岩崎総合法律事務所は、医師・医者、資産家、高額所得者などの「富裕層」と呼ばれるお客様に対する法務サービス Legal Prime® の提供を通して、医師・医者世帯の離婚事件も取り扱ってきました。
医師・医者世帯特有の問題について、最善の解決となるようにサポートしています。
医師・医者といっても様々です。
・勤務医、開業医といった違いから、開業医は医療法人や一般社団法人(又は財団法人)を運営しているか。
・医療法人であれば持分があるか、ないか。
・法人を運営している場合はMS法人(メディカルサービス法人)を保有しているか。
これらによって収支や資産の状況は大きく異なります。
・また、眼科医、皮膚科医、耳鼻咽喉科医、整形外科医、美容整形外科等の美容系、歯科医など専門医の属性によっても収支や資産の状況に一定の傾向があります。
また医療機関経営者は、
・医師でない配偶者や親族を理事や従業員等何らかの役職につけているケースもあります。
・ときには持分や株式を保有させている場合もあります。
こうした配偶者等の関与の形態いかんもあるべき解決に大きな影響を与える場合があります。
本コラムでは 医師・医者の離婚 について、持分なし医療法人、MS法人、開業医の特徴に関連した論点をQ&A形式で解説します。
「持分あり医療法人の持分」を巡る問題はこちらをご参照ください。
一口にはいえない医師・医者の離婚問題を適切に解決するためには、
医療法、医業業界実務に精通していることが必要です。
資産が大きければ資産家・高額所得者ゆえの特殊論点・実務に精通していることも大切です。
岩崎総合法律事務所では、医師、クリニック、病院、医療法人、大学病院等の医療機関や、バイオメディカル・ヘルスケア事業を営む会社向けに、法律サービスを提供してきました。
これらの知見は、医師・医者世帯の離婚の問題においても効果を発揮します。
お悩みの方は、当事務所までお問い合わせくださいませ。
弊事務所では、富裕層法務サービス Legal Prime® を通じ、資産家、投資家、会社経営者などの資産・収入の多いお客様に対し多様なサポートを提供してまいりました。
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医師・医者の多くは高額所得者であり、それによって多くの資産を保有していることがあります。
こうした収入や資産の多さが離婚問題(特に財産分与や婚姻費用・養育費の問題)を複雑にします。
離婚問題を抱える一般世帯のケースに当てはまらない特殊論点・特殊考慮事項を生じさせるからです。
特に医療法人やMS法人(MS=メディカル・サービス)を経営している場合にはその法人の扱いが極めて重要な論点となります。
個人事業主・自営形態の開業医の場合にはその病院の設備や借入の性質・状況なども論点となります。
後継者がいる場合には、離婚問題の処理の仕方がスムーズな承継に支障を生じさせないかも考慮事情となります。
医者がその職について地域社会に負う公益的責任も離婚問題に影響を及ぼすことがあります。
資産運用を積極的に行っている世帯であれば、運用資産の意義・特性を正確に理解できなければいけません。
このように医師・医者の離婚問題を適切に解決するためには、
資産家・高額所得者ゆえの特殊論点・実務に精通していることや、
医療法、医業業界実務に精通していることが必要です。
財産分与とは、婚姻してから夫婦関係の協力関係を喪失するに至った時点までの間に夫婦相互の努力によって形成した財産を、一定の評価の下、一定の割合で分け合うことを指します。
財産分与の意義や詳細については(こちらのコラムもご覧ください)。
医師・医者の傾向として、その資産の多くが現金・預金である場合があります。
いわゆるキャッシュ・リッチの状態で、現金・預金以外は自宅不動産という状況です。
この場合、財産分与の範囲の問題は相当にシンプルであり、あとは2分の1ルールの扱いと、自宅不動産の評価で決着します。
もっとも、そのようにシンプルに決着しない場合も多くあります。
例えば、医療法人を経営している場合には注意が必要です。
(医者個人の名義の預金よりも)多くの資産が医療法人に内部留保されている場合が多く、その結果医療法人(の持分)の扱いが論点となるからです。
MS法人を経営している場合も同様にその法人の株式・持分が問題となります。
一方、個人事業主・自営形態の開業医の場合には、事業性資産・負債が個人に紐づいているので、これらを一つ一つ分析・解釈していかなければなりません。
資産運用に積極的な世帯である場合にはその運用資産(投資不動産、株式、投資信託等有価証券等)の評価や処分にも注意が必要です。
医療法人は、大きく財団と社団に分けられますが、ここでは社団を前提にします(多くの場合が社団形態だからです)。
そして医療法人社団は「出資持分のある医療法人」と、「出資持分のない医療法人」に大別されます。
ただし、持分あり医療法人は、2007年4月の第5次医療法改正以後、新規設立ができなくなっています。
