Home > Topics

2022年5月13日(金曜日)
広がり続ける「暗号資産投資」の法的問題とリスク回避策

暗号資産イメージ

暗号資産投資は世界中で広がり続けている

日本では、2017年4月1日施行の資金決済法改正により初めて「暗号資産」(制定当初の名称は「仮想通貨」)について定義されました。改正法施行から5年を経た現在、流通しているものだけで数千種類にも及ぶといわれるほど、世界的な市場として急成長を遂げています。

現在、日本国内で暗号資産を保有している人は人口の1%程度と言われていますが、富裕層と呼ばれる方の中には、暗号資産を保有し、また積極的に運用している方も多いと思います。

本コラムでは、そもそも暗号資産とは何か、暗号資産の法的問題、リスクを回避するための契約方法、詐欺・横領・債務不履行などトラブルに見舞われた際の解決手段などについて、プライベートバンカー資格を有し、富裕層・資産家業務に多く携わる弁護士が解説します。

岩崎総合法律事務所が提供している富裕層法務サービス Legal Prime® では、暗号資産を含め、富裕層のお客様に対する投資支援サービスを提供しています。暗号資産への投資を検討している方や、既に暗号資産投資を行っているものの投資の方法やタイミング等を再検討したい方は、当事務所まで直接お問い合わせください

 

『富裕層の法務 ファミリー・資産・事業・経営者報酬の知識と実務』書影・帯付き

富裕層を巡る法律関係には特殊・専門的な論点が存在します。

弊事務所では、富裕層向け法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりましたが、これにより得られた知見の一部を書籍化し出版しております

ご興味をお持ちいただけましたら、Amazonほか各オンラインストア、全国の書店にてお求めください。


 


目次
  1. 暗号資産投資がおこなわれる理由
  2. 暗号資産の法的特殊性と注意点、その対策
  3. 暗号資産を巡る契約例とリスク
  4. 暗号資産を巡る事件のリスク
  5. 暗号資産の相続
  6. 不公正取引規制

1. 暗号資産投資が行われる理由

暗号資産の意義と特徴

「暗号資産」 (cryptoassets/cryptocurrencies) とは、「仮想通貨」、「暗号通貨」とも称される、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、銀行等の第三者を介することなく、財産的価値をやり取りすることが可能な仕組みを有するものです。

この暗号資産は、資金決済法において、次の性質をもつものと定義されています。

  1. 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨と相互に交換できる
  2. 電子的に記録され、移転できる
  3. 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない

暗号資産は、ブロックチェーン技術や暗号化技術に基づいて技術的に信用性を担保していますが、法定通貨ではなく、裏付け資産も有していません。こうした性質上、市場の需給に応じて価格の変動が非常に大きい(ボラティリティが高い)特徴を有します。こうした特徴は投資妙味でもありますが、それと同時に注意も必要です。

例えばビットコインは、本来決済目的のものですが、システム上発行量の上限(約 2100 万 BTC)が設定され、発行量が時間の経過とともに漸減することから、本質的にデフレーションの傾向を備えています。このことを背景として、現実のビットコインの取引においては投機目的での取引が大半を占めています。その結果、法定通貨に換算したビットコインのボラティリティは非常に大きくなっています。

暗号資産の種類

暗号資産は、2022年現在で数千種類あるとされています。主要なものとして、ビットコイン、イーサリアム、リップル、ビットコインキャッシュなどがあります。

このうち、ビットコイン以外の暗号資産は、アルトコインと呼ばれます。ビットコインは、中央管理を持たない決済を目的に開発されたもので、最初に開発された暗号資産です。その後、ビットコインの機能をベースにして新たな機能を付加するなどしたものがアルトコインです。アルトコインの中でも時価総額が特に小さくて、知名度も低いコインは草コインなどと呼ばれます。草コインが急騰して何十倍の価値になることも(あるいはその逆も)珍しくありません。

