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岩崎総合法律事務所は、経営者・社長・代表取締役、資産家、投資家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime® を提供してきた経験から、同種の離婚事件を豊富に取り扱ってきました。
そうした世帯特有の問題について、過去の裁判例・審判例を踏まえた分析をもとに、お客様にとって最善の解決となるようにサポートしています。
本コラムでは、会社経営者・社長の離婚では常に重要となる「自社株の財産分与の問題」について、よく相談に上がる事項・論点となる事項についてQ&A形式で解説します。
ここでいう「自社株」とは、経営者が個人で保有する、自ら経営する会社の株式のことです。
自社株を巡っては金額規模が最も大きくなる傾向があり、加えて考慮事情が多岐にわたるので、離婚問題を解決する上で重要論点になりやすいです。
しかも、夫婦二人の問題にとどまらず、会社、ひいては従業員、株主・投資家、取引先など様々なステークホルダーの利害状況も関係する点で、複雑な論点にもなりやすいものです。
当事務所は、上場企業、非上場企業問わず多くの株式関連の課題、資本政策上の課題解決を手掛けてまいりました。これらの知見は、夫婦財産の清算場面である財産分与手続においても効果を発揮しています。
離婚問題が予測される状況の方は、財産分与を見据えて大至急行うべき事前の対策があります。時期を逃すと有効な対策の多くが実行できなくなります。
経営者世帯の方でお悩みの方は、早急に当事務所までお問い合わせいただくことをお勧めいたします。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
これにより得られた知見の一部を書籍化し発売中です。ご興味をお持ちいただけましたら、書影をクリックして詳細をご確認ください。
富裕層世帯の方々の多くは法人を有しています。
会社や医療法人を経営していたり、資産管理会社を保有していたりと様々です。
このような会社経営者、社長の世帯の資産ポートフォリオでは、その多くの割合をこれら法人に係る株式や持分が占めています。
このため、会社経営者、社長の世帯の夫婦における離婚問題を解決するためには、会社・法人の事情を分析する能力が必要不可欠です。
決算書などの財務関係資料を読み解く能力はもちろん、分析すべき事項は事業内容・事業価値、資本政策の推移など多岐にわたり、会社運営実務や会社法分野の知見も必要です。
会社設立が婚姻前の場合、原則として株式は財産分与の対象になりません。
もっとも、この場合であっても、会社の維持、発展に配偶者の寄与が認められる場合には、財産分与の対象となることがあります。
会社の維持、発展に対する寄与の判断ですが、裁判例においては、パーティーへの同伴出席といった内助の範囲にとどまる場合には、寄与が認められることはないとされています。
会社の維持、発展に配偶者の寄与が認められるか論点となった事案
例えば、東京地判平成15年9月26日(D1-law.com判例体系ID28224959)は、不貞行為のように離婚原因をつくった夫(会社経営者)からの離婚請求に対して、妻から夫に、夫が婚姻前に設立した会社の株式に対して財産分与を請求したケースでした。この事案で裁判所は、「原被告の生活状況からすると、被告(妻)の寄与が問題となるのは、原告(夫)と被告が、継続的な同居を始めた昭和55年以降と解するのが相当である。そうすると、取得時期の観点からすると、分与の対象となる共有財産となりうるのは、原則として、その後原告が取得した財産と解すべきであるから、n所在不動産、r所在不動産、s所在不動産、A社株式は特有財産といえ、直接は財産分与の対象とならない」として、婚姻前に設立した株式につき、夫の特有財産性を認めました。
これに対して、婚姻後に設立した会社の場合、原則として財産分与の対象になります。
但し、出資の原資が婚姻前資産(あるいはその代替資産)であることもあります。
このような特有財産(婚前資産)の代替物は、同様に特有財産として扱われることが原則です。
もっとも、会社株式については、通常の資産とは異なり、その後の会社経営者、社長自身の経営努力によって価値が膨大に膨れ上がる可能性のあるものであり、純粋な資産と性質が異なる点があります。
このため、原則どおりの判断がされるかについては個別事情次第で判断されるところがあり微妙な問題です。
明らかに不公平な帰結となる場合などには、たとえ出資の原資が婚姻前資産であったとしても財産分与の対象になる可能性はあります。
相続や贈与によって得た財産は、特有財産であり財産分与の対象にならないことが原則です。
しかし、ここにも例外があり得、たとえ相続財産であっても、財産分与の対象になる場合があります。
それは、相続税・贈与税の納税原資を夫婦の共有財産から出した場合です。
相続税・贈与税の納税原資を、婚姻後に形成した預金残高からねん出していたような場合には、例えばその部分の割合相当が財産分与の対象となるなど、なんらかの枠組みで財産分与の対象とされる可能性があります。
一方相続税・贈与税の納税を、他の相続財産や贈与財産にて行っていた場合には、原則通り財産分与の対象にはなりません。
しかし、こうした納税原資について、後継者(二世社長)の方が客観的証拠をもって立証できなければ、やはり財産分与の対象になる可能性はあります。
会社株式については、その分与の方法について注意しなければいけません。
