Information > コラム
岩崎総合法律事務所は、経営者・社長・代表取締役、資産家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime® を提供してきた経験の中で、上場企業オーナー世帯の離婚事件も取り扱ってきました。
上場企業オーナー世帯特有の問題について、最善の解決となるようにサポートしています。
本コラムでは 上場会社社長世帯の離婚 について、主にその特徴に関連した論点をQ&A形式で解説します。
日本国内で上場会社の数は約4000社ほどありますが、
そうした上場会社社長の世帯で離婚がトラブルになる例は少なくないように感じます。
当事務所にも上場会社社長の世帯での離婚トラブルのご相談は度々寄せられています。
例えば上場企業経営者世帯の離婚ではこのような裁判例があります。
主婦である妻が、東証一部上場企業経営者である夫に対して、共有財産(約220億円)の半額(約110億円)を請求したケース
(東京地裁平成15年9月26日判決)
裁判所は、「共有財産の原資はほとんどが原告(注:夫)の特有財産であったこと、その運用、管理に携わったのも原告であること、被告(注:妻)が、具体的に、共有財産の取得に寄与したり、A社の経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると、被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。」として、共有財産の5%(10億円)の限度でしか財産分与を認めませんでした。
規模が大きく、夫婦以外のステークホルダー(親や子、従業員、株主、投資家、取引先等)も多く、
関連する法や規制、会計・税務の問題、離婚問題が資産価値に及ぼす影響など考慮しなければならない事項は多岐にわたります。
トラブルが予測される状況の方は、大至急行うべき事前の対策があります。時期を逃すと有効な対策の多くが実行できなくなります。
上場会社社長世帯の方でお悩みの方は、早急に当事務所までお問い合わせいただくことをお勧めいたします。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
これにより得られた知見の一部を書籍化し発売中です。ご興味をお持ちいただけましたら、書影をクリックして詳細をご確認ください。
上場会社社長の世帯では、通常の世帯と比べて資産規模が大きく、その多くを株式が占めています。
また、経営者としての責任を公私ともに重く負担しています。
こうした上場会社社長は非上場会社社長の場合と異なる点も多いです。
まず、株式の流動性です。
上場会社株式とはいえ後記のとおりその処分には様々な制約があるものの、非公開会社の場合に比して流動性が認められます。
自社株を担保にして様々な資産運用が行われていることがあることも特徴的です。
また、ステークホルダーの数が多く、属性も多様です。そうしたステークホルダーに対して負う責任の内容は厳格に法的なレベルであって、その程度も一般に重くなるものです。
金商法や有価証券上場規程に基づいて財務状況や会社の重要行為が相当高度の正確さをもって開示されていることも特徴的です。
非公開会社の場合には、特に他人資本が入っていない場合、その会社運営はある程度経営者の都合で行われている場合もありますが、上場会社の場合にはそうしたことが行われにくいことも特徴の一つといえるでしょう。
こうした特徴をもつ上場会社社長の世帯での離婚では、財産分与が最も問題になります。
特に資産の多くを自社株が占めているため、その扱いを巡って大きな問題となります。
これについてはいわゆる対象財産の範囲も問題になりますが、分与方法、株式報酬の問題、関連する規制の問題、両者が協調して解決すべき問題などが重要な論点になりやすいです。
財産分与の意義や詳細については(こちらのコラムもご覧ください)。
また、高額所得者世帯に該当するため婚姻費用や養育費も問題となりやすいです。
上場会社経営者、社長の世帯の資産ポートフォリオでは、その多くの割合をその上場会社株式が占めています。
このため、
婚姻前に創業していた場合には、必ず、財産分与の対象にならないのか、
婚姻後に設立した会社であれば、必ず、財産分与の対象になるのか、
相続した株式は、必ず、財産分与の対象にならないのか、
財産分与の割合はどうなるか
などが必ず問題となります。
これら株式の財産分与を巡る論点については、(こちらのコラムもご覧ください)。
多くの上場会社経営者世帯では、婚前に会社を立ち上げている場合が多いように感じますが、
その場合には株式価値上昇分の扱いについて論点となりやすいです。
