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2023.5.11
医師・医者の離婚 ~ 医療法人の「持分」を巡る財産分与等 ~

岩崎総合法律事務所は、医師・医者、資産家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime® の提供を通して、医師・医者世帯の離婚事件も取り扱ってきました。

医師・医者世帯特有の問題について、最善の解決となるようにサポートしています。

特設サイト「富裕層世帯の離婚」

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医師・医者といっても様々です。
・勤務医、開業医といった違いから、開業医は医療法人や一般社団法人(又は財団法人)を運営しているか。
・医療法人であれば持分があるか、ないか。
・法人を運営している場合はMS法人(メディカルサービス法人)を保有しているか。
これらによって収支や資産の状況は大きく異なります。
・また、眼科医、皮膚科医、耳鼻咽喉科医、整形外科医、美容整形外科等の美容系、歯科医など専門医の属性によっても収支や資産の状況に一定の傾向があります。

また医療機関経営者は、
・医師でない配偶者や親族を理事や従業員等何らかの役職につけているケースもあります。
・ときには持分や株式を保有させている場合もあります。
こうした配偶者等の関与の形態いかんも、あるべき解決に大きな影響を与える場合があります。

本コラムでは 医師・医者の離婚 について、持分あり医療法人の「持分を巡る問題」をQ&A形式で解説します。
持分なし医療法人、MS法人や開業医の問題についてはこちらのコラムをご参照ください。

一口にはいえない医師・医者の離婚問題を適切に解決するためには、
医療法、医業業界実務に精通していることが必要です。
資産が大きければ資産家・高額所得者ゆえの特殊論点・実務に精通していることも大切です。

岩崎総合法律事務所では、医師、クリニック、病院、医療法人、大学病院等の医療機関や、バイオメディカル・ヘルスケア事業を営む会社向けに、法律サービスを提供してきました。
これらの知見は、夫婦間の財産の清算の場面である財産分与手続においても効果を発揮します。

トラブルが予測される状況の方は、大至急行うべき事前の対策があります。時期を逃すと有効な対策の多くが実行できなくなります
お悩みの方は、当事務所までお問い合わせいただくことをお勧めいたします。
医師イメージ

取扱業務:医療・バイオメディカル・ヘルスケア法務

 

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弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。

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目次

 

Q1 医師・医者の離婚ではどのような点が問題になりやすいですか。どのような特徴があるでしょうか。

医師・医者の多くは高額所得者であり、それによって多くの資産を保有していることがあります。
こうした収入や資産の多さが離婚問題(特に財産分与や婚姻費用・養育費の問題)を複雑にします。
離婚問題を抱える一般世帯のケースに当てはまらない特殊論点・特殊考慮事項を生じさせるからです。

特に医療法人やMS法人(MS=メディカル・サービス)を経営している場合にはその法人の扱いが極めて重要な論点となります。
個人事業主・自営形態の開業医の場合にはその病院の設備や借入の性質・状況なども論点となります。

後継者がいる場合には、離婚問題の処理の仕方がスムーズな承継に支障を生じさせないかも考慮事項となります。

医者がその職について地域社会に負う公益的責任も離婚問題に影響を及ぼすことがあります。

資産運用を積極的に行っている世帯であれば、運用資産の意義・特性を正確に理解できなければいけません。

このように医師・医者の離婚問題を適切に解決するためには、
資産家・高額所得者ゆえの特殊論点・実務に精通していることや、
医療法、医業業界実務に精通していることが必要です。

Q2 医師・医者の「財産分与」には、大きくどのような特徴がありますか。

財産分与とは、婚姻してから夫婦関係の協力関係を喪失するに至った時点までの間に夫婦相互の努力によって形成した財産を、一定の評価の下、一定の割合で分け合うことを指します。

