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2025年3月14日(金曜日)
M&A後の財産分与:経営者が知っておくべき基礎的知識から注意点まで

経営者世帯が離婚する場合、自社株や法人名義の財産について争点化することがよくあります。

また、婚姻後にM&Aを行い多額の売却代金を取得した場合には、これらの財産をめぐってトラブルに発展する可能性があります。

そこで今回は、M&A後の財産分与について、経営者世帯が知っておくべき基本と注意点についてQ&A形式で解説します。

岩崎総合法律事務所では、資産家、経営者、投資家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime®を提供する中で、財産分与案件のノウハウ、経験が蓄積されてまいりました。

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目次

 

  1. 前提として、財産分与の対象となる財産と、ならない財産はどのように判断されるのでしょうか。
  2. 婚姻前に設立した法人についてM&Aで売却しました。この売却代金が財産分与の対象に含まれることはあるのでしょうか。
  3. 財産分与の観点からおさえておくべきM&Aの流れを教えてください。
  4. M&A契約(SPA)を締結後、アーンアウトを受領する前に別居した場合、アーンアウトも財産分与の対象に含まれるのでしょうか。
  5. エスクロー条項により売却代金の一部について支払いが留保されています。M&A契約(SPA)は同居中に締結したものですが、エスクロー条項にかかる売却代金についても財産分与の対象に含まれるのでしょうか。
  6. M&A後も執行役員として残ることになりました。M&A契約(SPA)の締結が完了し、執行役員に就任してから一定期間経過したタイミングで、上場に向けたインセンティブとしてストック・オプションの付与を受けました。執行役員に就任した時点では同居していましたが、ストック・オプションの付与を受けた時点で別居を開始していました。この場合、ストック・オプションは財産分与の対象に含まれるのでしょうか。
  7. M&A後の財産分与では特にどのようなことが問題となりますか?
  8. 財産分与に関連して、婚姻費用について聞かせてください。M&Aで役員を退職したため、収入が以前の1/10ほどになりました。生活水準を維持するため、M&Aの売却代金の手残りを切り崩す形で生活していますが、この場合、婚姻費用はどのように算定されるのでしょうか。現在の収入をベースに判断されることになるのでしょうか。
  9. M&A後の財産分与では財産隠しは問題になりやすいですか。
  10. 離婚に備えてできる準備にはどのようなものがありますか?

M&Aを表す画像

M&Aによる売却代金の取扱いについては判例上確定していない部分もあるため弁護士に相談を

Q1:前提として、財産分与の対象となる財産と、ならない財産はどのように判断されるのでしょうか。

基準時(別居時、離婚時など)に存在する財産は全てが財産分与の対象となるのが原則です。

もっとも、夫婦が協力して取得したものではない財産(婚姻前から保有する財産や、相続・贈与によって取得した財産)は財産分与の対象になりません。

上記の財産分与の対象になる財産を共有財産、対象にならない財産を特有財産といいます。

ただし、特有財産性が争点となった場合には、特有財産であることを主張する側においてそのことを立証する必要があります

この立証ができなかった場合は、たとえ婚姻前から保有していた財産であっても財産分与の対象に含まれることになります。

特有財産であることを立証するためのハードルは、一般に考えられているよりも高いものといえます。

特有財産の立証についてはこちらのコラムをご参考ください。

Q2: 婚姻前に設立した法人についてM&Aで売却しました。この売却代金が財産分与の対象に含まれることはあるのでしょうか。

たとえ婚姻前に設立した法人であったとしても、婚姻中に増資を行っている場合や会社分割を行なっている場合には、売却代金の全てが財産分与の対象として扱われる可能性があります。

特有財産の立証にあたっては、「別居などの基準時点において保有している資産残高の中に、婚姻前から保有していた財産など特有財産そのもの、あるいはその転換物といえるものが残存している」と立証できる必要があります。

この点、婚姻中に増資等している場合には、果たして売却によって得たその代金のうちに、明確に婚前の株式が転換した範囲を特定できるかが争点になります。

シンプルに考えれば株式数で検討されるわけですが、実際のM&A実務では、株式数一株あたりいくらという体裁を取られることはあっても、結局総額でいくらかと判断されることになります。

特に多くのM&Aが株式譲渡の方法で行われますが、その際買い手は株式の100%を取得できるかを重視します。すなわち、「100%であるからこそ、その値段がついた」という側面があるということです。

