離婚にともなう財産分与において「相手の財産が見つからない」「相手の財産が開示されない」という事態が生じる場合があります。
そのような場合、諦めるしかないのか、それとも何らかの方法で自身に有利な判断を導くことができるのか。
今回は、そのような疑問にお答えします。

離婚を考えています。配偶者(夫)は経営者で財産を多く持っているようですが、私は全容を把握していません。夫が隠している財産を見つけられなかった場合、財産分与の判断で不利になるのでしょうか?
夫が財産を隠したり、財産の開示に非協力的な態度を取っている場合であっても、必ずしも不利になるとは限りません。裁判所があなたに有利に判断する可能性があります。
そのためには、夫の財産を推計できるような収入や支出に関する資料などを集めることが重要です。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
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本来、財産分与にあたっては、双方が正直に財産を開示することが前提です。
しかし現実には、財産状況が明らかにならないケースも多くあります。
特に富裕層や経営者の場合、以下のように資産の管理方法が多岐にわたり、その実態が不透明になりやすい傾向があります。
・資金の移動: 親族・知人などの第三者や、関連会社への貸付け
・法人の活用: 資産管理会社や、自身が実質的に支配権を持つ財団法人や社団法人の設立、資産移転
・信託の活用: 信託契約を用いた、第三者への財産名義の変更
・海外資産: 捕捉が難しい海外金融機関での口座開設や不動産投資
・その他多種多様な資産:一般的な家庭に比べて、資産の種類が多様である可能性があります(貴金属、アート作品、暗号資産、航空機など)。
このように、富裕層の財産関係は、「名義が本人以外に移されている」、「資産が形を変えている」、「所在が国外にある」といった理由から複雑です。
そのため、相手方が意図的に資料を隠匿した場合、手元に何らの情報もなければ、個人の力だけでその全容を解明することは難しいといえます。
配偶者の財産を調査する主な方法として、以下の6つが挙げられます。
①ご自身による財産資料の収集
②配偶者との開示交渉
③弁護士会照会(23条照会)
④調査嘱託・文書送付嘱託
⑤文書提出命令
⑥情報開示命令(※2026年4月1日運用開始予定)
それぞれの方法の概要は、こちらのコラムをご覧ください。
また、富裕層特有の財産の調査方法は、こちらのコラムをご覧ください。
しかし、こうした調査を尽くしても、隠蔽された海外資産や、複雑に入り組んだ権利関係のすべてについて、決定的な証拠を掴むことが難しいケースがあるのも事実です。
財産を隠されている場合でも、それだけで財産分与を諦める必要はありません。
裁判所はこうした不誠実な対応を「一切の事情」として考慮し、公平な解決に向けて判断を下すことがあります。
以下一例をご紹介します。
別居の数年前に引き出されたお金は、すでに使われてしまったとみなされることが通常です。
しかし、金額が非常に大きく、生活費として使い切ったというには不自然であると判断される場合には、そのお金が現在も手元に残っているものとして、財産分与の対象に含まれるということがあり得ます。
配偶者が預金口座の取引履歴を一切出さない場合であっても、手元にある資料から計算した「予測される残高」が財産分与の対象に含められる場合があります(大阪高決令和3年1月13日)。
【裁判例のポイント】
・状況:配偶者(夫)が口座の取引履歴の開示を拒否し、調査嘱託にも同意しなかったことから、別居時の正確な残高が不明でした。・妻の対応:妻は、「過去の給与額等(入金)」から「固定費などの経費(出金)」を差し引き、残高を推計し、その金額を主張しました。
・結果:裁判所はその推計額のうち一定の額を合理的な金額と認め、財産分与の対象に加えました。
財産隠しが疑われるような事情がある場合にはその事情が財産分与の割合に反映されることがあります(東京高判平成7年4月27日)。
【裁判例のポイント】
・状況:配偶者が「ゴルフ会員権は名義を貸しているだけで自分の物ではない」と主張し、財産分与の対象に含めることを拒否しました。・不自然な点:しかし、その会員権が購入された日に、配偶者の口座から「会員権とほぼ同額」の現金が引き出されており、その使い道も説明されませんでした。
・結果:裁判所は、名義貸しであった(対象財産である)とまでは断定できないが、名義貸しではなかったとも断定できないとした上で、「財産分与の割合を斟酌する上で考慮の対象となるものと言わざるを得ない。」と判断しました。
財産分与は「一切の事情」を考慮して公平なものとなるように判断されます。そして、この「一切の事情」に財産隠しの疑いの事情が考慮されることがあります(大阪高判令和3年8月27日)。
【裁判例のポイント】
・状況:配偶者の別居前4年間の給与収入が約3,400万円もあったにもかかわらず、別居時の預金残高はそれに見合わないほど低額でした。配偶者からは預金が減少した経緯について納得できる説明はされず、さらに、離婚を見据えた行動(貸金庫を解約して、新たに開設した口座に財産を移すなど)も疑われました。・結果:裁判所は、別居前の家計の支出の状況から考えて収入の2〜3割は貯蓄できたはずだと推認し、その推認された金額を「一切の事情」として財産分与の結果に反映させました。
この裁判例のように、「本来の収支からすれば、少なくともこれくらいは残高があるはずだ」という主張が争点になることもあります。
そのような場合には、財産隠しが疑われる事情やクレジットカードの利用明細、領収書、その他支出が分かる資料を地道に積み上げることが重要となります。

今回は、財産分与の手続きにおいて、「配偶者の財産が明らかにならなかった場合」に焦点をあて、裁判所がどのような判断をするのかについて解説してきました。
配偶者の財産が明らかにならない場合であっても、諦めずに、財産を推計できるような収入や支出に関する資料を収集することが大切です。
離婚を意識した相手が、すでに資産の移転や口座の解約などの準備を始めているケースも少なくありません。時間が経過するほど、本来辿れたはずの資産の流れを追うことが難しくなり、有利な証拠を確保するチャンスを逃してしまうリスクがあります。
岩崎総合法律事務所は、富裕層世帯の離婚事件について豊富な経験と知見を有しており、富裕層特有の財産の調査についても多数の実績があります。
配偶者による財産隠しが疑われる方、また、その心配がある方は、初回のご相談は30分無料※ですので、ぜひお気軽に当事務所にご相談ください。
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