暗号資産の投資商品としての注意点 ~ゲートキーパーとしての着眼点~

暗号資産には上記のような投資価値がある一方、様々なリスクがあります。ゲートキーパーの観点からその投資商品としての価値に着目すると、以下に述べるように流動性リスク、規制リスク、技術リスク、詐欺リスクなどがありますし、後に詳述するような法律関係リスクや事実関係リスクなど様々です。

ボラティリティが高いという段階でポートフォリオの多くを割くことが危険であるといえますが、仮にリスク性資産への投資を好む富裕層であったとしても、以下に述べるような注意点が様々あることから資産の多くを割くことについては更に慎重でなければいけません。

(1) 流動性リスク
暗号資産にはビットコインなどの流通量が多いものから草コインのような流通量の乏しいものもあります。流通量の多いビットコインなどであれば、希望するタイミングですぐに取引できますが、流通量の少ないものである場合には取引ができない、すなわちその暗号資産をリスクオフしようと思っても、買い手が見つからず自由に換金できないことがあります。流通量の少ない草コインなどの方が成功した場合のその後のリターンは大きなものとなりますが、失敗した場合にはその流通量の少なさからも相当のロスになる可能性がある点注意が必要です。

(2) 規制リスク
暗号資産の仕組みは中央集権的な決済の仕組みを排するものであり、また、一部の大口投資家において市場操作されているかのような様相を持つとの疑いが投げかけられることもあります。そもそも市場で存在感を増すようになってから日も浅く、また国際的な取引が行われるものでもあるため、各国は暗号資産に対する規制の方法について検討途中の段階にあるものといえます。このため、暗号資産の取引が一切禁止されたり、大きな制限がかかるなどして、本来期待していた暗号資産の利用ができなくなったり、その実質的価値が減ってしまうというリスクを抱えています。

(3) 技術リスク
暗号資産は裏付け資産を持っておらず、その信用性はブロックチェーン技術や暗号化技術に基づいて技術的に担保されています。ブロックチェーン自体はセキュリティの高い仕組みですが、ウォレットや暗号資産取引所に対してサイバー攻撃が行わるなどして不正流出するリスクがあります。また、将来において量子コンピュータが実用化した際には、こうした技術的担保による信用性基盤が危うくなり、暗号資産に対する信用性が損なわれ、実質的価値が減ってしまうというリスクを抱えています。

(4) 詐欺リスク
暗号資産、特に草コインなどは、状況によっては大きく資産価値を向上させて莫大な投資リターンをもたらしますが、中には詐欺的なものも含まれますので、その信用性については注意が必要です。信用性については、大手取引所に上場しているかどうかが一つの基準となります。大手取引所は暗号資産の取扱審査を厳しく行っており、この審査を通過している時点で一定の信用性が担保されているといえます。複数の取引所で扱われているものについてはさらに信用性が高いものといえます。

2. 暗号資産の法的特殊性と注意点、その対策

暗号資産イメージ

暗号資産の法的性質を踏まえた対応が必要とされる

暗号資産を巡る法律関係には特殊性があります。こうした特殊性を踏まえておかないと、契約関係や事件の予防、あるいは既に事件化してしまったものへの対応を誤ってしまいます。

暗号資産は所有権の対象ではない

まず、暗号資産は所有権の対象ではないということです。民法上、所有権の客体は有体物に対して認められており、暗号資産などの有体物でないデジタルな記録については所有権は認められていません。現時点で公表されている裁判例いずれにおいても所有権が否定されています。このため、暗号資産については所有権に基づいた物権的請求権を行使できない、すなわち、所有権に基づいて、第三者に対して暗号資産を引き渡すよう要求したりすることはできません。

こうした状況に対し、暗号資産に財産的価値があることを捉え、物権的な権利性を認める法的構成を取ることができないか、様々な検討が試みられています。しかし、現時点で公表されている裁判例においては、暗号資産に排他的支配性を有する所有権類似の権利を認める法的構成を採用したものを確認することはできません。各裁判例の事案とは異なった事実関係の下でも同様の判断となるかは不明であり、今後こうした所有権類似の権利を認める判断が下される可能性もあるものと思いますが、少なくとも現状、暗号資産に関するトラブルが生じた際には、物権法の観点からの解決は困難であるといえ、債権法・契約法の観点からの解決を図らなければなりません。