現状の裁判例の傾向だと、配偶者が会社業績に特別な貢献をしたことが認められない限り、婚前に立ち上げた会社の株式は財産分与の対象にならない可能性があります。
しかし、事例によっては財産分与の対象になる余地もあり、その影響(つまり婚姻日からの価値上昇分の幅)によっては極めて大きな論点となり得ます。
会社株式については、その分与の方法について注意しなければいけません。
特に経営との関係で、どのような影響が生じるかを整理することが重要です(これは経営者でない側の配偶者にとっても重要なことです)。
分与の方法には、清算してする方法と現物のまま分与する方法があります。
清算してする方法とは、対象財産の帰属はそのまま変動させずに清算金の支払をさせる方法で、これが原則です。
したがって、経営権に支障は生じないのが原則です。
しかし、自社株のほかに預貯金等の流動性のある資産が少なく、どうしても清算金の支払原資が不足してしまう場合もあります。
こうしたとき、原則的には処分して清算金を用意するか、現物株そのものを分与しなければならなくなります。
しかし、一気に株式を処分すること場合には会社価値に悪影響が生じ得ます。
それは、経営者株主の持株比率低下、第三の大株主の出現による経営への影響不安といったガバナンスの問題に始まり、まとまった処分それ自体による株価低下、上場会社そのものが自己株買いする場合のキャッシュアウトの問題を生じさせます。
こうしたことから、夫婦の財産である株式の価値を下落させないように、財産分与に伴うガバナンスの問題等について夫婦が共通の利益として協調して解決に当たるべき論点がでてくるのです。
また、法令や上場規程その他慣行からそもそも簡単に処分できるものではない点にも注意が必要です。
財産分与の方法を検討するにあたっては、法令や上場規程からそもそも簡単に処分できるものではない点や手続上の負担を伴うことにも注意が必要です。
上場会社社長が和解の内容として株式の処分を盛り込もうとするとき、インサイダー取引規制がかかる場合があります。
インサイダー取引規制とは、上場会社の役職員等が、その職務等に関して会社の業務等に関する重要事実を知った場合、これが公表された後でなければ、当該上場会社等の株式等の売買等を行ってはならないという規制です。
また、ごく稀の事例になると思いますが、和解の内容として株式の処分を盛り込もうとするとき、処分後の配偶者の株式等所有割合が3分の1を超えようとする場合には公開買い付け規制(証券取引所を通さずに対象企業の既存の株主から大量の株式の買付けを行う際に、買付者が期間・価格・予定株数などを公表した上で行わなければならない等の規制)がかかる場合があります。
発行会社においては、主要株主の変動が生じる場合にはその開示をしなければならず、株主自身においても大量保有報告書をEDINETを通じて提出しなければならない点にも注意が必要です。
上記の通り、株式の処分を巡ってはガバナンスに悪影響が生じうる可能性があります。
こうしたことを回避するため、上場会社社長は、その株式を信託に組み入れて受託者に管理させたり、資産管理会社にて管理させたり、財団に寄付して財団に管理させたりと対策を講じている場合があります。
これによって上場会社社長の財産であった株式は、信託の場合には受益権であり、資産管理会社の場合には資産管理会社の株式となって変化します。
これらは必ずしも離婚を意識してのものではなく、安定株主策や相続税対策等のために行われている場合が多いです。
こうした場合、その内容によっては、受益権や資産管理会社の株式そのものを分与(現物分与)したとしても、
ガバナンスに深刻な影響が生じないとして、株式そのものの現物分与が検討される場合があります。
ただし、これをもって公平な分与方法となるかは慎重に検討されます。
例えば信託の場合、その受益権の内容は、委託者(上場会社社長)と受託者(信託銀行等の信託会社や一般社団法人等)との間で締結される信託契約や信託法によって決められます。
信託契約は柔軟に設計することができるため、そうした信託契約に基づく受益権そのものの分与をもって配偶者側に著しく不利、不当と評価されてしまう場合もあります。
こうした不当な結果と評価されるようなときには、その不当性を補う代償措置やそれを担保する措置がなくては現物分与では不相当と評価される場合もあり得るものと思います。
株式報酬には、株式として受領するもの(リストリクテッド・ストック(RS)やパフォーマンス・シェア(PS)等)と、新株予約権として受領するもの(ストック・オプション(SO))等が含まれます。
どのような株式報酬をどれほど受領しているかは、付与時から現時点までの会社の状況の推移にもよりますが、経営陣クラスになると、これら株式報酬は財産規模として軽視できない規模になっている場合が多いです。特に、プロ経営者の場合にはこの傾向が顕著です。
