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2024年11月27日(水曜日)
ファミリーガバナンスで進化する事業承継:金融機関とPEファンドが注目する安定承継の手法

ファミリー経営の企業(以下「ファミリー企業」)が直面する事業承継の課題は、後継者不足相続税の負担資産が分割されることによる家族間の対立など、多岐にわたります。

こうした問題を解決し、安定した承継を実現するための手段として注目されているのが「ファミリーガバナンス」です。

ファミリーガバナンスを導入することで、金融機関やPEファンドにとってもリスク管理や信頼関係の維持がしやすくなり、安心して支援できる体制が整います。
以下では、ファミリーガバナンスがもたらす具体的なメリットや導入手法などについて解説します。

なお、ファミリーガバナンスの概要についてこちらのコラムで説明していますので是非ご覧ください。

 

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目次

事業承継を行う上でファミリーガバナンスの導入は効果的である。

 

1. はじめに:事業承継とM&Aにおけるファミリーガバナンスの必要性

事業承継の課題とファミリーガバナンスの必要性

日本のファミリー企業は、事業承継において複雑な課題を抱えています。
後継者の不足や資産分割に伴う家族内の対立、さらに重い相続税負担などがその例です。
特に富裕層にとっては、これまで主に節税対策が重視されてきましたが、現代ではファミリー全体の繁栄や事業承継の円滑化などが新たな焦点となっています。

また、オーナー側にとっては、「一族の会社を手放す決断」へのためらいや、「従業員や家族に与える影響」への懸念などが大きな障壁となることがあります。
以下、事業承継に関してオーナーの方からよく寄せられる懸念事項です。

・「親族内に後継者候補がおらず、MBOも難しい状況だが、大切な会社を第三者に売却することに抵抗感がある。」
・「一族の会社ではなくなってしまうが、自分の代のそのような判断をして良いものなのか?」
・「自分にだけ多額の現金が入ってくることになるが、一族や従業員たちに申し訳ない。」
・「事業承継を行うことによって、一族がばらばらになってしますのではないか。」

事業承継に二の足を踏んでいるうちに、会社が競争力を失ったり、オーナーが死亡することで会社に悪影響が及ぶリスクがあります。
ファミリーガバナンスは、こうした課題やリスクに対処するための統治の仕組みです。

家族間の対立を未然に防ぐための「家族憲章」「ファミリーガバナンス契約」といった仕組みを構築することで、家族全体での合意形成をスムーズに行うことが期待できます。
このような仕組みを整えることで、後継者の育成や事業承継プロセスをスムーズに進めることができ、また、外部からのサポート(有能な人材の登用など)も受けやすくなると考えられます。

ファミリーガバナンスの意義

ご説明のとおり、ファミリーガバナンスの意義の一つとして、家族内の調和を維持し、安定した事業承継を可能にすることが挙げられます。
特にファミリー企業においては、家族間での利害関係や意見の違いが生じやすく、こうしたリスクを減らすための制度を整備することが重要です。
ファミリーガバナンスは、家族内での共通のビジョンを明確にし、経営権の分散を防ぐことで、金融機関やPEファンドとの関係を保ちながら安定した事業承継をサポートする手段として機能します。
ファミリーガバナンスは、長期的な視点から事業を安定的に引き継ぐために重要であり、家族の資産と事業を守り、次世代へのスムーズな承継を実現するために効果的な手段であるといえます。

2. 金融機関・PEファンドがファミリーガバナンスを提案すべき理由

ファミリーガバナンスは、事業承継におけるオーナー側の心理的ハードルを軽減し、資産の保護家族内調整を促進して安定的な承継を実現するための有効な手段です。
ファミリーガバナンスの活用により、オーナーだけでなく、従業員や取引先といった利害関係者の利益を守ることが可能です。

以下では、ファミリーガバナンスが提供する具体的なメリットを、オーナーと金融機関・PEファンドの両方の視点でご説明します。

①事業承継でお悩みのオーナーの背中を押す機会となる(オーナーの心理的抵抗の軽減と家族間の調和)

ファミリーガバナンスは、家族内での対立を未然に防いだり、事業承継に伴う心理的ハードルを取り除く手段として効果的です。
特に、親族や従業員以外の第三者への承継に抵抗を持つオーナーに対して、ファミリーガバナンス「会社を守るための合理的な選択肢」となります。