財産分与の意義や詳細については(こちらのコラムもご覧ください)。

医師・医者の傾向として、その資産の多くが現金・預金である場合があります。
いわゆるキャッシュ・リッチの状態で、現金・預金以外は自宅不動産という状況です。
この場合、財産分与の範囲の問題は相当にシンプルであり、あとは2分の1ルールの扱いと、自宅不動産の評価で決着します。

もっとも、そのようにシンプルに決着しない場合も多くあります。
例えば、医療法人を経営している場合には注意が必要です。
医者個人の名義の預金よりも医療法人に多くの資産が内部留保されている場合が多く、その結果医療法人(の持分)の扱いが論点となるからです
MS法人を経営している場合も同様にその法人の株式・持分が問題となります。

一方個人事業主・自営形態の開業医の場合には、事業性資産・負債が個人に紐づいているので、これらを一つ一つ分析していかなければなりません。

資産運用に積極的な世帯の場合にはその運用資産(投資不動産、株式、投資信託等有価証券など)の評価や処分にも注意が必要です。

オフィスビル

Q3 特に「医療法人を経営している医師・医者」の財産分与の特徴はどのようなものでしょうか。「医療法人の持分」の扱いが極めて重要と聞きますが、医療法人の持分とはどのようなものでしょうか。

医療法人は、大きく財団と社団に分けられますが、ここでは社団を前提にします。
そして医療法人社団は「出資持分のある医療法人」と、「出資持分のない医療法人」に大別されます。

ただし、持分あり医療法人は、2007年4月の第5次医療法改正以後、新規設立ができなくなっています。
このため、医療法人の持分を検討するべきケースは、それより前に医療法人(持分あり)を設立していた場合となります。

出資持分とは、出資者が出資額に応じて医療法人に対して有する持分割合のことです。
株式と似ていますが、株式の場合には最高意思決定機関である株主総会での議決権と、残余財産分配請求権などの財産権が一体となっているのに対して、出資持分については最高意思決定機関である社員総会の構成員は必ずしも出資者には限られず、一体のものではありません。

つまり、出資持分は、医療法人の時価相当額についてその持分割合に応じた経済的権利を指す、純粋な「財産権」を意味します。

Q4 医療法人の持分はどうして重要となるのでしょうか。

医療法人は非営利でなければならず、配当を出すことが禁じられています。
つまり、剰余金を外部に流出させる契機があまりありません。
たとえ、理事報酬の支払額や、MS法人への支払額などによって一定程度工夫されている場合であっても、
医療法人の規模が大きい場合にはそれにも限界があり、多くの内部留保が形成されています

このため、長年経営している医療法人であれば、貸借対照表上の純資産額が多額になっていることが多いです。
出資持分の時価評価額については後記のとおりですが、純資産価額が評価に与える影響は大きく、一般に純資産価額の増加に伴って出資持分の評価額も高額なものとなります。

医療法人経営者の医師・医者の世帯の資産ポートフォリオでは、その多くの割合をその出資持分が占めることになり、一番大きな論点となることがあります

Q5 医療法人の持分について、婚姻「前」に創業していた場合には、必ず、財産分与の対象にならないのでしょうか。

創業が婚姻前の場合、原則としてその持分は財産分与の対象になりません。

もっとも、この場合であっても、法人の維持、発展に配偶者の寄与が認められる場合には財産分与の対象となることがあります。

法人の維持、発展に対する寄与の判断ですが、裁判例においては、例えば株式会社の事案では、パーティーへの同伴出席といった内助の範囲にとどまる場合には寄与が認められることはないとされています。

会社の維持、発展に配偶者の寄与が認められるか論点となった事案
例えば、東京地判平成15年9月26日(D1-law.com判例体系ID28224959)は、不貞行為のように離婚原因をつくった夫(会社経営者)からの離婚請求に対して、妻から夫に、夫が婚姻前に設立した会社の株式に対して財産分与を請求したケースでした。この事案で裁判所は、「原被告の生活状況からすると、被告(妻)の寄与が問題となるのは、原告(夫)と被告が、継続的な同居を始めた昭和55年以降と解するのが相当である。そうすると、取得時期の観点からすると、分与の対象となる共有財産となりうるのは、原則として、その後原告が取得した財産と解すべきであるから、n所在不動産、r所在不動産、s所在不動産、A社株式は特有財産といえ、直接は財産分与の対象とならない」として、婚姻前に設立した株式につき、夫の特有財産性を認めました。

