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2024年10月11日(金曜日)
財産分与と財産調査 〜「いつ」「なにを」「どのように」調べるか〜

今回は離婚にあたって実施すべき財産調査について取り上げます。
財産分与の手続きではお互いが共有財産を開示し合う必要があります。しかし、夫婦間での感情的な対立が大きい場合など、適切な財産開示が行われないケースが多々あります。

適正な財産分与を実現するためには、十分な財産資料の収集が欠かせません。
特に富裕層世帯の場合には、資産形成の過程、資産変動が特殊であったり、第三者へ移転されているといった特徴があります。

このコラムでは、配偶者の財産状況の調査方法について、いつ、なにを、どのようにして調査すべきかを具体的にご紹介します。

岩崎総合法律事務所では、一般的な離婚事件に加え、富裕層世帯のお客様に対する法務サービスで得た豊富な経験・知見を有しています。

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目次
  1. 配偶者の財産資料の収集がどのように役に立つのですか
  2. 財産資料を収集する手段にはどのようなものがありますか
  3. 法的手段を活用して調査する際に、重要となることはどのようなことですか
  4. 財産調査をする時期ですが、離婚協議を開始した後だと何か問題あるでしょうか
  5. 調査をしてもらうためにどのような情報を収集すればよいでしょうか
  6. 財産分与に備えてどのような資料を収集すればよいでしょうか
  7. 財産の全容が把握できていない状態です。資産が隠匿されていたり、配偶者が財産資料の開示に協力的ではないためです。こうした事情は財産分与の際に考慮されませんか
  8. 財産調査を行うにあたって重要な点を教えてください
  9. いわゆる富裕層世帯の夫婦が離婚するに際して、財産調査の点で注意すべき点はありますか

Q1 配偶者の財産資料の収集がどのように役に立つのですか

財産調査イメージ

離婚の財産分与の条件を決めるためには、双方の財産状況を調査することが必要不可欠

離婚にあたっては財産分与が行われ、基準時(通常は別居時です)時点の夫婦の共有財産を原則として2分の1の割合で分け合うこととなります。

家事事件手続法(財産分与事件を含む家事事件の手続について定めた法律)では、「当事者は、適切かつ迅速な審理及び審判の実現のため、事実の調査及び証拠調べに協力するものとする。」(同法第56条第2項)と規定されています。すなわち、当事者が任意に財産資料を開示することが求められているのです。

しかし実際には、自己の財産が財産分与の対象となることを防ぐために、自身が保有している財産を開示しない、いわゆる財産隠しが行われることが多々あります。

当事者間での財産分与協議、裁判所を介しての財産分与手続、いずれであっても、財産隠しが行われた場合には的確に指摘することが重要です。

この指摘は、「こうだと思う」といった憶測の域を出ない程度では足りません。また、配偶者が「こういう発言をしていた」などと説明しても、それを裏付ける資料がなければ不足します。
要するに、財産の存在を指摘する際には、客観的な資料をもとに行わなければならないのです。

このように、適正な財産分与のためには財産資料の収集を行い、客観的な資料をもとに財産を把握しておくことが重要となります。

Q2 財産資料を収集する手段にはどのようなものがありますか

当事者ご自身による財産資料の収集、②配偶者との開示交渉、③弁護士会照会、④調査嘱託・文書送付嘱託、⑤文書提出命令等があります。
以下、それぞれの概要をご紹介します。

①当事者ご自身による財産資料の収集

財産資料の収集にあたっては、まずは当事者ご自身が配偶者の財産資料を収集することが重要です。

例えば、同居期間中、夫婦双方が使用している部屋にある預金通帳や配偶者の経営する会社の決算書等の資料を確認することが考えられます。

②配偶者との開示交渉

どうしても収集できない資料については、配偶者に対し財産資料の開示を求めていきます。

ご自身からの要求では配偶者が開示に応じてくれない場合などは、弁護士を通じて配偶者と交渉を行うことにより奏功することもあります。

③弁護士会照会

弁護士会照会は、弁護士の申請により、弁護士会が金融機関等に配偶者の財産資料の照会を行う、弁護士のみが実施できる調査方法です。

例えば、配偶者が特定の金融機関の特定の支店に銀行口座を保有しているにもかかわらず、この銀行口座の残高を開示しようとしない場合に使用することが考えられます。

弁護士会照会を行うためには、配偶者が銀行口座を保有している金融機関名と、照会先によっては支店名まで特定している必要があります。下記の④の手段と異なり、財産分与に関する調停や裁判の前段階から使用することができます

④調査嘱託・文書送付嘱託

調査嘱託は当事者の申立て等により、裁判所が金融機関等に配偶者の財産資料の調査を依頼し金融機関等に調査結果の回答を依頼する調査方法です。
文書送付嘱託は、当事者の申立て等により、裁判所が金融機関等に配偶者の財産資料の提出を依頼する調査方法です。

