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2023.3.15
経営者・社長の離婚 常に重要となる論点 ~ 自社株の財産分与 ~

本コラムでは、会社経営者・社長の離婚で常に重要となる「自社株の財産分与の問題」について、Q&A形式で解説します。

ここでいう「自社株」とは、自ら経営する会社の株式のことです。
自社株を巡っては金額規模が最も大きくなる傾向があり、加えて考慮事情が多岐にわたるので、離婚問題を解決する上で重要論点になりやすいです。

しかも、夫婦二人の問題にとどまらず、会社、従業員、株主・投資家、ひいては取引先など様々なステークホルダーの利害状況も関係する点で、複雑な論点にもなりやすいものです。

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当事務所は、そうした世帯特有の問題について、過去の裁判例・審判例を踏まえた分析をもとにお客様にとって最善の解決となるようにサポートしています。

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目次
経営者の自社株と離婚に関する基礎知識
自社株の財産分与における注意点
株式の評価
  • Q8 自社株の評価(バリュエーション)はどのように行いますか
  • 財産分与の割合
    特殊な株式の扱い
    • Q10 自社株といっても、報酬として受領しているものがあります。例えば、リストリクテッド・ストック(RS。特定譲渡制限付株式)やパフォーマンス・シェア(PS)、ストック・オプション(SO。新株予約権)は、財産分与でどのように扱われますか
    • 婚前契約の重要性

       

      経営者の自社株と離婚に関する基礎知識

      Q1 会社経営者・社長の離婚の際に、自社株の財産分与が問題になりやすいのはなぜでしょうか

      富裕層世帯の方々の多くは法人を有しています。
      金融資産1~5億円の富裕層では、その約3分の1が事業オーナーであるとの調査結果があります(野村総合研究所による調査結果)。
      彼らは会社や医療法人を経営していますが、資産管理会社などの事業を営まない法人が含まれるとなればさらに多くの割合となるでしょう。

      このような会社経営者・社長の世帯の資産ポートフォリオでは、その多くの割合をこれら法人に係る株式や持分が占めています。

      そのため、離婚にともなう財産分与の額が高額になりやすく、また、他の財産をもって分与できない場合等には自社株の財産分与を検討しなければならない場合もあり、問題となりやすいです。

      このような問題に対応するためには、会社・法人の事情を分析する能力が必要不可欠です。

      決算書などの財務関係資料を読み解く能力はもちろん、分析すべき事項は事業内容・事業価値、資本政策の推移など多岐にわたり、会社運営実務や会社法分野の知見も必要です。

      Q2 婚姻前に創業していた場合には、自社株は財産分与の対象にならないのでしょうか

      会社設立が婚姻前の場合、原則として株式は財産分与の対象になりません。

      もっとも、この場合であっても、会社の維持、発展に配偶者の寄与が認められる場合には、自社株が財産分与の対象となることがあります

      会社の維持、発展に対する寄与の判断について、裁判例においては、パーティーへの同伴出席といった内助の範囲にとどまる場合には、寄与が認められることはないとされています。

      会社の維持、発展に配偶者の寄与が認められるか論点となった事案
      例えば、東京地判平成15年9月26日(D1-law.com判例体系ID28224959)は、不貞行為のように離婚原因をつくった夫(会社経営者)からの離婚請求に対して、妻から夫に、夫が婚姻前に設立した会社の株式に対して財産分与を請求したケースでした。この事案で裁判所は、「原被告の生活状況からすると、被告(妻)の寄与が問題となるのは、原告(夫)と被告が、継続的な同居を始めた昭和55年以降と解するのが相当である。そうすると、取得時期の観点からすると、分与の対象となる共有財産となりうるのは、原則として、その後原告が取得した財産と解すべきであるから、n所在不動産、r所在不動産、s所在不動産、A社株式は特有財産といえ、直接は財産分与の対象とならない」として、婚姻前に設立した株式につき、夫の特有財産性を認めました。

      財産分与の対象になるかならないかについては、こちらのコラム「特有財産の立証 ー財産分与を回避する方法ー」でも詳しく解説しています。合わせてご参照ください。

      Q3 婚姻後に設立した会社の場合は、自社株は財産分与の対象になるということでしょうか

      これに対して、婚姻後に設立した会社の場合、原則として財産分与の対象になります。

      ただし、設立時の出資原資が婚姻前資産(あるいはその代替資産)であることもあります。
      このような特有財産(婚前資産)の代替物は、同様に特有財産として扱われることが原則です。

