Information > コラム
本コラムでは、離婚に伴う財産分与の際によく問題となる特有財産について取り上げます。
特有財産とは夫婦の一方が名実ともに単独で有する財産をいい、これに該当する場合は財産分与を求められません。例えば、婚前の財産、相続、贈与で取得した財産が典型とされます。
財産分与の対象になるかならないか、という意味でとても重要な論点の一つです。
そして、その判断はときに難解です。それにもかかわらず多くの方が安易なものと誤って解釈してしまっているように感じます。
そこで、このコラムでは、どのような財産が特有財産に該当するかをまず確認します。
安易なものではないことを確認することで、ご自身のリスク把握にお役立ていただけると思います。
そして、その上で、離婚対策(財産分与対策)として、特有財産の主張ためにどのような準備をするべきかについて解説します。
特有財産との認定には困難を伴うことが多いです。特有財産であることを主張する側がこれを立証する必要がありますが、その立証のハードルはおそらく皆さんが思っているよりも高いものです。さらに言えばそうした立証の問題は裁判官の心証(つまり裁判官がどう思うか)にかなりのところ左右されてしまいます。
ちゃんと管理していれば本来分けずに済んだはず、という状態のお客様からの相談をよくいただきます。
そうなることのないように、事前の取組みが必要です。資産保全の一種といえます。
※特にM&Aでエグジットしたオーナー、上場してからの婚姻期間が相当程度に及んでいる上場企業オーナー、婚姻期間中に事業承継を行った方(2世・3世の方)は一層の注意が必要です。岩崎総合法律事務所では、様々な方の資産保全を行ってきました。お悩みの方は、当事務所までお問い合わせくださいませ。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
これにより得られた知見の一部を書籍化し発売中です。ご興味をお持ちいただけましたら、書影をクリックして詳細をご確認ください。
それでも婚姻前の財産が共有財産と認定されるリスクはありえます。
詳細はこれから解説するとおりですが、要するに、立証、収支管理、資産取得の経緯や法的性質、資産への配偶者の関与等にてリスクを生む可能性があります。
それぞれ関連するQ&Aをご参照ください。
まず、特有財産の一般論です。
夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を清算するという財産分与の趣旨から、原則として、基準時(基準時は、夫婦間における経済的な協力関係が終了した時点であり、通常は別居時となります。)で保有している財産の全てが財産分与の対象となります。
これに対し、特有財産は夫婦が協力して取得したものではないため財産分与の対象となりません。
ただし、特有財産か否か争いがある場合には、特有財産と主張する者がこれを立証しなければなりません。
立証できなかった場合、共有財産として財産分与の対象となります。
前記のとおり、特有財産であることを立証するハードルは、一般に考えられているよりも高いものです。
たとえば、基準時時点での財産の大部分が特有財産を原資とする財産であった事例において、このような財産であっても共有財産として財産分与の対象とされている事例があります。また、特有財産であったお金と婚姻中に蓄えたお金などをあわせて取得した財産について、その一部が特有財産であることを主張された事例で、その全てが共有財産とされ、特有財産であることは認められていないといった事例もあります。
したがってご質問のケースでは、婚前の5億円と婚姻後の5億円が混然一体となっている場合などは特有財産とならない可能性があります。
そのほか特有財産であることを立証するための資料が残っておらず立証できない場合には、5億円も含めて分与を行わなければならない可能性があります。
夫婦の生活のために使用されている預貯金は、収入と支出が繰り返され、残高が常に変動するのが一般的です。婚姻時の口座の残高は、夫婦共有財産の形成のための原資として費消されたと考えられ、基準時の残高全額が共有財産として財産分与の対象になるとする見解が有力です。
この見解が裁判でも採用されれば、婚姻前からの預貯金(婚姻時点では特有財産といえるものです。)であっても、それが給与受取口座であったり、日常生活で使用している口座であるなどの理由により日常的に出入金を繰り返している場合には、その特有財産性は失われたと判断され、財産分与基準時の残高全額が財産分与の対象となる可能性があります。
したがって同一の口座で役員報酬や生活費を管理しているご質問のようなケースでは、口座内で激しく出入金が行われるのが通常であり、この口座が財産分与の対象になるリスクが高いと言え、問題になります。
この場合、2つの考え方があります。