この時、婚姻前から保有していた株式と婚姻後の増資の影響を単に株式数をもとに計算することが妥当か争点になります。途中で会社分割を行なっている場合などには、いよいよその立証は難しくなります。

売却代金の管理やそこからの支出にも注意が必要

また、仮に売却代金が婚姻前から保有していた財産の転換物であると立証できる状況であったとしても、それが共有財産(財産分与の対象となる財産)と混在しているような事情があった場合、例えば、生活のための支出に多分に供されていたり、共有財産となるべき収入を管理している口座と混同して管理され、入出金が長期間に渡り繰り返された結果もはや特定性を失ったような場合には、財産分与の対象に含まれる可能性は高くなります。

とはいえ、本来その多くが特有財産となるべきものであることが、立証できずとも伝われば、財産分与の割合や「一切の事情」にて考慮されることになるでしょう(裁判所は、公平な分与のため必要な一切の事情を考慮します)。

【実例・コメント】

相手方の父親が設立した法人であることや、相手方から依頼者に対して、「父親が亡くなった際に株式を相続した。」との説明がなされていたことから、当初依頼者の方は、「法人の株式については財産分与の対象に含まれない」と考えていた事例がありました。

もっとも、事実関係を整理する過程で、相手方が保有する株式の中に、婚姻後に購入した分が含まれていることが判明しました。そうなると、本文に記載の通り、財産分与の影響は全体に及ぶ可能性があります。

この場合には、取得・売却の時期のみならず、取得した際の原資や売却代金の現在の状況を確認することが重要です。

詳細については当事務所までお尋ねください。

Q3:財産分与の観点からおさえておくべきM&Aの流れを教えてください。

⑴M&Aの流れについて

M&Aの手法は、株式譲渡事業譲渡会社分割合併株式交換株式移転など多岐にわたります。
今回は、M&Aにおいて最も多く利用されている株式譲渡についてご説明します。
株式譲渡を用いたM&Aを行う場合のおおまかな流れは以下のとおりです。
 

①候補者の選定

・M&A仲介業者やファイナンシャル・アドバイザー(FA)との契約
 M&Aを進めるにあたり、M&A仲介業者やFAなどからサポートを受けるケースがあります。
M&A仲介業者は売主と買主の双方と契約をして中立的なサポートを行います。一方、FAは売主と買主のどちらか一方と契約し、一方のためにサポートします。

・秘密保持契約の締結と情報開示
秘密保持契約を締結後、売主から買主に対して、検討にあたり必要な情報(インフォメーションパッケージ)が開示されます。

・企業価値評価・事業価値評価(バリュエーション)
買主は、取得した情報を踏まえて企業価値を概算で評価し、M&Aに向けて手続きを進めるかどうか検討します。

・基本合意書(MOU/LOI)の締結
最終的な契約を締結するに先立って、了解事項を確認し、いくつかの基本的な項目(取引内容の概要、日程、独占交渉権の付与など)について合意する場合があります。
 

②デューデリジェンス(DD)の実施

買主は、法務・財務・税務などの観点から、対象会社の現状や潜在的リスクなどを分析・検討します。
必要に応じて専門家(弁護士、税理士、公認会計士、コンサルなど)に業務を依頼します。
 

③株式譲渡契約(M&A契約)の締結

デューデリジェンス実施後、取引条件について最終的な合意を行います。ただし、クロージング日以降に価格の調整を行うなど、株式譲渡契約締結日時点では未確定な事項が多数存在することもあります。
 

④クロージング

株式譲渡と譲渡対価の支払いを行います。このとき、重要書類の引き渡しが行われます。以下、重要書類の一例です。
・株主譲渡に関する書類(クロージング日前日の株主名簿、名義書き換えにかかる売主の委任状、売主の印鑑登録証明書)
・その他(対象会社の実印、土地の権利証、担保権の解除・設定に必要となる資料、M&Aに伴い役員を退任する場合は当該役員からの辞任届)
 

⑤ポストクロージング

クロージング後に必要となる手続きを実施します。以下一例です。
・役員の選解任等に必要となる株主総会、取締役会の実施
M&A契約締結に基づき、役員・代表取締役の選解任や定款変更などに必要な決議を行います。

・価格調整
クロージング後に売却代金の調整を行う場合があります。
調整の目的としては、M&A契約からクロージングまでの間に生じた企業価値の変動を反映させるものであったり、M&A契約締結時点で期待された業績が実際に達成されているかを踏まえて調整を行うものがメインです。(後者はアーンアウト条項と呼ばれるものです。こちらについてはQ4をご参照ください。)

