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今回のコラムでは個人事業主の離婚について取り上げます。
個人事業主として働いている方は、医師や税理士といった専門家にも多くみられます。
給与所得者とは異なり、個人事業主には、婚姻費用算出にあたっての収入の取扱い、財産分与にあたっての資産の取扱い、財産分与割合など、検討すべき特殊論点が多く存在します。
個人事業主の離婚にあたって、漏れなく有利な主張を行う場合には、個人事業主の離婚を多く経験し豊富な知見を有する専門家のサポートが不可欠です。
岩崎総合法律事務所では、医師等の個人事業主の離婚へのサポートを通じて、個人事業主の離婚について深い知見を有しています。
はやめに準備を始めることで、とりうる手段が多くなる可能性や、有利になる可能性が高まります。
離婚についてお悩みの個人事業主やその配偶者の方は、いますぐ当事務所までお問合せください。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
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婚姻費用とは、夫婦が生活を送るために必要なすべての費用をいいます。
婚姻費用の算定方法について、まず、夫婦それぞれの総収入から、税金や社会保険料、職業費(被服費、交通費等)、特別経費(住居費、医療費等)を差し引いた金額(これを基礎収入と呼びます。通常、各自の収入に応じた一定の割合を用いて計算します。)を算出します。
個人事業主の場合には、確定申告書の「課税される所得金額」欄に記載されている金額が婚姻費用を算出するための総収入です。
そして、婚姻費用を受け取る権利がある人(権利者といいます。)、支払う義務がある人(義務者といいます。)、子どもがいる場合は子ども、これら全員が同居していると仮定し、夫婦それぞれの基礎収入の合計を一定の数値(生活費指数)で按分して算出される額から、権利者世帯の基礎収入を控除して算出します。
この算出方法に基づいて、婚姻費用を簡単かつ迅速に計算するために作成されたのが「婚姻費用算定表」です(詳細は裁判所のホームページをご覧ください)。
婚姻費用算定表は、当事者それぞれの収入や子どもの人数、年齢に応じて、手軽に婚姻費用を計算できるように作られています。
そのため、便利な反面、高額所得者など富裕層の方の場合は別途の考慮が必要です。
高額所得者の方の婚姻費用については、こちらのコラムをご覧ください。
前記のとおり、個人事業主の場合、婚姻費用は、必要経費を差し引いた後の「課税される所得金額」欄の額を基に計算されます。
したがって、配偶者が確定申告で多額の必要経費を計上していても、それがただちに考慮されるわけではありません。
ただし、税金対策として過度に高額な必要経費が計上されている場合は、その分を「課税される所得金額」欄記載の額に加算することが認められる場合があります。
減価償却費は実際に支払っている費用ではないため、婚姻費用を算定する際に必要経費として控除されるべきではありません。
したがって、原則として、減価償却費は「課税される所得金額」の額に加算されます。
ただし、ローンがある場合は注意が必要です。
適正な金額の減価償却費であれば、適切な必要経費として個人事業主の売上から差し引くことが認められます(したがって、適正な金額の減価償却費の場合には、「課税される所得金額」に加算することは認められません)。
一方で、減価償却費が過大な場合には、その年のローン返済額が婚姻費用の算定時に考慮されることとなります。
ローンがある場合には、減価償却費や借入金返済を無視すると不適切な結果になるため、また、可処分所得を正確に把握するため、裁判実務ではこのような処理が行われています。
個人事業主は、給与所得者と比較すると、やや自らの収入を操作しやすい傾向にあります。
夫婦関係が悪化している場合には、今後の婚姻費用の支払いの負担を意識して、業務量をセーブし、意図的に年収を低くしているケースも考えられます(ただ、法人経営者と異なり、個人事業主の場合は利益=所得です。そのため、法人経営者と比較した場合には、はるかに所得そのもののコントロールは難しいケースが多いです)。
また、そもそもこのような場合でなくとも、個人事業として営む職種によっては年ごとの収入に著しい差がある場合があります。
このような場合に、直近年度の年収のみをもとに婚姻費用を算出してしまっては権利者にとって不公平な結果が生じる可能性があります。そのため、このような場合には、過去数年分(例えば直近3年分)の年収の平均をもとに婚姻費用が算出されるケースもあります。
財産分与とは、結婚期間中に夫婦で築いた共有財産を分け合う手続です。
そして、財産分与の割合を決定するにあたっては、原則として「2分の1ルール」が適用されます。
これは、婚姻期間中に形成された夫婦の財産への貢献度が夫婦間で等しいとみなして、財産をそれぞれ半分ずつ分けるという考え方です。
裁判の実務では、この「2分の1ルール」が強力な原則として適用されています。特別な事情がない限り、財産分与の割合は原則として半分ずつになります。
なお、2024年5月に成立した民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)では、原則として寄与の割合は「相等しいもの」と規定され、民法で「2分の1ルール」が明文化されることになりました。
この改正民法は2026年5月までには施行される予定です。
個人事業主の財産は、従業員への給与、仕入れその他事業のためのお金でもあります。
もっとも、このような財産であっても、配偶者の貢献があってこそ形成されたものとみなされ、原則として財産分与の対象になります。
財産が夫婦名義か、ビジネス用かどうかは考慮されないのが通常です。
そのため、個人事業主を営む配偶者からすれば、財産分与が事業に与えるインパクトは極めて大きくなる場合があります。
前記のとおり、個人事業主の保有している財産は原則として全て財産分与の対象となります。
ただし、財産分与にあたっては「一切の事情」が考慮されることから、ビジネス用の資産が財産分与の対象から除外される可能性はあります。