一つ目は、基準時(=多くの場合、別居時)の残高から、婚姻時の残高を差し引いた額を財産分与の対象となる預金とする見解です。
二つ目は、婚姻後に、婚姻中に得た収入が混じり合った場合、その時点で、特有財産は存在しなくなったと考える見解です。
ご質問のケースでは、前者の考え方の場合、5億円は特有財産として財産分与の対象とならず、後者の考え方の場合、5億円は共有財産として財産分与の対象となります。
上記の二つの考え方は、婚姻前から保有している残高と婚姻後に得た収入が混じり合っている期間の長さ、婚姻期間中の預貯金の増減の激しさ、婚姻後に預貯金が増加しているだけなのか、減少することはあったのか等を踏まえ、事案に応じて判断されます。どのように判断されるかは裁判官によっても異なります。また、立証の問題もあります。
いずれにせよ口座の入金状況等を適切な資料を用いて立証できなければ共有財産と判断されることになりかねず、リスクはあります。
結婚と同時に新たに銀行口座を開設し、この口座で生活費、給与などを管理しつつ、この口座の残高で不足する場合などには、結婚前から保有していた口座から生活費などを支出しているといった方もよくいらっしゃいます。上場企業オーナーに多い印象です。
前記のとおり婚姻中に取得した財産は、原則として共有財産として財産分与の対象となります。
そして婚姻後に新たに口座を開設し、この口座で生活費等の管理を行っていたとしても、婚姻前から保有している口座から何らかの事情で夫婦のために引き出しを行ったことがある場合には、婚姻前から保有している口座も財産分与の対象となる可能性があります。
預金口座の管理状況次第となります。
婚姻前の財産から生活費への支出を行っていないなど、婚姻後の収入と婚姻前の口座を完全に分離していることが重要です。
もっとも、この完全分離を実現することは通常難しいものと思われます。特にスタートアップや中小企業のオーナーがM&Aによりエグジットを行ったようなケースでは、事実上不可能であることも多いでしょう。
例えば、M&Aによりエグジットを行えば莫大な資金を得ます。その一方で、(少なくとも一定のロックアップ期間後などは)役員報酬は減るかなくなります。こうなると自身の生活(それも多くの場合はエグジット前よりも支出水準が高まった生活)を送るにはエグジットで得た金銭に手をつけずにはいられないことが通常です。要するに、M&Aエグジットしたオーナーに関しては、本来特有財産たるべきものから生活費を支出せざるを得ない、といったケースが想定されやすいものといえます。
そうした場合には、前期の通りそうした財産を分けなくてはならないといった危険があるものと言えます(詳細は後記のQ8もご参照ください)
婚姻後、自社株式の価値が上昇した部分については財産分与の対象となる可能性があります。
このほか、会社が保有する財産が財産分与の対象となる場合もあります。すなわち、実質的に会社の資産を個人の資産と同視できる場合等には、法人の実態が個人経営の域を出ておらず個人事業主相当として、会社名義の財産が財産分与の対象となる可能性があります。
会社が個人事業主相当の規模でなく、自社株式の価値上昇分の点も問題ないのであれば、財産分与にあたって、通常会社は問題になりません。
まず、特有財産の転換物に関する一般論です。
特有財産を原資として取得した財産(転換物)は特有財産となります。
ただし、特有財産とその転換物の紐付けは明確に主張・立証されなければなりません。東京高判平成7年4月27日家裁月報48巻4号24頁でも、「婚姻中に取得した個々の財産が各配偶者の特有財産であるか、それとも夫婦の共有財産に該当するかを判断するに当たっては、取得の際の原資、取得した財産の維持管理の貢献度等を考慮して判断しなければならないが、特段の事情が認められない場合には、夫婦の共有財産に属するものとして、財産分与の対象となるものと言わねばならない。」と説明されるなど、転換物が特有財産性として認定されるためのハードルは高いです。
また、特有財産をその取得の原資の一部として取得された財産は、原則として財産分与の対象として評価されます(特有財産が原資となっている点は寄与度の問題として扱われることとなります。)。
したがってご質問のケースでは、転換物の取得の原資が、すべて婚前から有する特有財産であれば、転換物も特有財産として財産分与の対象にはなりません。
ただし、M&Aにより売却代金を取得した後に、売却代金と婚姻後に取得した収入が混ざらないよう注意が必要です。
また、婚姻後に増資を行った後にM&Aを行っているようなケースでは、そもそも自社株式自体が特有財産とはいえず、場合によっては婚姻後増資分だけでなく、M&Aの売却代金の全額も特有財産とは認められない可能性があります(詳細はQ10もご参照ください)。