・クロージング時点で支払われていなかった売却代金の残金の支払い
買主の資力や補償請求に備えて、売却代金の一部をクロージング後に支払うケースがあります。また、価格調整や補償請求に備えて、買主が信託銀行などの第三者(エスクローエージェント)に対して、売買代金の一部を預託し、一定期間経過後に残金の支払いを受けることもあります(後者はエスクロー条項と呼ばれるものです。こちらについてはQ5をご参照ください。)。

⑵財産分与に関連して、M&Aにおいて問題となり得る場面について

M&Aに関して、どのような債権(例:売却代金の請求権)・債務(例:価格調整による売却代金の一部返却、補償請求にかかる支払い)が生じるのかを理解することが重要です。

一般的には、③M&A契約の締結④クロージング⑤ポストクロージングの場面が重要であり、M&A契約書の記載のみから判断せずに、その後の取引内容ついて精査する必要があります。
個別の事情に応じたQ&AについてはQ4以下をご参照ください。
M&Aに詳しい弁護士

一般的な離婚だけでなく経営者世帯の離婚に詳しい弁護士に依頼することが重要

Q4:M&A契約を締結後、アーンアウトを受領する前に別居した場合、アーンアウトも財産分与の対象に含まれるのでしょうか。

クロージング後の業績等を基準に価格調整を行う場合があります(アーンアウト条項と呼ばれるものです。)。クロージング後、1年~3年ほどの期間を設けた上で、EBIT、EBITDA、売上高等の指標をもとに、達成した結果に応じて追加して金額を支払うといったものです。

アーンアウトに関する財産分与について、実務上確定した見解はありませんが、経営者側の立場である場合には、アーンアウトを財産分与の対象から除外する方向での主張として、M&A契約(SPA)を締結する時点では、追加の支払いの有無やその金額が不確定であること、また、別居後の事情(売上高の増加、それに対する別居後に行った自身による貢献の有無など)を踏まえて判断されるべきこと等を検討することになります。
もっとも、離婚係争中に期間が経過して実際にアーンアウト分の支給が支払われないこととなれば、それが加算されることはないでしょう。

一方逆に支給された場合はどうでしょうか。

以下、条項例を踏まえてご説明します。
 

【条項例①】

「クロージング日から○年○月○日までの期間における対象会社のEBITDAが目標値を超過した場合には、買主は、売主に対し、○年○月○日までに、当該超過分に○を乗じて得た額を支払うものとする。」

条項例①の場合、クロージング後の会社の業績を踏まえて価格調整が行われることになります。業績が目標値を達成した場合において、自身の貢献が認められない場合(貢献の有無に関わらず達成したといえる場合)には、価格調整によって追加で支払われた売却代金は財産分与の対象に含まれる可能性があります。
一方、別居後における自身の貢献が認められた場合には、アーンアウトに関して財産分与の対象から除外できる可能性はあるように考えます。
 

【条項例②】

「本件株式の譲渡の対価(以下「譲渡代金」という。)は、○円(消費税及び地方消費税を別途支払うものとする。)とする。
2 買主は、譲渡代金のうち○円をクロージング日までに、売主が指定する銀行口座に振込送金する方法により売主に支払う。振込手数料は買主の負担とする。
3 買主は、譲渡代金から前項に定める○円を控除した残額である○円を、○年○月○日までに、前項に定める方法により売主に支払う。」

アーンアウト条項は業績等を踏まえた価格調整ですが、これとは別に、買主の資力や補償請求に備えることを考慮して、売却代金の一部をクロージング後に支払うケースもあります。

売却代金の一部について単に支払いを猶予するものであり、業績の達成状況や自身による貢献といった事情に関わりなく支払われるものである場合には、当該支払い分については財産分与の対象に含まれる可能性が高いように考えます。

Q5:エスクロー条項により売却代金の一部について支払いが留保されています。M&A契約は同居中に締結したものですが、エスクロー条項にかかる売却代金についても財産分与の対象に含まれるのでしょうか。

価格調整や補償請求を行う場面に備えて、買主が信託銀行などの第三者(エスクローエージェント)に対して、売買代金の一部を預託することがあります(エスクロー条項と呼ばれるものです。以下条項例となります。)。
 

【条項例】

「本件株式の譲渡の対価(以下「譲渡代金」という。)は、○円(消費税及び地方消費税を別途支払うものとする。)とする。
2 買主は、譲渡代金のうち○円をクロージング日までに、売主が指定する銀行口座に振込送金する方法により売主に支払う。振込手数料は買主の負担とする。
3 買主は、譲渡代金から前項に定める○円を控除した残額である○円を、本件エスクロー・エージェントが指定する銀行口座に対して振込送金する方法により売主に支払う。振込手数料は買主の負担とする。」