      もっとも、会社株式については、通常の資産とは異なり、その後の会社経営者・社長自身の経営努力によって価値が膨大に膨れ上がる可能性のあるものであり、純粋な資産と性質が異なる点があります。

      このため、原則どおりの判断がされるかについては個別事情次第で判断されるところがあり複雑な問題です。

      明らかに不公平な帰結となる場合などには、たとえ出資の原資が婚姻前資産であったとしても自社株が財産分与の対象になる可能性はあります

      Q4 相続した株式は、必ず財産分与の対象にならないでしょうか

      考えるビジネスマン

      二世経営者、二世社長の財産分与

      相続や贈与によって得た財産は、特有財産であり財産分与の対象にならないことが原則です。

      しかし、ここにも例外があり、たとえ相続財産であっても、財産分与の対象になる場合があります
      例えば、相続税・贈与税の納税原資を夫婦の共有財産から出した場合です。

      相続税・贈与税の納税原資を、婚姻後に形成した預金残高からねん出していたような場合には、その部分の割合相当が財産分与の対象となるなど、なんらかの枠組みで財産分与の対象とされる可能性があります。

      一方、相続税・贈与税の納税を他の相続財産や贈与財産にて行っていた場合には、原則通り財産分与の対象にはなりません。

      しかし、こうした納税原資について、後継者(二世社長)の方が客観的証拠をもって立証できなければ、やはり財産分与の対象になる可能性はあります。

      自社株の財産分与における注意点

      Q5 経営する会社の自社株が財産分与の対象になるとして、注意すべき点はありますか。

      会社株式については、その分与の方法に注意しなければいけません。

      特に経営との関係で、どのような影響が生じるかを整理することが重要です(これは経営者でない側の配偶者にとっても重要なことです)。
      分与の方法には、清算してする方法現物のまま分与する方法があります。

      清算してする方法とは、対象財産の帰属はそのまま変動させずに清算金の支払をさせる方法で、これが原則です。
      したがって、経営権に支障は生じないのが原則です。
      ただし、清算金を捻出するために会社による自社株買いや会社からの借入れが必要な場合には経営に支障が生じることもあります。

      なお、清算金の負担を検討するためには、まず株式自体の価値がいかなるものかが重要となりますので、場合によっては評価会社とも連携しながら効果的な評価方法を検討する必要があります。

      清算してする方法がとれない場合は

      清算金を用意することが難しい場合は別途の検討が必要です。
      そして、評価方法、資産形成への自らの寄与度を考慮してもなお、流動性のある資産が少なく、どうしても清算金の支払原資が不足してしまう場合もあります。その際には分与の方法を調整することが重要です。

      特に、一気に株式を処分することで会社価値に悪影響が生じ得る場合などには、経営者・その配偶者双方にとって望ましいことではない(ことが通常である)ため、両者共通の利益のために処分方法を段階的にしたり、場合によっては株式の処分はせず、役員報酬や配当などの収入を原資として分割払いの方法とするなど、経営に支障がない形で清算方法を協議するべきです。

      夫婦双方の利益のため協調し、ゼロサムゲームにしない

      このとき、ゼロサムではなく、お互いにとって利益のある方法を両者がよく理解することが出発点となります。

      このような両者共通の利害といえる事項については、協調できる部分ですから、株式に限らず一切の資産について同様の検討をすることになります。

      すなわち、その資産の処分そのものによって生じる税金専門家・業者コスト処分によって生じる資産価値の減少・悪影響や、時期を調整することで相手にもアップサイドが生じる可能性があることなど、資産の特性をよく把握して整理して、ゼロサムゲームにならないよう交渉することが有益です。

      資産の意義や取得方法、市場の動向、資産の評価方法、良い処分先候補の検討方法、処分に伴い発生するコスト、今後見込まれる価値変動及びアップサイド/ダウンサイド等、資産についての十分な知識・理解があることは、離婚時の財産分与についての交渉や裁判を進めるにあたって極めて重要となります。

      Q6 非公開会社の株式の処分は容易ではありませんが、どのように財産分与されるのでしょうか

      夕暮れのビジネス街

      非公開会社の株式を巡る財産分与

      非公開会社の場合には、株式に譲渡制限が付されています。
      このため、株式を処分する形で清算する場合には、譲渡制限付株式に関する処分の手続きを踏まなければいけません。

      すなわち、以下の通りです。

      譲渡制限付株式に関する処分の手続き
      ①第三者に対する譲渡を前提に、
      ②株主又は株式を取得した第三者が会社に対して譲渡承認を請求し、
      ③会社がこれを承認するか、
      ④会社がこれを承認しない場合には会社自身か、会社が指定する指定買取人が買取ることになります。

