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2024年2月16日(金曜日)
【株式報酬】ストックオプションを割当先から没収するためには

岩崎総合法律事務所では、上場企業・スタートアップのお客様に、ストック・オプション(SO)、リストリクテッド・ストック(RS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)など、株式報酬制度の設計・発行に係るサポートをしています。
発行や運用に係る法務だけでなく、報酬委員や外部アドバイザーとしてサポートすることも可能です。
以下では株式報酬を巡りよく質問いただく事項を簡単に取り上げています。

ストックオプションを割当先から没収するためには

Q: ストックオプションを発行しましたが、割当先の一部に、ストックオプションをこのまま保持させることは不適切だと考える者がいます。ストックオプションの内容として取得条項を色々と定めてあるのですが、まさにあてはまるような事情はありません。どうしたらよいでしょうか。

A: そもそも行使条件を満たす可能性があるかを検討します。この可能性が相当にあるということであれば債権放棄をしてもらうための交渉を行います。

よく問題になる事例と法律関係

通常の新株予約権は、将来の貢献を期待してバイネームで割り当てます。そうなると、どうしても期待した貢献をしない者が現れることもあり、その程度がひどい場合には新株予約権を没収したいと考える場合もしばしばでてきます。

新株予約権の内容として、取得事由が生じたことを条件として、会社がその新株予約権を強制的に取得することができる旨を定めることができ、これを取得条項付新株予約権といいます。
これは強制取得であって、割当先の合意は不要です。
しかし、この取得条項の定めがない場合や、定めがあっても実際の事案に当てはまらない場合は強制取得できません。
このような場合、割当先は会社に対して新株予約権者としての債権者の立場にあり、会社は債務者の立場にあります。すなわち契約関係にあるということです。
したがって、取得条項の定めがない場合や、定めがあっても実際の事案に当てはまらない場合には、割当先と交渉して債権放棄をしてもらう必要があります。
これは交渉ですから割当先からは相当の対価を要求される場合があります。

どのような悪影響をもたらすか

債権放棄させられなければその者が引き続き新株予約権者となり、ひいては株式を取得して株主になる可能性があります。
債権放棄の交渉にあたっては不当に高い金額を要求されるおそれがあります。

事後的な対応として何をすべきか

債権放棄のための交渉を行う場合、当該新株予約権の評価、将来行使条件を満たすかどうかの確度や見通し、行使した場合の株式取得及び株式売却にかかる課税分を差し引いた後のネットの金額はいくらになるかなどを正確に分析することが出発点となります。
その上で相手となる割当先と一定の共通理解を形成し、この共通理解の基準をベースラインとして条件を交渉していきます。

また、そもそも債権放棄させる必要があるか、すなわち放っておいても行使条件未達・不能で消滅することにならないかの検討も必要です。
行使条件は解釈の余地のある記載ぶりで発行されている場合もあり、この点は交渉の際にも有益な視点となります。

予防のために何をすべきか

取得条項として、強制取得すべき場面として予想される事態を具体的に網羅しておくべきです。
とはいえ、将来のことであり必ずしも予測しきれないこともあるため、特定の事由を定めず、「取締役会が適当と認めた場合に本株予約権のすべてを取得することができる」という内容も定めておくべきです(ただし、この条項のみでは法的に不安定な側面があり依存するべきではないので、具体的に取得事由を明記することは重要です)。

また、将来の貢献を期待してバイネームで割り当てるのではなく、実際の貢献度合いを事後的に評価して割り当てるといった方法も、このような紛争予防には効果があると言いえます。このような事後的な割当ての方法は信託を利用した新株予約権の割当ての方法で行います。

まとめ

ストックオプションを没収することは相手(割当先)の権利を没収することと同義なので、当初からこれを可能とする設計をしていない限りは、交渉に拠らざるを得ません。交渉は双方のパワーバランス、ベースラインを検討して進めることになりますが、紛争になれば裁判に発展するおそれもあるため、裁判の可能性を見据えて慎重に対応する必要があります。

 
 

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『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』

著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
 
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