私は会社経営者です。現在、将来の事業承継を見据えて家族信託の活用を検討しています。
具体的には、「生前のうちから後継者である長男に自社株を承継したい。」と考えています。しかし、長男1人に自社株を管理する権利や配当を受け取る権利を集中させる設計にはできないと耳にしました。
それはなぜでしょうか、事業承継のための信託とはどのように活用されているのでしょうか。
信託は「自社株を管理する人(受託者)」と「配当を受け取る人(受益者)」を別々に分けられる点にメリットがあり、事業承継にも活用されています。
しかし逆に、これを分けない場合、つまり受託者が唯一の受益者であるといったように、すべての権利を後継者1人に集中させ、それが継続すると信託の終了事由となってしまいます。
また、信託の開始時に権利(自社株を管理する権利や配当を受け取る権利)を分けていても、後継者が受託者と受益者という2つの立場を兼ねる状況となり、そのまま1年が経過すると、信託法のルールによって信託が強制的に終了してしまいます。
対策として、信託を設計する段階で、例えば次のいずれかの規定を設ける必要があります。
・あなたが亡くなった後の配当を受け取る人(受益者)を、一人ではなく複数人とする規定
・自社株を管理する人(受託者)を、後継者以外の信頼できる別の者と定める規定
※信託は受託者と受益者という立場の重複以外にも、登場人物の“不在”や他の立場の“重複”によって、思わぬタイミングで終了してしまうことがあります。あわせてこちらのコラムもご参照ください。

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信託とは、委託者(財産を預ける人)が、受託者(財産を管理する人)に財産を預け、預けた財産やそこから発生した利益を受益者(利益を受け取る人)に分配する仕組みをいいます。
この信託の仕組みを使うと、例えば、生前のうちから後継者に議決権行使を任せて経営者としての経験を与えつつ、一方オーナーは配当を受け取り生計の糧とすることが可能になります。
「途中で長男に経営者としての適性がないとわかったり、病気などでリタイアした場合に、会社が立ち行かなくなるのでは?」と心配されるかもしれません。
しかし、そうした万が一の事態にも対応できるのが信託の強みです。
1つ目に、信託は委託者(財産を預ける人)が受益者(利益を受け取る人)のために作るものであり、委託者と受益者の合意があればいつでも終了させることができます(信託法164条1項)。
生前は、オーナーご自身が「委託者」であり「唯一の受益者」でもあるため、いざとなればご自身の判断だけで信託を終わらせ、自社株を手元に戻して経営権を回収することが可能です。
2つ目に、信託契約の中で「指図権」と呼ばれる権利をご自身(オーナー)に設定しておくことで、実質的な経営権を保持しておくことができます。
この「指図権」とは、自社株を管理している受託者(長男)に対して、「株主総会ではこの議案に賛成(または反対)しなさい」といった指示をすることができる権利です。
この権利を持っておくことで、長男に日常の経営を任せつつも、重要な局面ではオーナーご自身が会社を実質的にコントロールすることが可能になります。
上記の役割分担での信託は、オーナーの生前は問題なく機能します。
しかし、オーナーに万が一のことがあった後には問題となることがあります。
それが、「自社株を管理する人(受託者)」と、「配当を受け取る人(受益者)」が一致してしまうことです。
この状態で1年が経過すると、信託が強制的に終了してしまうという信託法上のルールがあります(信託法163条2号)。
信託が終了することによって、長男の兄弟などの会社経営に関与しない者たちに自社株が分散する恐れがあります。
そうなれば、経営の安定性を損なうおそれや、兄弟間で法的な紛争に発展するおそれがあります。
こうした信託の強制終了を回避するためには、例えば以下のいずれかの規定を信託の設計をする段階で盛り込んでおく必要があります。
オーナーの死後、長男を「唯一の受益者」とするのではなく、オーナーの配偶者や、将来の後継者候補である孫などを「第二次受益者」としてあらかじめ指定しておく方法です。
受益者が複数いれば、受託者と受益者が一致するとはいえないため、先の信託法上のルールによって強制的に信託が終了することはありません。
受託者を後継者である長男にするのではなく、オーナーファミリーが設立する一般社団法人と規定することなどが考えられます。もしいれば、後継者以外の信頼できる第三者を選定することも考えられるでしょう。
そうすると、「後継者が議決権を行使できなくなるのでは?」と思われるかもしれませんが、上述した「指図権」を後継者に設定しておくことで、経営権を後継者に持たせることができます。

今回は、受託者と受益者の重複による信託の終了とその対策について解説いたしました。
簡単に要点を挙げるとすれば、信託を用いた自社株の承継は「後継者にすべてを任せれば安心」という単純なものではないということです。
なお、自社株の信託が予期せず終了してしまうケースは、今回解説した「立場の重複」だけではありません。
オーナーの死後、経営に関与しない他の親族から「自社株を現金化して分け合いたい」という不満が出た結果、親族間の話し合いだけで信託が終わらされてしまうリスクも存在します。
このリスクと対策については、こちらのコラムで詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
家族信託という制度は柔軟で便利ですが、安易な設計では将来思わぬところで信託が終了してしまうことも考えられます。
予期せぬタイミングで終わらない信託を設計するには、高度な法的知識とノウハウが欠かせません。
岩崎総合法律事務所では、これまで様々な富裕層、資産家の方を対象にリーガルサービスを提供してきました。
当事務所では、オーナーご本人からのご相談のほか、信託銀行、信託会社、税理士、司法書士の皆様からのご相談も承っております。
信託の活用に限らず、事業承継全般に関心をお持ちの方や、すでに何らかの対策を講じているものの不安があるという方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。