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2023年2月16日(木曜日)
【株式報酬】株式報酬とインサイダーの問題

岩崎総合法律事務所では、上場企業・スタートアップのお客様に、ストック・オプション(SO)、リストリクテッド・ストック(RS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)など、株式報酬制度の設計・発行に係るサポートをします。
発行や運用に係る法務だけでなく、報酬委員や外部アドバイザーとしてサポートすることも可能です。
以下では株式報酬を巡りよく質問いただく事項を簡単に取り上げています。

Q7. 株式報酬とインサイダーの問題

Q: 株式報酬を付与することについて、インサイダー規制が問題になるのでしょうか。

A: 自己株式処分により株式報酬を付与する場合には、インサイダー規制が問題になります。

よく問題になる事例と法律関係

役員に対して株式報酬として株式を付与する場合、その付与を自己株式処分の方法によって行う場合があります。
自己株式の処分はインサイダー規制の対象になる「売買等」(金商法166条1項)に該当するため、未公表の重要事実がないかなどインサイダー規制に注意が必要です。
「売買等」には有償の取引が含まれるところ、無償発行型のものについては、たしかに金銭の払込自体はないものの、実質的には職務執行という給付の対価として付与を受けるため、無償発行型であっても「売買等」に当たるものと考えて対応するべきです。

なお、株式の付与が新株発行の方法である場合はインサイダー規制の対象になりません。
また、広く株式報酬に含まれる新株予約権(ストックオプション)についても、その割当はインサイダー規制の対象になりません。行使によって株式を得る行為もインサイダー規制の対象になりません(金商法166条6項2号。当然のことですが、その後行使によって取得した株式を第三者に処分する時点ではインサイダー規制の問題が生じ得ます)。

どのような悪影響をもたらすか

取引自体は通常は少数の役員に対するインセンティブ付与の場面ですから、付与対象者との間でトラブルになったり、刑事事件として大きな問題になる可能性は小さいものと言えます。
しかし、付与対象者が、「未公表の重要事実を知っていればその条件でインセンティブ付与を受けることを同意しなかった」などとしてひとたび問題になると、様々な問題が生じます。
インサイダー取引規制に違反した場合、まず刑事上は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされます(金商法197条の2第13号)。法人に関しても5億円以下の罰金が科せられます(金商法207条1項2号)。インサイダー取引で得た財産は全て没収されます(金商法198条の2第1項1号及び2項)。また、没収は「利益」ではなく、「財産」にかかるものです。民事上も付与対象者や株主からの責任追及がなされる可能性があります。
会社のレピュテーションを大きく損なうおそれもあります。

予防のために何をすべきか

まず、未公表の重要事実があると評価されるおそれがある間は自己株式の処分ではなく新株発行の方法とすることです。
次に、自己株式の処分の方法によるとしても、付与対象者が未公表の重要事実を知っていれば、未公表の重要事実を知っている者同士の市場外取引(いわゆる「クロクロ取引」の方法)により、インサイダー取引の適用除外とすることを検討します(金商法166条6項7号)。
もっとも、クロクロ取引による適用除外には慎重な手続が求められますので実行の際には専門家のサポートを受けるべきといえます。

まとめ

自己株式処分によって行う場合には、インサイダー規制に十分注意する必要があります。インサイダー規制に違反することがあれば、当事者の法的責任はもちろんながらレピュテーションにも悪影響が及びますので、専門家のサポートのもと慎重に対応する必要があります。

 
 

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著者 岩崎 隼人
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発行日 2024年5月19日
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ISBN 9784539730133
 
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