このため、少なくともそれ以降に設立される医療法人は持分なしの医療法人です。
「持分あり」の医療法人の場合にはその持分が「財産」として離婚裁判でとても大きな問題になります。
詳細はこちらのコラムのとおりです。
では「持分なし」の場合には財産がないとして片付けられてしまうのでしょうか。
医療法人は非営利でなければならず、配当を出すことが禁じられています。
つまり、剰余金を外部に流出させる契機があまりありません。
たとえ、理事報酬の支払額や、MS法人への支払額などによって一定程度工夫されている場合であっても、
医療法人の規模が大きい場合にはそれにも限界があり、多くの内部留保が形成されています。
このため、長年経営している医療法人であれば、純資産が多額になっていることが多いです。
つまり、法人にはとても大きな資産が蓄えられているということです。
そしてその蓄えは様々な制限はありつつも、オーナーによって自由に処分されうるものです。
それにも関わらず、「持分なし」の場合には財産がないとして片付けられてしまうのか、という問題です。
持分なし医療法人の場合には、確かに持分としての財産は観念できません。
このため、離婚実務上は財産的価値は観念されない、とする見解もあります。
しかし、実務上は、理事の交代と退職する理事への退職金を代表とする理事の地位変更への支払いという方法によりM&Aが行われます。
つまり、持分なし医療法人であっても、それを処分することで何らかのキャッシュを得ることができるのです。
そしてその売却価格の多寡には医療法人の純資産が大きく影響します。
言い換えれば、M&Aによることで法人の内部留保の額を個人に環流させることができる場合があります。
このように持分はなくとも、たとえば医療法人上の地位(理事など)に、確かに資産性を観念できる面があります。
こうした面を捉えて財産的価値があるものとされ、財産分与に影響を及ぼす可能性はありうるものと思います。
現在持分のない医療法人であっても、元々は持分あり医療法人であった場合があります。
そうした形態移行が認められているのです。
払戻請求権や残余財産分配請求権をなくし、それを定款に定めるなど手続を行ってこれを行います(このとき、手続により医療法人が経済的利益を得た場合は贈与税が問題になるのですが、所定の手続を踏むことで猶予・免除されます。要するに形態移行しやすくなっています。)。
現行法上持分のない医療法人しか設立できない趣旨や、持分なし医療法人に移行するための税制優遇措置が設けられているのは、医療法人の地域医療の担い手という公益性を考慮してのことです。
つまり、医療法人の経営者の死亡により相続が発生することがあっても、相続税の支払いのための持分払戻などにより医業継続が困難になるようなことなく、当該医療法人が引き続き地域医療の担い手として、住民に対し医療を継続して安定的に提供していけるようにするためです。
このように持分をなくしてしまえば、分与しようにも分与するべき持分そのものは無くなることになります。
しかし、それで財産分与の問題が解消するかというと必ずしもそういうものではありません。
持分なし医療法人への移行は、ある意味財産的価値のあるものの放棄(捨てた)といったような側面があります。
このため、夫婦の財産を意図的に不当に毀損したと評価される可能性があります。
そうなれば、一切の事情として分与割合が調整されたり、そもそも持ち戻しされる(贈与はなかったものと扱われる)場合もあります。
なお、そもそも財産分与の対象財産の範囲は別居時が基準とされることが原則です。
持分なし医療法人への移行が別居後に行われた場合、それは基準時後の行為であり、考慮されないおそれもあります。
したがって、後継者のために行うなど配偶者も同意の上ならばまだしも、そうでない限りは持分なし医療法人に移行しても、引き続き医療法人の持分評価額相当分は財産分与の問題を抱えているものと思います。
医師の方は、引き続き潤沢な内部留保のある法人を運営して、そこから理事報酬等をもらえるという不公平性もあります。
このように、持分なし医療法人への移行は、財産分与との関係では基本的には問題解決にならないでしょう。
財産分与は、夫婦の共有財産を清算するものです。
夫婦個人と法人は別人格ですので、法人の財産は財産分与の対象になりません。
財産分与の対象になるのは、その夫婦が保有している法人の持分です。
以上が原則ですが、法人化してから日が浅い場合や、法人が個人事業主相当の場合など、
その法人を個人と同一視して扱うことが公平であると評価されるような例外的な場合には、
法人名義の財産も財産分与の対象となることもあります。
MS法人(=メディカルサービス法人)を経営している場合、MS法人の持分も財産分与において問題となります。
そこでは持分の評価が問題になります。
MS法人はメディカルサービス法人と呼称されていても法的には会社法上の会社(株式会社、合同会社)です。
このため、MS法人が株式会社であれば株式の評価を、合同会社であれば持分の評価を行います。
