Home > Topics

2024年2月1日(木曜日)
【株式報酬】狙い撃ち的なストックオプション没収の問題

岩崎総合法律事務所では、上場企業・スタートアップのお客様に、ストック・オプション(SO)、リストリクテッド・ストック(RS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)など、株式報酬制度の設計・発行に係るサポートをしています。
発行や運用に係る法務だけでなく、報酬委員や外部アドバイザーとしてサポートすることも可能です。
以下では株式報酬を巡りよく質問いただく事項を簡単に取り上げています。

狙い撃ち的なストックオプション没収の問題

Q: ストックオプションを発行しましたが、割当先の一部に、ストックオプションをこのまま保持させることは不適切だと考える者がいます。他の新株予約権者はそのままに、問題のあるこの者だけから没収しても問題はないのでしょうか。

A: 通常問題ありません。しかし、あまりに恣意的な決定方法で、一般的な法の正義・衡平の理念(民法90条)に反するような場合には許されない場合があります。

よく問題になる事例と法律関係

通常の新株予約権は、将来の貢献を期待してバイネームで割り当てます。そうなると、どうしても期待した貢献をしない者が現れることもあり、その程度がひどい場合には新株予約権を没収したいと考える場合もしばしばでてきます。

新株予約権の内容として、取得事由が生じたことを条件として、会社がその新株予約権を強制的に取得することができる旨を定めることができ、これを取得条項付新株予約権といいます。これは強制取得であって、割当先の合意は不要です。

取得事由が生じた場合に、新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法を予め新株予約権の内容として定めておくことで(会社法236条1項7号ハ)、新株予約権のうちの一部のみを取得できるように定めることができます。実際に取得する新株予約権の一部の決定は、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議か、新株予約権の内容として別に定めた方法があればその方法によることとなります(会社法274条)。

新株予約権は株式ではないため、株主平等原則のような平等取扱い要請は通常 働きません。
しかし、あまりに恣意的な決定方法で、一般的な法の正義・衡平の理念(民法90条)に反するような決定は無効と解すべきとの見解もあります。

どのような悪影響をもたらすか

取得条項の発動を争われるような場合には裁判に発展する可能性があります。最終的に裁判で取得条項の発動が許されなかったと認定された場合には、会社は多額の賠償(キャッシュアウト)を余儀なくされる恐れがあります。
また、新株予約権者が誰か(割当先か、会社か)が不明確なまま推移することで、会社の資本政策が不安定になるおそれがあります。

事後的な対応として何をすべきか

裁判になった場合の見通しを明確に持ち、これをもとに相手(割当先)と交渉し、穏便な解決を図るべきです。
とはいえ、穏便に解決できなければ最終的には裁判となりますので、その際には裁判にて決着させるとともに、交渉中も裁判になった場合を見据えて対応する必要があります。

また、放っておいても行使条件未達・不能で消滅することにならないかの検討も必要です。
行使条件は解釈の余地のある記載ぶりで発行されている場合もあり、この点は交渉の際にも有益な視点となります。

予防のために何をすべきか

特定の者を狙い撃ちして新株予約権を取得するような場合には、新株予約権発行・割当の趣旨、新株予約権の設計内容、その者の問題性などを具体的に整理して、取得条項を発動することの正当性・合理性を整理しておく必要があります。その上で適切な手続を踏んで、所定の期間で取得条項の発動の意思決定をしましょう。

また、この点で、新株予約権を発行する段階で、新株予約権発行の趣旨を明確にし、割当先との契約でも割当の趣旨を明確にするなど、狙い撃ち的に取得条項を発動することの正当性を支えるような設計をしておくことが望ましいといえます。

まとめ

新株予約権の一部を取得することとするという定めは必ずしも万全ではありません。この点を意識して設計しましょう。トラブル時にもこの点を意識して交渉しましょう。

 
 

『株式報酬Q&A』書影

『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』

著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
 
Amazonほか各オンラインストア、出版社直販サイト、全国の書店にて


 
ページのトップへ戻る