そして、暗号資産が関連するゆえに権利救済のハードルが高まる側面もあり、暗号資産関連の取引に臨む場合にはそのリスクをよく認識の上、可能な限りトラブルが生じた場合の損害を押さえ込む工夫が必要です。

第三者に対する返還請求の困難性

以上の暗号資産を巡る法律関係については、自身の暗号資産が第三者に移転している場合に、当該第三者を相手方にして回収を試みることができるかという問題にも関連します。

例えば、自身の暗号資産を貸していたとして、一定期間後には当該暗号資産を返却するという約束になっていたのに、その借主が当該暗号資産を第三者に譲渡してしまい返さないといったケースで考えます。

このとき、資力のない借主からの回収が期待できない場合には、第三者を相手方にして回収を図ることになります。この場合、暗号資産に係る所有権やこれに類似する物権的構成を認めない現状の裁判例を前提とすると、債権的構成で請求することになりますが、貸主は転得者である第三者とは契約関係に立たないため、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求や、不当利得返還請求を行う方法をもって請求することになります。しかし、そのような請求が認められるためのハードルは、相当に高いものとなります。こうした債権的請求が認められるのは、通常、貸主をことさら害する意図をもって対価なく転得者が譲り受けたなどの特殊な事情があることを貸主が立証できる場合などに限られると考えられているからです。

このように自身の権利が暗号資産そのものに対するものだとすると、こうした第三者への処分の際に権利救済の実効性が不十分となる恐れがあります。また、次に述べるような強制執行の問題点からも、暗号資産そのものを権利の対象とすると、権利救済の実効性が不十分なものとなってしまいます。

暗号資産に対する強制執行の問題点と対策

暗号資産そのものを対象として強制執行する場合には、暗号資産の所在・保管場所によって規律が異なります。

まず、相手方(借主などの債務者)が、暗号資産を自身のウォレットで保管するのではなく、交換業者に預託している場合です。

この場合、交換業者の利用者である相手方は、交換業者に対して、預託している暗号資産に関し利用規約に基づいた債権を有しており、そのうちには返還請求権などの債権も含まれます。そこで、相手方が交換業者に対して有する返還請求権などの債権に対して債権執行することで、権利救済を図ることができます。

これに対し、暗号資産を相手方(債務者)自身が管理するウォレットで保管している場合には、強制執行が困難になります。

暗号資産は有体物ではなく、また発行者のいないビットコインのような暗号資産は債権でもないため、こうした場合の強制執行は、通常、「その他の財産権」に対する執行として扱われます。「その他の財産権」に対する執行は、基本的には債権執行の例によって処理されるものの、前述の交換業者のような第三債務者がいないため、保有者である相手方に対してのみ差押命令を送達し、その時点で差押の効力が生じることになり、通常であれば、「取立てが困難であるとき」(民事執行法161条1項)に該当するということで、換価処分として譲渡命令、売却命令のいずれかが発せられて換価されていきます。

しかし、譲渡命令が発せられても、保有者である相手方が秘密鍵を開示してくれないと実際には移転させることができず、売却命令が発せられた場合に執行官が売却を試みても同様の問題が生じます。つまるところ、あくまで暗号資産に対する強制執行にこだわる場合には、相手方の秘密鍵情報を開示させる必要がありますが、これは結局間接強制の方法によるしかなく、相手方が間接強制を受けてもなおこれに応じないとすれば、暗号資産そのものに対する執行は不成功に終わります。

しかも、相手方が秘密鍵を保管している限り、相手方は、差押命令に関わらず、事実上、第三者に対して暗号資産を売却してしまうことができます。差押命令の存在は公示されないので、たとえ差押命令後であっても、相手方が処分先の第三者を確保することは容易です。