例えば、特定の金融機関に銀行口座を保有していることが明らかであるにもかかわらず開示されない場合などが考えられます。

調査嘱託・文書送付嘱託でも、その金融機関に銀行口座を保有していることを説明する必要があります。調査嘱託・文書送付嘱託は裁判所を介した手続きであり、調停や裁判が係属している間のみ使用することができる手段です。

裁判所を介した手続きであることから、③の手段よりも金融機関からの開示が得られやすい傾向にあります。

⑤文書提出命令

文書提出命令は、当事者の申立てにより、裁判所から資料を有している相手方、第三者に対して、所持している文書の提出を求める調査方法です。この調査方法は、調停手続、審判手続、訴訟手続いずれの手続でも利用できます。

ただし、文書提出命令の対象にできない文書があるなど活用できる場面は他の調査手法に対して限定的です。これは文書提出命令が持つ法的効力の強さに由来するものです。すなわち、文書提出命令に違反すると過料の制裁に処される可能性がありますし、また、裁判官の心証に大きな影響を及ぼすものだからです。

このため、通常は、他の調査手法をもってしても本人や金融機関が協力せず情報が得られない時や、そもそも他の調査手法では調査できないものを対象にしたいときに活用します。後者で言えば、配偶者の勤務先が保有する配偶者の収入資料などが考えられます。

Q3 法的手段を活用して調査する際に、重要となることはどのようなことですか

法的手段をもって調査しようとする際には、裁判所や調査先からの理解・協力を得なければなりません。そのためには、単に弁護士会照会や調査嘱託等を形式的に申し出るのではなく、十分に説明できなければなりません。

その意味で、法的手段を活用する上でも当事者ご自身による財産資料の収集が重要となるのです。
財産と一口に言っても様々な種類のものがありますし、様々な方法で管理されていることがあります。

世帯ごとに、どんな財産がありうるか、そうした財産に関する情報がどんな資料に表れているかを推測して収集に臨むことが重要です。

要するに、そこに財産がある可能性を説明しつつ、さらに資料を示して説明することで、裁判所や調査先の理解・協力を得ることも容易となるのです。

Q4 財産調査をする時期ですが、離婚協議を開始した後だと何か問題あるでしょうか

離婚協議イメージ

離婚協議の開始前に、双方の財産状況を開始するのが望ましい

離婚協議が始まってしまうに、配偶者の財産資料の収集を進めておくべきです。
一度交渉が始まってしまえば、財産(資料)が容易には確認できないところ、例えば会社などに隠されてしまう可能性があります。

また、別居が開始した後に、配偶者の住んでいる住居で財産資料の収集を行おうとすれば、住居侵入罪等に問われる可能性があります

前記のとおり、弁護士会照会や調査嘱託などの法的手段により配偶者の財産資料を調査することも可能です。しかし、これらの手続きにより財産開示を受けるためには、そこに財産がある可能性を示せなければなりません。

例えば、相手方が保有している預貯金について、弁護士会照会、調査嘱託により調査を実施する場合、その前提として、相手方がどこの金融機関の、照会先によってはどの支店に預貯金を有しているかを把握している必要があります。

このため、財産分与に備えた財産資料の収集は、なるべく早いタイミングが望ましいです。

※なお、三菱UFJ銀行、みずほ銀行などの一部金融機関では、相手方が当該銀行に口座を保有していることが判明している場合、本店への嘱託で構わない(全店照会を行った上で支店の口座残高を確認する)運用をしています(2024年10月時点限り)。

Q5 調査をしてもらうためにどのような情報を収集すればよいでしょうか

調査をする上で、これくらいは把握しておきたいという一例は以下のとおりです。こうした情報があれば、具体的な預金残高などが特定できていなくても、法的手段をもって調査しやすくなります。

  • 不動産:配偶者が所有している不動産の所在地(物件名程度でも可)
  • 預貯金:金融機関名、支店名、口座番号
  • 上場株式その他有価証券:配偶者が有価証券を管理している証券会社名
  • 非上場株式:当該会社の資産状況
  • 医療法人の持分:当該法人の資産状況
  • 保険:加入している保険会社
  • 車両:車両名

Q6 財産分与に備えてどのような資料を収集すればよいでしょうか

財産調査により判明した登記簿謄本、財産債務調書、国外財産調書のイメージ

離婚の財産分与に向けた財産調査においては、幅広い資料を確認する必要がある

資料収集にあたっては、調査嘱託など法的手段を実行するために必要となるもの、その他配偶者の財産把握のため重要となるもの等を集めることが重要です。
特に把握しておきたい重要な財産資料の一例は以下のとおりです。

  • 不動産:登記簿謄本(登記事項証明書)、売買契約書、ローン契約書、固定資産税の課税明細書
  • 預貯金:通帳の全ページの写し、金融機関からの郵便物
  • 上場株式その他有価証券:証券会社からの年間取引報告書、郵便物、株主優待、株主総会招集通知
  • 非上場株式:当該会社の登記簿謄本、決算書、確定申告書、勘定科目内訳明細書
  • 医療法人の持分:当該法人の登記簿謄本、決算書、確定申告書、勘定科目内訳明細書
  • 保険:保険証券、保険会社からの郵便物
  • 車両:車検証、自動車税納税通知書
  • 収入資料:個人の確定申告書、源泉徴収票、課税証明書等

