離婚に伴い、高額な養育費が問題となるケースがあります。
文部科学省の実施した「令和3度子供の学習費調査」(18頁)によると、幼稚園から高等学校卒業までの15年間の学習費(学校教育費、学校給食費及び学校外活動費の合計)の総額は、すべて公立(国内)の学校に通った場合は574万4201円、すべて私立(国内)の学校に通った場合は1838万4502円に上ります。
ここに大学進学の費用や、”ボーディングスクール”(寄宿学校ともいいます)、海外留学、インターナショナルスクール、私立大学医学部への進学などを想定した場合の費用を含めると、その金額はさらに高額なものとなります。
“一年あたり1000万円”相当の出費が生じている場合もあるでしょう。
特に高額になりやすいボーディングスクールに在籍中の子がいる世帯や、そこに進学させる計画をお持ちの世帯の夫婦が離婚を検討する場合には、特に以下の点に留意する必要があります。
▼ボーディングスクールなどへの進学を想定している場合の検討事項・留意点
・ボーディングスクールなどへの進学を想定した場合、通常の家庭に比べて高額な教育費が必要となる。
・子どもの教育方針が定まっていない場合(例:子どもが未だ幼い場合)、教育費として具体的にいくら必要になるのかの見通しが立て辛い。
・子どもの渡航先に親が付き添いで行く場合の費用など、通常の教育費では想定されていない費用が必要となる。
・子どもが渡航先にいる期間といない期間(親と共に生活する期間)とで養育費の額を調整するよう義務者(支払う側)から求められる可能性がある。
以下、上記の点に関してよく問題となる検討事項や対応策についてQ&A形式で解説していきます。
また、これら養育費(教育費)に関する取決めを離婚協議書等の合意書にまとめる場合の雛形(条項例)についてもご案内いたします。
高額な教育費の負担を求めることができる場合の一つに、義務者(支払う側)が事前に承諾した場合があります。
ここにいう承諾は黙示のものであっても該当しうるものと考えられています。例えば受験を物理的、精神的に援助してきた場合等は、承諾があったと判断される可能性があります。
他にも上記のような承諾がない場合であっても、義務者の収入・学歴・地位等から、そうした高額な教育費の支出が不合理でない場合には、その費用を負担すべきと考えられています。
ただし、ボーディングスクールの費用は、とても高額な部類のものになりますから、その負担を求めたい場合には慎重な対応が必要です。
具体的には教育費の確保に向けてQ2でご説明する対策を慎重に検討しなければいけません。
高額な教育費を確保するための方法には、例えば以下の方法が考えられます。
①配偶者の承諾を得ておく(婚姻後契約を含む。)
②教育費として必要な金額を離婚前に夫婦の財産から切り出しておく
③学費等が不足する場合に備えた様々な対策を事前に実施する
それぞれの概要は以下のとおりです。
書面による方法が理想的ですが、口頭で承諾を得る場合は、録音して証拠化しておくことが重要です。
収入や資産が多いご夫婦の場合、教育費の点を含めてファイナンシャルプランナー等に相談するケースがありますが、その際のやり取りを録音しておくことも考えられます。
書面による方法としては婚姻後契約(結婚の後にする夫婦の契約)も考えられます。
婚姻後契約についてはこちらのコラムをご覧ください。
教育費を他の財産から切り出しておくことも有効です。
例えば以下のような方法を検討することになるでしょう。
①教育資金贈与信託
②その他教育費積立の制度の活用
③学資保険
④子どもに対する贈与
⑤子ども名義での貯蓄等
教育資金贈与信託は、子供の教育費に備えて一定の資産を信託に預け入れる仕組みです。
これは、一定の要件を満たす場合は最大1500万円まで非課税で贈与可能であり、また中途解約も原則できません。
そのため、離婚等の影響を受けることなく教育資金を確保するという意味では効果的といえます。
しかし、ボーディングスクールに通う子どもにとっては1500万円では全然足りません。
そこで、子どもが通う現地の国(州)で認められる教育費積立の仕組みを活用することが重要です。
例えば米国では教育資金向けの税制優遇が進んでいます。
529プラン、UGMA口座など様々ですが、これらの活用は検討するべきでしょう。
事件が終結するまでには一定の時間がかかる場合があります。
配偶者が協力的でない場合には、その間に高額な教育費負担に耐えられず資金不足に陥る危険があります。
窮迫した状態に追い込まれてしまうと正当な権利は実現しにくくなります。また子どもの教育環境にも悪影響が生じる危険もあります。
そこで学費等が不足する場合に備えた対策を事前に実施することは重要です。
例えば以下のような方法が有効です。
①ひとり親の家庭がもらえる手当てや貸付金
②奨学金
③学生ローン
④その他学校などへの事前相談
ひとり親の家庭がもらえる手当てについても、日本と比べて海外(アメリカなど)は充実しています。
いずれにせよ国内外問わず取りうる方法は全て実施した方が良いと考えます。
学校の種別(公立、私立、ボーディングスクールなど)や在籍期間に応じて下記【条項例】のとおり定めることにより、将来の教育費について一定の取り決めをしておくことが考えられます。