また、価値上昇分の扱いについて論点となりやすい点も注意が必要です。

現状の裁判例の傾向だと、配偶者が業績に特別な貢献をしたことが認められない限り、婚姻前に立ち上げた法人の持分は財産分与の対象にならない可能性があります。
しかし、事例によっては財産分与の対象になる余地もあり、その影響(つまり婚姻日からの価値上昇分の幅)によっては極めて大きな論点となり得ます。

Q6 医療法人の持分について、婚姻「後」に設立した会社であれば、必ず、財産分与の対象になるのでしょうか。

これに対して、婚姻後に設立した法人である場合、原則として財産分与の対象になります。

但し、出資の原資が婚姻前資産(あるいはその代替資産)であることもあります。
このような特有財産(婚前資産)の代替物は、同様に特有財産として扱われることが原則です。
ただし、そうした特有財産の立証は裁判実務上容易ではないケースが多く、この点注意が必要です。

また、医療法人の出資持分については、通常の資産とは異なり、その後の自身の経営努力によって価値が膨大に膨れ上がる可能性のあるものであり、純粋な資産と性質が異なる点があります。このため、単純な婚前資産の転換の立証で解決する論点では必ずしもなく、個別事情次第で判断される微妙な問題といえます。

明らかに不公平な帰結となる場合などには、たとえ出資の原資が婚姻前資産であったとしても財産分与の対象になる可能性はあります

Q7 医療法人の持分について、「相続」したものであった場合、必ず、財産分与の対象にならないのでしょうか。

相続や贈与によって得た財産は、特有財産であり財産分与の対象にならないことが原則です。

しかし、ここにも例外があり得、たとえ相続財産であっても、財産分与の対象になる場合があります
それは、相続税・贈与税の納税原資を夫婦の共有財産から出した場合です。

相続税・贈与税の納税原資を、婚姻後に形成した預金残高からねん出していたような場合には、例えばその部分の割合相当が財産分与の対象となるなど、なんらかの枠組みで財産分与の対象とされる可能性があります。

一方相続税・贈与税の納税を、他の相続財産や贈与財産にて行っていた場合には、原則通り財産分与の対象にはなりません。
しかし、こうした納税原資について客観的証拠をもって立証できなければ、やはり財産分与の対象になる可能性はあります。

Q8 医療法人の持分が重要であることは理解できましたが、これはいくらと「評価」されるものでしょうか。評価方法も教えてください

株価変動

評価理論と財産分与に求められる公平性を考慮

医療法人の持分には、一義的な時価がないためその評価が争いになります

評価には用いるべき算定方法が複数ある場合もありますし(コストアプローチ(ネットアセットアプローチ:簿価純資産法、時価純資産法(修正簿価純資産法))、インカムアプローチ(「DCF法」、「収益還元法」、「配当還元法」)、マーケットアプローチ(類似会社比較法(マルチプル法))など)、ひとつの算定方法をとってみても前提とする事実や数値によって評価幅がでることは不可避です。

医療法人の持分評価は株式の評価方法を参考にして行われます。
株式の評価方法の詳細については、別のコラムも用意していますのでそちらもご参照ください。

以上が資産評価の一般論ですが、財産分与が問題となる場面では特有の評価要素が生じます
財産分与の論点は一切の事情を考慮して公平性の観点から判断されるものです。
この点で必ず考慮しなければいけないのは、理論上の評価額ではなく、資産の正味の価値を検討することです。

