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2024年9月19日(木曜日)
熟年離婚と財産分与 人生最期までの暮らしを守るには

近年、増加傾向にある熟年離婚。
今回のコラムでは、熟年離婚と財産を巡る問題を取り上げます。

熟年離婚の場合には婚姻期間が長期間にわたることから、資産形成の過程が複雑で資産全容の特定や評価が問題になることがあります。配偶者の退職金や保険金の額も大きくなりやすいです。
また、婚姻期間が長期間にわたることから、理屈上特有財産として片付けられてしまいそうなものを、果たしてそれで良いのか(財産分与の対象にするべきではないか)論点になる場合があります。

就労していなかった配偶者からすれば、今からの再就職は困難である場合が多いです。高齢であれば尚更です。
そうした方にとって、離婚によって確かに生活の基盤を確保することは死活問題となる場合もあるでしょう。路頭に迷うことはないかと、とても大きな不安を抱えることも当然でしょう。

そこで、以下ではこうした特殊性を持つ、熟年離婚の財産問題についてQ&A形式で解説します。
人生最期までの暮らしを守るために、気をつけるべきポイントも解説しています。

お悩みの方は当事務所までお気軽に直接お問い合わせくださいませ

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目次
  • 1 「特有財産の立証」と熟年離婚の特徴
  • 2 「婚前の財産が対象になる場合」と熟年離婚の特徴 
  • 3 「高額化・複雑化の傾向」と熟年離婚の特徴
  • 4 生命保険の問題
  • 5 退職金の問題
  • 6 年金の問題
  • 7 「会社経営者の配偶者」と熟年離婚の特徴
  • 8 家事専業者と財産分与の割合
  • 9 「扶養的財産分与」と熟年離婚
  • 「特有財産の立証」と熟年離婚の特徴

    Q1 結婚して30年が経ちますが、婚前の財産は財産分与の対象にならないのでしょうか。

    若年のご夫婦の離婚では、財産分与の対象財産の範囲について、特有財産か否かが問題となることが多いです。
    特有財産とは、夫婦の一方が名実ともに単独で有する財産をいいます(例えば、婚前財産、相続・贈与により取得した財産がこれに該当します)。

    一方、熟年離婚の場合には、長期の婚姻生活により、財産が混同し夫婦の共有財産となっていることが明らかな事案も多いです。その場合には、財産の特有財産性が大きな論点にならないこともあります。なお、その場合には財産分与の割合や一切の事情など別の論点で問題になることもあり注意が必要です。

    いずれにせよ、特有財産であることの立証は他方の配偶者の方がすることです。
    資産や収入が不足する方にとっては、離婚後も続く自分の生活を守るために反証を尽くすことが重要です。

    特有財産の論点の詳細についてはこちらのコラムもご参照ください

    「婚前の財産が対象になる場合」と熟年離婚の特徴 

    Q2 婚前の財産であることが明らかな財産があるのですが、一切諦めなければならないのでしょうか。

    理屈上特有財産として片付けられてしまいそうなものを、果たしてそれで良いのか、つまり例外的に財産分与の対象にするべきではないかが論点になる場合があります。

    これも婚姻期間が長期間にわたることに関係します。

    例えば婚姻前に設立した会社や婚姻初期に相続した会社があり、その会社に相当多くの内部留保があるなど会社価値がとても高くなっており、その会社が小規模会社相当と言える場合や、会社業務に配偶者の貢献が認められるような場合です。

    理論上はこうした会社の株式は特有財産として財産分与の対象にならなそうではありますが、結論が著しく不合理である場合には財産分与の対象になったり、一切の事情として考慮されることがあるでしょう。
    実際にそうした裁判例もあります(広島高岡山支部平成16年6月18日判決、大阪地裁昭和48年1月30日判決、福岡高裁昭和44年12月24日判決など)。

