華やかさ、ステータスといった実利には表れない魅力だけではなく、自己利用の利便性の高さ、節税効果、投資利回りの高さなど、実利の面でも魅力のある航空機投資。
本コラムでは、航空機投資の法的なポイントについて、富裕層・資産家業務に多く携わる弁護士が解説します。
今後航空機の投資を検討している方、既に航空機投資を行っているが、投資の方法やタイミング等を再検討したい方は、当事務所まで直接お問い合わせください。
▼「航空機リース」を巡るトラブルについて
資産管理会社などで節税対策のために航空機リース投資を行っている方からトラブルのご相談をよく受けます。
例えば、コロナ禍の影響で想定売却価格が低くならざるを得ずこれを避けるためにリース期間が延長される、それによって期待した節税効果が得られなくなるためどうしたらよいか、といったようなご相談です。
自身のみ脱却できるか、できるとして持分の処分はどうするかなど、基本的には匿名組合契約の内容に準拠します。通常はリース期間延長は匿名組合の営業者の裁量に委ねられそれ自体を拒絶することは難しいです。しかし、例えば、匿名組合の存続期間を定めたか否かにかかわらず、やむを得ない事由があるときは、いつでも匿名組合契約を解除できますので(商法540条)、こうした解除事由をもとに交渉を試みることには検討の価値があります。ほか、一方的に匿名組合契約を解除される、リース料の支払いが滞る、機体の処分代金が不当に安いなどより深刻なトラブルもあります。こうした深刻なトラブルには裁判手続を前提に対応していかなければなりません。
本コラムの主旨と離れてしまいますのでここで簡単に言及するにとどめますが、
こうした航空機リースを巡るトラブルについても、お気軽にお問い合わせください。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
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航空機といっても、ワイドボディ機、ナローボディ機、リージョナルジェット、ビジネスジェットなど様々なサイズがあります。このうち富裕層個人の投資先候補はビジネスジェットになります(プライベートジェット、コーポレートジェットなど用途に応じて更に区別して呼称することもあります)。
たとえば、ビジネスジェットの一つであるホンダジェットは大変な人気を博し、小型ビジネスジェット納入機数としては2017年から5年連続で世界一となったと発表されています。ホンダジェットの定員は6~7名ですが、1名から8名ほどのサイズの機体がビジネスジェット(プライベートジェット)などとカテゴリーされています。
ビジネスジェットそのものが持つ華やかさ、ステータスといった必ずしも実利には表れない魅力なども考慮されますが、自己利用の利便性の高さ、節税効果、投資利回りの高さなど実利の面が重視されて投資先として選定されています。特に自己利用の利便性については、富裕層にとって貴重な時間を移動時間で無駄にしないこと(移動時間を節約できることや機内で会議ができることなどが挙げられます)、エアラインが乗り入れない空港を使えること、プライバシーや安全性が確保されていることなど様々あります。
とはいえ、航空機投資は高額な出費を伴います。また航空機の選定、取得、管理、運用、売却の段階を経るものですが、それぞれの見通しを正しく持ち、それぞれのプロセスを適切に実施する必要があります。そしてそこでは航空機、金融といった分野に精通した専門家や、法律、税務等の法律実務家の対応が求められます。
したがって、航空機投資の実を上げるためには、こういった専門家の助力を得ながら進めていく必要があります。
ヘリコプターや最大離陸重量5.7t以下の航空機の法定耐用年数は5年です(下表参照)。
耐用年数5年の固定資産を定率法によって減価償却する場合、前年末の帳簿価格(未償却残高)に対して40%の償却率を乗じる形で毎年、損金算入することができます。また、5年落ちの中古機の場合には、1年で購入額全額を損金算入できます。このように、短期間で高額な節税が可能になることが魅力の一つです。
こうした節税効果を得ることができる状況かの確認はまず済ませておく必要があります。例えば翌年度に高額な収入が見込まれている状況の場合等には、航空機購入の時期を調整することなども必要となります。
▼航空機等の法定耐用年数
飛行機(主として金属製のもの)
最大離陸重量130トン超10年
同130トン以下〜5.7トン超8年
同5.7トン以下5年
その他のもの5年その他のもの
ヘリコプター及びグライダー5年