エスクローが設定される期間は短ければ数カ月程度ですが、数年単位で設定される場合もあります。そのため、エスクロー期間と離婚時期によっては、当該売買代金に関して財産分与の取り扱いが問題となることがあります。

アーンアウト条項と同様、確定した見解はありませんが、「単に支払時期が猶予されたもの」と判断され、当該売買代金についても財産分与の対象に含まれる可能性が高いように考えます。

また、価格調整や補償請求の結果、エスクロー条項に基づいて支払われる金額が減額となった場合には、実際に支払われることになった金額部分に限り財産分与の対象になる可能性が高いように考えます。ただし、補償の生じた理由が専ら売主側にあったり、財産分与対策として意図的に補償が生じる状況を作出したような場合には、減額分をもち戻して計算するといった方法により、減額分を考慮せずに財産分与額が判断される可能性はあります。

「単に支払時期が猶予されたもの」であるのか一見して判断し辛いケースもありますので、争点化が懸念される場合には、売却代金に関する条項の具体的な内容や効果、条項が設けられた経緯などを整理して慎重に検討する必要があります。

Q6:M&A後も執行役員として残ることになりました。M&A契約の締結が完了し、執行役員に就任してから一定期間経過したタイミングで、上場に向けたインセンティブとしてストック・オプションの付与を受けました。執行役員に就任した時点では同居していましたが、ストック・オプションの付与を受けた時点では既に別居を開始していました。この場合、ストック・オプションは財産分与の対象に含まれるのでしょうか。

M&Aに伴い、会社との関わりが一切なくなるケースもありますが、引き続き取締役や執行役員として会社に残るケースもあります。そして、M&A完了後、新オーナーの意向により、ストック・オプション等の株式報酬が付与される場合があります。

例えば、ファンドに買収された後、ファンドがIPOを目指すときに、経営者にそのインセンディブ付けとしてストック・オプションを付与するといった具合です。

M&A契約の時点ではストック・オプション等の導入が決まっておらず、付与された時期が別居開始後であるような場合には、付与されたストック・オプションが財産分与の対象になることはないと考えます。

一方、ストック・オプション等が付与された時点で同居していた場合には、財産分与の対象に含まれる可能性があります。その際は、M&A契約の対価として支払った金銭をストック・オプションの引き受けの対価に供する、いわゆる有償ストック・オプションが採用されることも多いです。

対象に含まれるか、含まれるとしてどのように考慮されるかは、こうしたストック・オプションの種別のほか、その権利実現の条件や付与後の事実経過の影響を受けます。詳細はこちらのコラムでも解説しています。

ストック・オプション等の株式報酬を導入する企業の増加により、財産分与における対象財産性、評価、寄与度といった点が論点化するケースが増えています。この点、実務上確定した見解はなく、裁判官によって判断が分かれやすい論点といえます。

判断が分かれやすい論点であるからこそ、裁判官を説得するにたる主張を組み立てる必要があり、そのためには、付与された時期に限らず、株式報酬の内容、付与の経緯、性質などを細かく分析・検討する必要があります。
M&A後も執行役員として残ることになった経営者

役員として残る場合、ストック・オプション等株式報酬の取扱いに注意が必要

Q7: M&A後の財産分与では特にどのようなことが問題となりますか?

別居時点ないし離婚時点において、売却代金が再投資、不動産購入などされて他の資産に転換している場合があります。
転換した際の資金の移動が証拠上明らかであれば良いのですが、時間の経過とともにそのような資料を揃えることが困難な場合があります。

そうなれば立証は難しく特有財産の認定を得られないこともあるでしょう。

他にも、例えば特有財産と共有財産の両方から購入資金を拠出した場合といったような共有財産との混在が認められる場合には、それらの転換物についても財産分与の対象に含まれる可能性があります。

特に、売却代金を共有財産管理の口座に振り込んだ場合には、売却代金の全額が共有財産として扱われる可能性があります。そして、M&Aエグジットされた方の中には、共有財産と特有財産との混在が生じてしまっている方も珍しくありません。構造的にそうした混在が生じやすいのです。

