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本コラムでは、離婚に伴う財産分与の際によく問題となる財産分与の割合について取り上げます。
財産分与の割合は原則として2分の1とされており、これは実務上強固なルールとなっています。2分の1ルールと呼ばれるものです。
しかし、例外的にこのルールが修正される場合もあります。
様々な事情が考慮された結果、40%、30%、5%のように傾斜がかかった事例があります。
但し、後記の通り、例えば5%だからといって勝訴的(敗訴的)というものでは必ずしもないことには注意が必要です。
財産分与の割合は、財産分与の対象となった財産を最終的にどのような割合で分割するか、というとても重要な論点です。
才能、努力等の夫婦それぞれの特殊事情が財産分与の割合の判断に影響しうるということを聞いたことがある方はいらっしゃるかもしれません。
しかし、それがどの程度のものかはご存知ない方も多いように感じます。また、こうした事情以外の事実が財産分与の割合に大きな影響を及ぼすことがありますが、これもご存知ない方が多いように感じます。
そこで以下では、財産分与の割合に関する以下の9つのトピックを、Q&A形式で解説していきます。
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Q. まずは財産分与の割合の一般論について教えてください。
まず、財産分与の割合の一般論について説明します。
財産分与とは、婚姻中に形成された夫婦の共有財産を分け合う手続です。
そして、財産分与の割合を決定するにあたっては、原則として「2分の1ルール」が適用されます。
「2分の1ルール」とは、婚姻期間中に形成した夫婦の財産への寄与の割合が夫婦間で等しいものと考えて、財産を2分の1ずつ分け合うというルールです。
2024年5月に成立した改正民法(令和6年法律第33号)では、原則として寄与の割合は「相等しいもの」と規定され、「2分の1ルール」が明文化されています。
令和6年法律第33号による改正後の民法768条(公布から2年以内に施行予定)
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から五年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。
裁判実務では、法改正の前後にかかわらず、この「2分の1ルール」が強力なルールとなっています。
後に説明するような特段の事情が存在しない限り、財産分与割合は2分の1となります。
Q. 結婚後に設立した会社が成功し、約20億円の資産を形成しました。この場合にも、財産分与の割合は2分の1となりますか。
前記のとおり、財産分与の割合は原則として2分の1とされますが、これには例外もあります。
「2分の1ルール」の例外の一つとして、特別な資格や能力により婚姻後に高収入が得られた場合が挙げられます。
この場合、例外的に財産分与の割合に傾斜がかけられる可能性があります。
特別な資格や能力の例としてよく挙げられるのは医師などの有資格者ですが、経営者の経営能力であっても財産分与の割合に傾斜がかけられるケースはあります。
「2分の1ルール」が特別な資格や能力を理由に修正されるような場合、その割合は個別具体的な事情によってケースバイケースですが、修正される場合の割合は、概ね6:4程度にとどまる印象です。
例えば、主婦である妻が、病院(医療法人)経営者で医師でもある夫に対して、共有財産(約3億円)の半額(1億5000万円)を請求し、その妻の寄与割合が40%と認定された事例があります。
主婦である妻が、病院(医療法人)経営者で医師でもある夫に対して、共有財産(約3億円)の半額(1億5000万円)を請求し、寄与割合を6:4と認定した事例
(大阪高裁平成26年3月13日判決)
裁判所は、2分の1ルールが基準となることは認めつつも、高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合には2分の1ルールの修正を検討するべきであると判断しました。そして、こちらのケースでは、「医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや、医師の資格を有し、婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して」、医師である夫とその妻の寄与割合を6:4と認定し、約1億2000万の限度で妻への分与を認めました。
もっとも、実務において2分の1ルールは強力なルールです。
上述した改正民法768条3項でも明文化されているように、「2分の1ルール」と異なって扱われるのは寄与の程度が異なることが「明らか」であるときに限られています。また、財産分与の割合に傾斜がかけられるかどうかは担当する裁判官によっても判断が異なり得るところです。
財産分与の割合に傾斜をかけたい側は、積極的かつ詳細に主張立証を行っていくことが重要です。