      会社が株式を買い取る際には財源規制が及びますので、これにより会社が買取れない場合には、指定買取人の指定を行わなければいけません。
      なお、一部を会社が、残部を指定買取人が買取るといった方法や、会社、指定買取人、第三者がそれぞれ買取るといった方法は、譲渡承認請求者(株主又は株式を取得した第三者)が同意する限りにおいて可能となります。

      経営への支障や経営権の変動が起きる可能性を考慮する

      会社が買取る場合には会社に多額のキャッシュアウトが生じ得るという点で、会社経営には大きな支障が生じることになります。

      他方、会社が譲渡を承認する場合、承認しないものの会社自身が買取ることができない場合は、第三者や指定買取人が株主になるという点で経営権に変動が余儀なくされます。

      前述のとおり、一気に株式を処分することで会社価値に悪影響が生じ得ることは、夫婦双方にとって望ましいことではない(ことが通常)です。

      ここでも、ゼロサムではなく、お互いにとって利益のある方法を両者がよく理解することが出発点となります。

      Q7 当社はVCから出資を受けるスタートアップ企業ですが、財産分与で注意する点はありますか

      ベンチャー企業

      スタートアップ企業オーナーの財産分与

      エンジェル投資家やベンチャーキャピタルファンド(VC)などから出資を受けてスタートアップ企業を経営している場合には、その出資を受ける際に株主間契約書を交わしており、そこでは譲渡禁止条項とこれに違反した場合のペナルティが定められています(投資契約書にて定められている場合もあります)。

      そうすると、こうした非上場のスタートアップ企業に係る株式については株式譲渡も株式譲渡を前提とする株式買取請求権も事実上行使できないことになります。

      法的には、非上場のスタートアップ企業オーナーの自社株も現物での分与や差し押さえて換価することも可能なのですが、実害が大きく、夫婦双方が経済合理的に判断できる場合にはそうした事態には至りません。

      現実的には役員報酬やセカンダリー取引などの収入を原資として、分割払いの方法をどのように調整するかを検討することになります。

      一方こうした調整を経ることなく強行手段で解決される場合には、オーナーは借入を検討すべき場合もあります。

      株式の評価

      Q8 自社株の評価(バリュエーション)はどのように行いますか

      株価

      自社株の評価方法・財産分与の特殊性

      上場企業の株式は市場価格が明確なので時価の特定は容易です。
      しかし、スタートアップなど非公開会社の株式には一義的な市場価格がないためその評価が争いになります(なお、上場企業の株式であっても、それが報酬として付与されるものである場合には様々な制約がつけられているので、同様に評価が争いになります。)

      評価には用いるべき算定方法が複数ある場合もありますし(コストアプローチ(ネットアセットアプローチ:簿価純資産法、時価純資産法(修正簿価純資産法))、インカムアプローチ(「DCF法」、「収益還元法」、「配当還元法」)、マーケットアプローチ(類似会社比較法(マルチプル法))など)、ひとつの算定方法をとってみても前提とする事実や数値によって評価幅がでることは不可避です。

      VCなどから出資を受けているスタートアップの場合、バリュエーションの過程でオーナーの株価も相当なものと評価される場合があります
      増資の経過については、履歴事項全部証明書と閉鎖事項証明書を使ってその変動を追えますから容易に特定されることになります。

      しかし、通常、オーナーの株式は普通株式であって、VCなどの優先株主に劣後する内容となっています。
      こうした内容の劣後性の評価も重要な論点となります。
      その際には会社がIPOする見込みとM&Aする見込みいかんが重要な要素となってきます。
      前者なら劣後する普通株式であることは重要視されないからです。

      また、一定のバリュエーションがついた会社もエグジット時には評価額が大きく下がっていたり、そもそも売却することもできずに消滅して解散清算するようなことも起こらないものではないです。
      あらゆる会社の潜在的なリスクですが、スタートアップの場合にはその懸念が他の会社よりも大きいように思います。
      結局は「そうなる可能性」の具体性次第であり個別事情によって判断されるのですが、重要な要素だと思います。

      株式の評価の詳細については、別のコラムも用意していますのでそちらもご参照ください。

      財産分与の場面での評価要素

      以上が資産評価の一般論ですが、財産分与が問題となる場面では特有の評価要素が生じます
      財産分与の論点は一切の事情を考慮して公平性の観点から判断されるものです。
      この点で必ず考慮しなければいけないのは、理論上の評価額ではなく、資産の正味の価値を検討することです。

