ファミリービジネスにおける創業家の存在感の低下。これに悩む経営者の方も少なくありません。
事業が拡大し、世代交代が進むにつれて、創業家と企業との関係性は大きく変わっていきます。
すべてをかけて一代で築き上げた情熱や哲学は、時として組織の中で埋もれていき、創業家の「存在感」は意図せず薄れていくことがあります。
しかし、その想いの希薄化が、企業の文化やガバナンスに与える影響は決して小さくありません。
そのとき、企業を創り上げた原点を守り、未来へつなぐために、創業家は何を守り、どこまで関与するべきなのでしょうか。
誰がその役割や重責を担い、創業者の想いをどのように継承していくのか——本コラムでは、こうした経営者のみなさんが直面する問いに向き合います。
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創業家は、会社のはじまりです。
ゼロから会社を作り上げた張本人であり、会社の原点そのものです。
経営を担うだけでなく、揺るぎないその在り方は、社員の行動や企業の評判にも影響を及ぼします。
しかし、世代交代を迎えていくと、創業家と会社との関係は、次第に変化し、創業家の影響力は低下していきます。
低下していく創業家の影響力をどう受け止めるのか。
創業家の存在感を時代にあったかたちで保つことができるのか。
あるいは、企業の求心力として復活させることができるのか。
昨今、ファミリービジネスの課題のひとつとなっています。
(創業家の存在感希薄化の主な理由)
・経営に関わらなくなったから
・株式が分散したから
・議決権比率が低下したから
・議決権行使のプロセスが複雑化したから
・ファミリーがビジネスに関心を持たなくなったから
・創業家の作り上げた理念やカルチャーが薄れたから
・ファミリーが結束していないから
・不祥事があったから 等

創業家の存在感が薄れていく背景には、いくつかの要因があります。
まず大きいのは、経営への関与がなくなることです。
経営の第一線を離れると、意思決定に触れる機会が減り、得られる情報も限定的になります。
発言すれば「干渉」と受け取られ、黙れば「無関心」と受け取られる。
こうして、影響力を行使しにくい立場へと自然に追いやられてしまうことがあります。
次に、議決権比率の低下と、その行使プロセスの複雑化です。
相続を経て株式が分散し、一人(あるいは一つのファミリー)の議決権比率が下がることで、影響力が低下してしまうことがあります。特に、ファミリー同士の結束が弱まっている場合には、懸念されるべきものです。
さらに、節税対策としての持株会社化や資産管理会社の多用が、創業家のガバナンスと発言力を損なう要因になっていることもあります。
株式をこれらの法人に保有させた結果、議決権行使プロセスが複層化し、意思決定プロセスに合議や招集手続を要するなどして、煩雑なものとなっていることがあります。
このような事態を避けるため、節税を意識した取り組みを行う際は、ガバナンス面についても注意を払うべきでしょう。
また、ファミリー自身の関心の低下も見過ごせません。
事業や経営に関心を持たず、会社の理念や現場の空気を知らないまま世代交代が進む。
すると当然、創業家の意志や哲学は忘れられ、「創業家」としてのまとまりが失われてしまいます。
加えて、不祥事や経営トラブルも大きな影響を与えます。
創業家の一員が関与する不適切な行為や経営の混乱は、社会的信頼を損ない、「創業家=リスク」という印象を会社の内外に与えかねません。
それが大きなものである場合、創業家の追放さえありうることは、過去の様々な事例からも明らかです。

