今回のコラムでは、財産分与において、夫婦の財産ではない第三者の名義の財産がどのように扱われるのかについて取り上げます。
例えば、会社は法人として夫婦とは別の存在であり、第三者です。
この法人に資産を集中させている(内部留保を膨らませている)ような場合、会社名義の資産を配偶者個人の資産として財産分与の対象に含めることがありうるのでしょうか。
また同様に、子どもも夫婦とは別の存在であり、第三者です。
資産家の世帯では、相続対策のために生前贈与を行ったり、所得分散の趣旨で子どもに一定の所得を得させていることがあります。子どものために財産を積み上げているケースも多いのです。
こうした子どもの財産はどのように扱われるのでしょうか。
これらは、例えば上場準備時に資産管理会社や子どもの法人などに株式を移動している場合、とても大きな論点になります。それは第三者名義の財産規模がとても大きく、それでいて純然たる第三者として夫婦から切り離せるか疑問が残る場面だからです。
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子ども名義の資産
会社経営者は自身が運営する会社で財産を形成している場合があります。
法人が所有している財産は、法人という当事者以外の第三者が所有している財産であり、配偶者が所有している財産ではないため、財産分与の対象とならないのが原則です。
もっとも、原則として会社の財産が財産分与の対象にならないとしても、配偶者個人が所有している当該会社の株式は分与の対象となります。
配偶者の経営している会社の株式価値を算定するにあたっては、会社の資産保有状況等も考慮されることになり(非上場株式の評価方法については、こちらのコラムをご参照ください)、この文脈では、配偶者が会社で保有している資産は財産分与の際に考慮要素となるといえるでしょう。
特有財産(財産分与の対象にならない財産)には、一定のカテゴリーがあります。婚前の財産はその代表的なものの一つです。
このため、婚前に設立された会社の株式は特有財産として、財産分与の対象にならないということが一つの帰結です。
ただし、この帰結は絶対のものではありません。
配偶者自身は十分な役員報酬を得ておらず会社に内部留保を溜め込み、そのような運用の結果として会社の価値が高くなっているケースもあります。そしてこの場合、配偶者個人としてはほとんど資産を保有していません。
そうであるにもかかわらず、単に婚姻前に設立されたという点のみをもって、会社の株式が特有財産とされ財産分与の対象にならないのは公平に反すると感じるのではないでしょうか。
そこで例えば、財産分与を求める側に会社経営への具体的な貢献がある場合には、その貢献をもってその財産(会社)が維持されてきたとして、婚前の財産であっても財産分与の対象とすべきという主張が考えられます(実際そのように判示する裁判例もあります)。
また、株式そのものでなくとも、入籍してからの会社価値の上昇分が対象になるという場合も事情によってはあり得るでしょう。
過去のいくつかのコラム※でも触れていますが、特有財産をカテゴリーだけで考えることはできません。
財産分与の趣旨に基づき個別の事情ごとに様々な論点を検討しなければならないのです。
裁判手続を要する場合には、徹底的な主張立証を要するものです。
※例えばこちらのコラムをご参照ください。
例えば、実質的に法人をあたかも自身の財布のように使用しているにもかかわらず、ただ法人が所有しているというだけで、法人の資産が財産分与の対象にならないのは素朴な感覚として公平に反します。
このような不公平感から、会社名義であっても、配偶者個人の財産とみなして、会社名義の財産が財産分与の対象になるケースはあります。
このように判断した一例として、広島高岡山支判平成16年6月18日判例時報1902号61頁があります。
この裁判例では、同族会社であること、法人が夫婦の所有するマンションの管理会社として設立された会社であること等から、会社名義の財産が財産分与の対象とされました。
このケースは、実際のところ、財産を法人に帰属させるか、個人に帰属させるかの判断を会社の代表者である配偶者が行うことができること等から、実質的に法人と個人の財産が一体とみれるようなケースでした。
個別事情次第では、このように配偶者が会社で保有している財産そのものが財産分与の対象になることもありうるでしょう。
会社の資産を配偶者個人の資産とみなして、財産そのものを直接財産分与の対象としたほうが財産分与額は高くなる可能性があります。
例えば、配偶者が経営する会社の株式の価値を評価するにあたっては、会社の純資産額等が考慮されます。そこでは、会社が抱えている債務も考慮して株式の評価額が決定されることになります。
他方で、会社の資産を直接財産分与の対象とする場合はどうでしょうか。
財産分与にあたっては原則として債務は財産分与の対象になりません。
つまり、会社の債務といった消極財産が財産分与の際に計上されないということです。