相続税対策を意識して生前に株式を移転することがあります。この時、無償による場合(贈与)と、あえて有償で行う場合(売買)があります。
無償による場合(贈与)には原則として株式は特有財産のままです。ただし、その贈与税の支払いの原資によっては財産分与の対象となるリスクがあります。例えば、共有財産たるべき役員報酬の振込先口座から納税した場合などにはリスクがあります。
有償で行う場合(売買)には、原則として株式は共有財産となります。相続税法上の時価にて、一般の取引基準より廉価で行うということで贈与的といえるケースも考えられますが、それでも裁判所は有償で取得した株式を特有財産とは評価しません。
ただし、父親から贈与された財産を元手に有償で株式を買い取った場合など、有償で取得した際の原資の因果関係を立証できれば特有財産と評価される可能性はあります。そうした事情があるということである場合には資金の流れやそうした契約書の存在の確認が欠かせません。
株式の取得から夫婦関係の問題が発生するまでの期間がそう長くない場合などには、問題となるのは買い取ったものだけで、贈与されたものは特有財産となる場合もあります。
しかし、株式の取得後に組織再編行為や株式譲渡が介在していたりすると、その対価が、父から買い取った株式に対するものなのか、それとも贈与された株式に対するものなのか判然としなくなる恐れがあります。
こうした混然が生じてしまっている事態には贈与されたものも特有財産とならないことがありえます。
財産分与は原則としてその半分を分け与えなければならないものです。
しかし、これには例外があります。
その一つが、特有財産の主張立証に失敗したものの、社会常識的に考えて多くの財産が婚前の財産であっただろうと思われる場合です。
例えば婚前に上場を果たしそれによって150億の資産を形成したものの、ちゃんと管理しておらず特有財産の立証に失敗してしまったという事例があります。
そこでは150億の資産が財産分与の対象とはされましたが、5%を渡せば良いものと判断されています。
この事例では他にも様々な要素が判断されてこうした結果になっており、事例ごとの判断、そして裁判官に影響を受けることには注意が必要です。
財産を徹底して分別管理できていなければ、特有財産であるべきものを保全できない危険が残ります。
そして、特有財産であることの立証の責任はこれを主張する側が負いますので、分別管理を裁判に耐えられるレベルで立証できるようにしておかないと危険があるということになります。
婚前の財産については、婚前の財産と婚姻後の財産を徹底して分別管理し、分別管理してきたことを立証するための環境を整理することが重要です。
徹底して分別管理してきたとしても、立証に穴があれば婚前の財産が共有財産と認定されてしまうリスクがあります。そうならないように資料を整理しておく必要があります。例えば、銀行の取引履歴など保存期間があるものは、後になって取得が困難であるため注意が必要です。また、そうしたオフィシャルな記録に残らないものは別途の手当が必要になります。
贈与、相続等、資産承継や事業承継にあたって取得した財産の特有財産性が認められるためには、その方法(無償でするか有償でするか)が重要となります。婚前の財産と同じく立証環境を整理することも重要です。財産取得にあたっての契約書や資金の流れを整理する必要があります。また、資産承継にあたっての当事者の関与記録、会社の議事録や関連資料なども含め整理する必要があります。
いずれにせよ、特有財産性の立証のためどのように記録を得て、どのように財産を管理するかは裁判例を意識して行わなければなりません。
弊所では依頼者の守られるべき財産が適切に守られるよう、現在の状態が適切に分別管理されているかのチェック、記録の整理等といったサポートを行っています。特有財産性が認められるか、財産の管理方法にお悩みの方はまずは弊所にご相談ください。
また、入籍する前であれば、夫婦財産契約(婚前契約などと呼ばれることもあります)を必ずご活用ください。夫婦財産契約についてはこちらで詳しく解説しています。
一方入籍後の場合は、家族の状況、資産の状況、自身の投資性向等によって、様々なことが考えられますが婚後契約(婚姻の後にする夫婦間契約)は活用いただけます(婚後契約についてはこちらで詳しく解説しています。)。詳しくは当事務所まで直接お問い合わせください 。
なお、事実婚、内縁など、結婚によらないパートナー関係の場合にも、パートナーシップ契約で手当てしておくことが重要です。こちらで詳しく解説しています。
以上、特有財産をめぐる財産分与対策について、よく相談に上がる論点や誤解されがちな論点にについて解説してきました。
もし、お悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。
資産家の財産分与の問題は以下の解説記事もご参照くださいませ。