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今回は、離婚にともなう財産分与において「富裕層特有の財産」、とくに「隠し財産」を調査する方法について解説します。
本来、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産(共有財産)は、たとえ配偶者単独名義の資産であっても、原則として半分ずつ(2分の1)公平に分けられるべきものです。これが財産分与の基本的な考え方です。
しかし、保有する財産の種類が一般的な家庭に比べて複雑かつ多岐にわたる富裕層世帯の場合、財産開示に漏れがあったり、あるいは、配偶者が意図的に情報を開示しないケースも少なくありません。
適切な財産開示が行われないまま離婚が成立すれば、本来受け取るべき公正な分与額を得られず、離婚後の生活設計に深刻な影響が及びかねません。
権利を正当に実現するためには、弁護士会照会や裁判所の手続といった法的な手段を活用して財産調査を行うことが必要な場合があります。そして、その調査を確実に実行するためには、専門家である弁護士のサポートが欠かせません。
岩崎総合法律事務所は、富裕層世帯の離婚事件について豊富な経験と知見を有しており、富裕層特有の財産の調査についても多数の実績があります。
離婚問題が予測される方、特に「配偶者による財産隠し」を懸念されている方は、お早めに当事務所までご相談ください。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
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⑴ 配偶者が経営している会社の株式について、株式の保有状況などを調査する方法はありますか?
⑵ 海外のプライベートバンク(PB)口座を調査する方法はありますか?
⑶ 暗号資産(仮想通貨)を保有しているかを調査する方法はありますか?
⑷ 貴金属を保有しているかを調査する方法はありますか?
⑸ 古美術品を保有しているかを調査する方法はありますか?
⑹ 投資ファンドの持分を保有しているかを調査する方法はありますか?
⑺ 航空機を保有しているかを調査する方法はありますか?

富裕層の離婚において、最もトラブルになりやすく、また、みなさんが懸念されるのは財産分与です。
法律上、財産分与の手続においては、夫婦双方が、共有財産を含め、自身の財産状況を適正に開示し合うことが前提とされています。
しかし、夫婦間の感情的な対立が激しい場合や、高額な資産を保有している富裕層特有の事情から、配偶者が意図的に財産の一部を隠し、開示を拒むケースがあります。
このため、財産が任意に開示されないケースに備え、財産資料の収集を徹底し、客観的な証拠を基に、財産の全体像を把握しておくことが不可欠です。
以下では、特に富裕層に特有の財産について調査する方法を具体的に解説していきます。
主な手段として以下の6つが挙げられます。
①当事者ご自身による財産資料の収集
②配偶者との開示交渉
③弁護士会照会(23条照会)
④裁判所による調査嘱託・文書送付嘱託
⑤文書提出命令
⑥情報開示命令(※2026年4月1日運用開始予定)
それぞれの手段の概要は、こちらのコラムをご覧ください。
富裕層世帯の財産調査において、最も有力な手がかりとなるのは、「確定申告書」(その添付書類を含みます)、「財産債務調書」、「国外財産調書」です。
個人の確定申告書に添付される収支内訳書(不動産所得用)または、青色申告決算書(不動産所得用)からは、不動産の所在がわかる場合があります。
法人の確定申告書からは株主構成が、添付書類である勘定科目内訳明細書からは不動産や有価証券、債権等の保有資産や負債の状況、その他法人の価値(株価)算出に必要となる情報などがわかる場合があります。
財産債務調書とは、所得が2,000万円を超え、かつ3億円以上の資産(あるいは10億円以上の資産)を持つ場合などに提出が義務付けられている書類です(こちらの国税庁HPを参照ください。)。
また、国外財産調書とは、5,000万円を超える国外財産を保有する者に提出義務があり、国外資産の種類、数量、価額、所在などが記載されている書類です(こちらの国税庁HPを参照ください。)。
財産債務調書・国外財産調書は自己申告により作成されるものですので、すべての財産が網羅されているとは限らず、また評価額に誤りがある場合もあります。
とはいえ、配偶者が主要と考える財産は記載されている可能性がありますので、財産の全体像や所在(どの国のどの銀行に口座を保有しているか等)を把握するのに最適です。
これらの書類は税務署等への照会ではまず入手できないため、任意開示や自宅内での資料収集が基本となります。