特に経営との関係で、どのような影響が生じるかを整理することが重要です(これは経営者でない側の配偶者にとっても重要なことです)。
分与の方法には、清算してする方法と現物のまま分与する方法があります。
清算してする方法とは、対象財産の帰属はそのまま変動させずに清算金の支払をさせる方法で、これが原則です。
したがって、経営権に支障は生じないのが原則です。
しかし、清算金を用意することが難しい場合は別途の検討が必要です。
清算金の負担を検討するためには、まず株式自体の価値がいかなるものかが重要となりますので、場合によっては評価会社と提携しながら効果的な評価方法を検討する必要があります。
そして、評価方法、資産形成への自らの寄与度を考慮してもなお、流動性のある資産が少なく、どうしても清算金の支払原資が不足してしまう場合もあります。その時には分与の方法を調整することが重要です。
特に、一気に株式を処分することで会社価値に悪影響が生じ得る場合などには、夫婦双方にとって望ましいことではない(ことが通常である)ため、両者共通の利益として処分方法を段階的にしたり、場合によっては株式の処分はせず、役員報酬や配当など収入を原資として分割払いの方法とするなど、会社経営権に支障がない形で清算方法を協議するべきです。
このとき、ゼロサムではなく、お互いにとって利益のあるものであることを両者がよく理解することが出発点となります。
このような両者共通の利害といえる事項については、協調できる部分ですから、株式に限らず一切の資産について同様の検討をすることになります。
すなわち、その資産の処分そのものによって生じる税金、専門家・業者コスト、処分によって生じる資産価値の減少・悪影響や、時期を調整することで相手にもアップサイドが生じる可能性があることなど、資産の特性をよく把握して整理して、ゼロサムゲームにならないよう交渉することが有益です。
資産の意義や取得方法、市場の動向、資産の評価方法、良い処分先候補の検討、処分に伴い発生するコスト、今後見込まれる価値変動及びアップサイド/ダウンサイド等、資産についての十分な理解があることは、離婚時の財産分与についての交渉や裁判を進めるにあたって極めて重要となります。
非公開会社の場合には、株式に譲渡制限が付されています。
このため、株式を処分する形で清算する場合には、譲渡制限付株式に関する処分の手続きを踏まなければいけません。
すなわち、以下の通りです。
譲渡制限付株式に関する処分の手続き
①第三者に対する譲渡を前提に、
②株主又は株式を取得した第三者が会社に対して譲渡承認を請求し、
③会社がこれを承認するか、
④会社がこれを承認しない場合には会社自身か、会社が指定する第三者が買取ることになります。
会社が株式を買い取る際には財源規制が及びますので、これにより会社が買取れない場合には、指定買取人の指定を行わなければいけません。
なお、一部を会社が、残部を指定買取人が買取るといた方法や、会社、指定買取人、第三者がそれぞれ買取るといった方法は、譲渡承認請求者(株主又は株式を取得した第三者)が同意する限りにおいて可能となります。
そもそも第三者への譲渡が行われないと手続は進みません。つまり、買い手が見つからなければ手続は進みません。
しかし、一たび手続きが進んでしまえば第三者や指定買取人が株主になるという点で経営権に変動が余儀なくされます。
そうでなくとも会社が買取る場合には会社に多額のキャッシュアウトが生じ得るという点で、会社経営には大きな支障が生じることになります。
株式を処分する形で清算する場合の譲渡制限付株式に関する処分の手続きは以上の通りです。
しかし、一気に株式を処分することで会社価値に悪影響が生じ得ることは、夫婦双方にとって望ましいことではない(ことが通常)です。
両者共通の利益として処分方法を段階的にしたり、役員報酬や配当などの収入を原資として分割払いの方法とするなど、会社経営権に支障がない形で清算方法を協議することが両者にとって良い帰結となることが多いと思います。
ここでも、ゼロサムではなく、お互いにとって利益のあるものであることを両者がよく理解することが出発点となります。
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルファンド(VC)などから出資を受けてスタートアップ・ベンチャー企業を経営している場合には、その出資を受ける際に株主間契約書を交わしており、そこでは譲渡禁止条項とこれに違反した場合のペナルティが定められています(投資契約書にて定められている場合もあります)。
そうすると、こうした非上場のスタートアップ・ベンチャー企業に係る株式については株式譲渡も株式譲渡を前提とする株式買取請求権も事実上行使できないことになります。
このため、非上場のスタートアップ・ベンチャー企業オーナーの自社株が財産分与の対象になる場合の多くは、現物での分与や換価しての分与もできません。
現実的には役員報酬や配当など収入を原資として分割払いの方法をどのように調整するかを検討することになります。
一方こうした調整を経ることなく強行手段で解決される場合には、オーナーは借入を検討すべき場合もあります。
上場企業の株式は市場価格が明確なので時価の特定は容易です。
しかし、スタートアップなど非公開会社の株式には一義的な時価がないためその評価が争いになります(なお、上場企業の株式であっても、それが報酬として付与されるものである場合には様々な制約がつけられているので、同様に評価が争いになります。)