暗号資産を巡る権利救済の実効性を確保するために

以上のとおり、相手方が暗号資産を相手方自身が管理するウォレットで保管している場合や、暗号資産を第三者に処分している場合などには、暗号資産に係る取引において万一のことがあった際、権利救済の実効性が不十分である場合があります。

そこで、暗号資産に係る取引の際に権利救済の実効性を確保するには、取引における請求権の内容を暗号資産ではなく現金とするような構成をすることを検討するべきです。例えば、損害賠償の支払い方法の定めについて、取引の目的物である暗号資産に対して一定時点の評価額をもって金銭価値を算定し、この算定額について金銭をもって行うものとすることが考えられます。

これにより、暗号資産以外の他の財産を差押えるなどの直接強制をもって臨むことができ、権利救済の実効性、容易性は飛躍的に上昇します。

こうした方法に拠るためには、金銭での支払いとすることやその評価額の定め方を、契約書において解釈の余地を残さない形で疑義なく明確に定める必要があります。

3. 暗号資産を巡る契約例とリスク

暗号資産の貸付け(貸暗号資産契約)

エンジェル投資をしている投資家の方は、投資先企業の資金が枯渇するときの救済のためなどに、投資先の要請を受けて金銭を貸し付けることがあるかと思いますが、その場合、現金ではなく暗号資産をもって貸し付けることもできます。

こうした暗号資産の貸付け(貸暗号資産)を行う際には必ず契約書を交わすべきですが、契約書の定め方としては、通常の金銭の貸付けではないため、暗号資産の特殊性を踏まえた内容としなければなりません。借主が任意に返済しないときには、最終的には裁判手続をして強制執行をする必要がありますが、先述したように暗号資産に対する強制執行にはハードルがあり、これが奏功するかという観点から逆算して契約書の定め方を検討する必要があります。

まず、契約書の定め方ですが、返還方法と利息の考え方に注意する必要があります。返還方法に関しては通常の消費貸借契約であれば、貸したものを返すという考え方になりますので、暗号資産を貸した以上は暗号資産をもって返すという方法をとることになります。しかし、上記のとおり、暗号資産を対象にした契約の場合には、その暗号資産を目的物として権利救済を図ることが難しくなる問題があります。

そこで、万一の際の権利救済の実効性という考え方からすると、返還方法は暗号資産ではなく現金であるべきで、その算定については、貸付日の時価として特定する金額を基準とするなど計算方法を明記しておくことになります。利息の考え方も同様で、通常の消費貸借契約では貸した暗号資産に対する一定年率を経過日割りで乗じたものを、暗号資産で支払うということになりますが、現金での支払いとする方が権利救済の実効性の観点からは望ましいので、例えば貸し付けた時点の時価として特定する金額を基準として、これに対して一定年率を経過日割りで乗じたものを利息として支払わせるという形が望ましいと思われます。

もっとも、このような法律上の処理をすることは、暗号資産を現金化していることと同義ですから、取引時点でキャピタルゲイン課税がかかる可能性があります。現在の税制上、暗号資産のキャピタルゲインは雑所得として扱われ総合課税の対象となりますから、規模によってはその課税負担は大きなものとなる恐れがあります。このため、権利救済の実効性の問題と税務の問題を総合的に検討し、どのようなスキームをもって貸し付けるのか、法務・税務の専門家を交えてよく検討する必要があります。

暗号資産による決済(代物弁済契約)

暗号資産は、決済手段として使用されるものですが、それ自体は金銭ではないため、法的には交換契約と位置付けられます。また、既に発生している債務を消滅させるために暗号資産を用いて決済しようと考える場合は、法的には代物弁済として整理されます。

代物弁済とは、債務者が義務を負う本来の給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約(代物弁済契約)に基づいて、その弁済者が当該他の給付をしたときに、その給付が弁済と同一の効力を有するものとされます(民法482条)。つまり、債務者が、日本円での支払義務を負っているにもかかわらず、一方的にビットコインで支払うといっても弁済としては扱われず、相手方債権者の承諾があって初めて代物弁済が成立します。