    離婚後も続く自分の生活を守るために必要であれば、婚前の財産といって直ちに諦めることなく、あらゆる事情を検討しながら打つ手がないかよく検討することが重要です。

    「高額化・複雑化の傾向」と熟年離婚の特徴

    Q3 他に熟年離婚の財産分与ではどのような特徴がありますか。

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    熟年離婚の場合には婚姻期間が長期間にわたることから、他にも、資産形成の過程が複雑で資産全容の特定や評価が問題になることがありますし、配偶者の退職金や保険金の額も大きくなりやすいといった特徴があります。

    確定申告書をはじめとする重要書類のほか、金融機関から届く書類など広く関係する書類や情報をもとにして財産の特定を進めます。最終的には裁判所の力も借りて調査していくことになります。

    生命保険の問題

    Q4 配偶者の加入している生命保険は財産分与の対象になりますか。

    生命保険や退職金も財産分与の対象となります。
    生命保険は、保険会社からの解約返戻金が財産分与の対象となります。

    なお、配偶者が婚前から保険料を支払っている場合には調整が入ります。
    例えば、保険会社からの資料等に基づき婚姻時点での解約返戻金の額が明らかであれば、財産分与の基準時点(多くの場合別居時点です。)での解約返戻金から婚姻時点での解約返戻金を控除した額が財産分与の対象となることがあります。他方で、例えば婚姻時点の解約返戻金の額が明らかではない場合には、基準時時点での解約返戻金の額を、契約期間のうち婚姻日から基準時点までの期間で按分した額が財産分与の対象となることがあります。

    退職金の問題

    Q5 配偶者の退職金は財産分与の対象になりますか。

    退職金の金額については、勤務先の会社での退職金の算出方法に沿って判断されることとなります。なお、退職金についても、婚前から同じ会社で勤務し続けている場合には、婚前の期間に対応する退職金は財産分与の対象とならないといった調整が入ります。

    一方、配偶者が代表取締役等の役員である場合、退職金の扱いには注意が必要です。
    従業員と異なり、退職金規程を要さずとも退職金を受領する場合があります。
    このため退職金に係る権利を特定することにハードルがあるのです。
    実際には、これまでの他の役員退職時に退職金を支給した実績があるか、退職金支給に当て込むために会社を契約者とする保険に加入しているかなど間接事実を元に検討していくこととなります。

    年金の問題

    Q6 離婚後の私の受け取る年金の扱いはどのようになりますか。

    年金分割を行うことにより、離婚後、厚生年金を多く受け取ることができる場合があります。

    年金分割の方法は2つあります。
    一つ目は、相手との間で年金分割の割合を合意できた場合に、その割合に基づいて、婚姻期間中の夫婦の厚生年金記録の合計額を、合意した割合により分割する方法(合意分割)です。
    二つ目は、婚姻期間中の夫婦の厚生年金記録の合計額を、2分の1の割合で分割する方法(3号分割)です。この方法は、年金分割の請求者が3号被保険者である場合に適用されます。

    年金分割の対象とならない厚生年金以外の確定拠出年金・個人年金等は、財産分与の問題で解決することとなります。

    「会社経営者の配偶者」と熟年離婚の特徴

    Q7 配偶者は会社経営者です。いわゆる熟年離婚ですが注意すべきことはありますか。

    アメリカのビル街イメージ

    例えば、経営する会社名義の財産であっても、会社の保有する財産を、実質的に個人の資産と同視できる場合等には、会社名義の財産が財産分与の対象となる可能性があります。

    また、財産分与にあたって、経営している会社が非上場の会社の場合には、その株式の評価額が問題となり、不動産についてもその評価額が問題となります。
    そしてこれら会社をめぐる財産分与の論点は、婚姻期間の長期化の影響を受けてより特殊な扱いを受ける場合があります。

    他にも会社経営者の世帯の離婚問題には、様々な特殊論点があります。
    例えばこちらのコラム「経営者・社長の離婚 常に重要となる論点 ~ 自社株の財産分与 ~」などもご参照くださいませ。

    なお、株式の評価方法についてはこちらのコラムで、不動産の評価方法についてはこちらのコラムで詳細に解説していますので併せてご参照ください)

