岩崎総合法律事務所では、上場企業・スタートアップのお客様に、ストック・オプション(SO)、リストリクテッド・ストック(RS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)など、株式報酬制度の設計・発行に係るサポートをしています。
発行や運用に係る法務だけでなく、報酬委員や外部アドバイザーとしてサポートすることも可能です。
以下では株式報酬を巡りよく質問いただく事項を簡単に取り上げています。
Q: ストックオプションを発行しましたが、割当先の一部に、ストックオプションをこのまま保持させることは不適切だと考える者がいます。取得条項の内容として、特定の事由を定めず、「取締役会が適当と認めた場合に本新株予約権のすべてを取得することができる」として定めています。これを理由にして強制取得できるでしょうか。また、その際は無償で取得できるのでしょうか。
A: 無償で強制取得できると思いますが、不合理な狙い撃ちなど特段の事情がある場合には許されない可能性があります。
通常の新株予約権は、将来の貢献を期待してバイネームで割り当てます。そうなると、どうしても期待した貢献をしない者が現れることもあり、その程度がひどい場合には新株予約権を没収したいと考える場合もしばしばでてきます。
新株予約権の内容として、取得事由が生じたことを条件として、会社がその新株予約権を強制的に取得することができる旨を定めることができ、これを取得条項付新株予約権といいます。これは強制取得であって、割当先の合意は不要です。
新株予約権の内容として、取得条項を定めるとき、株式会社が別に定める日が到来することを取得事由とすることができます(会社法236条1項7号ロ)。これは、通常は特定の事由の発生を前提とし、その上で取得するか否かの選択の余地を会社に残すために用いられるものと思われますが、とくに特定の事由を定めず、「取締役会が適当と認めた場合に本新株予約権のすべてを取得することができる」といつた定め方をすることも一概に無効とはいえないものと考えられています。
しかし、場合によっては無効になる懸念があります。または、無効にならないとしても発動が許されない場合もありえます。
取得の対価については、取得条項付新株予約権の取得の際に新株予約権者に対し何も交付しない旨を定めることも可能であり通常は無償の取得とするものと思われます。
しかし、全新株予約権者のうち一部の者のみを狙い撃ちして取得条項のトリガーを行使する場合等には無償取得の可否が争われる恐れがあります。
取得条項の有効性や発動を争われるような場合には裁判に発展する可能性があります。最終的に裁判で取得条項の発動が許されなかったと認定された場合には、会社は多額の賠償(キャッシュアウト)を余儀なくされる恐れがあります。
また、新株予約権者が誰か(割当先か、会社か)が不明確なまま推移することで、会社の資本政策が不安定になるおそれがあります。
裁判になった場合の見通しを明確に持ち、これをもとに相手と交渉し、穏便な解決を図るべきです。
とはいえ、穏便に解決できなければ最終的には裁判となりますので、その際には裁判にて決着させるとともに、交渉中も裁判になった場合を見据えて対応する必要があります。
また、放っておいても行使条件未達・不能で消滅することにならないかの検討も必要です。
行使条件は解釈の余地のある記載ぶりで発行されている場合もあり、この点は交渉の際にも有益な視点となります。
取得条項を疑義なく明確に定めその効力や発動が争われることのないようにすることが有益です。
「取締役会が適当と認めた場合に本新株予約権のすべてを取得することができる」という取得事由は必ずしも万全ではありません。この点を意識して設計しましょう。トラブル時にもこの点を意識して交渉しましょう。
『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』
著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
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