財産債務調書・国外財産調書

資産家世帯の場合には、財産債務調書や、国外財産調書の確認が重要です。

財産債務調書は年ごとの財産の種類、用途、所在、数量、価額並びに債務の金額などを記載した書類で、国外財産調書は、年ごとの国外財産の種類、数量、価額、所在等を記載した書類です。

財産債務調書は、その年の所得が2000万円を超え、かつ、その年に保有する財産の合計額が3億円以上の場合などに作成が義務付けられるものです。国外財産調書は5000万円を超える国外財産を所有する場合に作成が義務付けられるものです。
いずれも適正な課税の確保という目的で作成されるものです。

いずれも網羅性が保証されているものでもなく、評価額も簿価のままだったりするなど必ずしも正確なものではありません。しかし、配偶者本人が主要と考える財産が記載されているものです。大筋を外さない、という点ではとても重要な書類と言えるでしょう。

取得できたあともすべきことはある

また、取得した財産資料を分析した後に、さらに財産資料を収集することも重要です。例えば、預金通帳の写しの場合には、保険料が支払われていることなどから配偶者が加入している保険に関する情報を得ることができる場合があります。

調査できなかった場合もあきらめない

さらに、資産隠匿の疑いがある場合には、その疑いを指摘できるように資料収集することも重要です。
残念ながら、どのような手段を駆使しても調査しきれないことはあります。そのような場合でも、隠匿の疑いを立証できれば、それが財産分与の判断で考慮されることもあります

例えば、本来の収支からすればどんなに少なくとも何円程度は残っているはずであり、その半額以下にまで減少しているはずがないと指摘する等です。
これについて、配偶者がその減少について合理的な説明を尽くすことができないのであれば、隠匿が疑われるとして財産分与の判断で有利に考慮してもらえる場合があります。

この点では、収入と支出に関連する資料(例えばクレジットカードの引き落とし額を示す資料や利用明細など)も重要となるでしょう。

Q7 財産の全容が把握できていない状態です。資産が隠匿されていたり、配偶者が財産資料の開示に協力的ではないためです。こうした事情は財産分与の際に考慮されませんか

財産隠しの場合や、配偶者が財産資料の開示に協力的ではない場合も残念ながらあります。
このような時には財産分与の判断で有利に考慮してもらえる場合があります。

例えば、相手方により開示されていない預貯金が存在することが明らかである場合に、こちらから手元にある資料をもとに推定した当該預貯金の残高が財産分与の対象として認定される場合があります。

また、財産分与では「一切の事情」を考慮して公平なものとなるように判断されるのですが、この「一切の事情」に財産隠しの疑いの事情が考慮され、こちらから存在すると主張している財産が財産分与の対象として認定される場合があります。

さらに、財産が存在するとの認定は行われないまでも、当該財産の額に相当する額が財産分与の基礎となる財産の額に加算される場合もあります。

Q8 財産分与に備えた調査を行うにあたって重要な点を教えてください

財産調査はどんな財産があるか、財産に関する情報がどんな資料に表れているかを推測できる知見を有していることがまず重要です。

そしてその上で、手元の資料や入手した資料から次に調査すべき事項がないかを分析できる能力、すなわち、その資料の読み方を習熟していることが重要になります。

当事者自身による財産資料の収集にあたっては、こうした知見を有する専門家等のサポートが不可欠ですし、法的手段を用いるにあたっても不可欠です。

岩崎総合法律事務所は、こうした知見を駆使して、正当な権利実現のため、財産調査に臨みます。

Q9 いわゆる富裕層世帯の夫婦が離婚するに際して、財産調査の点で注意すべき点はありますか

富裕層は資産形成の過程が特殊です。例えば、資産が海外にある、プライベートバンク口座を持っている、ビットコイン(暗号資産)等の特殊な金融資産を保有している場合が考えられます。

新株予約権や社債を有している場合もありますが、これらは単に証券口座を見るだけでは存在がわからないこともあります。

また、富裕層は、相続対策で資産を移転、分散させていることや、第三者や会社に貸付を行い資産を移動させていること、財団や社団を持っていることもあります。財産の全容を把握するには、そうした資産変動も理解している必要があります。

岩崎総合法律事務所では、離婚の財産分与にあたっての一般的な財産調査に関するサポートのほか、富裕層のお客様に対して法務サービスを提供してきた経験から、豊富な経験・知見を有しています。海外にある財産の調査については、外国現地弁護士と共同して手続きを進めていくこともございます。

 


 

以上、離婚の財産分与に備えて実施すべき財産調査について解説してきました。
初回のご相談は30分間無料※です。お悩みの方はお早めに弊所にご相談ください。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。

特設サイト「富裕層世帯の離婚」

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