Q. 配偶者はもっぱら家事に従事していました。会社の経営には関与していませんが、これをもって財産分与の割合が低くなることはありますか。
配偶者がいわゆる専業主婦(夫)であり会社の経営に全く関与していない場合であっても、この事情のみをもって会社の株式の財産分与割合に影響が生じることはおよそないでしょう。
裁判実務では、事業に集中できる環境があったのは他方配偶者の家事労働のおかげであるといったように評価します。会社の経営に関与していないという一事をもって割合を下げたりはしません。
Q. 配偶者は働いていませんが、家事もほとんどしません。それどころか私が家事や育児の多くを担当しています。私が仕事で手が回らないときはシッターや家政婦も雇い、一定の費用も投じています。こうした場合には財産分与の割合が低くなることはありますか。
前記のとおり、家事労働そのものも財産形成に寄与しているといえます。
であるからこそ、財産分与の割合は2分の1となります。
このため、働くことも家事・育児もしない配偶者の場合には、その程度にもよるでしょうが、財産分与の割合は低くなるでしょう。
収入がほぼ等しい夫婦の事例ですが、家事育児を一方のみが行っている場合に、割合を6対4に調整した裁判例があります。つまり、家事育児をしていない方の寄与割合は40%とされました。
家事育児を一方のみが行っている場合に、割合を調整して6対4とした裁判例
(東京家裁平成6年5月31日付審判)
「財産分与の清算割合は、本来、夫婦は基本的理念として対等な関係であり、財産分与は婚姻生活中の夫婦の協力によって形成された実質上の共有財産の清算と解するのが相当であるから、原則的に平等であると解すべきである。しかし、前記認定の申立人と相手方の婚姻生活の実態によれば、申立人と相手方は芸術家としてそれぞれの活動に従事するとともに、申立人は家庭内別居の約9年間を除き約18年間専ら家事労働に従事してきたこと、及び、当事者双方の共同生活について費用の負担割合、収入等を総合考慮すると、前記の割合を修正し、申立人の寄与割合を6、相手方のそれを4とするのが相当である。」
ただし、就労しない配偶者が家事育児をやっていなかったことの立証は、家庭生活が連綿と続くものである以上相当の困難さがあります。
DVに相当するような育児放棄などがあれば別ですが、そうでない場合にはどのような証拠を整理するかはよく検討しなければいけません。
Q. 私は結婚前から約10億円の資産を保有していました。結婚後に約30億円の資産を築きましたが、結婚期間中の生活費は婚前の10億円から支出していました。この場合でも、結婚後に形成した30億円の資産は2分の1の割合で財産分与されますか。私に有利な割合になりませんか。
まず、婚姻前から保有している財産は、特有財産として財産分与の対象となりません。
特有財産から夫婦の生活費を支出している場合には、特有財産の犠牲の上で、婚姻後の財産が維持されて増加したと捉えることもできます。
財産分与の精神は公平な財産の清算ですが、自らの特有財産を費消してまで夫婦生活を維持したにもかかわらず、婚姻後に得られた財産が原則どおり2分の1の割合で分与されることとなれば不公平になってしまうといえます。
そのため、このようなケースでも財産分与の割合に傾斜がかけられる可能性があります。
なお、婚姻前の財産に対する財産分与を回避するには徹底した分別管理が重要です(詳細はこちらのコラム をご参照ください)。
婚姻前の財産を生活費に供することで財産分与の割合に傾斜がかかることがあっても、そもそもの婚姻前の財産の特有財産性が失われる可能性があります。
財産分与の論点はそれぞれが相互関連性を持ちます。
割合の論点だけでなく、他の論点への影響も併せて考察しなければなりません。
Q. 私が結婚前から保有している銀行口座には5億円の残高がありました。結婚期間の途中にこの口座から夫婦の生活費を入出金することはありましたが、現在でも、口座残高は5億円以上でキープされています。結婚時点で既に5億円の残高があり現在も5億円を保有しているのですから、口座の5億円は、私に財産分与されることになりますか。
まず、ご相談の口座残高の特有財産性について説明します。
婚姻前から保有している口座であっても、この口座内で夫婦の生活費のために入出金が行われている場合には、特有財産性が否定されるリスクがあります。口座内で夫婦の生活費が激しく入出金されている場合には、5億円の口座残高の特有財産性が否定される可能性が高いです。
他方、婚姻前から保有している口座残高から生活費を支出したことにより夫婦の生活が維持されたと評価できるなどの場合には、財産分与割合で考慮される可能性は十分にあります。
もっとも、預貯金残高の場合には、婚姻期間の長短等といった個別具体的な事情により判断が異なり、過去の裁判事例などをもとにした検討が必要となります。
下記裁判例では、婚前に上場を果たしそれによって150億円の資産を形成したものの、適切に管理しておらず特有財産の立証に失敗してしまったケースにおいて、そこでは150億円の資産が財産分与の対象とはされましたが、5%を渡せばよいものと判断されています(なお、この事例では、他にも様々な要素が判断されてこうした結果になっており、事例ごとの判断、そして裁判官ごとの考え方に影響を受けることには注意が必要です)。