以上のような課題に対し、創業家の影響力を維持・再構築し創業家の存在感を取り戻すためには、どのような方法があるのか。
それには、「なぜ存在感が失われるのか」という原因を正確に見つめ、それぞれに応じた対策を講じる必要があります。
まずは、経営との接点を設けることです。
例えば、マニー株式会社(栃木県宇都宮市)では、「ファミリー会」という名称の組織を立ち上げ、創業家が経営にどのように関わるか議論する仕組みがあります。これが経営陣との対話を通して、透明性ある経営体制の補完的な役割を担っています(参考:日経ビジネス、2024.12.17)。
このように、経営との接点を明確に設けることで、創業家の発言力が干渉とも無関心とも受け取られない、健全な関係性へと繋がっていきます。
議決権行使の在り方については、次のとおり簡単に整理します。
まず、株主間契約をもって議決権行使方針を定めることや、株式の信託化や持株会社化を通じて、分散した株式を一体的に管理することが考えられます。
また、資産管理会社が株式を保有している場合などは、株主総会や取締役会の招集・意思決定プロセスを最短かつシンプルに完了できるように、機関設計の見直し、定款の修正、種類株式の活用が有用であることもあります。
これには何よりも「関心を持つきっかけ」を意図的に作ることが重要です。
例えば、「ファミリー憲章」の策定が考えられます。
このファミリー憲章については、最近は取り組む方も少しずつ増え始めているように思います。また、金融機関からの提案も増えているようです。
ファミリー憲章により文書にすること、そしてその作成プロセスにファミリーを関与させることで、ファミリー自身が関心を持つきっかけとなります。
しかし、熱い想いや哲学を文章や口頭でどれほど伝えようとしても、複数代あとの世代にはいまいちピンとこないこともあります。抽象的な伝わり方に留まっていては腹落ちしません。
そうした世代のためには、経営や現場を体験できる機会を設けることも良いでしょう。
現場に触れ、体験することで、「自分たちのビジネス」という実感が生まれることがあります。
また、ファミリーが、そのビジネスを誇りに思えることも重要です。
そのファミリーの一員であることを誇りに思うことができれば、さらに関心は深まるでしょう。
そのためにも、ビジネスやファミリーの「誇り」を示す、実績やストーリーを意識的に整理し、それを「わが社の誇り」、「わがファミリーの誇り」として共有していく取り組みも大切でしょう。
※ファミリー憲章については、こちらのコラムもご参照ください。

創業家の存在感を保つには、理念や思いだけでなく、具体的な仕組みが不可欠です。当事務所の場合、弁護士の立場として、第三者としての中立性を活かしながら、以下の3つの側面から支援することができます。
創業家の存在感や影響力は、残念ながら感情や過去の実績だけで持続させることはできません。
これを持続させるためには、制度としての裏付けを持たせ、より安定的にその立場を確保する必要があります。
一例として、株式分散や議決権の低下に対しては、
・株主間契約による議決権行使方針の明確化
・信託や持株会社を活用した株式の一元管理
・定款の修正や種類株式の導入による機関設計の最適化
といった方法が考えられます。
次世代が会社に関心を持たない、あるいは関与を避けるというのは、ファミリービジネスにおいてよくある課題です。
このような状況では、理念を押し付けるのではなく、「自ら関心を持つきっかけとなる環境」を整えることが有効です。
具体的には、
・現場への同行や役員会の傍聴といった体験する機会の設計
・ファミリー憲章の策定を通じた価値観の共有
・そのファミリー憲章を評価制度や役員の選解任方針などと接続する運用
といった取り組みを通じて、創業家の理念を「実感できるかたち」で伝えることが可能となります。
感覚としての「誇り」と、論理としての「仕組み」が育てば、次世代の当事者意識も自然と高まっていきます。
創業家、現経営陣、他の株主など、それぞれの立場には異なる思惑や感情があります。
理念や制度を整える過程では、それらの利害が衝突することも珍しくありません。
このようなとき弁護士は、
・各関係者の主張や立場を整理・可視化する
・客観的な観点から妥当な落としどころを検討する
・合意形成に向けた交渉やファシリテーションを行う
といった役割を担うことができます。調整が適切に行われれば、制度や取り組みが形骸化せず、持続可能な仕組みとなっていきます。
以上のように、弁護士は、制度と関係性の両面から、創業家の影響力と存在感を実効的に支えることが可能です。
感情論に流されず、冷静かつ構造的に対応することが、結果としてファミリービジネスの安定と成長につながります。

企業の成長とともに、創業家の関与のあり方も変わっていきます。
形を変えながらも、その存在感を適切に位置づけ、持続的な企業運営に結びつけていくことが、ファミリービジネスの大きなテーマとなっています。
世代交代という避けては通れない節目において、創業家として「何を守り、何を残すべきか」、「次世代とどう関わるべきか」に悩まれることは自然なことです。
その悩みに、制度・文化・関係性という複数の観点から答えを探し、実践していくことこそが、次世代への確かなバトンになります。
岩崎総合法律事務所は、経営者など富裕層の複雑な課題を解決する知識と経験を活かし、オーダーメイドのファミリーガバナンス支援を提供しています。
創業家の存在感・影響力についてお悩みの方は、ぜひこの機会に当事務所にご相談ください。
※ご相談の内容や態様・時間帯等によって、あらかじめご案内のうえ御相談料をいただく場合があります。
「何から相談していいかわからない」「他にどんな事例があるのかも分からない」といった段階でも、どうぞご遠慮なくご相談ください。課題を共に見出し、形にしていくことも私たちの役割です。
事業承継など、長い時間軸で検討するべきことについても、その壁打ちから最後までずっと伴走します。
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