行使条件、付与条件、譲渡制限解除条件等権利実現及びそれに続くキャッシュ化に必要となる各報酬に設けられた条件を満たしているのか、又はこれら条件を満たす可能性があるのかなど、具体的な事実関係をもとにして財産的価値の有無を検討することになります。
ただし、こうした株式報酬については、離婚裁判実務上の扱いが必ずしも確立していません。
株式報酬の法的性質、内容、会計実務の正確な理解は当然必要となり、
その上で、裁判所や相手方に正しく伝わるよう、丁寧に説明・立証を尽くさなければ、正当な判決を得られない事態になりかねません。
当事務所は、上場会社・非上場会社のために、ストック・オプションや株式報酬制度の設計その他資本政策の課題解決を多く手掛けており、これにより得られた知見の一部を書籍化し出版しております。
ご興味をお持ちいただけましたら、Amazonほか各オンラインストア、全国の書店にてお求めいただけます。
また、株式報酬を巡る問題についてこちらのコラムもご覧ください。
当事務所は、様々な株式報酬の設計・課題解決を手掛けてまいりました。これらの知見は、夫婦間の財産の清算の場面である財産分与手続においても効果を発揮しています。
一気に株式を処分することで会社価値に悪影響が生じ得る場合などには、夫婦双方にとって望ましいことではない(ことが通常)です。
このため、両者共通の利益として、処分方法を段階的にする、場合によっては株式の処分はせず、役員報酬や配当など収入を原資として分割払いの方法とするなど、会社経営権に支障がない形で清算方法を協議するべき場合も多いです。
このときには、ゼロサムではなく、お互いにとって利益のあるものであることを両者がよく理解することが出発点となります。
上場会社の経営者のような高額所得者の場合には、婚姻費用(離婚前の別居している状態に毎月支払う生活費等)の金額が大きくなる傾向にあります。
実際の婚姻費用の算定は従前の生活水準に大きく影響を受けるところですが、月100万円を超えて認定されることも少なくありません。
例えば夫婦問題が紛争化して事件が解決するまでに3年を要した場合、月100万円の婚姻費用だとその金額は3600万円となります。150万円であればその1.5倍であり5400万円となります。
例えば有責配偶者の場合によく取り上げられる10年という別居期間など、事件解決までの期間が長くなればなるほどさらに大きくなります。
一方で、請求者側にこそ別居の原因があるなど、婚姻費用請求に権利濫用の事情がある場合には、その請求が認められないあるいは相当に低額となる場合もあります。
こうした婚姻費用も離婚問題を解決するにあたって重要な論点となります。
上場会社社長の世帯では、教育に大きな費用を投じていることが多いです。
こうした費用の負担のため、養育費は高額になりやすいです。
夫婦関係が破綻し相互の信頼関係が壊滅している場合、
高額な養育費を、監護権者となる他方に支払って、それが使い込まれないか心配されるなどして、
その支払方法が論点になることがあります。
信託を組成して支払う方法も検討されることがありますが、
信託による場合には信託の内容が養育費支払いのために公平確実であり安定性のあるものか、
信託組成時に税負担が生じないかなどの検討が必要です。
入籍する前であれば、夫婦財産契約(婚前契約などと呼ばれることもあります)を必ずご活用ください。夫婦財産契約についてはこちらで詳しく解説しています。
一方入籍後の場合は、家族の状況、資産の状況、自身の投資性向等によって、実行できる手法もケースバイケースとなります。その手法の一つには婚後契約(婚姻の後にする夫婦間契約)もありますが(婚後契約についてはこちらで詳しく解説しています。)、複合的な手法を用いた対応が有益です。詳しくは当事務所まで直接お問い合わせください 。
事実婚、内縁など、結婚によらないパートナー関係の場合にも、パートナーシップ契約で手当てしておくことが重要です。こちらで詳しく解説しています。
以上、上場会社経営者の世帯での離婚問題について、よく相談に上がる事項・論点となる事項にについて解説してきました。
これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を正確に整理して、正しく主張立証することが重要です。
もし、お悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。既に代理人を選任されている場合でも、当該代理人を補助する趣旨でサポートすることも可能です。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。