これは通常の資産評価(バリュエーション)の問題には表れない、財産分与特有の評価の論点といえます。
すなわち、資産取得自体や財産分与としての清算の過程で税金や費用等の負担が生じる場合にはこうした税金・費用等のコストの影響があることを考慮する必要があります。

こうした点で、大阪高判平成26年3月13日は、収益還元法によって出資持分の評価額を算定し得るような証拠が提出されているわけではなく、純資産価額を考慮して評価せざるを得ない(最高裁平成22年7月判決参照)として評価方法を純資産価額方式としながらも、それに70%を乗じて評価額を算出しました。
その理由は、以下の通りです。

大阪高判平成26年3月13日における理由付け
医療法人の財産の出資社員への分配については、収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する同法(医療法)54条に反しない限り、基本的に当該医療法人が自律的に定めるところに委ねており、本件医療法人のように医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合においては、同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定は、出資した社員は、退職時に、当該医療法人に対し、同時点における当該法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算出される額の返還を請求することができることを規定したものと解されるところ、こうした返還請求権の行使が具体的な事実関係の下においては権利を濫用するものとして制限されることもあり得る(最高裁平成22年4月判決参照)。
また、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、当分の間、本件医療法人において医師として稼働する意思を有していることが認められ、形式上も96.66パーセントの出資持分を保有する控訴人が、現時点において本件医療法人に対して退社した上出資持分の払戻を請求するとは考えられない
さらに、将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面がある
こうしたことを考慮すれば、本件医療法人の純資産評価額の7割相当額をもって出資持分3000口の評価額とするのが相当である。」

医療法人の持分が現金化するまで(つまり、退社したり法人が解散するまで)に、高額なリース契約のリスクが存在するため現時点で評価をすることはできないとの主張や、純資産価額の算定に当たって将来発生する退職金債務や税金を控除すべきとの主張、中間利息を控除すべきとの主張などを踏まえ、評価の不確定性を考慮し、公平性の観点から70%を乗じたものです。

一般化できるものではありませんが、出資持分の評価について、評価理論一般論だけでなく公平性を意識して結論を導いた裁判例として大変参考になるものです。

ほかにも、裁判例では、従業員100人以上の医療法人で、年利益金額及び純資産価額を類似業種のそれと所定の方法で比較し、類似業種の株価に比準して評価する方法(類似業種比準方式)を採ることに合理性があるとしたものもあります(最判平22・7・16判時2097・28)。

Q9 医療法人の持分が資産の多くを占めています。しかし、処分できるようなものではありません。財産分与の方法について、持分はどうなるのでしょうか。

出資持分については、その分与の方法について注意しなければいけません。

特に経営との関係で、どのような影響が生じるかを整理することが重要です(これは経営者でない側の配偶者にとっても重要なことです)。
分与の方法には、清算して行う方法現物のまま分与する方法があります。

清算して行う方法とは、対象財産の帰属はそのまま変動させずに清算金の支払をさせる方法で、これが原則です。
しかし、清算金を用意することが難しい場合は別途の検討が必要です。

清算金の負担を検討するためには、まず出資持分自体の価値がいかなるものかが重要となりますので、場合によっては評価会社と提携しながら効果的な評価方法を検討する必要があります。

そして、評価方法、資産形成への自らの寄与度を考慮してもなお、流動性のある資産が少なく、どうしても清算金の支払原資が不足してしまう場合もあります。
こうしたとき、原則的には処分して清算金を用意するか、現物そのもの(出資持分そのもの)を分与しなければならなくなります。

出資持分には株式と異なり共益権的性質の議決権はないので、そのものを分与してもガバナンス上の支障はありません。

Q10 財産分与として、現物の「出資持分そのものを分与」することを検討しています。現物の分与は、経営者である医者にとって、あるいはその分与を受ける配偶者にとってどのような意義があるのでしょうか。

医者側からすれば、将来M&Aなどを見込んでいる場合などに、その将来までの値上がり分が配偶者に還元されることとなり、離婚後の自身の努力分も配偶者の利益になってしまうという問題を抱えます。