主婦である妻が、東証一部上場企業経営者である夫に対して、共有財産(約220億円)の半額(約110億円)を請求したケース
(東京地裁平成15年9月26日判決)
裁判所は、「共有財産の原資はほとんどが原告(注:夫)の特有財産であったこと、その運用、管理に携わったのも原告であること、被告(注:妻)が、具体的に、共有財産の取得に寄与したり、A社の経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面 を認めるに足りる証拠はないことからすると、被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。」として、共有財産の5%(10億円)の限度でしか財産分与を認めませんでした。
他にも、共有財産の形成に配偶者の特有財産が大きく貢献していることを理由に、財産分与の割合を36対64としたケースがあります。つまり、他方配偶者の寄与割合が36%とされました。
共有財産の形成に配偶者の特有財産が大きく貢献していることを理由に、財産分与の割合を36対64としたケース
(東京高裁平成7年4月27日判決)
裁判所は、「特有財産の換価代金と婚姻中に蓄えられた預金等を併せて取得した財産も夫婦の共有財産に当たるもので、財産分与の対象となるものであり、ただ、財産分与の判断をするに当たって、その財産形成に特有財産が寄与したことを斟酌すれば足りるものと言うべきである。」と認定した上で、「夫婦共有財産形成には控訴人(注:夫)の特有財産が大きく貢献していること」等といった事情から、共有財産の約36%を妻に分与すると判断しました。
Q. 私は多くの不動産を保有しています。その不動産の中に、結婚後に約5億円で購入したマンションがあります。このマンションは購入原資の8割近くは、私が婚前から持っていた預金から支出しています。財産分与にあたって、このマンションはどのように分与されますか。
財産分与にあたっては、通常、基準時(多くの場合別居時です。)の夫婦の財産の額を全て合算した上で、夫婦の総財産を、決定した財産分与の割合に従って分与します。
たとえば、夫の全ての財産の合計額が5億円、妻の全ての財産の合計額が3億円の場合、夫婦の総財産は8億円となります。
そして、決定した財産分与の割合が2分の1の場合、夫が妻に分与する財産の額は1億円となります(計算式:夫婦の総財産の2分の1である4億円-妻の全ての財産の合計額3億円)。
もっとも、財産分与の対象となる財産が複数あり、購入原資への出資割合等といった点で財産ごとに取得にあたっての寄与度が異なり、そのことが証拠上明らかである場合などには、その財産ごとに財産分与の割合が決定されることもあり得ます。
ご質問の場合には、このマンションのご相談者への分与割合は8割程度となる可能性が高いものと思われます。
Q. 結婚後、配偶者が私の財産を多く浪費してしまいました。この場合でも財産分与の割合は同一ですか。
一方の配偶者が婚姻後に形成した財産を他方の配偶者が浪費した場合に、財産分与の割合に傾斜がかけられる可能性はあります。
ただし、財産分与の割合に傾斜がかけられるかどうかの判断にあたっては、資産状況等に比して浪費が常識的な範囲を逸脱したものであるか等が考慮されます。傾斜がかけられるか否かは具体的事情により異なりますので、お悩みの方はご相談ください。
Q. 結婚後に私が資産を築くことができたのは私の経営能力によるところが大きく、配偶者もそれは認めてくれています。ですが、実際に離婚となった場合には配偶者や裁判所にそのように評価されないかもしれず不安です。今の時点で何かできることはありませんか。
多くの資産を有するご家庭では婚前契約(夫婦財産契約)を締結して備えておくケースが多いですが、婚前契約はその名のとおり、婚姻前に締結しなければならないものです。
それでは、婚姻後に夫婦間で財産について取り決めることが一切できないか、というとそうではありません。
これまでご説明してきたとおり、財産分与の負担額は一義的に算出されるものではなく、特定(立証)された事実をもとに法的評価を踏まえて決められることとなります。
婚姻後であっても、「婚後契約」により配偶者と合意することで財産分与に備えることが可能である場合があります(婚後契約についてはこちらで詳しく解説しています)。
以上、財産分与の際によく問題になる財産分与の割合について、その判断にあたって影響する事情や、婚姻期間中に取り得る対策について解説してきました。
もし、お悩みの方は、初回のご相談は30分間無料ですので、お気軽にご相談ください。
岩崎総合法律事務所には、富裕層向けコンサルタント資格であるプライベートバンカーライセンスを保有する弁護士が所属しており、これまで様々な富裕層、資産家の方を対象にリーガルサービスを提供しています。婚前契約(夫婦財産契約)や婚後契約の作成についても多くの実績があります。