・オーナーへのメリット

オーナーの中には、「先代から受け継いだ会社を売却して、自分だけ多額のキャッシュを得ることになるが、他の一族に対して申し訳ない。」と考える方がいます。
しかし、例えばファミリーオフィスを設置し、取得した財産をファミリーのために活用することを盛り込むことにより、ファミリー間の不和を解消することが期待できます。

また、事業承継を行う際の懸念事項として従業員の雇用継続もよく挙げられます。
この点については、譲渡先との契約の中で雇用の継続を義務付けたり、譲渡先と労働組合との間で一定の合意をしてもらうことが考えられます。
従業員は会社経営において重要な存在です。事業承継にあたりファミリーガバナンスを導入する場合には、従業員に関する取扱いについても考慮し、ファミリーガバナンス契約書や株主間契約書などで取り決めをしておくことが重要です。

ファミリーガバナンスの導入には一族での話し合いが不可欠です。この話し合いの場で事業承継に関する方針を明らかにしておくことにより、実際に事業承継を行うタイミングで家族間の調整をスムーズに行うことが可能になります。また従業員に配慮した承継を行うことも期待できます。

・金融機関・PEファンドへのメリット

親族内承継やMBOが難しい場合、第三者への売却が合理的な承継方法として挙げられます。
オーナーの抱く心理的抵抗を取り除いてあげることができれば、結果として、オーナー一族だけでなく、従業員や取引先などの利害関係者の利益になりえます。
ファミリーガバナンスを導入することによりオーナーの懸念点を払拭できれば、事業承継に弾みをつけることが可能です。
金融機関・PEファンドとしては、オーナーに対してファミリーガバナンスを提案し、心理的抵抗を取り除くことができれば、取引機会を拡大することが期待できます。

②会社資産や事業の保護と承継プロセスの効率化

ファミリーガバナンスの導入により、企業の経営方針や資産運用の透明性が確保されることになりますので、金融機関やPEファンドにとってリスクの低い投資対象となります。
特に株主の数が多い場合には、オーナー側の意思の統一、交渉窓口の統一といった効果が期待できます。また、承継プロセスの効率化も期待できます。

・オーナーへのメリット

事業承継に伴うプロセスを統一化することができますので、手続きに伴う心理的・物理的負担が軽減されます。

・金融機関・PEファンドへのメリット

ファミリーガバナンスの導入によりオーナー側の意思や動きが統一されていれば、交渉の窓口や工数が減る分、事業承継をスムーズに行うことが期待できます。

③オーナー側との信頼関係の維持

ファミリーガバナンスの導入により、ファミリー企業特有のリスクを管理し、安定した事業運営を確保するための体制を整えることが可能になります。
体制を整える過程で、ファミリー企業の抱える問題点をあぶり出すことが可能です。
金融機関やPEファンドとしては、その問題点をオーナー側と共有し、資産運用や承継支援に対して積極的な姿勢を取ることで、オーナー側との長期的な信頼関係を築くことが期待できます。

・オーナーへのメリット

事業承継がスムーズに進むことで、家族や従業員への負担感が軽減されるだけでなく、取引先との信頼関係も維持されます。
金融機関やPEファンドとの協力体制が整うことで、資産運用の選択肢も広がります。

・金融機関・PEファンドへのメリット

企業の課題を共有し、オーナーと共に対処することで、資産運用や承継支援の新たな取引機会が創出され、長期的な関係構築が可能になります。

④税務上のメリットと資産管理の効率化

ファミリーオフィスを設立し、資産を一元管理することで、相続税対策納税資金の確保効率的な資産運用が可能になります。
これにより、事業承継に伴う財務負担を軽減しつつ、一族全体での長期的な資産管理が実現します。

・オーナーへのメリット

相続税対策納税資金の確保の効果のほか、事業承継の対価として得た資産(例:株式の売却代金)をファミリーオフィスで管理することで、一族全体の資産運用の効率化を図ることができます。
(資産を集約することにより、個々人で行った場合よりも高い投資効果が得られる可能性があるということです。)
また、オーナー側としては、事業承継により現金化された資産の管理・運用方法に関して、一族まとめて相談先の選定や、運用方針の決定をすることが可能となります。
その結果、経済的にも精神的にもより安心した状態で事業承継やその後の資産管理を行うことが期待できます。