株式の場合には議決権と財産権が一体化していたり、合同会社の場合には出資者と社員の地位が一体化していたりと、経営そのもののガバナンスにも大きな影響を与えます。
こうしたガバナンス上の影響が法人に与える影響は大きく、別途の検討が必要になります。
個人事業主・自営形態の開業医の場合には、事業性資産・負債が個人に紐づいているので、これらを一つ一つ分析していかなければなりません。
事業性資産が対象になれば財産分与額を増大させ、
事業性負債が対象になれば財産分与額を縮小させることになります。
まず資産はそれが事業のために使われるものだとしても、財産分与の対象になることが通常です。
院内設備をリースではなく購入している場合などには、それらが財産分与の対象になります。
時価評価が難しいので、一定の規模になる場合には一大論点となります。
時価評価の際には再調達価額や中古市場価格を求めていくことになりますが、多くの場合難航します。
一方、負債は一切が対象になるものではありません。
運転資金に充当する目的の借入などは財産分与で考慮されないことが通常です。
ただし、資産購入・維持費のための借入である場合などには、その資産の正味の価値を検討する際に資産価値を減少させる趣旨で考慮されることになります。この場合には財産分与額を縮小させることになります。
このように、負債はその性質や使途が重要な論点となります。
厳格な財産分与は経営に大きな支障を生じさせる可能性があります。
子どもが後継者となる計画の場合には、子どものためになるならばと、厳格な財産分与は求めず、
将来の生活を安心して送ることができる程度の条件で落ち着かせることを検討される場合もあります。
このとき、問題になるのは、果たして本当に子どものためになるのかということです。
子どもが医者の道を進まない可能性、M&Aされてしまう可能性など、
承継が実現しない場合も考えられるからです。
こうした事態に備え、例えば信託を活用すべき場合もあります。
すなわち、厳格な財産分与相当額のうち一定額を信託に組み入れ、それを一定の基準のもと医療法人の運営に用いてよいが、子どもが医者の道に進まない場合など承継が実現しないといった一定の事由が生じたときに配偶者に信託財産の残高が帰属するといったような設計です。
これによって、子どものための経営の安定を確保しつつ、一方で正当な財産分与請求権を確保することができます。
ほかにも契約書上の手当てで済ませる場合や法人形態での運営など様々な方法が考えられます。
こうした柔軟な調整は和解・調停・話合いでしか実現しえず、かつ夫婦双方にとって協調して進めていける可能性のあるものです。
専ら経営者の努力で成長させた事情がある、医者としての資格獲得に対する労力がかかっているなど、当該努力が資産形成に大いに寄与している場合には、財産分与割合の修正が入ることがあります。
その傾斜は個別具体的な事情によってケースバイケースであり、また、判断する裁判官によってもまちまちですが、傾斜がかかるとしても概ね6:4、あるいは7:3程度となる印象です。
過去には95:5といった極端な傾斜を示した裁判例もありますが、この事案は純粋な寄与割合の問題を離れた論点が影響しての判断であり、決して一般化できないことには注意が必要です。
入籍する前であれば、夫婦財産契約(婚前契約などと呼ばれることもあります)を必ずご活用ください。夫婦財産契約についてはこちらで詳しく解説しています。
一方入籍後の場合は、家族の状況、資産の状況、自身の投資性向等によって、実行できる手法もケースバイケースとなります。その手法の一つには婚後契約(婚姻の後にする夫婦間契約)もありますが(婚後契約についてはこちらのコラムで詳しく解説しています。)、複合的な手法を用いた対応が有益です。詳しくは当事務所まで直接お問い合わせください 。
事実婚、内縁など、結婚によらないパートナー関係の場合にも、パートナーシップ契約で手当てしておくことが重要です(こちらのコラムで詳しく解説しています)。
医師・医者の離婚 ~ 医療法人の「持分」を巡る財産分与等 ~
医師・医者の離婚 〜持分なし医療法人、MS法人、開業医〜
医師・医者の離婚 〜配偶者が持分や役職を有するケース〜
資産の多い夫婦が離婚する場合の財産分与
医療法人が「MS法人」を設立するメリットと注意点
以上、医師・医者の世帯での離婚問題について、よく相談に上がる事項・論点となる事項にについて解説してきました。これらは一般の家庭ではあまり論点にならない特殊論点といえます。
これらの論点について正当な結果を求めるためには、事実関係及び法律関係を正確に整理して、正しく主張立証することが重要です。
もし、お悩みの方は、初回のご相談は30分間無料※ですので、少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。既に代理人を選任されている場合でも、当該代理人を補助する趣旨でサポートすることも可能です。
※ ご相談の内容や、ご相談の態様・時間帯等によっては、あらかじめご案内の上、別途法律相談料をいただくことがございます。