この考え方が採用される場合には、会社の保有する積極財産のみが財産分与の対象となる可能性があります。
このように、会社の資産を直接財産分与の対象としたほうが、相談者が得られる財産分与の額が大きくなる可能性があります。
ただ、実際のところ、裁判において会社名義の資産そのものを対象にしていくハードルはとても高いです。
財産分与を求める側からすれば、離婚前から財産資料収集といった事前準備、配偶者との交渉により配偶者の経営する会社に関する資料を提出させること、資産家の行った税金対策等を紐解きながらこれらの資料を精緻に分析して主張立証していくことが重要になります。
これらの作業を適切かつ有効に行うためには、資産家の資産管理方法等にいった資産家の状況に精通している者のサポートが不可欠です。
離婚にあたっては離婚前の事前準備が非常に重要となります。
私物化されている会社の資産が一切財産分与の対象から取り除かれるという扱いは、ときに著しく不公平な結果となります。
この点、ご自身が法人に一定の関与ができる場合に限られるものの、はっきりと個人の財産とするために行いうるいくつかのポイントがあります。
まず、退職金規程の作成です。
退職金規程はあっても、役員向けのものは用意されていないことが多いです。それはあえて規程として用意する必要がないからです。
しかし、退職時に当然退職金を支給するつもりであれば規程として用意しておくメリットがあります。
そこで、退職金規程を用意し、これによって退職金請求権を少なくとも規程上は生じうることをはっきりとさせます。
これにより、将来の退職金について財産分与の対象とする余地が生まれます。
または退職間近なのであれば実際に退職金を支払って、個人財産にするということもありうるでしょう。
次に保険契約者名義の変更です。
例えば法人が契約者として加入している保険について、名義人を夫婦や家族に変更するものです。
節税目的で入っている法人保険は、例えば低解約返戻金型逓増定期保険など、解約返戻金が大きく跳ね上がる前のタイミングで契約者を個人に切り替えることが想定されているものがあります。
低解約返戻金型逓増定期保険については、2021年(適用は2019年7月8日以降)の国税庁通達等により現在ではメリットがほとんどなくなっているものですが、現行制度に合わせた似た商品に加入している可能性も考えられます。一時所得の扱いとし給与で受け取るよりも課税負担が小さくなることを狙ってそういった保険に加入している場合もあるかもしれません。
解約返戻金が大きく跳ね上がる前のタイミングか、国税庁による取扱いの動向はどうか、といったことにも影響されますが、加入している場合は結構な規模になっているケースもあるため重要な検討ポイントです。
その他、報酬の調整、つまり、報酬を増額し法人の預金を個人報酬として支払うことなどを含め様々に検討されるべきものがあります。
子ども名義の財産は、それが実質的に子どもに帰属したものであれば財産分与の対象となりません。
例えば、子ども名義の預貯金のうち、お小遣、お年玉、子ども自身が得たアルバイト代などは、基本的に財産分与の対象になりません。
他方で、子ども名義の財産の原資が夫婦の収入である場合で、当該財産が子どもに贈与されたものでもない場合には、夫婦の共有財産を子ども名義にしただけであり、子ども名義の財産であっても財産分与の対象となります。
子ども名義の財産が財産分与の対象になることを防ぐためには、贈与契約書等といった資料を作成しておくことが重要です。
そこでは実質的な権利移転の趣旨で行われることがわかるようにしておくことも重要でしょう。
可能であれば、財産移転時に配偶者の承諾を得ておきたいところです。
また、例えば幼い子どもの名義の預金を夫婦が日常的に使用し入出金を行っているなど、その利用態様や子どもの年齢等から、実質的に夫婦の共有財産と認められる場合には子ども名義の財産であっても財産分与の対象となります。
このように、資産移転時はもちろんですが、その後の管理の態様なども重要となるのです。
子ども名義の財産が財産分与の対象になることを回避したい場合には、子ども名義の財産を夫婦の日常生活に使用しないよう注意しましょう。
未成年者へ生前贈与を行う際に、贈与契約上で、配偶者に贈与予定の財産を管理させない意思表示を行うとともに、生前贈与の対象となる財産の管理者を指定しておくことが考えられます。
また、信託を活用することも考えられます。本件でいう相談者を受託者として信託を利用するのです。
受託者は信託財産を管理処分する権限を有するため、離婚となった後でも子どもの財産を管理することが可能になります。
子どもが株式を保有しているのであれば、種類株を活用することも考えられます。子どもの有する株式を無議決権株式としておくのです。
以上、財産分与における第三者名義の財産の取扱いについて解説してきました。
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