配偶者からすれば、換価可能性がたしかでないものを譲り受けることになる点がリスクです。
換価するためには、第三者への譲渡、医療法人への払戻請求、医療法人解散時の残余財産分配が必要となります。

譲渡については買い手が見つからなければできません。また、定款の内容によっては譲渡そのものに制限がかかっている可能性があります。

また、払戻請求権を行使できるかも解釈の問題となります。多くの持分あり医療法人では退社時の払戻請求権を定款上認めていますが、払戻請求権の有無や内容は定款次第です。このため定款の内容をよく確認しなければいけません。場合によっては、払戻請求権の行使が医療法上権利濫用とされて制限される可能性もあり、この点で医療法や判例の調査も欠かせません。

医療法人解散時の残余財産分配については、それが起こるかどうか不確定であったり、起こり得るとしても遠い将来のことである場合などには現実的な価値のあるものとして考慮できません。

このように、配偶者側からすれば、換価可能性について吟味することが重要です。

こうした構造的な問題があるため、多くの場合医療法人持分の現物分与は実施されず、裁判所においても現物分与は不相当である旨示されることもあります

オフィスビル

Q11 出資持分が重要な論点になることはよくわかりました。「持分なし医療法人」に移行しようと思いますが、これで問題は解決するのでしょうか。

持分あり医療法人も、持分のない医療法人に移行することができます。
払戻請求権や残余財産分配請求権をなくし、それを定款に定めるなど手続を行ってこれを行います。
このとき、上記手続により医療法人が経済的利益を得た場合は贈与税が問題になるのですが、所定の手続を踏むことで猶予・免除されることが可能です。

現行法上持分のない医療法人しか設立できない趣旨や、持分なし医療法人への移行に税制優遇措置が設けられているのは、医療法人の地域医療の担い手という公益性を考慮してのことです。
つまり、医療法人の経営者の死亡により相続が発生することがあっても、相続税の支払いのための持分払戻などにより医業継続が困難になるようなことなく、当該医療法人が引き続き地域医療の担い手として、住民に対し医療を継続して安定的に提供していけるようにするためです。

このように持分をなくしてしまえば、分与しようにも分与する財産がなくなることになります。

しかし、それで財産分与の問題が解消するかというと必ずしもそういうものではありません。

この行為にはある種、財産的価値のあるものを放棄した(捨てた)といったような側面があります。
このため、夫婦の財産を意図的に不当に毀損したと評価される可能性があります。
そうなれば、一切の事情として分与割合が調整されたり、そもそも持ち戻しされる(贈与はなかったものと扱われる)場合もあります。

なお、そもそも財産分与の対象財産の範囲は別居時が基準とされることが原則です。
持分なし医療法人への移行が別居後に行われた場合、それは基準時後の行為であり、考慮されないおそれもあります。

したがって、後継者のために行うなど、配偶者も同意の上ならばまだしもそうでない限りは引き続き医療法人の持分評価額相当分は財産分与の問題を抱えているものと思います。

医師の方は、引き続き潤沢な内部留保のある法人を運営して、そこから理事報酬等をもらえるという不公平性もあります。
こうしたことからみれば、基本的には配偶者の同意無くしては問題の解決にはならないでしょう。

Q12 代々医者の家系で、子どもを後継ぎにしたいと考えています。厳密な財産分与を行うと、子どもが継ぐべき法人の運営に支障が生じてしまうので子どものためにある程度調整することは受け入れたいと思います。しかし、将来本当に法人が子どもに承継されるのか不安にも思います。どうしたらよいのでしょうか。

クリニック2

後継者への配慮には別途の手当てを検討する

上記のとおり、厳格な財産分与は経営に大きな支障を生じさせる可能性があります。
子どもが後継者となる計画の場合には、子どものためになるならばと、厳格な財産分与は求めず、
将来の生活を安心して送ることができる程度の条件で落ち着かせることを検討される場合もあります。