このように、代物弁済は、当事者間の契約に基づき本来の給付に代えて行うものですので、一口で「暗号資産で支払う」といっても、具体的にどのくらいの数量の暗号資産を要するかは、当事者の意思解釈によることとなります。例えば、日本円で2000万円の債務の弁済について、代物弁済契約の時点でのレートが1BTCあたり500万円であったものの、実際の弁済時点で400万円に値下がりしていた場合には、どちらの時価を基準にして計算するべきか(4BTCを支払えばよいのか、5BTCを支払わなければならないのか)という問題が生じます。

したがって、暗号資産での決済を考えるとき、その取引相手が暗号資産での決済システムを導入していれば特段問題はないのですが、そうでない場合には、決済方法について疑義なく明確に定めた契約書を作成する必要があるものといえます。

4. 暗号資産を巡る事件のリスク

暗号資産イメージ

暗号資産に関する事件発生のリスクを的確に認識する必要性がある

誤送金

暗号資産にて決済するため、決済先アドレスに暗号資産を送金しようとしたものの、送付先アドレスを誤入力してしまった場合、別人に暗号資産が送付されてしまいます。

法的には、誤って暗号資産の送付を受けた者に対して不当利得返還請求権を行使することができます。交換業者を介した誤送金であれば、一定の手数料を払うことで誤送金の状況を解消することができる場合もありますが、そうでない場合には、暗号資産のアドレスは、ランダムに生成される英数字の文字列であり、このアドレスと保有者とを紐づける情報を特定することは困難であるケースが多いです。このため送金時にアドレス間違いのないように注意が必要です。

不正アクセスによる流出事件

暗号資産を自身のオンラインウォレットで保管している場合、そのウォレットに対する不正アクセスにより、暗号資産が流出する恐れがあります。

先述したとおり、現状の裁判例を前提とすると暗号資産に係る所有権はみとめられていないため、物権的構成にて請求することは困難であり、債権的構成で請求することになります。すなわち、流出された暗号資産そのものの返還ではなく、金銭的請求を行うことになります。したがって、不正アクセスした者に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使します。

これに対し、暗号資産交換業者のウォレットに暗号資産を預けていたところ、その暗号資産交換業者が不正アクセスを受け多くの暗号資産が流出する事態に陥ったとしても、通常、自分自身の暗号資産は毀損しません。暗号資産交換業者に対しては利用規約によって預け入れている暗号資産と同数の引出権が定められており、この権利は不正アクセスいかんで消滅したりしないためです。

この点、流出量が膨大であれば、交換業者の資産不足で倒産してしまい、引出権があるといっても実際に引き出すことができないという事態も想定されますが、交換業者に対しては、法律上、暗号資産の流失に備える体制整備が義務付けられており、一定の安全性が担保されています。すなわち、交換業者は、万が一不正アクセスを受けたとしても、その保有暗号資産がユーザーからの引出し要請に応じられない数量にならないような体制をとることが要請されていますので、ユーザーが実際に引き出せるよう制度上配慮されています。とはいえ、セキュリティに問題のある業者に多くの資産を預け入れることは得策ではなく、このような場合には他の交換業者への移転を検討すべきでしょう。

横領事件

暗号資産が横領の被害に遭うといったことも起こり得ます。どのような人であっても一日に使うことのできる時間は限られていますが、様々なことに時間を割かなければならず時間的余裕のない資産家は、自身の時間を生み出すべく様々な工夫を行っています。その工夫の一つとして、自身の資産やその情報を第三者に委ねるといったこともあります。例えば、確定申告を任せている税理士事務所に多くの情報が手間なく共有されるようにするために、暗号資産に関するウォレット情報を共有したりログイン情報を共有している場合があります。

こうしたとき、多くの暗号資産を事実上自分の意思で処分することのできる預り者(多くの場合、預り者である会社の従業員)は、投機目的で資産家の暗号資産を横領することがあります。ボラティリティの高い商品に投資するための元本を資産家の資産で用意し、値上がりした利益は自分のものとし、出資元本は資産家へそのまま返すことを計画して行われる犯行です。