つまり、一般的に、所得が増加するにつれて生活水準は高くなります。一方、M&Aにより経営を離れることにより、その後の所得が下がることもあります。この際、下がった所得のみからではM&A後に上がったその生活水準を維持できなくなり、特有財産であるはずのM&Aの売却代金を生活費に使用するケースが多く見られます

定期的に専門家にチェックしてもらうことが有用

特有財産と共有財産との分別管理が徹底されていれば、特有財産性を維持することも可能ですが、分別管理が崩れた結果、財産分与が争点となった際に、特有財産の立証ができなくなるケースが多いです。そうならないよう、財産の管理・支出方法を整理した上で、定期的に弁護士による確認・リスクの分析と対策を実施することが望ましいところです。
リスク分析と対策の詳細については当事務所までお尋ねください。

【実例・コメント】

婚姻時の残高よりも基準時(別居時、離婚時など)の残高の方が多い場合、その差額(増加分)についてのみ財産分与の対象とする場合があります。

ただし、婚姻中(同居中)に婚姻時の残高を一時的に割り込んだことがある場合や、残高の移動が多いような場合には、口座残高の対象財産性について争点になることが多いです。

そのため、特有財産性を確保するためには、特有財産と共有財産の分別管理を徹底することが重要であり、仮に混同が生じている場合には、事実関係や証拠関係を整理し、紛争化の予防や、紛争化した場合の対策を検討する必要があります。
特に、金融機関の発行する取引履歴は、短いところで数年、長くても10年程しか記録が残されていないため、なるべく早期に資料を取得することが重要です。

Q8:財産分与に関連して、婚姻費用について聞かせてください。M&Aで役員を退職したため、収入が以前の1/10ほどになりました。生活水準を維持するため、M&Aの売却代金の手残りを切り崩す形で生活していますが、この場合、婚姻費用はどのように算定されるのでしょうか。現在の収入をベースに判断されることになるのでしょうか。

M&A前後の生活水準の変動は、婚姻費用の場面でも問題となります。
婚姻費用を算定するにあたっては、双方の収入や従前の生活状況等が考慮されますが、資産は原則として収入にカウントされません。

ただし、資産の切り崩しが日常的に行われている場合には、切り崩されている金額の平均額や、資産を切り崩した上で送っていた従前の生活水準をもとに婚姻費用が算定される可能性があります。

また、預貯金などの流動資産については、不動産などの固定資産に比べて、生活費や臨時の出費に備えるという側面が強いことを否定できません。そのため、収入が不十分な場合には、これらの資産の存在を前提として婚姻費用が算定される可能性があります。

経営者であった側の立場からすると、上記の判断がなされることによって、収入額と同等程度といったように、少なくとも収入に対して相対的には多くの婚姻費用の負担が求められる可能性もあります。離婚が懸念される場合には、実際の収入状況、資産の切り崩しの状況、生活水準を整理し、早期に対策をとることが重要です。

【実例・コメント】

生活水準の高さはご家庭ごとに様々です。例えば、「毎月100万円の生活費」という金額が高いのか、低いのかは、それまでの生活環境、収入、資産状況、経歴、家族構成などによって計られるべきものであって、金額のみをもって一概に高いとはいえません。

当事務所では、依頼者からお伺いした事情を精査し、過去の裁判例等を踏まえて適切な主張を行うことにより、依頼者にとって有利な金額となるよう対応しています。

当事務所では、経営者世帯の離婚問題についても数多くの実績を有しています。財産分与や婚姻費用の実例の詳細については当事務所までお尋ねください。

Q9: M&A後の財産分与では財産隠しは問題になりやすいですか。

財産分与が問題となる場合、双方の財産一覧表を開示することがあります。
このとき、双方の財産状況が財産一覧表に適切に反映されているか争点となることがあります。

株式や不動産については、登記情報や決算書類等からその内容を確認することができますが、M&Aにより現金化されていた場合、隠匿しやすい状況が生じることになります。

売却先が上場企業であるなど開示義務を負っている法人等であれば、Web上でリリースを追いかけるなどして特定することもできますが、そうでない場合には地道な調査が必要です。財産調査についてはこちらのコラムもご参考ください。

【実例・コメント】

当事務所が取り扱ってきた事案の中で、M&Aによって得られた売却代金が財産一覧表に全て反映されているか疑わしいとして争点化したケースがあります。調査の結果、売却代金が複数の口座に分散され、追跡しにくい状況であることが判明しました。その後の調査で売却代金の一部が法人名義や親族名義の口座で管理されていることが明らかとなりました。
M&Aにより現金化されている場合、株式を保有している状況よりも財産が隠匿されるリスクが高くなりますが、ご自身での対応ではこれらの事実を調査することが難しい場合もあります。
実例の詳細については当事務所までお尋ねください。
 

Q10: 離婚に備えてできる準備にはどのようなものがありますか?

