株式報酬が労働基準法(以下「労基法」といいます。)上の「賃金」に該当する場合、通貨払原則や全額払原則をはじめとする労働基準法上の規制や民法上の規制が及ぶことになります。
※通貨払原則:賃金は通貨で支払わなければならないという原則(労基法24条1項)
※全額払原則:賃金は一部控除できずその全額を支払わなければならないという原則(同上)
見落としがちな論点ですが、上記の規制に違反した場合には、以下のような弊害が生じる可能性があります。
そこで本コラムでは、株式報酬が「賃金」に該当した場合に生じるリスクと対策について概要をお話しします。
詳細は、弊所代表 岩崎隼人弁護士が執筆した書籍『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A』(2024年5月19日発売)に記載していますので、ぜひお買い求めください。
『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』
著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
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税制適格ストック・オプションを巡る最新の動向と、発行済みのストック・オプションへの影響(変更の可否)についてはこちらのコラムをご覧ください。
法令によって「賃金」の定義が若干異なりますが、リスクの点からは労基法上の「賃金」該当性が特に重要です。
冒頭ご説明したとおり、労基法上の「賃金」に該当した場合、通貨払原則や全額払原則といったような賃金保護規定が適用され、それらの違反については刑罰による罰則があるからです。
同法では「賃金」について、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています(労基法11条)。
「労働の対償」かどうかの判断は容易ではないため、行政実務上は、以下のいずれかに該当するものは「賃金」ではないと処理されているとされます。
①任意的恩恵的給付(例:結婚祝金)
②企業設備・業務費(例:出張費)
③福利厚生給付(例:住宅の貸与)
例えばレストランなどで客から受け取ったチップは「賃金」には該当しませんが、サービス料として店が受け取った金額の一部を一定の計算式で従業員に分配するような場合は「賃金」に該当するなどと考えられています。
行政解釈により「賃金」に該当しないとされています。
行政解釈(平成9年6月1日基発第412号)
「ストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また権利行使するとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期および額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金には当たらないものである。」
ただし、「賃金」に該当しないとしても労働条件の一部を構成することになるため、就業規則への記載が必要であったり、制度を変更する場合に不利益変更手続をとる必要があるなど、労基法、労働者契約法上の規制に配慮が必要であり注意が必要です。
一定の要件(以下の①~③のすべて)を満たす場合には、「賃金」には該当しないものと整理されています。
経済産業省「「攻めの経営」を促す役員報酬(2023年3月時点版)」※一部表現を変えています。
①通貨による賃金等(退職金などの支給が期待されている貨幣賃金を含む。以下同じ)を減額することなく付加的に付与されるものであること。
②労働契約や就業規則において賃金等として支給されるものとされていないこと。
③通貨による賃金等の額を合算した水準と、スキーム導入時点の株価を比較して、労働の対償全体の中で、前者が労働者が受ける利益の主たるものであること。
「賃金」に該当しないとしても就業規則制定の必要性や不利益変更手続が必要であることは、ストック・オプションの場合と変わりがないものと考えられます。
通貨払原則や全額払原則に抵触したと判断された場合、労基法13条の効力により、株式等により支払っていたと認定された賃金について、金銭での支給を遡ってしなければならなくなるといったリスクがあります。
通貨払原則や全額払原則違反には罰則(30万円以下の罰金)が付されており、実際に違反した者(個人)に加え、事業主も処罰される可能性があります(労基法120条、121条)。
まずストック・オプションの利用可否を検討します。
株式を利用する場合には、設計・発行・付与のプロセスについて賃金性を帯びることのないように慎重に検討し、これが確実でない場合には、仮に賃金に該当するとしても通貨払原則や全額払い原則に違反しないように、必要な手当を行います。
必要な手当てとは、上記原則の例外が認められるように労働協約や労使協約を締結したり、本人からの真摯な同意を得ておくといったことが挙げられます。
既に株式報酬制度を導入済みで、そのプロセスや真摯な同意の立証に問題がある場合には、事後的ではありますが、対象者に再度説明の機会を設けて真摯な同意の有無を確認します。 場合によっては、プロセスのやりなおし(遡って選択権を与えるような手続)を検討します。
株式報酬の「賃金」該当性は見落としがちな論点ですが、規制に違反した場合に生じる弊害はときに甚大です。
リスク状況の分析を含め、株式報酬に関するご相談やご依頼をご検討されている場合は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。
岩崎総合法律事務所では、上場企業・スタートアップのお客様に、ストック・オプション(SO)、リストリクテッド・ストック(RS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)など、株式報酬制度の設計・発行に係るサポートをしています。発行や運用に係る法務だけでなく、報酬委員や外部アドバイザーとしてサポートすることも可能です。
税制適格ストック・オプションを巡る最新の動向と、発行済みのストック・オプションへの影響(変更の可否)
【株式報酬】税制適格ストック・オプションの内容を変更する場合の留意点
『株式報酬をめぐるトラブルの予防・解決の実務Q&A ――ストック・オプション リストリクテッド・ストック パフォーマンス・シェア』
著者 岩崎 隼人
出版社 日本法令
定価 3,520円(税込)
発行日 2024年5月19日
発行形態 単行本・256ページ
ISBN 9784539730133
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