税制適格ストック・オプションを巡る最新の動向と、発行済みのストック・オプションへの影響(変更の可否)についてはこちらのコラムで解説させていただきました。
以下では、税制適格ストック・オプションの内容を変更する場合の留意点について、Q&A形式で解説させていただきます。
令和6年度(2024年度)税制改正による変更点(年間権利行使価額の限度額引上げと、株式の保管委託要件の緩和)を既存のストック・オプションに適用させるためには、2024年12月31日までに所定の変更手続を行う必要があります。ご関心がある場合はお早めに当事務所にご相談ください。
株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決については、弊所代表 岩崎隼人弁護士が執筆した書籍『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A』(2024年5月19日発売)に記載していますので、ぜひお買い求めください。
『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』
著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
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事後的にストック・オプションの「内容」を変更・追加してしまうと、税制適格性が否定される可能性があります。
国税庁は、発行当初の付与契約の内容に従ってストック・オプションが行使されているかを重視しているため(国税庁「吸収合併により消滅会社のストックオプションに代えて存続会社から交付されるストックオプションについて権利行使価額等の調整が行われる場合」)、自由な内容変更は認められていません。
ただし、以下3点については明示的に変更が認められています。
(それぞれの詳細についてはこちらのコラムをご覧ください。)
従前、税制適格ストック・オプションの要件を満たすためには、証券会社などに行使により取得した株式の保管・管理等を委託する必要がありました。
そして、仮に委託先の証券会社を見つけ出すことができても、証券会社に保管を委託するためには株券発行会社へ移行する必要があるものと解釈されていました。
この負担が非上場会社にとってとても大きいものであり、M&Aエグジットの障害になっていました。
2023年、国税庁から「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(2023年5月公表、同年7月改訂。以下「国税庁Q&A」といいます。)が公表され、上場会社だけでなく、非上場会社においても株券の発行は必須ではないと整理されました。
その結果、発行会社が未上場かつ株券不発行会社である場合には、契約等に基づき、発行会社から金融商品取引業者等に対して株式の異動情報が提供され、かつ、発行会社においてその株式の異動を確実に把握できる措置が講じられている場合には、「金融商品取引業者等の振替口座簿に記載若しくは記録を受けること」に相当するものであることから、株券の発行及び株券の金融商品取引業者等への引渡しをせずとも、保管委託要件を満たすこととなりました(国税庁Q&A18頁)。
税制適格ストック・オプションとして認められるためには、新株予約権の行使に係る1株当たりの権利行使価額について、1株当たりの価額に相当する金額以上とすること、要するに時価以上とすることが必要です。
従来、この時価の算定方法について確定的なルールがありませんでしたが、2023年7月、国税庁は、「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)を改正しました。
改正後の通達では、税制適格ストック・オプションの権利行使価額について、非上場会社の場合には、たとえ直近に増資がある場合や売買実例のある株式であっても財産評価基本通達(配当還元方式や純資産価額方式)によって算定できることになりました。
また、スタートアップが発行している他の種類株式の発行価額を、権利行使価額に反映させなくてよいことが明確となりました。
令和6年度(2024年度)税制改正により、保管委託要件の一部緩和や年間行使価額の限度額の引上げが行われました。
同改正に係る経過措置として、2024年12月31日までの間に、上記改正された点に関して割当契約書を変更した場合には、2024年3月31日以前に締結された割当契約(発行時点で税制適格ストックオプションの要件を満たしているものに限ります。)についても、改正された内容(保管委託要件については発行会社による管理、年間行使価額については最大3,600万円までの拡充)をもって税制適格ストック・オプションの要件を満たすこととされています。
期間制限(2024年12月31日まで)が設けられていますので注意が必要です。
発行段階で税制適格要件を満たしていないストック・オプションについては、事後的に税制適格要件を満たすように変更することはできません。
※税制適格性との関係で変更が許されるのは発行段階で税制適格要件を満たしているものに限られるということです。
国税庁への照会案件(国税庁「ストックオプション契約の内容を税制非適格から税制適格に変更した場合」)に対する回答
「新株予約権等を与えられた当初の付与契約が税制適格要件を満たさないものについては、権利行使前に契約内容を変更して税制適格要件を満たすものにしたとしても、租税特別措置法第29条の2の規定を適用して、株式の取得による経済的利益を非課税とすることはできません。」
所定の要件を満たす限り、以下3点について、既に発行済みのストック・オプションに適用することが可能です。
ただし、繰り返しになりますが、変更が許されるのは、発行段階で税制適格要件を満たしているものに限られます。
また、変更後のストック・オプションの「内容」が、付与決議で定めたストック・オプションの「内容」に反することとなる場合(例:契約変更後の権利行使価額が付与決議で定めた権利行使価額に反することとなる場合)には、当該「内容」を変更する決議も必要になります。
既に発行済みのストック・オプション(発行時点で税制適格ストックオプションの要件を満たしているものに限ります。)であっても、国税庁Q&Aの公表前に税制適格ストック・オプションの付与が行われ、かつ、国税庁Q&Aの公表後において権利行使が行われていない場合には、株券の保管の委託に関する契約の変更および株式の異動を確実に把握できる措置を講じることにより、株券の発行および株券の金融商品取引業者等への引渡しをせずとも、保管委託要件を満たすことができます(参考:国税庁Q&A18頁)。
株式の異動を確実に把握できる措置とは、例えば、税制適格ストック・オプションの付与に関する契約において、税制適格ストック・オプションの行使の際に、発行会社が指定した金融商品取引業者等への売り委託または譲渡以外の方法で株式を譲渡した場合に、発行会社は、その株式を没収するとともに権利者に対して違約金の支払いを求めることができる事項を設けることが考えられます。
既に発行済みのストック・オプション(発行時点で税制適格ストックオプションの要件を満たしているものに限ります。)であっても、権利行使価額を引き下げる契約変更を行った場合(同通達に定めた権利行使価額に関する要件を満たす範囲に限ります。)には、税制適格ストック・オプションの要件を満たすとされています(参考:国税庁Q&A17頁)。
既に発行済みのストック・オプション(発行時点で税制適格ストックオプションの要件を満たしているものに限ります。)であっても、2024年12月31日までの間に契約を変更した場合には、今回改正された内容(年間行使価額については最大3,600万円までの拡充、保管委託要件については発行会社による管理)をもって税制適格ストック・オプションの要件を満たすとされています(参考:租税特別措置法附則31条2項)。
改正内容の詳細をお知りになりたい場合や、既に発行済みのストック・オプションについて税制改正の適用を検討されたい場合は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。
既に発行済みの税制適格ストック・オプションを、税制改正後の新制度(年間行使価額については最大3,600万円までの拡充、保管委託要件については発行会社による管理)へ移行するためには、2024年12月31日までの変更手続が必要ですので、こちらをご検討させる場合は、お早目のご相談をおすすめします。
岩崎総合法律事務所では、上場企業・スタートアップのお客様に、ストック・オプション(SO)、リストリクテッド・ストック(RS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)など、株式報酬制度の設計・発行に係るサポートをしています。発行や運用に係る法務だけでなく、報酬委員や外部アドバイザーとしてサポートすることも可能です。
『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』
著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
Amazonほか各オンラインストア、出版社直販サイト、全国の書店にて。本書をご購⼊いただいた⽅先着50名様に限り、税制適格ストック・オプションの変更を含む株式報酬のコンサルティングを1時間分無償で提供させていただきます。詳細についてはこちらの紹介ページもご覧ください。