このとき、問題になるのは、果たして子どものためになるのかということです。
子どもが医者の道を進まない可能性、M&Aされてしまう可能性など、
承継が実現しない場合も考えられるからです。

こうした事態に備え、例えば信託を活用すべき場合もあります
すなわち、厳格な財産分与相当額のうち一定額を信託に組み入れ、それを一定の基準のもと医療法人の運営に用いてよいが、子どもが医者の道に進まない場合など承継が実現しないといった一定の事由が生じたときに配偶者に信託財産の残高が帰属するといったような設計です。

これによって、子どものための経営の安定を確保しつつ、一方で正当な財産分与請求権を確保することができます。

ほかにも契約書上の手当てで済ませる場合や法人形態での運営など様々な方法が考えられます。

こうした柔軟な調整は和解・調停・話合いでしか実現しえず、かつ夫婦双方にとって協調して進めていける可能性のあるものです。

Q13 「医療法人名義の資産」について、その預金や、設備資産は財産分与の対象にならないのでしょうか。

財産分与は、夫婦の共有財産を清算するものです。
夫婦個人と法人は別人格ですので、法人の財産は財産分与の対象になりません。
財産分与の対象になるのは、その夫婦が保有している法人の持分です。

以上が原則ですが、法人化してから日が浅い場合や、法人が個人事業主相当の場合など、
その法人を個人と同一視して扱うことが公平であると評価されるような例外的な場合には、
法人名義の財産も財産分与の対象となることもあります。

財産分与の対象を法人の持分とするか、法人名義の資産とするかは、
評価の問題や、法人と配偶者個人間の債権債務関係の問題などによって、
夫婦双方それぞれに有利・不利の論点がでてきます。

当事者としてはそもそもどちらで主張を検討するべきかについて、
評価の問題や、法人と配偶者個人間の債権債務関係の問題など個別具体的な状況を踏まえて検討する必要があります。

Q14財産分与の割合について、「2分の1ルール」は修正されるのでしょうか。

専ら経営者の努力で成長させた事情がある、医者としての資格獲得に対する労力がかかっているなど、当該努力が資産形成に大いに寄与している場合には、財産分与割合の修正が入ることがあります。

その傾斜は個別具体的な事情によってケースバイケースであり、また、判断する裁判官によってもまちまちですが、傾斜がかかるとしても概ね6:4、あるいは7:3程度となる印象です。

過去には95:5といった極端な傾斜を示した裁判例もありますが、この事案は純粋な寄与割合の問題を離れた論点が影響しての判断であり、決して一般化できないことには注意が必要です。

Q15 トラブルを未然に防ぐ方法はありませんか。財産分与の影響をコントロールすることはできませんか。夫婦財産契約(婚前契約)はどのようなものでしょうか

婚前契約書

婚姻前であれば婚前契約書は必ず検討するべき

入籍する前であれば、夫婦財産契約(婚前契約などと呼ばれることもあります)を必ずご活用ください。夫婦財産契約についてはこちらで詳しく解説しています。
 
一方入籍後の場合は、家族の状況、資産の状況、自身の投資性向等によって、実行できる手法もケースバイケースとなります。その手法の一つには婚後契約(婚姻の後にする夫婦間契約)もありますが(婚後契約についてはこちらのコラムで詳しく解説しています。)、複合的な手法を用いた対応が有益です。詳しくは当事務所まで直接お問い合わせください 。
 
事実婚、内縁など、結婚によらないパートナー関係の場合にも、パートナーシップ契約で手当てしておくことが重要です(こちらのコラムで詳しく解説しています)。

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以上、医師・医者の世帯での離婚問題について、よく相談に上がる事項・論点となる事項にについて解説してきました。これらは一般の家庭ではあまり論点にならない特殊論点といえます。
これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を正確に整理して、正しく主張立証することが重要です。

もし、お悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。既に代理人を選任されている場合でも、当該代理人を補助する趣旨でサポートすることも可能です。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。

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