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最近「ファミリーガバナンス」という言葉を聞くことはありませんか?
ファミリーの利害関係を調整しなければならないファミリーのトップや、金融機関の方々にとっては必須の知識です。
しかし、聞きなれない方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
このコラムでは、この聞き慣れない概念について、当事務所が提供する富裕層向けリーガルサービス Legal Prime® を通じて携わってきた経験を踏まえ、なるべくわかりやすくご紹介します。
具体的な導入事例などはお問い合わせくださいませ。
ファミリーガバナンス(family governance)とは、文字どおり「ファミリーの統治(構造)」を指します。ファミリーにとって重要な価値を未来永劫にわたって守り、ファミリーに発生するリスクに備える体制づくりのことです。
この説明だけではピンとこない方も、「ガバナンス」という言葉の他の用例を見ることで、腑に落ちる部分があるかもしれません。
「ガバナンス」という言葉の最も基本的な使われ方は、国の統治機構を指す言葉としてでしょう。
日本をはじめとする民主主義国家においては、国民の生命や財産などの権利を守るため、憲法により立法機関、行政機関、司法機関を創設し、法律や規則を定めて執行することを通じて、これを実現することが求められています。
最近、会社の社会的責任に対する意識の高まりから、コーポレートガバナンス(企業統治)という言葉が有名となりました。
企業も社会的な存在として、法令遵守、情報公開、ステークホルダーとの良好な関係性、地球環境の保全などに配慮しながら、企業価値を向上させて株主利益を追求することが必要ですが、定款・各種規則の制定やリスク管理体制の整備を通じて、これを実現することが求められています。
ファミリーガバナンスにとっても、考え方は同様です。ファミリーにとって重要な価値を未来永劫にわたって守るため、ファミリー憲章や規則の制定、体制整備等を通じて、これを実現していくための仕組みが、ファミリーガバナンスです。
このようなファミリーガバナンスは、ごく限られた超富裕層のものと考えられてきた節がありますが、現在では、起業や資産運用などを通じて一定の財を成した方々やその2世・3世にとっても重要な考え方となりつつあります。
ファミリーガバナンスを通じて擁護されるべき重要な価値というのは、ファミリーによって異なりますが、例えば、
などは、濃淡こそあれ、多くのファミリーに共通する関心事項です。
富裕層ファミリーが直面する典型的なファミリーリスクとしては、以下のようなリスクを挙げることができますが、これらはいずれもファミリーガバナンスを充実させることにより管理が可能です。
それでは、ファミリーの重要な価値を守り、ファミリーリスクに備えるための体制は、どのような内容で整備すればよいでしょうか。
どのような価値を守ろうとするか、どのようなリスクを中心に備えるか、ファミリーメンバーの構成などの具体的状況により取るべき方法は異なり、固い仕組みから比較的緩い仕組みまでバリエーションは様々ですが、よく採用される仕組みとして、以下のような例を挙げることができます。
ファミリー憲章は、ファミリーの「憲法」に相当する根本規範です。ファミリー・ミッション・ステートメント(family mission statement)などとも呼ばれ、ある特定のファミリーのメンバーが拠るべきとされる行動指針です。
ファミリー憲章は、それ自体は法的な効力を直接的には有さず、家族問題解決のためのガイドラインとして構築されることが多いといえます。この場合、ファミリー契約、ファミリー信託、ファミリーオフィスなどファミリーの法的なルールやビークルを用意する際に、そうした法的な仕組みの中に取り込まれて間接的に法的効果を生じさせる位置付けとなります。
他方、ファミリー憲章以外にファミリーの法的な仕組みを用意しない場合には、それらに記載するべき主要な一部をファミリー憲章に盛り込む場合もあります。
ファミリー憲章が一族の根本規範としての重みを有するためには、制定のプロセスも重要となります。可能な限りファミリーメンバー各位と話し合いをもち、それぞれの考えや思いも踏まえて制定することで、メンバーの納得感につながり、ひいては実効性をもたらすことになります。
ファミリー契約(ファミリー規則)は、ファミリーの「法律」に相当する規範です。契約という形式を取ることもあれば、ファミリー憲章に基づく制定規則として位置付ける場合もありますが、いずれにせよ、ファミリーの事業や資産に関する管理・運用・保全・承継について、法的拘束力を有するルールとして構想されます。
内容は様々ですが、会社の円滑な経営や親族間の紛争防止等を主な目的とし、メンバーが現在保有し又は将来取得する会社の株式の取り扱いや、後継者の選定、会社運営のあり方などを定めたり、法律上与えられた権限に一定の歯止めやルールを設ける内容が想定されます。
ファミリー契約の作り込みにあたっては、微妙な利益調整や決断が求められることもあります。例えば、ビジネスとファミリー個々人の利益が衝突する場合の優先関係又はバランスの取り方や、後継者における柔軟な意思決定と後継者における暴走や私物化抑止といった対立する要請のバランスの取り方など、考慮すべき事項は多岐に渡ります。