暗号資産特有のボラティリティの高さが犯行計画の重要な要素ですから、犯行者の意図とは異なり、大きく値下がりすることもあります。この投機目的型の横領事件は多くの場合、自身の値上がり益分を増やすために、資産家の資産を元手にするだけでなくさらにレバレッジを掛けて投資しており、これが値下がりによって強制ロスカット(評価損が一定の水準以上に達したときに、さらなる損失の拡大を防ぐために保有の建玉を強制的に決済すること)の扱いとなり、どうしようもなくなった時点で観念した犯行者が、自身が所属する会社の社長に自白し、社長を通して資産家が知るに至る、ということもあります。

こうした被害を未然に防ぐためには、そもそも大きな資産を預けない、預けるとしても一人のみに任せることはなく複数人の相互監視体制を用意してもらう、自分自身あるいは第三者の協力を得て定期的に不審な動きがないかを確認することが重要です。

詐欺事件

暗号資産の売買やその媒介を持ちかけられるようなことがあった場合には、その者が正規の登録業者であるか必ず確認すべきです。

暗号資産と法定通貨の交換や、暗号資産同士の交換を行うサービスを提供する事業者、あるいは暗号資産の管理を行う事業者は、法律上、暗号資産交換業者として金融庁・財務局へ登録手続を経なければならないものとされています。こうした手続を経ていない者は違法行為を行っているものですから、本来信頼すべきでない者であって、その者の提案は詐欺である可能性が極めて高いからです。

暗号資産交換業者として登録されている事業者は、金融庁のホームページで公表されています。

5. 暗号資産の相続

暗号資産は、相続の場面でも注意しなければいけません。

暗号資産を保有していること自体を家族に話していない、暗号資産の所在・種類・数量など、保有暗号資産の特定のために直接必要となる情報や、ログイン情報、秘密鍵など、暗号資産の管理処分に必要な情報を伝えていない場合、相続手続が困難になります。手間がかかる程度のレベルの問題から、永劫引き出せなくなるといった深刻なレベルの問題となることもあります。

こうした暗号資産に関する情報は、正確に相続人に伝わるようにしなければいけません。ただし、これらの情報を伝えることによって、生前に無断で処分利用をされる可能性が発生することになります。こうした懸念が深刻である場合には、生前には伝えず遺言書などに記すことで死後伝えられるようにします。

6. 不公正取引規制

金融商品取引法上、有価証券の取引と同様に、暗号資産の取引にも、不正行為の禁止、風説の流布等の禁止、相場操縦行為等の禁止の規制が及びます(なお、現時点ではインサイダー取引規制は定められていません)。

違反者は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金(利益を得る目的の場合には10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金)に処せられます。なお、現時点でこれらは課徴金の対象になっていませんが、たとえこうした不公正取引によって利益を上げることができたとしても、刑事上も犯罪となる行為が許されないことはいうまでもありません。

多くの暗号資産を保有する場合、または業界深部に影響力を持っている富裕層の方は、暗号資産を巡って不公正取引に及ぶことのないよう、あるいは不公正取引を助長することのないよう、細心の注意が必要です。


 

岩崎総合法律事務所エントランス

岩崎総合法律事務所は、資産家・富裕層向けのリーガルサービスを多く扱っている

富裕層の投資先として暗号資産は今後も重要性を増していくものと思いますが、これまで述べてきたような暗号資産特有の法的問題やリスクマネジメントの観点から、投資支援業務に明るい専門家とともに慎重に検討を行うべきです。

岩崎総合法律事務所が提供している富裕層法務サービス Legal Prime® では、暗号資産を含め、富裕層のお客様に対する投資支援サービスを提供しており、プライベートバンカー資格を有する弁護士が、資産家・経営者向けリーガルサービスの提供経験を踏まえ、皆様を全力でサポートします。

初回のご相談は30分間無料ですので、お気軽にご相談ください


 
ページのトップへ戻る