    会社経営者の配偶者との熟年離婚の問題は、離婚問題の中でも特殊分野といえます。
    あらゆる論点について確かな分析力が求められます。

    家事専業者と財産分与の割合

    Q8 熟年離婚となりそうですが、私は家事専業者です。総財産のうち2分の1の分与を得られるでしょうか。

    原則として財産分与の割合は2分の1となります(これを「2分の1ルール」といいます)。裁判実務において2分の1ルールは強力なルールであり、令和6年5月31日付で成立した民法等の一部を改正する法律では、原則として寄与の割合は「相等しいもの」と規定され、「2分の1ルール」が明文化されています。

    ただし、特殊な才能、能力により巨額の資産が形成された場合等の例外的な場合には、この2分の1ルールが修正される可能性があります。
    よく例に挙げられるのは、医師などの有資格者がその資格や能力により多額の資産を築き上げた場合です。
    このような場合に限られず、配偶者の経営能力により多額の財産が形成された場合であっても財産分与の割合に傾斜が掛けられることはあります。

    上記のとおり「2分の1ルール」は強力なルールですが、このルールが修正される可能性のある例外的な場合には、「2分の1ルール」を維持したい側からも積極的に主張・立証を行うことが重要になります。
    それはもっぱら家事に従事することになった経緯、家事の態様、子育ての役割分担の状況等様々な事情に関連するものです。
    長期に及ぶ婚姻関係の経過を丁寧に遡り整理していかなければなりません。

    「扶養的財産分与」と熟年離婚

    Q9 生活費相当の婚姻費用は離婚後はなくなってしまいますか。「扶養的財産分与」として生活費を工面してもらうことはできるでしょうか。

    春のイメージ

    財産分与は主として形成した夫婦の財産を清算することが目的です。
    もっとも、一定の場合は、清算を超えて、他方の扶養を目的とする内容の財産分与が求められる場合があります。
    これを扶養的財産分与といいます。

    清算を目的とするものではないので、財産状況だけでなく、生活状況、収入、離婚原因(当事者の有責性)など一切の事情を考慮します。また、考慮する財産の状況はいわゆる共有財産に限られず特有財産を含む一切を考慮します。

    この点で、特に熟年離婚の場合には配偶者は高齢ですから、離婚後の生計を立てられないときなどには扶養的財産分与が肯定される場合があります。
    その内容はケースバイケースではありますが、婚姻生活を営んでいた場合の婚姻費用相当額を基準とし、その支給期間は、高齢者の場合には生存中全期間に及ぶという場合もありうるでしょう。
    また、特定の不動産への一定期間の居住を認めるといった金銭以外の内容となる場合もあるでしょう。

    もっとも、扶養的財産分与は、財産分与の本質ではなく、その性質については裁判例や学説上も争いがあります。補充的、謙抑的な運用とされる可能性があり、具体的な見通しを持つに足りるほどに議論や裁判例が積み上がってはいないです。
    また、十分な内容の扶養的財産分与が認められた場合であっても、分与義務者が亡くなってしまえば、以後その分与は受けられなくなってしまうでしょう。

    就労していなかった配偶者からすれば、離婚によって確かに生活の基盤を確保することは死活問題となる場合もあります。
    そうした配偶者にとっては、扶養的財産分与の主張も徹底的に尽くす必要がありますが、これに頼り切るようなことは得策ではなく、清算的財産分与の内容も含めた総合的な視点での解決が重要です。
    そうした視点をもって和解によって事件を解決することを目指すべき場合も多いでしょう。

     
     


     
     
    以上、今回のコラムでは、熟年離婚になった問題となる論点について解説してきました。
    岩崎総合法律事務所では、離婚前の財産の整理等から離婚に向けたサポートをさせていただいています。
    もし、お悩みの方は、初回のご相談は30分無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。

    富裕層法務サービス Legal Prime®

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    特設サイト「富裕層世帯の離婚」

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