その他のもの5年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)より抜粋)
実際に航空機投資を実施し、航空機を取得するプロセスは、まずタームシートを決め、次いで契約書化していくことが多いです。
交渉に当たっては通常の売買契約書で行う条件交渉の他、航空機特有の事情を加味する必要があり、プロジェクトに参画しているメンバーに対して適切なヒアリングを行い、その結果を交渉に反映していくことが重要となります。
たとえば、中古機を購入する場合は、機体が市場最適な性質でなければエグジットが難しくなる点に注意が必要です。例えば、購入時の仕様が前オーナーの特殊仕様である場合(コーポレートカラーを全面に押し出しているものなど)、これを市場最適な性質にするための改造費用を織り込む必要があります。他にも、中古機の場合には、事故歴の有無、整備修繕の実施状況等を良く調査確認する必要があります。
また、外装、内装を含む仕様オプションとして選ぶべきものの検討、引渡し実務、登録手続、製品保証の内容、製品保証履行請求権以外の売主に対する請求権(損害賠償請求権、代金減額請求権、履行追完請求権等)の有無など、通常の売買契約書で考慮することのない航空機売買特有の事情を加味して契約条件を交渉していく必要があります。
共同保有するケースは相当数あるように思います。富裕層グループで共有している場合もあれば、事業会社が持分をもっているケースもあります。
期待する節税効果が自己の持分相当の購入価額で十分と考える場合や、自己利用することをそう頻繁に見込んでいるものでない場合などには、単独保有よりも共同保有が適している場合があります。
共同保有形態を取るには、購入時点において共同名義で購入するか、購入時点では誰かひとりが単独名義で購入しその後持分権を譲渡するといういずれかの手段をとることになります。
最終的に共有するメンバーが確定しているのであれば、購入時点で共同名義にて購入することが望ましいといえます。最初の単独購入者にとっては、共有見込み者が翻意するなどして共有者からの支払いが得られないリスクがあるほか、持分権譲渡時に課税リスクや登録費用等の実費がかかるためです。売主の側は嫌がる場合が多いですが、買主としては、可能な限り、共同名義での購入を模索すべきです。
航空機を共同保有する場合には、共有状態ゆえの管理・運用、売却の難しさが生じます。このため、共有者全員に適用される管理・運用、売却のルールを前もって統一しておくことが、トラブル防止のためには必須です。
管理・運用についての取り決めとしては、たとえば、管理業務委託先への手数料、航空機使用や保険料等の費用負担、禁止事項、それぞれの利用頻度・利用手続、修繕方法などがあります。基本的には持分割合に従った定めをしている場合が多いものと思います。
売却時についての取り決めとしては、後述する流動性の大小や共同売却について手続などがあります。
こうした共有者間の取り決めは、可能な限り、航空機購入前(投資実行前)にしておくべきです。
航空機を自ら利用しない日が相当日数ある場合には、第三者に利用させ収益を得ることも検討しますが、そのひとつの方法として「航空機レンタル」があります。
ここでいう「航空機レンタル」とは、第三者(借主)に対し、借主が自ら利用する目的又は操縦士を訓練飛行させる目的で機体を貸し、その利用回数や期間に応じたレンタル料を得ることを指します。操縦士は、借主が自らの責任及び費用により調達することなります。
航空機レンタル契約を定めるにあたっては、通常のレンタル契約で検討すべき条項に加えて、引渡方法、返還時の性状、事故時責任、操縦士調達などについて航空機レンタルであることの特殊性を踏まえて検討する必要があります。
更に、航空法100条1項及び123条1項との関係でも注意が必要です。
航空法100条1項は、「航空運送事業」を経営するためには許可を要する旨定めるものです。「航空運送事業」とは、航空法第2条18項において「他人の需要に応じ、航空機を使用して有償で旅客又は貨物を運送する事業をいう」と定義されています。レンタルとの関係では、①航空機を使用した旅客又は貨物の運送に当たるか、②有償で行う事業に当たるかの2点において要件該当性が問題になります。
航空法123条1項は、「航空機使用事業」を経営するためには許可を要する旨定めるものです。「航空機使用事業」とは、航空法第2条21項において「他人の需要に応じ、航空機を使用して有償で旅客又は貨物の運送以外の行為の請負を行う事業をいう」と定義されています。レンタルとの関係では、①航空機を使用して、②請負を行う事業に当たるかの2点において要件該当性が問題になります。
