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2024年5月31日(金曜日)
資産管理会社とは何か 5つの役割と4つの注意点

資産管理会社とは、どのようなものでしょうか。

資産管理会社とは、その名のとおり資産管理を目的とする法人であり、富裕層、資産家の方の多くが保有しています。
所得税や相続税対策などの税金対策のほか、会社のガバナンス対策(株式分散防止)、名誉保護など様々な機能を担います。ファミリーのガバナンスを効かせるべく、ファミリーオフィスとして活用されている方もいます。

本コラムでは、こうした資産管理会社の代表的な5つの役割とともに、資産管理会社をよりよく活用するための4つの注意点を、富裕層法務に携わる弁護士が解説します。

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資産管理会社の5つの役割

1. 所得税対策

まず、資産管理会社を、資産家や経営者個人の所得税対策のために利用できる場合があります。

所得水準の高い富裕層は、所得が増えるほど税率が高まる累進課税制度のため、きわめて高い税率にて所得税を負担しなければなりません。そこで、個人ではなく法人の所得とすることによって個人の所得を増やさないようにします。

また、親族が法人の役員として務めることで所得を分散させることができます。

他にも、経費計上の利点 (社宅の費用や日当費などは個人事業では経費計上できませんが、法人の場合には経費計上できます)、繰越損失の繰越控除可能期間が延びること、損益通算の利点(個人の場合所得区分を超えての損益通算ができないものがあります)などによって課税負担を軽減できます。

また、配当金に係る課税対策のためにも資産管理会社を利用できる場合があります。個人の受取配当金に関する課税は、非上場株式の場合は総合課税扱いとなり、上場株式の場合も保有株式数量が発行済み株式総数の3%以上だと、同様に総合課税扱いとなります(ただし、3%未満だと分離課税を選択することができ、その税率は20.315%です)。一方、法人の受取配当金に関する課税は4段階方式となっており、例えば自己株式を除く発行済み株式総数の3分の1を超えて保有する場合には、負債利子控除の上、受取配当金は100%益金不算入扱いとなります。

2. 財産評価対策 (相続税対策)

資産管理会社は、相続税における財産評価対策に利用できる場合もあります。

例えば、資産管理会社の株式の評価を純資産価額方式で評価する際、その保有資産の含み益に対して37%を控除することができます(財産評価基本通達 186‐2)。なお、株式等特定保有会社(株式が総資産に対して占める割合が50%以上の会社、いわゆる株特会社のこと)である場合には、原則として純資産価額方式で評価されます。

3. ガバナンス対策

株式分散防止のために資産管理会社を活用する場合もあります。

個人名義で事業会社株式を保有している場合に、なんら用意のないまま死亡すると、事業会社株式が分散してしまうおそれがありますが、資産管理会社名義で保有すれば対策のための選択肢が広がります。

4. 名誉・ レピュテーションの保護

名誉レピュテーション(世間からの評価、風評)の保護のためにも資産管理会社を利用できる場合があります。例えば、特定の投資行動について資産管理会社名義で行う方が良い場合もありえます。

5. ファミリーオフィス(ファミリーガバナンス)

以上の役割を持った資産管理会社について、ファミリーガバナンス(一族の資産防衛や末永い繁栄のための仕組み。詳細はこちらで解説しています)の一部として、ファミリーオフィスの機能を持たせる場合もあります。

そこでは、財産運用や、ファミリーの為の支出を管理することを通じて、現在と未来におけるファミリーの支えとすることができます。相続税も考慮してなるべく多くの資産を誰にいくら残すか、という旧来型の方法に対して、何のためにどのように残すかを設計することもでき、資産の承継にファミリーへの思いを反映しやすくなります。

また、事業会社がある場合には、所有と経営の分離に対する考えをベースに、ファミリーとビジネスのバランスを図ったり、ファミリーの暴走や紛争を防止するため、株主としての会社法上の権利を制限することや一族の調和を測るための仕組みを導入することもできます。

資産管理会社を活用する際の4つの注意点

1. 消費者契約法上の注意点

消費者契約法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です(消費者契約法1条)。

消費者契約法を活用すれば、「消費者」にとって不利な契約書の条項の無効にすることが可能です。すなわち、契約書にて事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項、事業者の故意又は重過失に拠る場合損害賠償責任の一部を免除する条項、事業者が責任の有無や限度を自ら決定する条項、解除権を放棄させる条項、解除権の有無を事業者が決定する条項、消費者の利益を不当に害する条項 (平均的損害額を超過するキャンセル料条項その他任意規定の適用による場合と比べて消費者の権利を制限し又は義務を過重する条項であって信義則に反し消費者の利益を一方的に害する条項)などがある場合、「消費者」は、これらの条項の無効を主張することができます。

ここで「消費者」とは、個人を指すものとされています(同法2条)。つまり、法人は原則として「消費者」に含まれず、消費者契約法の保護を受けることができません
逆に、取引の相手方が個人である場合に、こちらが資産管理会社を当事者として取引すると、相手方個人が消費者契約法上の保護を得る強い立場に立つこともあります。

なお、「個人」であっても事業として又は事業のために契約の当事者となる場合であれば、消費者契約法の保護は受けられません。また、「法人」であっても事業の実態がなく、個人と同視できる場合には消費者契約法の保護を受けられる余地もあります。もっとも、事業をしているのか、個人と同視できるかはときに微妙な判断を伴うものです。この点ではまずは形式的に名義が個人なのか法人なのかが重要になるといえるでしょう。

初めからトラブルになると思って取引する方はいないのですが、とはいえそうした危険の度合いやリスクの大きさを考慮して万一のトラブル時を想定してあえて個人で取引するべきかは検討しても良いと思います。

2. 贈与における注意点

贈与税についても、個人名義で行うか、資産管理会社(法人)名義で行うかによって課税の扱いが異なるため、注意が必要です。

つまり、贈与者、受贈与者それぞれ個人・法人の場合の4パターンで課税のかかり方が異なるのです(取得時点だけでなく、特定物の場合には転売時のキャピタルゲイン課税も変わります)。

将来、贈与を予定している場合には、こちらもよく検討しておくべきです。

3. ガバナンス上の注意点

種類株式や定款上の属人的定め、株主間契約や信託を利用するなどして資産管理会社のガバナンスを効かせるべきです。

資産管理会社については相続税対策等を目的としてファミリーが株主となっている場合が多くありますが、その者の暴走によって望まぬ事態になりかねません。

予めガバナンス体制を敷いておくことで、トラブルの回避や事態の収束・回復を図ることができます。

4. 相続時の注意点

上記のガバナンス上の注意点とも重なりますが、資産管理会社の承継について民法上の原則どおりの遺産分割に任せると、相続人間で争いが生じてしまいます。「争族」などとも呼ばれる紛争を予防するためにも、資産管理会社株式の承継方法については、遺言書で明確に定めます。

なお、遺留分対策の趣旨で資産管理会社の株式を複数人に承継させるのであれば、二次相続以降に分散していくことのないよう、相続人死亡時など一定事由のある場合に株式を特定の者に集中できる仕組みを作ることが必要です。
この時、株主どうしが結託して会社が乗っ取られるリスクや、「相続人に対する売渡請求」が行われることにより支配権が一部の者に奪われるリスク等のいわゆる相続クーデターへの備えは万全のものとしておかなければいけません。

 

岩崎総合法律事務所が提供する富裕層法務サービス Legal Prime® では、資産管理会社の設計や運用のサポートを行っています。ご関心をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせくださいませ。

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