※ただし、このように定めたとしても、争いが生じた時点で裁判所が異なる判断基準を用いたり、その時点における双方の収入・資産状況等を踏まえて異なる判断を下したりする可能性はあります。契約書に盛り込む際には慎重な判断が必要となります。
条項例
「甲(教育費を支払う側)は、乙に対し、養育費とは別に、丙(子ども)の進学状況に応じて以下に定める追加教育費を支払うものとする。
⑴国内の私立小学校に在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑵国内の私立中学校に在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑶国内の私立高等学校に在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑷前各号に関わらずインターナショナルスクールに在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑸国内の国立大学に在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑹国内の私立大学に在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑺国内の私立大学医学部に在籍した場合 当該期間:年間○万円
⑻前各号に関わらず以下それぞれの大学・ボーディングスクールに在籍する期間:以下それぞれに定める金額
①国内のボーディングスクールに在籍した場合 当該期間:年間○万円
②国外のボーディングスクールに在籍した場合 当該期間:年間○万円」
※国外の学校については 物価等を考慮してエリアごと(例:北米、欧州、東南アジア)に金額を設定することも可能です。
※支払金額については、外国通貨(米国ドル、ユーロなど)で定めることも可能です。
ボーディングスクールに子どもが通っておりその子どもが小学生や中学生などの場合には、親が頻繁に現地に渡航しないといけません。
渡航費だけでなく、宿泊費もかかりますから相当の出費を要します。
そこでこちらも忘れずに取り決めないといけません。
例えば、下記【条項例】のとおりに取り決めることが考えられます。
条項例
「丙(子ども)がボーディングスクール等への進学を希望する場合であって、かつ、乙が当該渡航に同行しない場合、甲(支払う側)は、乙が丙の渡航先を訪問するための費用(往復の航空券(エコノミークラス)、現地における交通費及び宿泊費用)を年に○回分負担する。」
生活費に相当する養育費については、親子離れて生活する期間がある場合、別途の調整が必要になる場合があります。
例えば、子どもがボーディングスクールに通っている場合で、配偶者がその費用実額を全額負担している場合です。
この場合、生活費に相当する養育費も受領しようとすると、いわば二重取りのような状態になってしまうからです。
そこで、一定期間ごとに生活費に相当する養育費を精算(子どもと一緒に生活していない期間に相当する養育費の一部について義務者に返金する)するといった調整が考えられます。
この場合には、下記【条項例】のような定めを検討することになります。
条項例
「1 甲(支払う側)は乙に対し、丙(子ども)の養育費として、丙が満20歳に達する日の属する月まで(ただし、丙が満20歳に達する日において大学・専門学校又はこれに準ずる高等教育機関に在籍しているときは、丙が満22歳に達した後最初に到来する3月まで)、毎月末日限り、以下に定める期間に対応する金額を乙の指定する口座に振り込み支払う。振込手数料は甲の負担とする。
① ○年○月から○年○月まで:1月あたり○万円
② ○年○月以降:1月あたり○万円2 乙は、甲に対し、丙が寄宿先で生活をするなど乙と24時間寝食を共にしない日がある場合には、毎年○月末日限り、毎年○月末日までの期間における、丙が乙と寝食を一切共にしなかった日数(乙の同伴を伴わない友人との旅行など一時的に寝食を別にしたに過ぎない場合は、当該日数に含めないものとする。)に以下に定める期間に対応する1日あたりの金額を乗じた金額について、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。疑義を避けるため付言すると、留学期間または寄宿学校在籍中の期間であったとしても、丙が乙の居宅で生活する日数については、当該日数に含まれない。
① ○年○月から○年○月まで:1日あたり○円
② ○年○月以降:1日あたり○円」
※子どもの年齢に応じて養育費の額を変更することを想定し、期間に応じて金額を場合分けしています。
婚前契約ではない「婚後契約」という選択肢
資産の多い夫婦が離婚する場合の財産分与
今回は、ボーディングスクールなど高額な教育費の取り決めに焦点をあててお話しさせていただきました。
岩崎総合法律事務所には、富裕層向けコンサルタント資格であるプライベートバンカーライセンスを保有する弁護士が所属しており、これまで様々な富裕層、資産家の方を対象にリーガルサービスを提供しています。富裕層世帯の離婚についても多くの取り扱い実績があります。資産の多い夫婦が離婚する場合の財産分与については、こちらのコラムをご覧ください。
養育費や教育費の取り決めは、子どもの将来に影響する重要な問題です。
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