすることで、経営の持続可能性と創業家としての関与の両立を図ることも可能になります。

これを検討するにあたっては、実務的・法的にいくつかの設計が求められます。

①株式信託やファミリーオフィスの活用

例えば、経営者が保有する株式を信託に組み入れ、信託契約に基づいて議決権の行使方針を定めることで、所有権を維持しつつ、経営には信頼できる受託者や第三者が関与する体制を構築できます。

ファミリーオフィスを用いても同様の方法を設計することができます。

また、株式を分散して承継させる場合には、遺族間で議決権の行使方法に関する合意を結ぶことで、遺族間の紛争防止にもつながります。

この合意は、議決権行使に係る契約のみであっても良いですが、より包括的にはファミリーガバナンス契約を含む、ファミリーガバナンスの仕組みが検討されるべきでしょう(これらの詳細はこちらのコラムをご覧ください)。

②代表者の成り手の確保(遺族が所有する会社であることのハードル)

「誰を代表者として据えるか」という課題もあります。

代表者候補者からすれば、創業者が健在の間は、信頼関係も維持しやすいものです。

しかし、遺族が会社を所有することになる場合、優秀な代表者候補を確保するのは、必ずしも容易ではありません。

なぜなら、代表取締役は株主に対して法的責任を負う立場にあるためです。

特に、遺族が、会社を「家族の資産」として捉え、その側面を強調するような行動をとる恐れがあるような時には、そのような会社で代表になろうとする者はいないでしょう。

例えば、「オーナー家がどこまで経営に口を出すのか」「短期的な配当を優先しないか」「第三者へ売却しようとしていないか」といった不安のあるような状況は、就任意欲を削ぐ大きな要因になります。

このような懸念を払拭するためには、経営の透明化とコーポレートガバナンスやコンプライアンス体制の整備が欠かせません。

ファミリービジネスとしての性格を前提に、私物化を防ぐ明確なガバナンス方針を打ち出すこと、そしてその方針を対外的に示すことが重要です。

たとえば、そのファミリービジネスならではのコーポレートガバナンス・コードを策定し、経営の監督体制、意思決定プロセス、利益相反の回避策などを明文化しておくことは、外部経営人材からの信頼を得る上でも効果的です。

また、創業家の関与の範囲をあらかじめ明確にしておくことも効果的です。

議決権の行使方針や配当方針、経営陣への関与の仕方を整理しておくことで、経営人材が安心して業務執行に専念できる環境を整えることができます。

創業家の想いを残しながらも、経営を預けられる透明な体制を築く——それが、所有と経営を分ける承継を成功させるための鍵だと思います。

創業者と事業承継により新たに代表となった方

創業家の想いを残しながらも経営を預けられる透明な体制を築くことで、所有と経営が分かれていても成功することができる

4 まとめ

「子どもに会社を継がせない」という決断は、かつてであれば“例外”や“後ろめたい選択”として扱われてきたかもしれません。

しかし今やそれは、時代の変化や経営環境の現実、そして家族の多様な生き方を踏まえた、現代的で責任ある選択肢のひとつです。

本コラムでは、「継がせない」承継について、次の二つのパターンを軸に考察してきました。

•所有も経営も第三者に委ねるM&A型承継
•所有は家族に残し、経営は第三者に託す分離型承継

 
いずれの方法も、単に「引退」や「放棄」を意味するものではありません。

それはむしろ、会社と家族の将来を守るために、経営者が主体的に設計すべき「出口戦略」です。

そして、「継がせない承継」を成功させる鍵は、「仕組み」にあります。

売却で得た現金が家族に悪影響を与えないよう信託等で資産を管理すること。

ガバナンス体制を整えて優秀な経営者を安心して迎えられるようにすること。

ファミリーガバナンスの仕組みを設け、所有と関与のあり方を明確にしておくこと。

これらの手立てを講じておくことで、「継がせない」選択であっても、理念と価値を次代に継いでいくことは十分に可能です

岩崎総合法律事務所では、こうした「継がせない」事業承継においても、
ファミリーガバナンス、M&A、信託などを横断的に捉えたLegal Prime®の視点から、一つひとつのご家族・企業に応じた承継設計の支援を行っています。

決断の背景にある事情は、ご家庭によって様々です。

正解は一つではありません。

自信を持った選択をしていただくために、私たちは法的・実務的な側面から尽力いたします。

「何から相談していいかわからない」「他にどんな事例があるのかも分からない」といった段階でも、どうぞご遠慮なくご相談ください。課題を共に見出し、形にしていくことも私たちの役割です。

長い時間軸で検討するべきことについても、その壁打ちから最後までずっと伴走します。
経営者と弁護士の握手

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