この「一切の事情」については、民法768条第3項に「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」財産分与について判断するというように規定されています。
これは、財産分与の諸要素に具体的な数値として反映できない事情を「一切の事情」として考慮し、財産分与にこれを反映させることとしているのです。
なお、上記民法改正による改正後の民法768条第3項では、「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮」と規定され、どのような事情が「一切の事情」として考慮されるのかが具体化されています。
「一切の事情」が考慮され、ビジネス用の資産が財産分与の対象から除外されることとなるかは、資産管理の状況が重要です。
例えば、配偶者が、夫婦の預貯金とビジネス用の預貯金を徹底して分けて管理している場合には、ビジネス用の財産が財産分与の対象から除外される可能性が高まります。
また、ビジネス用の資産に対する他方配偶者(Q7でいう相談者)の言動も重要です。
ファミリー(夫婦)の財産ではないビジネスの資産であることを他方配偶者も認めていたような言動、経緯が存在する場合にはビジネス用の財産が財産分与の対象から除外される可能性が高まります。
そのほか、他方配偶者のビジネスへの関わり方も重要です。
他方配偶者がろくに報酬を受け取らずにビジネスを支えていた場合には、仮にビジネス用の資産とファミリー(夫婦)用の資産が徹底して分けて使用されていたとしても、ビジネス用の資産が財産分与の対象とされる可能性があります。
財産分与において債務といった消極財産は財産分与の対象とならないのが原則であり、事業のための借入債務も原則として財産分与の対象となりません。
もっとも、事業用の資産のみが財産分与の対象となり、事業のための借入は財産分与の対象とならないのでは、事業を営む配偶者からすれば、事業のための財産を他方配偶者(相手方)に分与し、事業のための借金は自身で負い続ける結果となり、不公平な結論となります。
そのため、財産分与の事業用の資産が財産分与の対象となる場合には、事業のための借入債務も財産分与の対象とされる可能性が高いです。
事業用資産が財産分与の対象とされるケースでは、事業の関係で取得した知的財産権も財産分与の対象となります。
ただ、個人事業主は決算書の記載が十分でなく、知的財産権に関する記載が抜けていることもあります。
また、外部から購入した知的財産権については記載しているものの、自分自身が開発した知的財産権の存在が決算書上表れないケースもあります。
決算書上表れていない知的財産権の存在を把握し財産分与の対象とするためには、客観的な証拠からその存在を把握しておくことが重要です。
同居期間中であれば、配偶者の保有する契約書類や事業内容に関する資料を収集しておくとよいでしょう。
このような租税公課の支払債務は財産分与の対象となります。
財産分与の基準日時点(通常は別居日です。)で、租税公課を支払うことが確定している場合には、このような租税公課も財産分与の対象に含まれることとなります。
婚姻前から保有している財産(婚前財産)は通常、特有財産として財産分与の対象となりません。
もっとも、婚前財産が特有財産として認められるためには、婚姻期間等にもよりますが、婚前財産は婚姻後に生活のために使用しないなど、婚前と婚後の財産が徹底的に分別管理されている必要があります。
そして、基準時に保有している財産が特有財産であることは、特有財産であることを認めてほしい側から主張・立証する必要があり、その立証のハードルは一般に想定される以上に高いものです。
個人事業主の場合には、婚前から保有している財産があるとしても、プライベートと事業の支出が混同しやすく、資産や収支の変動も大きいものです。
このため、特有財産性の立証は多くの場合で難しく、特有財産性が否定されるケースも多いように思います。
婚姻後に法人化したのであれば、この法人の株式等は婚姻後に取得した財産ですので特有財産とは認められず財産分与の対象になるでしょう。
ただし、それが結婚前から個人事業主として形成してきた資産、ノウハウ、事業によるものである場合には、財産分与の対象になるとしても、その法人に対する夫婦の貢献の考え方は2分の1とはならない場合もあるでしょう。
他方で、法人名義の財産については、配偶者ではなく第三者が所有する財産ですので原則として財産分与の対象にはなりません。
もっとも、法人が所有している財産は、当該法人の株式等の価値として反映されることとなるでしょうし、経営者である配偶者と当該法人の関係次第では、当該配偶者と当該法人の財産は一体と評価でき、法人名義の財産であっても財産分与の対象になる場合も考えられます。
結婚前であれば、必ず夫婦財産契約(婚前契約とも呼ばれます)を活用してください。夫婦財産契約についての詳細は、こちらのコラムで解説しています。
婚前契約は、生活費の分担方法や財産分与の対象についての取り決め、その他夫婦の生活上のルールなどを定めるものであり、トラブルを未然に防ぎ、もしトラブルが発生したときも複雑化させないために非常に有用な手段です。
もちろん、あまりに不公平な内容とすることには問題がありますので、バランスが重要になります。
また、婚前契約という名の通り、結婚前に締結する必要があります。
ただ、婚前契約をしていない夫婦が、結婚後に夫婦間で財産に関する取り決めができないかというと、そうではありません。
財産分与の負担額は一律に決まるものではなく、特定の事実を基に法的評価を踏まえて決定されます。
結婚後でも、このような法的評価が必要な部分については、「婚後契約」を通じて配偶者と合意することで、財産分与に備えることができる場合があります(婚後契約についての詳細は、こちらのコラムで解説しています)。
このほか、特定の財産に関する共通認識を形成するために、ファミリーガバナンス契約を締結することも有効です。
以上、個人事業主の離婚をめぐる問題を取り上げました。
個人事業主の離婚に関わる論点を漏れなく適切に主張するためには、個人事業主の離婚に精通した専門家のサポートが不可欠です。
もしお悩みの方は初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際には当事務所にお気軽にご相談ください。
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