もし航空機レンタルがこれらに該当するならば許可が必要となり、無許可で行うと罰則の対象になります(航空法155条第1項)。
この点について確たる見解がなかったため、当事務所において文献調査の上、法令適用事前確認手続(ノーアクションレター)を実施しました。そうしたところ、国土交通省からは、航空機レンタルには航空法100条1項及び123条1項の適用がないとしつつも、実体上所有者または操縦士が第三者に対する航空機の貸し出しや操縦士あっせんを一体的に行っていると評価されてしまうような場合には適用される可能性があるとの回答が寄せられました(令和元年12月2日国空事1169号国土交通省航空局航空ネットワーク部航空事業課長回答)。
このように、航空機レンタルによって収益化する場合には、運用管理に疑いの残ることのないよう注意する必要があります。
自己利用の必要性が低い場合には、航空会社へリースに出すことを検討します。
航空機リースは相当期間にわたって行われますので、リース期間中の管理が重要です。毎月のリース料、メンテナンス料、航空保険の確認などや、航空機の使用状況や航空会社の経営状況、コベナンツ条項遵守状況などのモニタリングを行います。特に最終的にはエグジットを成功させる必要があるため、返還時の機体の性能・品質がいたずらに劣化しないようインスペクションを行います。
こうした航空機リースにおける管理のポイントを押さえながらリース契約を確認するとともに、リース期間中又は満了時にトラブルが生じた場合には契約条項に基づいて適切に処置できるようにしておく必要があります。
また、自己利用の必要性が全くないというほどでないものの、第三者にも相当な頻度で利用させて収益化したいという場合には、航空機を航空会社の事業機に編入して貸与の形をとる場合もあります。純粋なリース契約とは性質が変わるため、リース料の決め方を含め、契約書の諸条件も個別の調整が必要となります。
純粋に自己使用する場合においても、運送事業会社等との連携、航空機の保存、管理、耐空性保持、操縦士の用意等、手続すべき事項が多く、管理業務委託先など専門家のサポートが必要になります。
これらはいずれも航空機を巡る第三者との法律関係であり、契約書の締結や第三者の契約履行状況の管理を行う必要があります。
買主として購入時に経たプロセスを逆側(買主側)に立って行っていくことになります。
航空機投資は売却によってリターンが確定します。取得時点で売却までのシナリオは想定しておくべきです。
売却価値を検討するにあたっては、売却時点の機体本体の人気、性能、品質が高いことが重要です。また、航空機をレンタル等などで事業化しているときには、レンタルしたままで売却してよいのか、レンタル終了後の方がよいのかの判断も重要です。
航空機が共有状態にあるときには、流動性に制限がかかるのでより慎重な検討が必要です。共有者間のルールにおいて、売却に関する取り決めをしておくことで、透明性を確保する必要があります。
原則的には、自己の共有持分の一部又は全部を第三者に売却、担保設定その他の処分をする場合には、他の共有者全員の事前の承諾を要するものとされます(得体のしれない第三者が共有者の地位を勝手に引き継げるようになってしまえば、他の既存共有者が予測しえない事態に発展する恐れがあるため、これを防止する必要があるためです)。
流動性に制限がかかる状況のため、この処分制限期間を一定期間に限定する場合もあります。
もし自分の持分のみを売却できる状況にあっても、エグジットの場面では、持分100%を売却した方が買い手が見つかりやすくなったり、売値が高くなったりする場合もあります。
これには当然、共有者全員の同意がなければ実現しません。その同意は、エグジット時に取り付けなければならず、何も手当しなければ共有者は、いざ良い買い手が見つかったとしても共有者の中に同意しない者がいる場合にエグジットできなくなるリスクを抱えます。
そこで、一定条件のもとで、どのようにエグジットするかを予め共有者間のルールに盛り込んでおくことが重要です。定期的な会議の場を設け、投票数に応じて決定する方法や、最多持分権者に強制売却権を付与する方法など様々です。
以上のとおり、富裕層の投資の選択肢の一つとして航空機投資は大変に魅力的ですが、その検討にあたっては、資産家・経営者の資産管理に詳しい専門家とともに行うべきです。
岩崎総合法律事務所「Legal Prime」では、プライベートバンカー資格を有する弁護士が、資産家・経営者向けリーガルサービスの提供経験を踏まえ、皆様を全力でサポートします。
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