ファミリーオフィスという言葉は多義的ですが、ここでは、ファミリー個々人や事業の繁栄のために設立運営される法的機関を指します。信託という形式で設立することもあれば、株式会社、合同会社、一般社団法人等の法人として設立することもあります。
ファミリーオフィスにどのような機能を持たせるかについては多様ですが、例えば株式を保有させれば、その法人や信託におけるルール上、譲渡禁止効、先買権、譲渡代金の固定、買取請求権などを定めることを通じ、少数株主リスクや、クーデターリスクなど、ビジネスにまつわるファミリー間の紛争リスクを低減させることができます。
また、ファミリーオフィスに資産を管理・運用させることで、現世代のファミリーにおける浪費や散逸のリスクを低減させた上で、一括運用により運用益を増大させ、将来の一族にまで豊かさをもたらすといったことを企図することも可能です。
ファミリーメンバーにより構成される会議体です。ファミリー憲章やファミリー契約上の意思決定機関として位置付けることもあれば、事実上の集会としての位置付けにとどめることもあります。
ファミリーのメンバーがファミリーの一員であることを誇りに思えること、ファミリーの維持・繁栄が自身や他のファミリーにとって意義あることと今よりも強く理解し、法律だけでなく感情・思いの面からも会社そしてファミリーが一体となることを期待して行うものです。
整備したガバナンス体制に魂を込め、実効性を向上させ、体制では対策しきれない間隙を埋めます。ファミリー相互間に事実上の監視を働かせ、法には触れないような問題行為、いわゆる「不義理」の抑止的効果を狙います。
ファミリービジネスを経営している場合において、ファミリーオフィスへの株式集中をしない(できない)場合には、株主間契約の締結や、種類株式の発行、定款改正等により、少数株主リスクや、クーデターリスクなど、ビジネスにまつわるファミリー間の紛争リスクの低減を行うことがあります。
ファミリーメンバーに離婚問題が発生した場合、財産分与によりファミリーの資産が元配偶者に対して流出する可能性があります。、いわゆる自社株も財産分与の対象となりますので、これにより、ファミリー間での紛争や事業の継続性に重大な問題を発生させる可能性があります。
夫婦財産契約(婚前契約)は、夫婦が婚姻する前に、財産分与を含めた財産関係のルールをあらかじめ定めておく契約です。万が一の離婚の際にも、ファミリービジネスに関連する株式などの資産の帰属をあらかじめ定めることが可能であり、このような重大なリスクに対処することが可能となります。
また、婚姻後に行う夫婦間の契約(婚後契約)は、厳密な意味では夫婦財産契約と同義ではありませんが、締結内容や方法などに注意を払えば婚前契約と同等の効力を持たせることも十分可能です。婚前契約を締結していない場合には、有力な選択肢となります。
内縁・事実婚など、法律婚ではない関係を築いているファミリーメンバーがいる場合も、財産分与とは無縁ではありませんので、夫婦財産契約の内容に相当するパートナーシップ契約を締結する必要があります。
ファミリーメンバーのうち、特に創業者や経営トップの方において、認知症等の精神上の障害により物事を認識することが困難な方が発生した場合、資産の管理・保全やファミリービジネスの経営に重大な支障が発生することがあります。任意後見契約の締結により、あらかじめ信頼可能なメンバー又は専門家を任意後見人に指定しておけば、このようなリスクに対処することが可能です。
ファミリーメンバーの死亡により相続が発生した場合、資産の分散やファミリー間の紛争が発生する可能性があります。富裕層世帯の相続に問題となりがちな特別受益や遺留分などにも配慮し、資産の承継先を適切に定めた遺言を作成しておくことは、富裕層ファミリー個々人にとって必須といえます。
ファミリーガバナンスの構築にあたっては、ファミリーにとって重要な守るべき価値を明確にすることを出発点として、その価値を守るためのルールづくりをします。また、仕組みを作って終わりではなく、これをファミリーに浸透させる過程を経る必要もあります。
これらのすべての過程を通じて、ファミリーを取り巻く状況を理解した上で、専門的な知見を有し信頼できるアドバイザーが必要です。
通常のルールであれば、暫定的な内容を制定した上でPDCAサイクルを回してよりよく改善していくことが重要ですが、ファミリーガバナンスの場合にはPDCAになじまない事項もあり、最初の制度設計が肝心です。
時として、弁護士、公認会計士、税理士などの法務・財務分野の士業ばかりでなく、医師、教育関係分野など、ファミリーが関心を有する分野に係るプロフェッショナルとの協業が必要となってくることもあります。
岩崎総合法律事務所では、資産家、経営者、投資家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime® を通じ、ファミリーガバナンスの構築のサポートを提供してきました。
ファミリーガバナンスをお考えになる目的や、運用コストを含めた予算感も踏まえ、ご要望に応じて柔軟に対応します。ファミリーガバナンスをお考えの際には、お気軽に当事務所までお問い合わせください。