評価には用いるべき算定方法が複数ある場合もありますし(コストアプローチ(ネットアセットアプローチ:簿価純資産法、時価純資産法(修正簿価純資産法))、インカムアプローチ(「DCF法」、「収益還元法」、「配当還元法」)、マーケットアプローチ(類似会社比較法(マルチプル法))など)、ひとつの算定方法をとってみても前提とする事実や数値によって評価幅がでることは不可避です。
VCなどから出資を受けているスタートアップの場合、バリュエーションの過程でオーナーの株価も相当なものと評価される場合があります。
しかし、通常、オーナーの株式は普通株式であって、VCなどの優先株主に劣後する内容となっています。こうした内容の劣後性の評価も重要な論点となります。
特に主要な資産については、評価レポート取得に係るコストを考慮の上、信頼性のある第三者に適切な評価を依頼することが重要といえます。
株式の評価の詳細については、別のコラムも用意していますのでそちらもご参照ください。
以上が資産評価の一般論ですが、財産分与が問題となる場面では特有の評価要素が生じます。
財産分与の論点は一切の事情を考慮して公平性の観点から判断されるものです。
この点で必ず考慮しなければいけないのは、理論上の評価額ではなく、資産の正味の価値を検討することです。
これは通常の資産評価(バリュエーション)の問題には表れない、財産分与特有の評価の論点といえます。
すなわち、資産取得自体や財産分与としての清算の過程で税金や費用等の負担が生じる場合にはこうした税金・費用等のコストの影響があることを考慮する必要があります。
なお、評価が問題となるのは、最終的な解決までの間において、その資産を処分せずに金銭での清算を要する場合や現物分与や代償分与の方法を用いる場合です。
最終的な解決までの間に実際に換価して分与する方法を用いる場合は、可能な限り高額で換価できるように良い買い手を探すのみですから、特段評価が問題になることはありません。
専ら経営者、社長の努力で会社を成長させた事情があるなど、当該努力が株価の向上に大いに寄与している場合には、財産分与割合の修正が入ることがあります。
その傾斜は個別具体的な事情によってケースバイケースであり、また、判断する裁判官によってもまちまちですが、傾斜がかかるとしても概ね6:4、あるいは7:3程度となる印象です。
過去には95:5といった極端な傾斜を示した裁判例もありますが、この事案は純粋な寄与割合の問題を離れた論点が影響しての判断であり、決して一般化できないことには注意が必要です。
株式報酬には、株式として受領するもの(リストリクテッド・ストック(RS)やパフォーマンス・シェア(PS)等)と、新株予約権として受領するもの(ストック・オプション(SO))等が含まれます。
行使条件、付与条件、譲渡制限解除条件等権利実現及びそれに続くキャッシュ化に必要となる各報酬に設けられた条件を満たしているのか、又はこれら条件を満たす可能性があるのかなど、具体的な事実関係をもとにして財産的価値の有無を検討することになります。
ただし、これら株式報酬を巡る財産分与の問題について、裁判所も弁護士側も十分な知見が蓄積しているとは必ずしもいえない状況と感じます。しかるべき正当な帰結を導くためには精確な理解のもと、確実に裁判所、相手方代理人弁護士に主張を伝え、理解させることが肝要です。
当事務所は、上場会社・非上場会社のために、ストック・オプションや株式報酬制度の設計その他資本政策の課題解決を多く手掛けており、これにより得られた知見の一部を書籍化し出版しております。
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また、株式報酬を巡る問題については別のコラムも用意していますのでそちらもご参照ください。
当事務所は、様々な株式報酬の設計・課題解決を手掛けてまいりました。これらの知見は、夫婦間の財産の清算の場面である財産分与手続においても効果を発揮しています。
入籍する前であれば、夫婦財産契約(婚前契約などと呼ばれることもあります)を必ずご活用ください。夫婦財産契約についてはこちらで詳しく解説しています。
一方入籍後の場合は、家族の状況、資産の状況、自身の投資性向等によって、実行できる手法もケースバイケースとなります。その手法の一つには婚後契約(婚姻の後にする夫婦間契約)もありますが(婚後契約についてはこちらで詳しく解説しています。)、複合的な手法を用いた対応が有益です。詳しくは当事務所まで直接お問い合わせください 。
事実婚、内縁など、結婚によらないパートナー関係の場合にも、パートナーシップ契約で手当てしておくことが重要です。こちらで詳しく解説しています。
以上、会社経営者、社長の離婚では常に重要となる「自社株の財産分与の問題」について、よく相談に上がる事項・論点となる事項にについて解説してきました。
これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を正確に整理して、正しく主張立証することが重要です。
当事務所は、上場企業、非上場企業問わず多くの株式関連法務、資本政策上の課題解決を手掛けて参りました。
これらの知見は、経営者世帯の夫婦間の財産の清算の場面である財産分与手続においても効果を発揮します。
もし、自社株の財産分与を巡ってお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。既に代理人を選任されている場合でも、当該代理人を補助する趣旨でサポートすることも可能です。
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