①婚前契約の締結

資産が多い夫婦の場合、離婚時の財産分与において、以下の4つの問題が深刻化するケースが多く見受けられます。
・資産の多さや特殊な取得方法・資産の特性ゆえに、どこまでが財産分与の対象になるのか
・金融商品・不動産など、対象財産の金銭価値算定に評価を要する場合の適切な評価方法、評価額は何か
・夫婦それぞれの能力・経歴・役割に照らした適切な分与割合は何か
・金融商品・不動産などを分与する場合に、当該財産の処分方法をどのように想定するのが適切か

婚姻前に婚前契約(夫婦財産契約)を締結し、上記の内容を契約において事前に明確にすることで、財産分与の問題が及ぼす経済的打撃を最小限にとどめ、かつその影響を予測の範囲内に収めることができます。
婚前契約については以下のコラムもご参考ください。
・資産家夫婦の財産分与トラブルを防ぐ「婚前契約」(夫婦財産契約)という選択
・スタートアップ専用 婚前契約(夫婦財産契約)雛形

②婚後契約の締結

婚前契約(夫婦財産契約)に相当するような書面は、婚姻後に締結しても無効となります。もっとも、財産分与や婚姻費用に関するものであったとしても、一定の内容であれば婚姻後に取り決めを行うことが可能です。

前述のとおり、特有財産性が争点となった場合には、特有財産であることを主張する側においてそのことを立証する必要があります。

特有財産の立証に不安のある財産について、婚姻関係が良好なうちに婚後契約を締結し、特有財産の範囲や評価に関して合意することができれば、後に紛争化した場合のリスクを低減することが期待できます。
婚後契約についてはこちらのコラムもご参考ください。

③財産の分別管理

夫婦が協力して取得したものではない財産(婚姻前から保有する財産や、相続・贈与によって取得した財産)については、夫婦が協力して取得した財産と徹底して分別管理し、分別管理してきたことを立証するための環境を整理することが重要です。

弊所では依頼者の守られるべき財産が適切に守られるよう、現在の状態が適切に分別管理されているかのチェック、記録の整理等といったサポートを行っています。特有財産性が認められるか、財産の管理方法にお悩みの方はまずは弊所にご相談ください。

④証拠の整理

財産分与を求める側と求められる側、いずれについても事実関係と証拠関係を適切に整理することが重要です。
 

財産分与を求める側

相手方に比べて圧倒的に情報量が不足しているケースが多く、財産資料の収集からスタートすることになります。
前述のとおり、M&Aにより現金化されていた場合、隠匿しやすい状況が生じることになります。また、富裕層世帯の場合には、資産形成の過程、資産変動が特殊であったり、第三者へ移転されているといったことがあり、ご自身での対応ではこれらの事実を調査することが難しい場合もあります。
そのため、離婚が懸念される場合には、なるべく早期に弁護士に相談することをおすすめします。
財産調査についてはこちらのコラムもご参考ください。
 

財産分与を求められる側

前述のとおり、特有財産性が争点となった場合には、特有財産であることを主張する側においてそのことを立証する必要があります。
特有財産と共有財産との分別管理を行っていたつもりでも、訴訟に耐えられるだけの事実関係・証拠関係が揃っていないケースがあります。
そのため、離婚が懸念される前であったとしても、現在のリスク状況について弁護士に確認・相談することをおすすめします。
特有財産の立証についてはこちらのコラムもご参考ください。

婚前契約書

結婚前ならば婚前契約が有用であるが、結婚後であってもできる対策はある

以上、経営者世帯が直面するM&A後の財産分与について解説してきました。

このほか、財産分与については以下のコラムも是非ご覧ください。
・資産の多い夫婦が離婚する場合の財産分与
・特有財産の立証 ー財産分与を回避する方法ー
・経営者・社長の離婚 常に重要となる論点 ~ 自社株の財産分与 ~
・財産分与と財産調査 〜「いつ」「なにを」「どのように」調べるか〜

財産分与対策はなるべく早期に実施することが重要です。現時点で離婚が懸念されない場合であったとしても、現在のリスク状況を確認しておくことは非常に有益といえます。

離婚問題でお悩みの方は、初回のご相談は30分間無料ですのでお早めに当事務所までご相談ください。
※ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。


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