非上場企業のオーナーの場合は、まず、法人の確定申告書を確認する方法が挙げられます。その他、上場企業オーナーの場合を含め、調査方法の一例をご紹介します。
(上場企業の場合)
上場会社は有価証券報告書を内閣総理大臣に提出する義務を負っており、誰でもその内容を確認することができます。
有価証券報告書には、大株主(保有株式数の多い順に10名程度)や大株主でなくてもその会社の役員が株式を保有している場合には、その数が記載されています(自身が保有する資産管理会社などの他人名義で保有している株式数を含みます。)。
そのため、有価証券報告書を確認することによって、配偶者が保有する株式の数や割合が判明することがあります。
(上場企業の場合)
大量保有報告書とは、上場会社の株式を5%以上保有することになった株主が、財務局に提出しなければならない書類です。
変更報告書とは、大量保有報告書を提出した者の保有する株式の割合に1%以上の増減があった場合などに、財務局に提出しなければならない書類です。
大量保有報告書及び変更報告書も公開されているため、配偶者が株式を保有している場合には、大量保有報告書及び変更報告書の記載から、配偶者の保有する株式の割合や株式数の変遷が判明することがあります。
(自身も株式を保有している場合)
株主は、会社法に基づき、会社に対して株主名簿(株主の名前及び保有している株式の数を記録した書類)の閲覧を請求できます。
これによって、配偶者が保有する株式数を把握することができる場合があります。
もっとも、株主名簿は、必ずしも正確に作成されるとは限らず、信用性が必ずしも保証されているものではない点には、注意が必要です。
海外資産は秘匿性が高いですが、国内に残された手がかりから辿ることができる場合があります。以下調査方法の一例をご紹介します。
① 国内口座の取引履歴:国内口座からPB口座への送金や、PB口座からの入金がないかを確認します。
② 郵送物やノベルティ:自宅に届く海外PBからの封書やカレンダー、記念品などから取引の存在が判明する場合があります。
③ 国外財産調書の確認:提出義務がある世帯であれば、資産の所在(国・銀行名・証券番号等)が記載されている可能性があります。
④ 外国現地弁護士との連携:日本の裁判所の手続きは国外への強制力がないため、資産が存在する国の法制度に基づき、現地の弁護士と連携して情報開示を求めることもあります。
こうした調査手法は、海外のプライベートバンク(PB)口座だけでなく、以下で解説する他の財産の調査においても有効です。
暗号資産の保管場所によって調査のアプローチが異なります。
暗号資産は暗号資産交換業者が管理運営する国内取引所・海外取引所のサービス上か、個人のウォレットに保管されます。ウォレットは自分専用の保管場所のことで、それを管理する第三者はいません。
国内取引所が保管している場合には、国内取引所に対して、弁護士会照会や、裁判所による調査嘱託などの方法を検討することが考えられます。
海外の取引所で管理されている場合には、取引所を特定できたとしても、上記のような調査は事実上困難なものとなります。
このような場合には、取引所の所在する外国現地弁護士と共同して手続を進め、財産調査を進めていく場合もあります。
個人のウォレットで保管されている場合には、照会する先の第三者が存在しないため、上記のような直接的な調査はできません。
そこで、配偶者のクレジットカードや銀行口座の明細から、暗号資産の購入履歴やウォレットへの送金記録を確認し、その所在や残高を把握できないか試みます。
金預金の場合には、預託業者に対して照会をかけることが考えられます。
また、現物取引の場合は、取引業者と取引することがほとんどですので、そこに照会することが考えられます。
自身の所有する古美術品を、美術館やギャラリー(画廊)に貸し出していることがあります。
そのため、美術館などとの契約書や、展覧会の広告などから、貸し出し先の美術館やギャラリーが判明している場合には、その美術館やギャラリーに照会する方法が考えられます。
投資ファンドとは、投資家(LP:有限責任組合員)から資金を集め、運営者(GP:無限責任組合員)がその資金を株式や不動産などに投資し、得られた利益を分配する仕組みです。
投資ファンドの持分が財産分与においてどのように扱われるかについては、こちらのコラムをご覧ください。
配偶者が投資ファンドの持分を有しているか調査する方法としては、自宅内にある契約書(投資事業有限責任組合(LPS契約)や匿名組合契約書などのタイトルがついた契約書)を探すことが重要です。
ただし、契約書が見つかったとしても、ファンド契約にはLLP(有限責任事業組合)、LPS(投資事業有限責任組合)、LP(有限責任組合員)、GP(無限責任組合員)など、特有の言葉が多用されており、ご自身で契約内容を把握することは難しい場合がほとんどだと思われます。
このような契約書が手元にあり、離婚が懸念される場合には、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。
富裕層や経営者の中には、節税対策や移動の利便性のためにプライベートジェットを所有しているケースがあります。このような航空機も財産分与の対象になる場合があります。
航空機の所有状況を調査するには、国土交通省が管理する航空機登録原簿を確認するのが最も確実な方法です。
航空機登録原簿は、手数料を支払えば誰でも閲覧や謄本の交付を請求できます。現在は「e-Gov電子申請」という政府のポータルサイトから、オンラインで手続きを行うことが可能です。
ただし、航空機登録原簿を請求するためには、その機体固有の番号である「登録記号(JA+4桁の数字)」を特定する必要があります。
そこで登録記号の特定が重要となりますが、配偶者が番号を明かさないこともあります。
しかし、そうした場合でも、以下の方法などから特定できる可能性があります。
・SNSや写真からの特定:配偶者や知人のSNSにアップロードされた機体の写真に、機体後部や翼付近に記された「JA〇〇〇〇」という番号が写り込んでいないか確認します。
・民間データベースの活用:機体の外観(機影)や、利用している空港などの断片的な情報から、民間の航空機データベースを検索することで、登録記号を割り出せる場合があります。

財産分与の額は、「一切の事情」を考慮して判断されます。
配偶者の財産を特定できなかった場合においても、配偶者が財産を隠匿している疑いがある、財産開示に非協力的な態度をとっているなどの事情がある場合には、一切の事情として考慮されます。
そのため、配偶者の保有する財産を特定できなかったとしても、配偶者が財産を隠匿していると疑わせるような資料や、配偶者が現在保有しているであろう財産を推計することができる資料(配偶者の過去の収入資料や口座履歴など)を諦めずに収集し、主張していくことが重要となります。
以上、ここまで富裕層特有の財産を調査する方法について解説してきました。
財産分与においては、離婚前から財産に関する資料を収集すること、さらに収集した資料を分析して、主張立証をしていくことが必要です。
これらの行動を適時適切に行うには、専門家のサポートが不可欠です。
すでに離婚問題が生じている方はもちろん、離婚問題が生じていない段階でも、万が一の離婚や財産分与について対策を検討したいという方は、お気軽に当事務所にご相談ください。
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