・金融機関・PEファンドへのメリット

事業承継のみならず、資産管理や運用における取引機会が拡大することになります。
ファミリーオフィスを通じて一族の資産を一元管理することになれば、長期的な関係構築が可能となります。

小結

ファミリーガバナンスは、オーナーが抱える心理的抵抗を取り除き、一族、従業員、取引先など、すべての利害関係者を守る上で非常に有効的な手段といえます。
また、親族内承継やMBOが難しい場合であっても、ファミリーガバナンスを導入することによって、納得のいくかたちで承継を行える可能性があります。
金融機関やPEファンドにとっても、事業承継に悩みを抱えているオーナーの方に対し、その解決策としてファミリーガバナンスを提案することにより、オーナーとの信頼関係の構築や新たな取引機会の拡大を図ることが期待できるといえます。

3. ファミリーガバナンス導入の具体的な手順

ファミリーガバナンスを導入するには、家族間での合意形成と法的枠組みの整備が不可欠です。
一般的な流れとしては、①現状把握・情報収集、②プランニング、③運用開始、の3つのステップで構築していくことになります。

①現状把握・情報収集

ファミリーガバナンス導入には、まず家族内の中心メンバーが、家族の構成や影響関係、資産状況を把握することが不可欠です。
メンバーの定義や、関与度、株式保有割合などを考慮した親族関係図を作成し、ファミリーガバナンスの意義をメンバー間で共有します。
さらに、家族内の価値観の統一を目指し、本音を引き出すための丁寧なヒアリングを行い、家族の財産(有形・無形)も把握します。

②プランニング

現状把握が完了したら、ファミリー憲章ファミリーガバナンス契約などの策定に移行します。
外部専門家のサポートを受け、議論と見直しを重ねた上で契約書類を作成し、家族間の承認を得ることになります。
このプロセスには通常、1年ほどの時間が必要となります。

ファミリー憲章や、ファミリーガバナンス契約書などの概要についてこちらのコラムでも説明していますので是非ご覧ください。

ファミリー憲章
ファミリー憲章は、家族全体の価値観を反映する基本方針として作成するものです。
ファミリー憲章は、家族のビジョンや価値観を共有し、長期的な目標を明確にするための「家族の憲法」ともいえる存在です。
具体的には、ファミリービジネスの方向性や資産承継の方針、家族内の紛争解決のプロセスなどを盛り込みます。

ファミリーガバナンス契約などの策定
ファミリーガバナンスの効果を高めるために、法的拘束力を持たせる契約書の整備が必要です。
ファミリー憲章をもとに、ファミリーガバナンス契約信託契約株主間契約遺言書などを作成し、資産と事業の権利関係や管理方法を明確にします。
こらの対策を行うことにより、承継後のリスクが軽減され、少数株主の権利や資産の分散によるトラブルを未然に防ぐことが期待できます。

③運用開始

ファミリーオフィスを設立し、ファミリーガバナンスの取り決めが実行されるための会議体(総会・執行委員会など)を設け、財産管理や次世代への承継を行います。
また、税務対策や資産運用の意思決定も行い、ファミリーの長期的な繁栄を目指します。ファミリーオフィスの運用には、弁護士や税理士、医師などの専門家が関与することが理想的です。

4. まとめ:ファミリーガバナンスで実現する安定した事業承継

ファミリーガバナンスの導入は、家族間の価値観や目標を共有し、事業の方向性を一体化させる効果をもっているため、ファミリー企業が安定的かつ調和の取れた事業承継を実現するために非常に効果的といえます。
金融機関やPEファンドとしては、オーナー側に安心して事業承継を検討してもらうツールになるのみならず、オーナー側との信頼関係の構築や、資産管理の支援をする機会を広めるツールになりえます。

岩崎総合法律事務所が提供しているLegal Prime®では、事業承継分野をはじめとするファミリーガバナンスの設計・運用のサポートを行います。
分野・論点等必要に応じて金融機関、税理士等と連携しながらサポートしています。
サービス内容の詳細は、Legal Prime®特設サイトをご参照ください。


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