      これは通常の資産評価(バリュエーション)の問題には表れない、財産分与特有の評価の論点といえます。
      すなわち、資産取得自体や財産分与としての清算の過程で税金費用等の負担が生じる場合にはこうした税金・費用等のコストの影響があることを考慮する必要があります。

      なお、評価が問題となるのは、最終的な解決までの間において、その資産を処分せずに金銭での清算を要する場合や現物分与や代償分与の方法を用いる場合です。

      最終的な解決までの間に実際に換価して分与する方法を用いる場合は、可能な限り高額で換価できるように良い買い手を探すのみですから、特段評価が問題になることはありません。

      財産分与の割合

      Q9 経営者・社長の離婚で、財産分与の割合はどうなりますか

      専ら経営者、社長の努力で会社を成長させた事情があるなど、当該努力が株価の向上に大いに寄与している場合には、財産分与割合の修正が入ることがあります。

      その傾斜は個別具体的な事情によってケースバイケースであり、また、判断する裁判官によってもまちまちですが、傾斜がかかるとしても概ね6:4、あるいは7:3程度となる印象です。

      過去には95:5といった極端な傾斜を示した裁判例もありますが、この事案は純粋な寄与割合の問題を離れた論点が影響しての判断であり、決して一般化できないことには注意が必要です。

      財産分与の割合の詳細については、こちらのコラム「財産分与の割合は”常に50%”ではない 2分の1ルールが修正されるケースとは(5%、30%、40%とした裁判実例付)」もご参照ください。

      特殊な株式の扱い

      Q10 自社株といっても、報酬として受領しているものがあります。例えば、リストリクテッド・ストック(RS。特定譲渡制限付株式)やパフォーマンス・シェア(PS)、ストック・オプション(SO。新株予約権)は、財産分与でどのように扱われますか

      株式報酬には、株式として受領するもの(リストリクテッド・ストック(RS)やパフォーマンス・シェア(PS)等)と、新株予約権として受領するもの(ストック・オプション(SO))等が含まれます。

      行使条件、付与条件、譲渡制限解除条件等権利実現及びそれに続くキャッシュ化に必要となる各報酬に設けられた条件を満たしているのか、又はこれら条件を満たす可能性があるのかなど、具体的な事実関係をもとにして財産的価値の有無を検討することになります。

      ただし、これら株式報酬を巡る財産分与の問題について、裁判所も弁護士側も十分な知見が蓄積しているとは必ずしもいえない状況と感じます。しかるべき正当な帰結を導くためには精確な理解のもと、確実に裁判所、相手方代理人弁護士に主張を伝え、理解させることが肝要です

      株式報酬制度に詳しい専門家への相談を検討する

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      婚前契約の重要性

      Q11 株式を巡る財産分与トラブルを未然に防ぐ方法はありませんか。財産分与の影響をコントロールすることはできませんか。夫婦財産契約(婚前契約)はどのようなものでしょうか

      婚前契約書

      婚姻前であれば婚前契約書は必ず検討するべき

      入籍する前であれば、夫婦財産契約(婚前契約などと呼ばれることもあります)を必ずご活用ください。夫婦財産契約についてはこちらで詳しく解説しています。

      一方入籍後の場合は、家族の状況、資産の状況、自身の投資性向等によって、実行できる手法もケースバイケースとなります。その手法の一つには婚後契約(婚姻の後にする夫婦間契約)もありますが(婚後契約についてはこちらで詳しく解説しています。)、複合的な手法を用いた対応が有益です。詳しくは当事務所まで直接お問い合わせください 。

      事実婚、内縁など、結婚によらないパートナー関係の場合にも、パートナーシップ契約で手当てしておくことが重要です。こちらで詳しく解説しています。

       


       

      岩崎総合法律事務所エントランス

      岩崎総合法律事務所は、上場企業、非上場企業問わず多くの株式関連、資本政策上の課題解決を手掛けている。経営者、社長及びそのファミリー向け業務を多く扱っている。

      おわりに

      以上、会社経営者、社長の離婚では常に重要となる「自社株の財産分与の問題」について、よく相談に上がる事項・論点となる事項にについて解説してきました。
      これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を正確に整理して、正しく主張立証することが重要です。

      当事務所は、上場企業、非上場企業問わず多くの株式関連法務資本政策上の課題解決を手掛けて参りました。
      これらの知見は、経営者世帯の夫婦間の財産の清算の場面である財産分与手続においても効果を発揮します。

      もし、自社株の財産分与を巡ってお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。既に代理人を選任されている場合でも、当該代理人を補助する趣旨でサポートすることも可能です。
      ※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。

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